卒業生
「ミレイアの出る魔導演舞は、二十時ごろだったよな?」
ギルバートは立ち上がり、外套を羽織る。
「うん、わたしの出番は一番最後だから……二十一時くらいになりそうだけど」
「じゃあ、私たちはそれまで久しぶりの星導祭を見て回ってくるわね」
シルヴィアが軽く手を振り、ノクシア夫妻は部屋を出て行った。
「……お父様とお母様が、この学園の卒業生だったなんて知らなかった」
ミレイアがぽつりと呟く。
「私は知っていましたよ」
フローラがさらりと答える。
「そういえば、フローラも卒業生だものね」
「実は口止めされていました。ずっと、ミレイア様が入学することに反対されていましたから、知られない方がいいとお考えだったようです」
ミレイアは隣でぼんやり座っているレオンに目を向けた。
「レオン? 大丈夫?」
「あ、ああ……なんだか、安心したら力が抜けてしまって」
「うん。とりあえず、家に連れ帰られる心配がなくなってよかったわ」
ミレイアはにっこり笑う。
「ミレイア、良かったねー」
「安心したの〜」
どこからともなくモフィとスインが姿を現す。
「あなたたち、今までどこに行っていたの?」
「私が隠れるように言ったんですよ。大事な話し合いの最中に、余計な情報を増やしたくありませんでしたから」
ノエルがモフィたちを撫でながら答えた。
「ノエル、さっきは味方してくれてありがとう。お父様たちに進言してくれなかったら、認めてもらえなかったかもしれない」
ミレイアとレオンが頭を下げる。
「ああ、私にも家族に結婚を反対された経験がありますからね。他人事には思えませんでした。……私は結局、勘当されて伯爵家を出てしまいましたけど」
「サムさんが平民だったから、反対されたのよね? ノエルは、もう家族に会いたいとは思わないの?」
「ええ、思いません。私の今の家族はお嬢様ですから。それに……」
「ん?」
「今まで話していませんでしたが、私には十歳上の姉がいたんです。私が六歳の時、姉は家を出て行きました。当時、隣国の貴族との政略結婚が決まっていて、父母も兄も必死に探しました。……そして一年後、領地から二日もかかる王都のレガリア魔導学園で見つかりました。
姉は家族の誰も持たない特別な力を持っていました。その力を利用するための結婚が、どうしても我慢できなかったのでしょう。何度戻るよう説得しても、姉は『私は家を捨てたのだから』と言って戻りませんでした。……私も姉と同じ道を辿ることが、家族には許せなかったのだと思います」
「そうだったのね……。お姉さんとは今は?」
「もう、会えません。私の姉は殺されました。……名前は、アリアといいます」
「え、それって……!」
「私も、さっき奥様方のお話を聞いて初めて気付きました。――私は、お嬢様の血の繋がった叔母かもしれません」
ミレイアの瞳から、一筋の涙が伝った。
「わたし、ノエルのこと……ずっと他人とは思えなかったの」
「私もです。……ということですので、これからは遠慮なくビシバシ説教させていただきます!」
「えー……」