表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

133/187

人探索魔道具

「それじゃ、セドリック。あなたを探索してみるからどこかに隠れてきて」

エリサが指示をだす。


セドリックは少し考えて、

「……探す側がよかったけど、まあ、頑張って上手く隠れてみるよ」

とだけ言うと、研究室を出て行った。


「そろそろ隠れ終えたころかしら?えっと、まずは……探したい相手の魔力の残滓が残った私物を用意するのよね」


机の上には、実験用にセドリックが置いていった革の手袋がある。ミレイアはそれを両手で包むように持ち、魔道具の読み取り口へ差し込んだ。


淡い光が魔道具全体に走り、空中に研究院の簡易地図が浮かび上がる。その中の一点が赤く点滅していた。


「……あそこね。資料室の隣の物置部屋。行ってみましょう」

エリサが声を落として言う。


近づくにつれ、魔道具の表面が小さく震える。

物置部屋の扉を開けると、埃っぽい匂いと共に薄暗い室内が広がる。棚には古い文献や実験器具が積まれ、奥には大きな木箱がいくつも並んでいた。

中に入ると、地図の映像が薄れ、代わりに光の線が前方へと伸びていく。そして、揺らめく光は木箱のひとつを指し示した。


「……ここね」

ミレイアが箱の蓋に手をかける。ゆっくりと持ち上げると、中から、隠れていたセドリックの姿が現れる。

「正解!」

セドリックはほっと笑みを浮かべ、胸を張るようにして立ち上がった。

「うまくいったな!実験成功だ」


エリサも微笑む。

「よし、動作の確認はできたわ。次は範囲を広げて、タルボットの位置を探してみましょう」


三人は研究室へ戻ると、今度は、タルボットが普段使っているという羽ペンを用意した。長年の使用で握りの部分が少し黒ずんでいる。


「これなら間違いなく反応するはず」

エリサがそう言って魔道具にセットすると、淡い光が走り、再び地図が浮かび上がった。


王都の中心部を映し出した地図の中で、魔塔の東側の一角が赤く点滅する。


「ちゃんと魔塔を示しているわね」

エリサが満足げに頷く。


セドリックも地図を見つめて言った。

「……間違いない。昨日父さんがいた作業場の場所だ」


「……すごい」

ミレイアが思わずつぶやく。

「本当に、人を探せる……!」


エリサは目を細めてそれを見つめ、静かに息をつく。

「これで、ひとまず形にはなったわね」


セドリックも大きく伸びをし、疲労の色を浮かべながらも満足げに笑った。

「ここまで動けば十分だ。……あとは改良を重ねていけばいい」


エリサは魔道具を手に取り、ミレイアの方へ差し出した。

「あなたに託すわ。必要な時に使ってちょうだい」


「……はい。ありがとうございます」

ミレイアは深く礼をして、両手でそれを受け取った。胸の奥にじんと熱が広がる。


ふと時計に目をやった瞬間、ミレイアは青ざめる。

「あっ!わたし、学園を無断で休んでしまったわ……」


声を上げる彼女に、エリサは小さく笑って首を振った。

「心配しなくていいわ。学園には、あなたとセドリックが急用で休むって伝えてあるから。昨日の通信で、ノエルさんにもちゃんと話しておいたし」


「……そうなんですか」

ミレイアはほっと息をついた。


エリサは窓の外に目をやり、柔らかく告げた。

「そろそろフローラさんのお迎えが来るころね」


「僕は、研究院の仮眠室で少し寝ていくよ」

セドリックが欠伸を噛み殺しながら言った。


「私も休んでくるわ。……ミレイアちゃん、また会いましょうね」

エリサは微笑んで研究室を後にする。


魔道具を抱きしめるようにして、ミレイアもゆっくりと立ち上がった。窓の外には、馬車から降りるフローラの姿が見えた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ