心配
ノックの音とほぼ同時に、部屋の扉が勢いよく開いた。
「お嬢様!」
「ミレイア様、ご無事ですか!?」
ノエルとフローラが駆け込むようにして現れた。
ノエルは目にうっすら涙を浮かべ、ミレイアの前にしゃがみこむようにして手を握った。
「……よかった、ほんとうに……。ホールからいなくなったって聞いて、もう心臓が止まりそうでした」
「演台が吹き飛んだと聞いて、まさかと思いましたが……。お怪我はございませんか?」
フローラも、ミレイアの肩越しに鋭い目で全身を確認している。
「大丈夫よ。ちょっとびっくりしたけど、大事にはならなかったの。アゼルが魔力の制御と、心を落ち着かせる魔法を使ってくれたし……今は、もう平気」
その名を聞いて、ふたりの眉がわずかに動いた。
「……アゼル様が?」
ノエルが小さくつぶやき、ミレイアの手を握る力が少し強まる。
「うん。ホールの外まで連れて行ってくれて……そのまま、こちらまで」
「……なるほど」
フローラは腕を組んで、ため息をひとつ落とした。
「治療の腕は確かですし、何度もミレイア様のために動いてくださっているのは存じています。ただ……最近、距離が近すぎると申しますか」
「はい……私も少し、気になってはおりました」
ノエルが控えめに言葉を添える。
「お嬢様は純粋でいらっしゃいますから、あの方のお気持ちにも気づいておられないでしょうけど……」
「明らかに、好意を抱いておられますよね。あの方は」
「……えっと……」
ミレイアはわずかに視線を逸らしながら、ソファに深く座り直す。
「アゼルは私の魔力に興味があるだけで、別に……そういうのじゃ、ないと思うの」
「お嬢様……」
ノエルがそっとミレイアの髪を整えるように撫でた。
「確かに、アゼル様のそばにいれば魔力暴走の不安は減るかもしれません。でも、それとこれとは別問題ですわ。あまり、頼りすぎないでくださいね」
「ミレイア様のご判断を疑うつもりはございませんが、あまりにも近しい関係を続けられると……周囲の誤解を招くこともございます」
フローラも穏やかながら、きっぱりとした声音で続けた。
「……うん。忠告、ありがとう。ふたりがそう言ってくれるのは、わたしのことを思ってくれてるからだって、わかってる」
「はい。わたくしは、ただ……お嬢様が傷つくのを見たくないだけです」
「同じくです、ミレイア様」
ふたりの言葉が胸に染みるようで、ミレイアは小さく微笑みながらうなずいた。