アゼルの探索
研究院を後にしたミレイアは、フローラと共に馬車へ乗り込んだ。
「ミレイア様、徹夜明けでお疲れでしょう。着いたら起こしますから眠っていってください」
「ええ、そうするわ」
揺れる車内で、ミレイアは胸の奥の焦る気持ちを押し殺しながら、瞼を閉じた。
学園の正門をくぐったのは、ちょうど午前最後の授業の始まりの鐘がなっている時だった。
貴族寮の自室に戻ると、ノエルが扉の前まで迎えに出ていた。
「お帰りなさいませ。お嬢様、なんだか顔色が少し……」
「大丈夫よ。ただ、部屋で少し休みたいの。しばらく起こさないでね」
ミレイアは二人に念を押して部屋に入った。
ベッドに身を投げ出すと、すぐに扉の外から二人の足音が遠ざかる。
その気配が完全に消えたのを確認してから、ミレイアは静かに身を起こした。
「……ごめんね、フローラ。ノエル」
小さくつぶやき、一冊の本ほどの大きさの魔道具を、テーブルに置く。フローラとノエルには、ただの本に見えていたかもしれない。
「マーサさんの居場所を突き止めたいけど……まずは、アゼルのいる場所を探さないと」
ミレイアは、アゼルにもらったペンダントを魔道具の読み取り口にそっと置いた。
淡い光が走り、地図に赤い点が浮かび上がる。
「……学園の……わたしの教室?」
思わず首をかしげる。授業中の教室に、アゼルがいるはずはなかった。
理由はすぐに思い当たった。
このペンダントには、アゼルの魔力だけでなくレオンの魔力も染みついている。
そして今、教室にいるのはレオン。
魔道具は近くにいる魔力を優先して反応してしまったのだ。
「……なるほど。複数の魔力が混ざっていると、今いる場所に近い人しか表示されないのね。改良が必要だわ」
ペンダントを首に掛け直しながら、小さくつぶやいたミレイアは、別の媒介を思い出した。
――先日、アゼルが訪れたときに置いていった上着。ノエルに見つからないように、棚の奥に自分で隠しておいたのだ。それを取り出し、魔道具に読み込ませる。
今度は迷いのない光が走り、広範囲の情報が書かれた王国地図が浮かび上がった。アゼルが遠い場所にいることを物語っている。地図の一点が赤く点滅した。
「ここは南部地区の……神殿?」
ミレイアは息を呑む。そういえば、アゼルは、神官長が行きそうな場所を探していると言っていた。
もしかすると、各地の神殿を巡っているのかもしれない。
「待ってて、アゼル」
魔道具とアゼルの上着を両手に抱え、静かに転移の魔法陣を展開した。