新たな絆
「ただいまー! アゼル、マーサさん!」
明るい声で帰宅を告げたミレイアに、アゼルが慌てて人差し指を唇にあてる。
「……さっきまで大喜びで動き回ってたんだけど、さすがに疲れたみたいだ。病み上がりだからね」
視線の先、ベッドの上ではマーサが静かに眠っていた。アゼルは優しげな表情をしている。
「マーサともお茶にしようと思ってたんだけど……寝ちゃったのね。残念」
ユキアが小さく肩を落とす。
不思議そうにしているイリウスへ、ユキアは説明した。ミレイアの治癒魔法でマーサが飛び跳ねるほど元気を取り戻したことを――。
「な、なんと……」
イリウスは目を丸くして驚いている。
「わたしの魔法は体力までは回復できないから、これからは栄養のあるものを食べて、少しずつ体を動かして……ゆっくり体力をつけていくしかないわね」
ミレイアの言葉に、アゼルが真剣に頷く。
そして彼女に近づき、顔を覗き込んだ。
「ずいぶん疲れた顔だね。無理してない?」
「あ、アゼル。わたしね……」
その瞬間――。
ミレイアはアゼルにしがみついたまま、腕の中で意識を失ってしまった。
「これは魔力切れかな。寝不足もありそうだけど……今まで気を張っていたんだろうね。あなたの腕の中で安心しているようだよ」
元聖女のユキアが光の魔法を当てて診察する。
「無理をさせたのは僕です。彼女を守るって決めてたのに、倒れるまで気づかなかったなんて……」
アゼルは自責の念に駆られ、唇をかんだ。
「アゼルと言ったな。君のことはマーサから聞いておるよ。ミレイアを今までずっと支えてくれていたんじゃろう?」
イリウスが柔らかい声をかける。
「……実は、今日はわしも彼女に無理をさせてしまった。危険なところを救われたんじゃ」
彼が視線を向ける先には、自らの召喚獣ユウと、ミレイアが契約した古代聖獣ギンが静かに座っていた。
「アゼル、この聖獣はミレイアと新しく契約した銀狼だ。これからは、あなたと共に彼女を守ってくれるはずだよ」
ユキアが紹介すると、ギンはアゼルの金色の瞳を、じっくりと品定めするように見つめた。
アゼルはその視線を受け止め、深く頷く。
「今日は何のお構いもできずすまなかったね。またゆっくり訪ねてきておくれ」
眠るミレイアの髪を撫でながら、ユキアが声をかけた。
アゼルはミレイアを抱えたまま、机に置かれた人探索魔道具を器用に拾い上げ、転移魔法陣を展開する。
「マーサ……いえ、母のこと、よろしくお願いします。また会いに来ます」
「任せておきなさい。ミレイアのこと、頼んだよ」
ユキアとイリウスが手を振る。その間を縫うように、ギンも魔法陣の中へ歩み入った。
そして次の瞬間、光に包まれたミレイアたちの姿は、静かに消えていった。