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曾祖母

「マーサさんが無事なことが確認できて、良かったね」

ミレイアが、呆然と立ち尽くすアゼルに明るく声をかけた。


「そうだな。危険が去ったわけじゃないけど……ひとまず安心したよ」


アゼルはマーサの隣に腰を下ろし、体調を気遣いながら言葉を交わし始める。


ミレイアは改めて曾祖母に向き直り、深く頭を下げた。

「……あの、わたしはアリアの娘のミレイアです」


「ええ、知っているとも。せっかくひ孫が訪ねて来てくれたんだ、少し昔話でもしようかね」


ユキアはクッションが置かれた椅子をすすめてきた。ミレイアが座ると、テーブルを挟んでユキアも座った。


「あれ?このクッションって……」

覚えのある感触に何度か座りなおす。


「やっぱり気づいたかい?さすが製作者だね」

それは、馬車の衝撃を和らげるためにミレイアが魔法布を使って作り、ノクシア商会で試験販売中の新製品だった。


「大おばあさまは、何でもご存知なんですね」

ミレイアは目を見開く。


「ああ。ミレイアの開発した魔道具は全部持っているよ。私はノクシア商会の大ファンなんだ」

にっこりと笑うユキアは、若々しくとても九十に近いとは思えなかった。


「大おばあさまはここで一人暮らしを?」


「いいえ、夫も一緒さ。今は森に出ているけれど、もうじき戻るだろう。夫は聖獣使いなんだ」


「聖獣使い……?」

聞き慣れない言葉に、ミレイアは思わず問い返した。


「今は研究機関くらいでしか見られない絶滅危惧種の聖獣だけど、この森にはまだ棲んでいるんだよ。精霊もいる。この森は聖域だからね」

そう言ってユキアは袖をまくり、腕に刻まれた金色の印を見せた。


「それは、契約の印ですね」


「そうさ。光の精霊と契約しているよ。出てきなさい、ミツ!」

名前を呼ばれて姿を現した小さな人型の精霊は、ユキアの肩にひらりと降り立った。


「まあ。彼女は誰なの?香りがユキアと同じだわ!」


ミツの言葉を聞いたミレイアが、近づいて挨拶する。

「はじめまして、ミツ。わたしはミレイア。ユキアさんのひ孫なの」


「まあ。ユキアの子孫なのね!契約印があるわね。精霊だけじゃなく聖獣とも契約しているの?2匹ともまだ子供みたいだけど、なかなか見込みはあるわ!あなたとの絆が深いのね……。あなたは今まで会った聖女のだれよりも強くて、迷いのない魔力を持ってる。あなたならもっと……大人の強い聖獣や、美しい精霊とも契約できるんじゃない?それなら……」


ユキアがミツの襟元をつかんで言葉を止める。

「ミツ、あなたしゃべりすぎ!挨拶させるためだけに呼んだんだよ。もう下がりなさい」


むくれたミツはユキアの肩を軽く蹴飛ばし、光に溶けて消えていった。


「もしかして、わたしの契約している子たちのことも知ってますか?」


「モフィとスインだろう?今はノエルと一緒にいるね。気持ちよさそうに昼寝しているよ」


「ノエルにも会ったことが?」


「もちろんだとも。私の娘、ユリリアはノエルを産んですぐに亡くなった。だから孫たちが幼い頃には、何度も会いに行ったんだ。だがコーラリー伯爵は妻を亡くして以来、アリアに執着するようになり、ノエルをまるで存在しないかのように扱った。アリアは家を飛び出してからも、ずっとノエルのことを気にしていたよ。私は何もしてやれなかったが……ノエルが平民のサムと一緒になると決めた時、ノクシア領に行くよう勧めたのは私なんだ。アリアがノクシアに託した娘のことを、私は知っていたからね」


ユキアは優しい眼差しをミレイアに向けた。


「……知りませんでした。もしもっと早くノエルのことを知っていたら……洪水で流されたサムさんを助けられたかもしれないのに」

ミレイアの胸に後悔の念がこみ上げる。


「ミレイア。聖女だからといって、すべての人を救えるわけじゃない。どうにもならない運命もある。ノエルは確かに辛い思いをしたが、それがあったからこそ今、あなたの侍女としてそばにいるんだろう?」


ユキアの言葉に、ミレイアは静かに頷いた。


「そろそろ夫も戻る頃だと思っていたんだが……少し遅いね。森に探しに行ってみようかな。ひ孫が来ていると知れば、喜ぶだろう」


「わたしもご一緒したいです!」


「そうだね。一緒に行こうか」


「……でもその前に」

ミレイアは、ベッドに腰掛けていたアゼルとマーサのもとへ歩み寄った。


「マーサさん。わたし、小さい頃に一緒に暮らしていたんですよね。アゼルから聞きました。こうして会えて嬉しいです」


「私もよ。いつもアゼルと仲良くしてくれてありがとう。今日も連れてきてくれて……本当にありがとう」

マーサは涙をにじませる。ミレイアはそっとその手を握った。


「マーサさんがもっと元気になりますように。……祈らせてもらってもいいですか?」

そう言うなり、ミレイアは返事も待たずに光を放ち、眩い癒しの力をマーサへと注いだ。


「えっ……え!」

みるみる顔色が良くなったマーサは、勢いよくベッドから立ち上がり、驚くほど軽快に身を動かす。


「すごい……!痛みが消えた。体が羽のように軽い!」


彼女は思わずその場で跳ね、くるくると回ってみせた。まるで十歳ほど若返ったようだ。


アゼルは呆然と目を見開いている。


「……はあ。アリアも大した聖女だったが、これは規格外だね。普通の治癒魔法はせいぜい症状を和らげる程度。病を根本から癒すなんて、本来できないんだ」

ユキアが感嘆の声を漏らす。


「元気になってよかったです」

ミレイアはマーサに笑いかけた。


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