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セドリックとの関係

学園の奥、樹々に囲まれた小さな木造の小屋。

ここは、魔術研究に没頭するために与えられた静かな研究室だ。

机の上には、片手に乗る大きさの精巧な模型が置かれている。魔導石を動力に、複雑な魔法回路が組み込まれた「魔導走行車」。

――馬を必要としない、新しい移動手段を生み出す夢の研究の結晶だ。


青い髪を整え、丸い眼鏡をかけた青年――セドリック・グレアムは、その前に立ち、真剣な眼差しで魔法回路を点検していた。彼は数々の論文で名を馳せる天才だが、今は隣にいる少女の存在にわずかに緊張している。

その少女、ミレイア・ノクシアと出会ってからわずか二ヶ月。

二人は驚異的な速度で研究を積み重ね、世界を揺るがす論文をいくつも発表してきた。


「……準備は整ったみたいだな。さあ、動かしてみよう」

応用魔法学のメレアス教諭が、興奮を隠せない声で促した。


ミレイアはこくりと頷き、模型にそっと手をかざす。

「セドリック、魔力循環の調整をお願い」

「任せといて、ミレイアさん」

セドリックの指先が回路に触れ、細やかな魔力の流れを整える。


カチリ、と音がして魔導石が青白く点灯する。

次の瞬間、模型の車輪が自ら回り始め――机の上を軽やかに走り出した。


「っ……動いた!」

ミレイアの瞳が大きく見開かれる。

模型は直進だけでなく、カーブに沿って美しく旋回し、最後には机の端でぴたりと止まった。その動きは、まるで生き物のように滑らかだ。


「……っ、す、すごい……!」

セドリックは興奮を隠しきれず、肩で息をしながらミレイアを見た。


「……やったわね、セドリック」

ミレイアが柔らかく笑う。


「こ、これは……歴史を変える発表になるぞ!」

メレアス教諭は両手を広げ、目を輝かせた。

「馬の脚に頼らず、魔法回路で走る乗り物など――前代未聞だ!論文だけではなく、この実物も示せば、世界中の学者が震撼するに違いない!」


興奮冷めやらぬまま、教諭は小屋を飛び出していった。

扉の閉まる音が静かに消える。


「……さて」

ミレイアは乱雑に散らばった資料を整え、セドリックは書き込んだ紙の空白を埋めるようにペンを走らせる。


やがて、書き上げられた研究論文が机の上に並んだ。

「……これで、まとめは大丈夫そうだな」

セドリックは余韻を噛みしめるように小さく息を吐く。


ふと見ると、小屋の隅にいつの間にか用意されたテーブルに、ミレイアが紅茶を並べていた。

「完成したのね。セドリック、お疲れ様。お茶でも飲まない?」

「こんなの……いつ用意したんだ? まさか転移魔法で?」

セドリックは不思議そうに白い椅子に腰を下ろす。

「ええ。ちょっと自室に行ってきたの。セドリック、集中していたから気づかなかったのね」


湯気の立つ紅茶を手に、二人は改めて研究について語り合う。


「セドリックはやっぱりすごいわ。あなたがいなかったら、完成していなかったと思う。発想はずっと前からあったのだけど、理論が追いつかなくて」

「いや、その発想こそがすごいんだよ……」

褒められたセドリックは頬を赤らめ、視線を逸らした。


「セドリックは、卒業したら魔術研究員になるの?」

「うん、たぶん。両親もそうだから」

「そうなのね!セドリックのご家族ってどんな方たち?兄弟はいるの?」


セドリックは少し照れながら、家族のことを話し始めた。

「父母は研究に夢中になると、ご飯を食べるのを三日も忘れるような人たちさ。3歳下の妹と5歳下の弟がいる。王立学校に通ってるんだ。祖父母も一緒に住んでいるよ」

「まあ、七人家族なのね!にぎやかでいいなぁ」

「そうかな。ミレイアさんの家族は?」

「うちは父母と私の三人家族。……あ、でも最近、血のつながった叔母と叔父が見つかったの」


「行方不明だったのか? 見つかって良かったね。実は僕の母にも弟がいたんだ。でも僕が一歳の時に事件に巻き込まれて亡くなったらしい……。有名な神官だったんだよ。一緒に亡くなった娘は僕と同い年だったんだ。会ってみたかったな……」


「……? もしかして、そのおじさま……シオン、というお名前?」

「そうだよ。さすがミレイアさん、物知りだね。学園の有名な卒業生でもあったらしいし、知っててもおかしくないか」


シオンはわたしの実父――セドリックのお母様は、私の伯母さま。

セドリックは、従兄弟……!?


衝撃の真実に息を呑みながらも、口にすれば自分の出生の秘密を明かさねばならない。死んだはずの娘であり、ノクシア家の実子と偽って育てられてきたことを。


今はまだ、彼に打ち明けることはできなかった。

いつかきっと話せる時が来る。そう願いながら、ミレイアは微笑んで紅茶を口に運んだ。


「そうね。セドリックのおじさまに、わたしも会ってみたかったわ」

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