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加点

レガリア魔導学園の会議室。

窓の外で星が瞬き始めた頃、確認テストの採点を終えた1年生魔術科を担当する教員たちが集まっていた。

本来は冬季休暇前の連絡事項を伝え合う場であったが、話題の中心は、今年入学した1年生――ミレイア・ノクシアのテスト結果についてだった。


「見てください。これが、ミレイア・ノクシア嬢がテスト中に解答用紙の裏へ描いた落書きです」


魔法応用学を担当するメレアス教諭が、一枚の紙を広げて見せる。

そこには複雑な設計図が描かれていた。


「これは……空飛ぶ乗り物?」

興味津々の教員たちが身を乗り出す。


「先日、彼女はセドリック・グレアムと共に、実現不可能とされていた“馬のいらない魔導走行車”の構想を完成させ、論文を発表しました。すでに学者たちの間で大きな注目を集めています。この設計図は、その原理を応用したものと思われますが……実に見事だ。これをテスト中に描き上げるとは。ちなみに、テスト本編は満点でした」


何故か誇らしげな様子のメレアス教諭に、会議室がざわつく。


「……実は、私の担当する魔法植物学のテストの裏にも、何やら魔道具らしい設計図が描かれていまして。ただ、専門外で判断がつかず……メレアス先生、見ていただけますか?」


「もちろん」


精密な図面と難解な数式を目にしたメレアス教諭は、じっくりと読み込み、やがて感嘆の声を上げた。


「ほぉー……」


「わかりましたか?」


「これは植物を探査し判別する魔道具の設計図です。これが実現すれば、薬草や毒草を簡単に見つけられる上、新種の発見にもつながるでしょう」


「そ、そんな夢のような道具が!? 実現可能なのですか?」


「ああ、彼女なら不可能ではないはずです。それで……テストの結果は?」


「もちろん満点です!」


「魔法基礎学のテストは、今年は優秀な生徒が多いため難易度を上げたのですが……」

そう語るのは担任でもあるアデラン・ジュール。彼が解答用紙を示す。


「5問目に、“10メートル先の闇魔法を解除するための魔法陣を設計し、説明せよ”という問題を出しました。これは考え方次第で複数の解答が成り立つ問題で、ひとつ正解すれば十分なのですが……彼女は裏面まで使い、9つの異なる解を導き出したのです。それらは想定解答を凌ぐ素晴らしい内容で……満点では足りないと判断し、特別に10点を加点しました」


教員たちは順々に、細かい字でぎっしり埋め尽くされた解答用紙を手に取り、唸り声を漏らす。


「……実は私も10点加点しました」

「僕も……」

「私は20点……」


次々と手が上がり、会議室にいる全員が、自分の科目でも満点に加点を与えていたことが明らかになった。


「残るは召喚学だけですな」

入口の扉へ視線が集まり、教員たちは固唾を呑む。


その時、扉を開けて入室してきたのは召喚学担当のドロテア・ゼフィリスだった。


「遅れて申し訳ございません」


「いいえ、ドロテア先生。最終科目の採点が遅れるのは毎回のことです。それで……どうでしたかな?」

魔法歴史学のラトワール教諭が前のめりになってテスト結果を問いかけた。


「今年の1年生は非常に優秀です。召喚学は魔法理論が通じず、多くの生徒が苦戦するため、毎年平均点は3割未満なのですが……今年は初めて5割を超えました。その大きな要因は、3人の満点の生徒です。――レオン王太子殿下、セドリック・グレアム、そしてミレイア・ノクシア」


「もしかして……ドロテア先生もミレイア嬢に加点を?」


「ええ、よくご存知ですね。彼女の解答は群を抜いていました。ですが、それだけではありません。――こちらをご覧ください」


ドロテアが差し出した解答用紙の裏には、複雑な紋様が描かれていた。


「これは? 確かに美しい図案ですが……魔道具の設計図ではありませんね」

メレアス教諭はわかりやすく落胆し、肩を落とす。


「とんでもない! これは特別なものです!」

ドロテアは声を強めた。


「私も古文書で見た程度の知識しかなかったのですが、先ほど本人を呼び出し確認しました。……彼女の腕には、同じ紋様の銀色の刻印が刻まれていたのです」


教員たちが一斉に息を呑む。


「これは――古代聖獣、銀狼の契約印。つまり彼女は、すでに契約している猫型聖獣と風の精霊に加え、新たに“銀狼”と契約を交わしていたのです!」


会議室は今日一番のざわめきに包まれた。


「銀狼だなんて空想上の存在では!?」


「三体もの召喚生物と契約するなど聞いたことがない!」


「そんなことが現実に起きるとは……彼女は一体何者なのだ……!」


「皆様、静粛に!」

教員たちのあまりの熱狂ぶりを、見るに見かねた『マナーと教養』を担当するセリーナ・マルグリット教諭が諫める。


「……もはや、我々に彼女へ教えられることなど残されているのでしょうか……」


「確かに。しかしミレイア嬢は、生徒たちと共に学び、交流する時間を何より楽しんでいるように見えます」


「……とにかく、明日の成績発表は大騒ぎになるでしょうな」


教員たちは揃って遠い目をし、大きなため息を吐いた。


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