人探索魔道具
「それじゃ、セドリック。あなたを探索してみるからどこかに隠れてきて」
エリサが指示をだす。
セドリックは少し考えて、
「……探す側がよかったけど、まあ、頑張って上手く隠れてみるよ」
とだけ言うと、研究室を出て行った。
「そろそろ隠れ終えたころかしら?えっと、まずは……探したい相手の魔力の残滓が残った私物を用意するのよね」
机の上には、実験用にセドリックが置いていった革の手袋がある。ミレイアはそれを両手で包むように持ち、魔道具の読み取り口へ差し込んだ。
淡い光が魔道具全体に走り、空中に研究院の簡易地図が浮かび上がる。その中の一点が赤く点滅していた。
「……あそこね。資料室の隣の物置部屋。行ってみましょう」
エリサが声を落として言う。
近づくにつれ、魔道具の表面が小さく震える。
物置部屋の扉を開けると、埃っぽい匂いと共に薄暗い室内が広がる。棚には古い文献や実験器具が積まれ、奥には大きな木箱がいくつも並んでいた。
中に入ると、地図の映像が薄れ、代わりに光の線が前方へと伸びていく。そして、揺らめく光は木箱のひとつを指し示した。
「……ここね」
ミレイアが箱の蓋に手をかける。ゆっくりと持ち上げると、中から、隠れていたセドリックの姿が現れる。
「正解!」
セドリックはほっと笑みを浮かべ、胸を張るようにして立ち上がった。
「うまくいったな!実験成功だ」
エリサも微笑む。
「よし、動作の確認はできたわ。次は範囲を広げて、タルボットの位置を探してみましょう」
三人は研究室へ戻ると、今度は、タルボットが普段使っているという羽ペンを用意した。長年の使用で握りの部分が少し黒ずんでいる。
「これなら間違いなく反応するはず」
エリサがそう言って魔道具にセットすると、淡い光が走り、再び地図が浮かび上がった。
王都の中心部を映し出した地図の中で、魔塔の東側の一角が赤く点滅する。
「ちゃんと魔塔を示しているわね」
エリサが満足げに頷く。
セドリックも地図を見つめて言った。
「……間違いない。昨日父さんがいた作業場の場所だ」
「……すごい」
ミレイアが思わずつぶやく。
「本当に、人を探せる……!」
エリサは目を細めてそれを見つめ、静かに息をつく。
「これで、ひとまず形にはなったわね」
セドリックも大きく伸びをし、疲労の色を浮かべながらも満足げに笑った。
「ここまで動けば十分だ。……あとは改良を重ねていけばいい」
エリサは魔道具を手に取り、ミレイアの方へ差し出した。
「あなたに託すわ。必要な時に使ってちょうだい」
「……はい。ありがとうございます」
ミレイアは深く礼をして、両手でそれを受け取った。胸の奥にじんと熱が広がる。
ふと時計に目をやった瞬間、ミレイアは青ざめる。
「あっ!わたし、学園を無断で休んでしまったわ……」
声を上げる彼女に、エリサは小さく笑って首を振った。
「心配しなくていいわ。学園には、あなたとセドリックが急用で休むって伝えてあるから。昨日の通信で、ノエルさんにもちゃんと話しておいたし」
「……そうなんですか」
ミレイアはほっと息をついた。
エリサは窓の外に目をやり、柔らかく告げた。
「そろそろフローラさんのお迎えが来るころね」
「僕は、研究院の仮眠室で少し寝ていくよ」
セドリックが欠伸を噛み殺しながら言った。
「私も休んでくるわ。……ミレイアちゃん、また会いましょうね」
エリサは微笑んで研究室を後にする。
魔道具を抱きしめるようにして、ミレイアもゆっくりと立ち上がった。窓の外には、馬車から降りるフローラの姿が見えた。