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3週間後

星導祭の日から三週間が経った。


あの日ミレイアを狙った刺客は、今もなお王都騎士団による取り調べを受けている。案の定、依頼人については一言も語っていなかった。


だが、いくつか判明したこともある。

――大通りで襲いかかってきた黒装束の男と同一人物であること。

――隣国に本拠を置く闇組織〈デビルス〉の一員であること。

――ティナの兄が営む商会の襲撃を、手下に指示していたこと。

――さらには、ルイスの家族が暮らす港町での毒事件にも関与していたこと。


決め手となったのは〈瞬間記録器〉の映像だった。

それはミレイアが騎士団に寄付した魔道具で、騎士団の目が届かない治安の悪い酒場や暗がりに設置されており、今回初めて大きな成果を上げたのだ。


依頼人の正体はいまだ闇の中。だが、犯人の素性が割れたことで、周囲の緊張は少し和らいでいた。

外出時は相変わらず護衛が数人ついてくるものの、学園にいる間は基本的に護衛はつかないことになった。


「ミレイア様、私は騎士科の授業の講師として行ってきますが……もし何かあれば、連絡くださればすぐに向かいますからね」

フローラが携帯通信機を見せて念を押す。


「お嬢様、危険を感じたらすぐにモフィとスインを呼びだしてくださいね!」

「そうだよー。呼んでねー」

「助けに飛んでいくの〜」

ノエルがモフィとスインを両手に抱えて見送る。


変わらずに心配を続ける身内の言葉に、ミレイアは微笑んだ。


「心配ないわ。自分の身を守る護身術も、防御魔法も、すんなり出せるようになってきたから」


そうして、変わらない日々が続いていた。

ただ――あの日から、アゼルには一度も会っていない。


空いた時間には精神魔法についての古い文献を読み漁っている。レオンたちは王宮の不穏な動きを探っているようだった。

すべては暗躍する黒幕を突き止め、一緒に未来を歩むために。



放課後、クラリスから声をかけられた。

「今から、一緒に王族寮の談話室に行かない?」


「え、私が行ってもいいの?」


「最近ゆっくり話せていなかったでしょ? ミレイアは王族になる人なんだから問題ないわよ」

クラリスは悪戯っぽく笑った。


二人は並んで王族寮へ向かう。学園本館の喧騒から離れ、重厚な扉をくぐると、空気がどこか静かで凛としていた。

ここに出入りできるのは限られた者だけ――その事実が、ミレイアに小さな緊張を与える。


クラリスに導かれるまま談話室に入ると、すでに二人の姿があった。

窓際のソファに腰掛けていたのは、レオンとロイ。


「ミレイア!来てくれたのか!」

レオンが少し目を見開く。


「ミレイアさんが来るなんて、初めてだな」

ロイはからかうような視線を向けた。


「ちゃんと話したかったから、連れてきちゃった」

クラリスは肩をすくめる。


「ミレイア、こっちにおいで!」

レオンは嬉しそうに声を弾ませ、側に呼んだ。


近づくと、彼は自然にミレイアの腰を掴み、自分の膝の上に座らせる。

そして、後ろから抱きつかれたまま振り向くミレイアの額に、頬に、唇に――流れるように甘いキスを落とした。


「レオン!?」


「やっぱりミレイアの感触は最高だな」


上機嫌のレオンと、恥ずかしがりながらも嫌がる素振りを見せないミレイア。


「はあ!? 殿下、自然に何をやってるんですか!」

クラリスが大声を上げる。


「レオン〜。俺たちがいるのをわかってて見せつけてるわけ? ミレイアさんも少しは抵抗しようかー」

ロイがニヤニヤしながら苦言を呈した。


ハッとしたミレイアはレオンの膝から離れ、その隣に座る。


クラリスは顔を赤らめながら人数分の紅茶を並べ、ミレイアの向かいに腰を下ろした。


「あのね、ミレイア。実は、私とロイはあなたの出生の秘密について殿下から聞いているの。神官シオンと聖女アリアの死んだはずの娘であること。ノクシア夫妻が実子と偽って育ててきたこと」


「知っていたのね……」


「誰にも話すつもりはないから安心して。ただ、あなたが再び命を狙われる可能性があるから、一刻も早く黒幕を見つけないといけない。殿下にもそう頼まれたわ」


「レオンとミレイアさんには、ちゃんと結ばれてほしいから、協力は惜しまないつもりだよ」

ロイも真剣な声を出す。


「ありがとう。わたしも、産んでくれた両親の無念を晴らすため、そしてレオンの家族が正気を取り戻すために、早く解決したいと思ってる」


「私たちは、この前から王宮の訪問者記録を調べているの。当時からいる使用人に話を聞いたりもしてね」


クラリスの言葉に、レオンが口をはさむ。


「わかってきたのは、先代国王が不審な言動をとるようになったのは父母が結婚したころだということ。そのころから接触が増えたのは神殿関係者、そしてイグニッツ侯爵をはじめとする現在の『第二王子派』と呼ばれる貴族たち。俺はその中にミレイアを狙う黒幕がいると考えてる」


ミレイアは静かにうなずいた。

「わたしは海外の文献や、古代語で書かれた古い資料の中から、精神魔法について書かれたものを探して読んでいるの」


「何かわかった?」


「精神魔法は今では人の心を支配する禁忌とされているけれど、五百年ほど前までは病を和らげる神術と呼ばれることもあったみたい。精神魔法による洗脳を受けやすいのは心に隙がある人で、心の奥に眠る本心や希望を増幅させる術だということ。術者が解除する以外に、精神魔法の洗脳から抜ける方法は見つかっていないみたい」


レオンは真剣に聞き、口を開いた。

「先代国王は、心の奥に暗殺を望む気持ちがあったということか?」


「うーん、そうじゃなくても、自分の力が及ばないものを恐れる気持ちや、国王としてのプレッシャーを刺激されたのかもしれないわ。誰だって精神魔法に操られる可能性はあると思うの」


「とにかく、精神魔法の使い手を探し出すしかないということだな」

レオンがうなづく。


「私たちは、これから先、王宮への出入りが多い貴族や、神殿の神官にも順番に話を聞く予定なの」

クラリスがロイに視線を送る。


「クラリス、くれぐれも気をつけて。わたしも一緒に行ったほうが良ければ……」


クラリスはミレイアの言葉を遮るように首を振る。

「大丈夫。ロイも一緒に行ってくれるし。ミレイアを狙う人物に会う可能性があるのだから、連れていくわけにはいかないわ。ただ、いつか……向こうから接触してくるかもしれない。ミレイアも気をつけて。殿下、ちゃんとミレイアを守ってね」


「当たり前だ」

レオンは強い眼差しでミレイアを見つめる。


「やっぱり私は守られてばかりだわ」

ミレイアの瞳が潤む。

「……アゼルはどうしているんだろう。会いたいな……」


その呟きに、レオンの片眉がピクリと上がる。

「ミレイアには俺がいるだろ? アイツのことなんて考えなくていいんだよ」

レオンがミレイアの両手を握る。


「だけど……やっぱり心配だもの。レオンに対する気持ちとは違うけど、アゼルのことも大事なの。レオン、ごめ……んっ……!」


言葉を遮るように、レオンが深い口付けをした。


パコン!

いつの間にか隣に立っていたロイが、丸めた書類でレオンの頭を叩く。


「おい、レオン! お前はなんて小さいやつなんだ。そんな嫉妬深いと嫌われるぞ」


頭を押さえながらロイを睨むレオンに、ミレイアが言った。


「嫌いになるわけないよ。レオンに嫉妬してキスしてもらえるなんて、最高だし」


「……!」


「はあ。ミレイアさん……あんまり煽ってやるなよ」

ロイが赤面したまま固まるレオンを哀れむような目で見る。


「ん? どういう意味?」

不思議そうに首をかしげるミレイア。


「無自覚って怖いわね」

クラリスは呆れ顔を見せた。

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