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社交パーティー

光に包まれた空間に、思わず息をのむ――まるで夢のように華麗で、活気に満ちた星導祭の社交パーティー会場。

金色のシャンデリアが幾重にも光を放ち、磨き上げられた大理石の床に反射してきらめく。会場の中央では既に色とりどりのドレスやタキシードが花のように咲き乱れていた。


その中でもひときわ視線を集めたのは、燃えるようなオレンジ色のドレスを纏ったリディアだった。彼女はパートナーを伴わず、手にした扇を軽くあおぎながら、会場をキョロキョロと見渡す。

「……あれ、レオン殿下は? 迎えに来なかったから先に来ているかと思ったんだけど……」


ほどなくして、兄のベルトランにエスコートされたイザベルが会場に入ってきた。深紅のドレスは宝石のように鮮烈で、凛とした雰囲気とあいまって圧倒的な存在感を放っている。


リディアと視線がぶつかった瞬間、イザベルの口元がわずかに引きつる。今や犬猿の仲となった二人の間には、冷たい空気が流れた。


「あ!イザベル! あなたもレオン殿下と一緒ではないのね! 準備に手間取っているのかしら……」

通りすぎようとする足を止め、イザベルは思わず声をかける。

「リディアさん。かわいそうだけど、待っていてもレオンはここには来ないわ。あなたも本当はわかっているんでしょう? レオンはミレイア・ノクシアと一緒にいるって。レオンが婚約したい相手は彼女だけだって」


リディアの扇が小さく震える。

「……。だけどお父様は諦めなくても大丈夫だって言ってたわ。国王陛下もリディアがいいって言ってるって。ミレイアが正式な婚約者になることはないって……」


「あなたも私も、選ばれることはないわ」

イザベルの言葉は淡々としていたが、その瞳にはわずかな痛みが宿っていた。


次の瞬間、リディアは唇を噛み、声を上げて泣きながら会場の人混みへと駆け出していった。オレンジの裾が翻り、煌めく光に溶けるように遠ざかっていく。


残されたイザベルに、隣のベルトランが薄く笑いかける。

「なんだ、やっぱりお前も殿下の心は手に入らなかったのか。哀れだな」

その笑みは父イグニッツ侯爵を思わせる冷ややかさを帯びていた。

「殿下の想い人のミレイア・ノクシア。今日、決闘大会で初めて見たよ。倒れた殿下の側に転移して、治癒して、ディクシーに拘束魔法を発動して……すべて無詠唱だった。あまりに早すぎて、他の観客たちは理解できていないようだったが。あの魔力に加えてあの美貌……。何としても手に入れたいな」

「兄様、冗談はやめてちょうだい」

「冗談なもんか。ミレイア・ノクシアが俺のものになれば、お前が殿下を手に入れるチャンスだってできるんじゃないか」

「はあ、そんなこと求めてないわよ」

イザベルは吐息をこぼし、唇を強く噛みしめた。


その時、会場の入口から新たな視線を集める一組が姿を見せた。クラリスと、その婚約者リオネルである。

リオネルは整った顔立ちの長身の青年で、柔らかな金髪がシャンデリアの光を受けて輝いていた。クラリスの腰を自然にエスコートする様は、誰が見ても非の打ちどころがない。


「クラリス。長い間会えなかったが、ますます綺麗になったね。学園生活が楽しそうで何よりだよ。いつも君からの手紙を読むのを楽しみにしているんだ」

「うん、リオネルも元気そうでよかった」


誠実な彼の瞳に見つめられ、クラリスは胸の奥に小さな罪悪感を覚える。それでも、

このまま彼と結婚すれば穏やかな生活が送れる……

と自分に言い聞かせた。


やがて、楽団の弦が柔らかに響き、ダンスの時間が始まる。リオネルは自然な仕草でクラリスの手を取った。


「君と初めて踊ったパーティーのことを思い出すよ」

「私の社交会デビューの日ね」

「たくさん足を踏まれたよね。だけど、次に会った時には誰よりも上手になっていた。頑張り屋なところは、今も変わっていないのかな」

彼の微笑みに、クラリスもそっと微笑み返す。


一方その頃、会場の隅ではティナがルイスの袖をぐいっと引っ張っていた。

「早く行くわよ!」

「えー、やっぱり踊らないとだめかな。俺、平民だし。こういう所初めてだからびびってるんだよ」

「もう! ダンスは授業でも練習したでしょ。わたしがリードしてあげるから心配しないでよ」

「だって、みんなかっこいいんだもん。せっかくティナの兄ちゃんが服を貸してくれたのにな……俺、浮いてるよな」

「なーにを弱気になってんの。ルイスらしくない! だいたいわたしを最初に誘ってきたのはルイスじゃない」

「こんなすごいやつだと思ってなかったんだよ」

「たくさん一緒にダンスするんじゃなかったの?」

「うーん、ここから出て踊る?」


「ルイス!! わたしが選んだパートナーはこんな弱っちいやつじゃない! 自信持って。ルイスはめっちゃかっこいいよ!」


その言葉にルイスの目が見開かれる。次の瞬間、まるで何かが吹っ切れたように背筋が伸びた。彼はティナの手をしっかりと握り、堂々とホール中央へ歩み出す。


「ティナ。俺と踊ってもらえますか」

「もちろん!」


ぎこちなさはあったが、二人のステップは練習の成果でぴたりと揃っていた。


「ドレスがすごく似合ってる。今日のティナめっちゃ可愛いよ。いつも可愛いけど」

「はあ? 何よそれ」

「誰にもとられたくないから、ずっと一緒に踊ろう!」

「ずっとは踊らない!」


ティナは頬を赤くし、視線を逸らした。その横顔を見ながら、ルイスは得意げに笑みを浮かべた。

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