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変態精霊

「あ、アレク!!」


大きな声を上げたミレイアに、ノエルとウラロスが話をやめて目を向けた。

さっきまで誰もいなかったはずの椅子に、存在感のある彫刻のような肉体を持つ美しい青年が腰掛けている。


「ミレイア。今日も君は最高に魅力的だ。その宝石のような薄紫の髪も、小ぶりな鼻も、ピンクの唇も、深海のような大きな瞳も美しい。柔らかそうな白い肌も、溢れ出す色気も、甘い匂いも吸い寄せられそうだ。俺の心は日に日に君のことでいっぱいになっていくよ。しつこくすると嫌われると思って五日間も会うのを我慢していたけど、もう無理みたいだ。――早く俺と一緒になろう?」


甘い言葉を惜しげもなく浴びせるアレクに、ミレイアは一瞬頬を染めたが、すぐに強く首を横に振った。


「一緒になんてなりません!」


ソファから様子を見ていたウラロスが不思議そうに呟く。

「え?彼は……ミレイアさんの来客?話に夢中で、入ってきたのに気づかなかったのかな……」


「そんなわけないでしょ。今しがた転移してきたんですよ」

ノエルが眉をひそめて立ち上がり、アレクへ駆け寄る。


「ちょっと、あなた!部屋に入る許可を出した覚えはありませんよ。急に現れて、何のつもり?」


ノエルが指を突きつけると、アレクは首を傾げた。

「なんで君に許可をもらわなきゃいけないんだ?ここはミレイアの部屋だろう?」


「それはそうですが……。あなた、一体どなたですか?お嬢様も喜んでいるようには見えませんけど」


ミレイアがノエルに同意するようにコクコクと頷く。


「俺は――」


「……あ!!」

アレクが名乗ろうとした瞬間、ノエルが遮るように声を張り上げた。


「あ!あああ……思い出した!あんた、昔、姉さんにしつこく言い寄ってた変態精霊じゃない!!」


「え?……もしかして、あの時アリアの部屋にいたチビか?お前、大きくなったな」

アレクが伸ばそうとした手を、ノエルは素早くかわす。


「あんたは全然変わってないのね!今度はお嬢様に付きまとうつもり?お嬢様はあんたなんかに興味ないわ!さっさと森に帰りなさい!」


「そんな怖い顔をするなよ。俺はミレイアには本気なんだ。この気持ちはもう変えられない。……ミレイアだって、俺に興味がないわけじゃないだろ?」


魅惑的な瞳に囚われ、ミレイアの頭がぽうっと霞む。

「うん……。綺麗な精霊だとは思ってるよ」


思ったことをすぐに口にしてしまうミレイアに、ノエルが激怒した。


「お嬢様!こいつに調子に乗らせるようなことを言ってはいけません!!」


ノエルの唇が震える。隣に寄ってきたウラロスが慌てて尋ねた。

「ノエルさん?どうしましたか?この青年は一体……」


「ウラロスさん、こいつは――人間のふりをした水の精霊です。私の姉がまだ家にいた頃、何度も部屋に入り込んで手を出そうとした変態なんです!」


「え、精霊?君のお姉さん?どういうことだ……理解が追いつかない……」

ウラロスが困惑して考え込む。


「やっぱり、研究員は何にも分かっちゃいないな。人間のくせに精霊を見下して、偉そうにする奴ばかりだ。俺は西の森から来た水の精霊だよ」

アレクが言い放つと同時に、ウラロスへ向けて水の玉を放った。


「ウラロス!危ないの〜!」

スインが風魔法を放ち、水の玉は霧散した。


「スイン!?僕を守ってくれたの?……ありがとう」

スインはウラロスの前にぷかぷかと浮かび、モフィはアレクに向かって鋭く威嚇する。


「おお、風精霊の赤ちゃんに、猫型の聖獣まで。君たちは研究員の味方か?研究所では酷い扱いをされてきただろうに……」


「違うよー!ウラロスは僕たちの味方だよ。いつも守ってくれたんだから!」

アレクの憐れむような視線に、モフィが叫ぶ。


「へえ、実験生物に好かれる研究員か。珍しい人種もいるんだな。……攻撃して悪かったよ」

アレクは両手を挙げ、降参の意を示した。


その時、ゆっくりとギンが近づいてきた。

「アレク、其方は契約もしていないのに何故ここにいる?主に迷惑をかけるなら、我は容赦しないぞ」


「おや、森の主たる古代聖獣が、ずいぶん可愛らしい姿をしていますね。俺は本気で口説いているだけで、ミレイアに迷惑をかけるつもりはありませんよ。嫌なら本気で反撃してくるでしょうし」


いつの間にかミレイアの隣に移動していたアレクが、彼女の腰を抱き寄せる。低い体温が伝わってきた。


「やめて!アレク!」

ミレイアは身をよじって逃れようとする。


「本気で嫌なら、俺を殺す気で魔力をぶつければいい。君と一緒になれるなら、寿命が縮むくらいどうってことないさ」

アレクは甘くも切ない眼差しを向けた。


「お嬢様に手を出すな!」

ノエルが叩こうとするが、アレクには一切当たらない。


「やだな、まだ手は出してないよ。――それは、これからじっくり……ね?」


そう言うと、アレクは隙を突いてミレイアに口づけを落とし、そのまま姿を消した。

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