守り隊
「いいですか、お嬢様。そして殿下。星導祭を見て回るのは構いませんが、絶対に適度な距離を保ってくださいね!」
ノエルの繰り返される念押しに、ミレイアとレオンは顔を見合わせて苦笑し、部屋を出た。
少し離れて、三人の護衛が後に続く。
「やっと一緒に回れるな」
レオンが笑みを向ける。
寮の玄関ホールを抜けたところで、ミレイアはふと足を止めた。
「レオンは、社交パーティーに行かなくて本当に良かったの?」
「ああ。俺はミレイアと一緒にいたかったから。……もしパーティーに誘ってたら来てくれた?」
「うーん、わたしは無理かな。でもレオンは王太子殿下だし……リディアさんやイザベルさんとか、たくさん誘われてたでしょ」
「ん? もしかして、やきもちを焼いてくれてる?」
レオンがにやける。
「リディアさんは華麗な公爵令嬢、イザベルさんは上品で“社交会の花”と呼ばれる方だもの。わたしなんかより、レオンの隣には似合ってるんじゃないかって……」
「やきもちは可愛いけど、自分の価値に自覚がないのは心配だな。俺の隣に立つのは、この先ずっとミレイアだけだよ」
レオンが自然に肩を抱き寄せる――
「ちょっと待ったー!」
唐突に、二人を引き離す手が現れた。
気づけば、見覚えのある顔がぐるりと二人を囲んでいる。
男子生徒六人、女子生徒四人。その中の大柄な騎士科男子が声を張った。
「ミレイアさん! 社交パーティーに参加しないファンクラブのメンバーが、ミレイアさんをお守りするように、副会長クラリスさんより仰せつかって参りました!」
ミレイアとレオンは、わずかに距離を取らされながら顔を見合わせる。
こうして総勢十五人の団体でゾロゾロと回ることになった。
「二人で回りたかったな」
不満げなレオン。
「たくさんで回るのも楽しいじゃない」
ミレイアは苦笑しながら応えた。
午前中に回った時に比べて、社交パーティー中のため人は少なかった。
ティナたちのお店では、ティナとルイスが揃ってパーティーに行ったため、ソフィアとセドリックがドリンクを作っていた。
「あれ? ソフィアはパーティーに行かなかったの?」
「ええ。ああいう場は苦手なんだもの。わたしは店番の方が楽しいわ」
「セドリックは?」
「僕は実行委員だから、店員不在の店を手伝うのも仕事なんだ」
隣にいるレオンが魔法ドリンクを口にして、微妙な顔をした。
「……不思議な味だ」
「わたしは美味しかったよ、りんご味」
「俺は……なんか酷い味だった……」
ファンクラブの面々も思い思いに楽しんでいるようだ。
「あ、あそこの“キラキラクレープ”食べない? さっきは買わなかったけど気になってたの」
「ああ」
名前通り、魔法でキラキラ光らせたクレープを食べながら、学園内のイベントスペースを歩く。
クラリスの作品の前まで来た時、レオンと10名のミレイアファンの口から感嘆の声が上がった。
「ミレイア……!?」
「きゃー、素敵!本物みたい」
「女神さま……尊い……」
みんながざわざわ感想を言い合う中、レオンがつぶやいた。
「終わったらクラリスに譲ってもらおう……」
絵の中のミレイアは笑顔で手を振っていた。
「あ、ミレイアさん!」
そこに駆け寄ってきたのはティナの兄、リュシアン。後ろには白髪混じりの渋い男性が立っていた。
「はじめまして、ティナの父です。いつも娘がお世話になっています。そして、先日は息子の命を救ってくださりありがとうございました。今度改めて御礼をさせてください。我が家にもまた遊びに来てくださいね」
「はい!」
「ミレイアさん、パーティーに行かなくて良かったの? 僕はティナと行くはずだったのに、直前で断られちゃってさ〜」
リュシアンは少し拗ねた顔の後、すぐにまた興奮したように話し出す。
「だけど!ここでミレイアさんに会えるなんて、なんてラッキーなんだ!社交パーティーに出てたら会えなかったんだよ。運命だよね! ねえねえ、ミレイアさん、携帯通信魔道具の設計図のことなんだけど……」
話が長くなる気配を感じたのか、父が一礼して息子を引っ張っていった。
「おーい、レオン」
歩きだしたレオンに後ろから声をかけてきたのは、母方の祖父、ゼファルだった。
「お祖父様……」
「決闘大会の後、控室に行ったんだが、もういなかったから探していたんだ。さっきは危なかったな。体は大丈夫か?」
「大丈夫です。心配をおかけしました」
「君がミレイアさんだな。さっきレオンに治癒魔法を施してくれたね。孫を助けてくれて感謝する」
「いえ、当然のことをしただけです」
「君たちのことは応援しているよ。障害もあるだろうが、私が味方だということは忘れるな。では、邪魔をすると悪いから私はもう帰るよ」
ゼファルは手を振って去って行った。
「そういえば、ロイさんは?」
「今は寮の部屋で休んでる。闘技場でクラリスの婚約者に会って打ちのめされてるよ」
「……もしかして、クラリスとロイさんって両想い?」
「そうだ。ただクラリスは婚約者と結婚するつもりだろうな。婚約者は家柄も良くて背が高く、かっこいい好青年で……ロイは、何一つ勝てないといじけてる」
「そっか……みんな色々あるよね」
「そうだな」
レオンが隙を見てミレイアの手を握る。
「ああ!」
しかし即座に『ミレイア守り隊』に引き離される。
「こっそり転移魔法で逃げられないか?」
「そんなことしたら、せっかく認めてくれた両親がまた反対し始めちゃうよ」
ミレイアは苦笑し、首を振った。