第二十四話:大陸震動、解放軍と王国連合の衝突
――その日、大陸の空が割れた。
魔導通信網を通じ、すべての国家と組織に伝達されたのは、
聖都アルゼリードにて“義勇軍が神託機構を封じた”という事実。
だが、そこに含まれていたもう一つの報せが、世界を揺るがせた。
>【義勇軍「ルキフェルの烽火」、新たなる秩序の旗を掲げる】
>【旧聖女・真綾香、“神託の改ざん”を告白】
>【解放軍、対王国・教会連合への宣戦布告】
それは、宣戦布告だった。
国家の下ではなく、神の下でもなく、“人の自由”の名において旗を上げた独立勢力。
その象徴は――アサクラ・レオン。
もはや“勇者”という称号では足りない。
彼は自ら、ただ一つの名で名乗った。
「俺は、医者だ」
「人を“治す”ために、剣を取る。それだけだ」
それは、すべての命の均衡を再定義する挑戦だった。
◇
【帝国東境・赤砂の峡谷】
王国と帝国の国境地帯に位置するこの地で、解放軍と連合軍の最初の接触が起きた。
合計三千、解放軍義勇兵。
対するは、王国正規軍八千、聖教団傭兵団一千、帝国遊撃隊五百。
戦力差は歴然だった。
だが、蓮は知っていた。
「この戦いは、“勝つため”のものじゃない。“意志を示す”ためのものだ」
戦場の先鋒を担うのは、リュミエール率いる近衛騎士団“暁の矛”。
そして、魔導通信を妨害し、戦場制御を担うのはキールの後任、
魔導工学士シェラ・ミィ=ガーネット。
綾香とルフェイは後方治療陣で“因果修正魔法”を維持し、被害を最小限に留める。
「リュミエール、突撃陣形維持! 魔導障壁三層維持して!」
「了解! 騎士団、正面突破、散開陣で展開――!!」
戦場が火を吹く。
矢の嵐、魔導雷撃、戦馬の嘶き。
大地が裂け、空が燃える。
だが、蓮はその只中に身を置いていた。
剣も、盾も、持たず。
ただ、負傷者の元に駆け寄り、次々に止血と蘇生を施していた。
「……止まるなよ。まだ、“死ぬな”」
彼の声は、戦場の中でも異質だった。
命を奪うためではなく、繋ぐために剣を抜くその姿。
それこそが、“神でも魔王でもない勇者”の証明だった。
そして、その姿を見ていた者がいた。
王国第二王子、ギルバート・アルゼリード。
彼は王国軍の陣営から戦場を見下ろし、ふっと呟く。
「……あれが“敵”か。いや――“選択肢”か」
彼はまだ何も決めていない。
ただ、“王国”という枠の中に閉じ込められた自分にとって、
蓮の存在があまりにも眩しすぎるのだった。
◇
一方、聖都上空――
突如、上空の大気が“神気反応”を感知。
それは、かつて存在した“第一神”の力に酷似した波長だった。
反応源は、“天環礎柱”と呼ばれる古代神域。
綾香が改ざんした神託の波動に“本来の神格意識”が反応し、
今、上空の空間が開こうとしていた。
「まさか……この世界には、まだ“本物の神”が眠っていた……?」
ルフェイが震える声で呟いた瞬間、
空が――“光”ではなく、“音”で裂けた。
耳を覆っても無駄なほどの、全存在に染み入る“呼び声”。
それは問うていた。
>「命とは、何か」
>「選別とは、必要か」
>「救いとは、誰が定義するのか」
神の出現ではなかった。
**“神そのものの問い”**が、世界全体に投げかけられたのだ。
蓮は剣を収め、血に塗れた大地に膝をつく。
その問いに答えられる者は、まだこの地上にはいない。
だが、彼は一言、呟いた。
「……なら、答えを探そう。俺たちで」
その決意こそが、“人類による神の上書き”の第一歩となる。




