研究院にて
王都の中心部でひときわ目を引く、大きなドーム状の建物――王立魔法技術研究院。
一歩中に足を踏み入れると、白一色の壁と天井、磨き上げられた床が広がり、眩しいほどに明るい。見たこともない最新設備が所狭しと並び、多くの研究者が慌ただしく行き交う活気にあふれる場所だった。
セドリックは迷うことなくズラリと並ぶ扉のひとつをノックする。
「母さん、セドリックだよ」
「はーい、空いてるから入ってきて!」
遠くから明るい声が響き、セドリックが扉を開けると――
「ごめん、来てすぐで悪いんだけど、手伝って!」
棚の上から雪崩のように荷物が崩れ落ち、それを両手と足で必死に押さえている女性の姿が飛び込んできた。
「……なんでこうなるんだよ」
セドリックは呆れつつも、母の手を助け、テキパキと荷物を元に戻していく。
「研究室を片付けようとしたら、詰め込みすぎちゃったみたいでね。そんなことより――はじめまして、ミレイアちゃん。私はセドリックの母、エリサよ」
駆け寄ってきたのは、セドリックと同じ青い髪を持つ背の高い女性だった。
「はじめまして。ミレイア・ノクシアと申します。今日は急にお邪魔してすみません」
申しわけなさそうに頭を下げるミレイアに、エリサは慌てて手を振った。
「お邪魔だなんて! いつか私の方からミレイアちゃんを招きたいと思っていたのよ。いつもセドリックと仲良くしてくれてありがとう。あなたが十歳のときに書いた論文を読んで以来、私もセドリックもあなたの大ファンなの。二人の共同論文も素晴らしかったし、星導祭の魔導演舞には感動して……」
目を潤ませるエリサに、ミレイアは思わず目を丸くする。
「母さん、実は作りたい魔道具があるんだ。今日はそのことで力を貸してほしくて」
セドリックが本題を切り出すと、エリサは驚いたように眉を上げる。
「まあ、セドリックが助けを求めるなんて珍しいわね。なんでも一人でやれるって言ってたのに」
「ミレイアさんと一緒に研究して、一人じゃできないこともあるって気づいたんだよ。……作りたいのは、人を探索する魔道具なんだ」
「ふふっ、なるほど。私の探し物探しの研究が役に立つと思ったのね。いいわ、詳しく聞かせてちょうだい」
三人は机を囲み、椅子に腰掛けるとすぐに議論を始めた。
「まず、人を探すには魔力や匂い、声、姿形の情報を魔道具に認識させる必要があるわ」
「じゃあ、魔力回路はこう配置して……」
「だったら構造式はこう変えて、魔石の組み合わせを――」
息をつく暇もなく、三人は夢中で設計図を描き上げていった。