表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
46/51

第四十五話:語られざる神、影より来たる


 世界が、再び揺れ始めていた。

 ゼ=ノームの覚醒により確立されかけた“語りの共鳴権”が、根底から覆される兆候が見え始めたのだ。




 その原因は、もう一柱の神性――

 **語られざるネブラエル**の顕現だった。




 ◇




 それは突然だった。

 北方、魔導都市カルディナの天空図書院にて、

 “記録帳の自動消去現象”が発生。

 既に記された名前、事実、歴史が、連鎖的に消滅を始めた。




 >【記録喪失現象:語りへの逆因果干渉検出】

 >【想起不能:記録が消えた対象に関する再語り不可能】




 神殿本部に緊急報が入る。

 綾香は、震える手で新語律の原典を開くが、そこにも“空白”が広がり始めていた。




 「……これは、意図的に語りを“無効化”する力……!」




 ゼ=ノームが“語る者と語られる者の共鳴”を基礎としたのに対し、

 ネブラエルは“語ることそのものを禁忌”とする神性。

 語られたことが存在を汚すとし、すべての語りを“改竄”することで清める存在だった。




 ──語られたがゆえに、縛られた存在を救う。

 ──語られぬことこそ、純粋な自由である。




 その論理は、確かに一理あった。

 だが、強制された“無語化”は、もはや救いではなく、断罪だった。




 ◇




 蓮は、記憶の谷で再び眠りに落ちた。

 その夢の中で、彼は“語られなかった妹”に出会う。




 ──イリス。

 疫病で死に、自ら語ることなく消えた彼女。

 彼の記憶の中で、彼女はいつも名前すら呼べない存在だった。




 蓮は夢の中で泣いていた。

 「俺は……お前の名を語らなかった。

  語る資格がなかった。

  死を無意味にしたくなかったのに……」




 イリスは微笑んだ。

 「お兄ちゃん。私は、“語られなくても”ここにいたよ」

 「でも……あなたが語ってくれたら、それもまた嬉しい」




 彼女の瞳に宿るものは、ゼ=ノームでもネブラエルでもなかった。

 ただ“語ることと語らないことの両方を受け入れる”優しさだった。




 そして、彼女は蓮の額に触れる。

 その瞬間、蓮の中の“語る力”が戻る。




 >【再同調:語りの原基、共鳴再構成】

 >【沈黙と語りの境界を超える媒体、生成】




 ◇




 目覚めた蓮は、即座に綾香の元へ走る。

 「……綾香。戦いになる」

 「語りと、無語の神性がぶつかる。

  その時、俺たちが語るのは“誰の声”か、問われる」




 綾香は頷く。

 「語ることが武器になったなら、

  語らぬこともまた、守るための盾にしなきゃいけない」




 その時、彼女は懐から一冊の記録帳を取り出した。

 白紙のまま、だがその背表紙に一言だけ綴られていた。

 >【記さない、でも忘れない】




 それは、語りを行う者たちにとって最大の決意。

 “記さずに残す”という選択を正式に制度として記述した、“初の契約帳”だった。




 ◇




 その頃、神殿評議会では最終決戦の布石が打たれていた。

 ラザリエルはネブラエルと契約し、“神語訂正機関”の創設を提案。

 それは「すべての語りを検閲・調整し、神の意志に即すよう補正する」機関。




 語りの自由を守ろうとする者たちは、

 次章、武力ではなく、**語りそのものを用いた神性戦争ロゴス・クルセイド**に突入していく――。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ