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再会

白い大理石の柱に囲まれたガゼボ。そこに腰を下ろしたのはノエル、ミレイア、そしてアレス。フローラはミレイアの背後に控え、警戒するようにその場を見渡していた。


アレスが深く息をつき、沈黙を破る。

「ノエル元気だったか?あれからどこで何をしていたんだ?」


ノエルは膝の上で手を固く組み、俯いたまま口を開く。

「私は、ノクシア領の小さな村で夫のサムと過ごしていたわ。だけど5年前の洪水の時、サムを亡くしてしまったの。しばらくは、1人で過ごしていたけど……今はミレイアお嬢様の侍女として働かせてもらっているわ」


「そんな大変なことが……」

アレスの声は低く、目が揺れていた。


「兄さんは、どうしていたの?私が家を出た時には、騎士学校に通っていたはずよね?この学園の卒業生だったなんて知らなかったわ」


「そうだね。ノエルにはそう伝えていたね。実際1年半は東区の騎士学校に通っていた。けれど、途中で辞めて、レガリア魔導学園の騎士科に入学し直したんだ。姉さんが家を捨てても通いたがった学園を、どうしても知りたくなって……」


「兄さんは、コーラリー伯爵家を継いでいると思ってた。オルコット侯爵家に婿入りしていたの?」


「……ああ、お前が家を出た翌年。学園を卒業した20歳の時だよ。父さんが決めた結婚相手だった。あの時伯爵家には多額の借金があったから、資金を援助してくれる侯爵家から婿入りの縁談があった時、喜んで推し進めてきたんだ。実は俺にはあの時、愛している人がいた。婚約もしていたんだ。だけど、彼女が苦難に陥った時、救うことができなかった。ノエルや姉さんのように、家を出る勇気すらなかった……」


アレスは立ち上がり、フローラの前に進み出て、膝をついた。


「フローラ……。すまなかった。君の父親がイグニッツ侯爵の策略で冤罪にかけられたことを俺は知っていた……。守れなくて……君の側にいられなくて……謝っても謝りきれない」


涙が彼の頬を伝う。フローラは強い眼差しでアレスを見返した。


「もう、あの時のことは忘れました。ミレイア様が前を向かせてくれたんです。父母の死は、今でも悔しいけれど、あなたが気にする必要はない!」


「フローラ……。君が騎士としてノクシア領に行ったことは聞いていたよ。ずっと気になっていたのに、合わせる顔がなかった。俺は本気で君を愛していたよ」


「そんな言葉は聞きたくありません。あなたには今守るべき家族がいるのでしょう?」


アレスは言葉を詰まらせ、黙り込む。


「私は結婚はしていませんが、守りたいものはあります。ミレイア様の騎士として一生仕えるつもりです。ノクシア騎士団のみんなもノクシア領の人たちも良くしてくれています。親友のように接してくれるノエルもいます」


「はあ、ノエルとフローラが仲良くなっているなんて……。ミレイアさん、君が巡り合わせてくれたんだね。不思議なんだ。君に姉さんの面影を感じる。その規格外の魔力も濃紺の瞳も、すべてを見通すような眼差しもそっくりだ。もし、姉さんと一緒に殺された娘が生きていたら、君のようになっていたのかな」


ミレイアは思わずノエルの方を見やる。だがノエルは、静かに首を横に振った。


「兄さん、わたしは父さんに愛された記憶がないの。母さんが私を産んだ時に亡くなってしまったから、恨まれていたのかもしれない。これからも関わるつもりはないわ」

アレスは静かにうなずいた。


「俺が1歳の時に亡くなった母のことは、俺も覚えていなんだ。でも、父はずっと忘れられないんだよ。母に良く似た姉さんに執着していたのもそのせいかもしれない。姉さんが15年前に盗賊に殺されてからは、タガが外れたように領地のお金を使いこむようになって、借金が膨らんでいったんだ。思えば、可哀想な人だよ。最愛の人を亡くして娘たちには嫌われて家を出ていかれて」


「そんなことは無いと思います!可哀想なんかじゃありません」

ミレイアが鋭く声を上げた。


「子供の幸せを本気で願うなら、どんな道を進んでも、どんな結婚相手を選んでも、応援すべきだったと思います!」


「ははは、君は、ずいぶん愛されて育ったんだね。……だけど、そんな君だから、君の周りには人が集まるのかな。ノエルのこと、これからもよろしく頼むよ。もし助けが必要なことがあれば、頼って欲しい。2人きりの兄妹なんだから」


ノエルは小さくうなずいた。アレスは満足そうに微笑み、立ち上がる。


「フローラ、君の幸せを祈っているよ」


その言葉を最後に、アレスは正門の方へと歩き出した。背中が朝の光の中に小さくなっていくまで、誰も言葉を発することができなかった。

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