新たなライバル
「それで?お前は一体誰なんだよ」
レオンが不満いっぱいの顔で男を指差している。
東庭園のテラス。
仲良くベンチに腰掛けて穏やかにランチを食べていた二人だったが、突然現れた男が二人の間に割って入り、状況は一変した。
「ミレイア、会いたかった」
耳元で囁いたのは、薄手の服から形のいい筋肉を覗かせる美貌の男。透き通るような肌と整った顔立ちは、いかにもミレイア好みといえる。
「俺が誰かって? ミレイアの新しい恋人?」
男は挑発的な視線をレオンに送る。
「……!ミレイア、そうなのか?」
レオンが唇を震わせる。
「ま、まさか違うわよ! ちょっとアレク、急に現れて何を言ってるの!?」
ミレイアは慌てて男の名を呼び、止めようと手を伸ばした。
「うーん、そうだったね。求婚はしたけど返事はまだだった。今はアピール中さ」
アレクは伸ばされた手を掴み、自らの肌けた胸元へ導く。
「君といるとこんなに鼓動が高鳴る。理由はわかるよね?」
「アレク!」
ミレイアは真っ赤になって手を引き、レオンの側に駆け寄った。
「レオン、勘違いしないで! アレクは水の精霊なの」
「精霊?でも、それなら俺が言葉を理解できるのはおかしいだろう」
「あ……ほんとね。どうして……」
ミレイアが困惑する。
「ハハハ、俺を普通の精霊と一緒にしてもらっては困る。人間の言葉なんてとっくに習得済みさ」
胸を張ってアレクは答えた。
「……まさか、ミレイア。コイツと契約したのか?」
「いや、契約はしてなくて……」
ミレイアはアレクをキッと睨む。
「俺は自由な精霊なんだ。契約すれば主従関係になってしまうけど、愛する人とは対等な立場でいたいからね」
「愛する……ね。ミレイアは精霊まで魅惑しちゃったわけか?」
レオンはミレイアを疑わしい目で見つめる。
「本気にしないで。アレクは母のアリアにだって付き纏ってたのよ。誰にでもそうなの!」
「へえ……。誰でもいいなら、俺のミレイアに近づくなよ」
「誰でもいいはずないだろ。アリアも確かに綺麗だったけど、あの子は硬すぎてね。ずっとシオン一筋で、しかも結婚するまで指一本触れさせなかった。……でもミレイアは違う。美しい上に、色気もあって、透き通った魔力に甘い匂い。俺の好みど真ん中だ。それに触られることにも抵抗がない。最高だよ。奪える隙があるかもしれない。昨日だって、恋人以外の男に口付けさせていただろ?」
「見ていたのか……?」
レオンが唇を噛む。
「ああ。ずっと一人になる隙を狙っていたんだが、タイミングがなくてね。だから出てきた」
アゼルからの口付けのことを知らないミレイアは、怪訝そうにしていたが、すぐに強く首を振った。
「違う! わたしはレオン一筋よ! 大体、精霊なら人間にちょっかい出さず、精霊同士でくっつけばいいじゃない」
「はぁ。わかってないなあ。他の精霊は小さすぎるんだ。番になるには、君ぐらいの大きさが必要なんだよ。心配いらない。精霊と人間が結ばれた例は過去にもある。俺と一つになろうか」
アレクが甘く囁く。
「ならない!」
理由を聞いて顔を赤らめたミレイアを、レオンが守るように抱き寄せる。
「そんなに睨むな、レオン。ライバルと認めてくれたのか?」
「認めない。二度と現れるな!」
レオンはアレクに雷魔法を放つ。
アレクは軽くかわし、逆に水の魔法を撃ち返す。そして、二人が離れた一瞬の隙をついて――ミレイアの唇を奪った。
そして、「またね、ミレイア」――そう囁くと、一瞬で姿を消した。
「……冷たい唇だった」
ミレイアが口を触りながらぼんやり呟いた瞬間、レオンの理性が吹き飛ぶ。
「ミレイア!君は隙がありすぎる。……消毒しないとな」
言葉よりも早く、彼女を抱き寄せて口付けを落とす。
一度では足りない。独占欲が、我を忘れさせる。
触れるたびに熱は高まり、唇を離す間も惜しい。
「れ、レオン……」
息をつく間もなく次の口付けが迫り、だんだんミレイアの頭がポーッとしてくる。
昼休みが終わるまで、レオンの嫉妬の口付けが途切れることはなかった。