表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

137/187

森の小屋

ミレイアとアゼルが転移した先は、背の高い木々に囲まれた森の中。

魔道具が出す光線に従って歩き、辿り着いたのは木々の葉と同じ緑色の小屋だった。


「ここにマーサさんが?セラフィス神官長も……」

ミレイアの鼓動が早くなる。


ノックをしようとした時、中からスマートな白髪の女性が出てきた。

「ようこそ、待っていたよ」

彼女は穏やかに微笑む。


「え……待っていた?」

ミレイアが戸惑いの声を出すと、女性は頷いた。


「私には離れた場所を透視する力があってね。あなたがここへ来るのが見えていたの」


その言葉にミレイアの胸が高鳴る。顔立ち、雰囲気、そして濃紺の瞳──。

「もしかして……あなたは……」


「私は、元聖女のユキア。アリアの母の母です」


ミレイアは息をのむ。曽祖母との対面だと気づく。

「大おばあさま?」



部屋の奥では、マーサが布団の上に上体を起こしていた。顔色はまだ薄いが、目に力が宿っている。

「マーサ!」

アゼルが駆け寄る。


曽祖母ユキアは説明した。

「セラフィスが連れてきたんだ。マーサは来る途中に意識を失ってしまっていた。私が治癒魔法をかけて、何とか命は繋ぎ止めたよ」


マーサは静かに頷いた。


アゼルはずっと抱えていた問いをぶつける。

「マーサ……僕の父親はセラフィス神官長なのか」


その名を口にした瞬間、部屋の空気が重くなる。

マーサはかぶりを振った。

「違うわ」


アゼルは目を見開く。


マーサは唇を震わせながら言葉を続けた。

「神官長は、唯一あなたの出生の秘密を知っていた人。今まで私を何度も助けてくれたわ。あなたの父親は……精神魔法を操る恐ろしい人物……。私は今まで会わないようにずっと避け続けてきた……」


マーサは小さく首を振り、苦しげに言葉を落とした。

「……ごめんね。私は弱い……怖くて、真実を伝えることができない」


その言葉にアゼルの胸が締め付けられる。

真実を――どうしても知りたい。

彼女が口を閉ざすなら、自分の魔法で無理やり……。


アゼルの心に、一瞬だけ黒い衝動が芽生える。

──精神魔法で無理やり真実を吐かせることもできる。


だが、その考えを持った自分に気づいた瞬間、全身が震えた。


アゼルは自分の考えを打ち消すように口を開いた。

「セラフィス神官長は今はどこに……?なぜマーサをここに連れてきた?」


「私に危険が迫っていることを知って、ここに連れてきてくれたの。今どこにいるのかは……」


ユキアが口を挟む。

「セラフィスは逃げたよ。行き先はわからない。彼は精神魔法によって長年に渡って洗脳され、操られていた。そして、それに気付いていた。意識が朦朧として言いたくないことを口走ったり、人に犯罪を促すこともあったらしい。時に正気を取り戻しては自責に苛まれ、必死で抗おうとしていた。だけど、正気でいられる時間が日に日に短くなっていた。ここに来る間も、意識が持っていかれそうになるのを必死で堪えていたようだ。意識を取り返すために自分でつけた真新しい傷が、腕にたくさん刻まれていたよ。……彼はマーサを守るために、姿を消したんだ」


アゼルの胸に混乱と苦しみが渦巻く。

「操られていた……あの人が……」


「大おばあさまは、真実を知っているの?」

ミレイアは、ユキアに問いかける。


「そうだよ。自分の子孫に関わることは、いつもここから見ていたからね。だけど今、私の口からは話せないよ。アリアがそれを望んでいないんだ」

ユキアの言葉に、ミレイアは目を瞬かせる。


「いずれ、嫌でも知ることになる。その時には、私も出来る限り力になるつもりだよ」


語らない意志がはっきり見えるユキアに、ミレイアはそれ以上、父母を死に追いやったアゼルの父親について、問いかけることは出来なかった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ