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相次ぐ通信

夕食を終えたミレイアが、音と光で通信を知らせる窓際の魔道具に近づく。丸い水晶の上部には、


【シルヴィア・ノクシア】


と文字が浮かび上がっていた。


発信者がわかるこの機能は、ミレイアが先日思いついて追加したものだ。まだ試作段階だが、来年の初めには「発信者お知らせ機能付き新型通信魔道具」として、ノクシア商会から限定発売される予定である。


「お母様からだわ」

ミレイアが手をかざすと、水晶の上に母シルヴィアの姿が浮かび上がった。


「ミレイア! 今日で確認テストが終わったのよね? 冬季休暇はすぐノクシア領に帰ってくるの?」

前のめりになって問いかけるシルヴィア。その横で、父ギルバートも大きく頷いている。


「うーん、まだ予定は決めてないけど、できるだけ早く帰ろうとは思ってるわ」


「そう。待ってるわね。……ちなみに、冬季休暇中にレオン殿下がいらっしゃるんでしょ? いつ頃かしら?」


「あー……レオンは、私が帰省する時に一緒に行って、休暇中ずっとノクシア家で過ごすつもりみたい」


「は?」

1〜2日の訪問を想定していた父母は、口をポカンと開けて顔を見合わせた。


「レオン殿下は暇人なのか?」

ギルバートが口を尖らせる。


「ふふふ……殿下は、よっぽどミレイアと離れたくないのね。客室と食事の用意はするけれど、二人で同じ部屋には泊まれないと念を押しておいてね」


「う、うん。わかったわ……」


予定が決まったら連絡することを約束して通信を切る。光の中から両親の姿が消えた。


――が、すぐにまた呼び出し音が鳴り始める。


「あら? 今度は大おばあさまからだわ!」


浮かび上がったのは、西の森に住む曾祖母ユキア、曾祖父イリウス、そしてアゼルの母マーサだった。


最初に声を発したのはマーサだ。

「ミレイアさん! 先日は本当にありがとう。あなたがいなかったら、私は今も病気で苦しんでいたでしょう」

涙ぐむマーサに、ミレイアは優しい目を向けた。


「マーサさん、体の調子はいかがですか?」


「とてもいいの。よく食べて、散歩もできて、少しずつ体力も戻ってきたわ」


「ミレイア! お前の大じいじじゃよ、覚えておるか? また西の森に会いに来ておくれ」

割り込むように曾祖父イリウスが言う。


「もちろん覚えてますよ、大おじいさま。冬季休暇に入ったら、また伺いますね」

ミレイアは手を振って答えた。


「ミレイア、こうして通信するのは初めてだね。近いうちに、あなたとアゼルに会わせたい人物がいるんだが……聞いているかい?」

ユキアが笑みを浮かべて問いかける。


「はい。アゼルから聞いています。魔力による状態異常を見抜ける方なんですよね?」


「そうだ。三人が集まれば、問題解決の一歩になるかもしれん」

ユキアの隣で、イリウスとマーサも感慨深げに頷いた。


「絶対に行きます!」

ミレイアは勢いよく片手を挙げる。


「それから……」

ユキアが少し緊張した声を出した。

「……ノエル。今そこにいるんだろう?」


食器を片付けながら横目で見ていたノエルは、名前を呼ばれて肩を震わせる。ミレイアに手招きされ、通信魔道具の前に歩み出て顔を見せた。


「ご無沙汰してます、おばあさま」


「ノエル……。遠隔透視で姿を見ることはあったけど、話をするのは八年ぶりかな。最後に会ったのは、お前がサムと結婚して二年経った頃、サムの病気を知って駆けつけた時だ。……あの時は役立てずにすまなかった。医療でも治せない難病だと知りながら、自分なら何とかできると買い被っていた……。しかもノクシア領の村に住むように勧めたせいで洪水に巻き込まれ、サムは……。恨んでいるだろう? あれから合わせる顔が無くて、会いにも行かなかった私を、怒っているだろう?」


「何を言ってるの、おばあさま。サムの病気を治せなかったのは誰のせいでもないわ。洪水で流されなくても、長くは生きられなかったの。ノクシア領の小さな家で過ごした時間は、短かったけれど幸せだった。それに、あの村にいたからお嬢様に出会えたのよ。恨むなんてありえないわ」


ノエルとユキアは水晶越しに見つめ合う。その視線を奪うように、イリウスが横から顔を出した。


「ノエル。わしが前に会ったのは、お前が伯爵家を出る前にアレスと訪ねてきてくれた時じゃったな。立派になった……また会いに来てくれるか?」


「私だって行きたかったわ。でも、西の森には結界があるでしょう。魔力の少ない私だけでは、入ることすらできないのよ」


ノエルとミレイアは一緒に会いに行くことを約束し、手を振って通信を切った。


「私はもう、おばあさまとおじいさまに会うことはないと思っていたわ……。これも導きなんでしょうかね」

ノエルが感慨に浸っていると、再び呼び出し音が鳴り響く。


「え? 今日はずいぶん立て続けに連絡があるのね……」

ミレイアは苦笑した。


その後も夜が更けるまで、窓辺の通信魔道具は鳴りやまず、水晶の淡い光に次々と人の姿が映し出されていった。


【リュシアン・ルーエ】

ティナの兄が元気よく手を振る。

「命を救ってくださったお礼をぜひ! ルーエ家でお待ちしています!」


【エリサ・グレアム】

セドリックの母が微笑みかける。

「ミレイアちゃん、一緒にやりたい研究があるの! 会いに来てね」


【ノクシア商会】

執務室が映り、幹部たちが整列する。

「ミレイア様! 年末で皆忙しく働いております。ぜひ責任者として激励にお越しくださいませ!」


【ウララ・エントリー】

ルイスの弟妹たちが声をそろえる。

「ミレイアさーん! 港町のみんなが会いたがってます! 大歓迎しますから、来てくださーい!」


鳴り止まぬ通信魔道具を前に、ミレイアは両手を上げた。

「こ、これ……壊れてるわけじゃないわよね?」


――冬季休暇は、どうやらとんでもなく忙しくなりそうだ。

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