談話室にて
4人はしばし暗い事件のことを忘れて楽しい時間を過ごした。
「まだ帰らないで。夕食も一緒に……」
とすがるレオンの希望を聞いて、4人一緒に王族寮のシェフが作った夕食を食べた。
ノエルに連絡をした時にはえらく心配されたけれど、クラリスも一緒だと伝えると安心したようだ。
「クラリスさんが一緒なら、夕食の後お嬢様まで食べられちゃう心配はないですね。後でフローラが迎えに行くので、待っててください」
フローラが迎えに来るまでの時間、カードゲームをしながらおしゃべりを楽しむ。
「あ!また負けた。ミレイアさん強すぎるよ〜」
「ふふふ。ロイさんは3連敗ね」
クラリスがロイの肩を叩いて励ましながら、ミレイアに声をかける。
「あと二週間すれば冬季休暇ね。ミレイアはノクシア領に帰るのよね?」
「うん。毎年両親と一緒に誕生日と年越しを過ごしているし……最近色々心配かけてるから、向こうで一カ月過ごす予定よ」
「そっかー。しばらく会えなくなるのね。寂しいわ」
「クラリスは実家に帰らないの?」
「うちは王都の外れにあるけど、父も母も王宮で働いているから会おうと思えば会えるし、帰る予定はないわ」
「クラリスのお父様は文官長で、お母様は侍女長だっけ?」
「ええ、そ……」
「そうだよ。ミレイアが王妃になれば、たくさん会うことになるよ。それより……」
レオンがクラリスの言葉に被せるように口をはさむ。
「一カ月もいなくなるなんて聞いてないんだけど」
「うん、今初めて言ったもの」
「誕生日も一緒に過ごせないのか? 寂しすぎるよ」
「わたしも……きっとレオンに会いたくなるわね。転移魔法でこっそり会いに行こうかな。レオンに時間があれば、ノクシア領に会いに来てくれてもいいわよ」
「行く!」
即答するレオンに、ミレイアは微笑んだ。
「まあ、その前に来週からテストがあるのよね」
「あー! そうだった……」
「ロイ、もしかして忘れていたの?」
クラリスがクスクス笑う。
「クラリスは覚えてたのか?」
「もちろん。ちゃんと勉強しているわ。私はミレイアや殿下と違って、一度学んだら忘れない能力は持ってないから、努力しないと」
「俺もなんだけど……今から頑張るか」
「ティナとルイスが週末にミレイアと一緒に勉強会するって、参加者を募ってたけど……」
「参加する!」
「俺も!」
ロイとレオンが手を挙げる。
「私も参加するわ。ミレイア、週末の勉強会は大人数になりそうよ」
クラリスの言葉に、ミレイアが苦笑した。
「ティナとルイスだけだと思ってた」
トントン。談話室のドアがノックされる。
「ミレイア様、お迎えにあがりました」
「あ、フローラが来たわ。じゃあ、もう行くわね」
レオンが名残惜しそうにミレイアの手を掴む。
「ミレイア! 明日もここに来れる? なんならもう一緒に暮らさないか」
「レオン……。さすがにそれは無理だけど、また来るわね」
ミレイアは握られた手を離すと、唇を尖らせて拗ねるレオンに近づき、軽く唇を合わせた。
「おやすみなさい」
笑顔になったレオンと、唖然としているロイとクラリスを残し、ミレイアは部屋を出て行った。