六十二話 アキ
ストックという肉塊を壊して回る作業はなんとも言えない気味の悪さがあった。とはいえこれがフィンの元だと思えばそれを壊すのは凄く申し訳ない気がした。
別に壊さなくても全員フィンにしてもいいんじゃないのか?なんて思ってしまうがそうもいかないらしいので壊していってるとヘレスよりもダルガンが嗚咽を出して苦しんでいた。
「大丈夫か?ダルガン」
「大丈夫といいたいが…吾輩がフィンさんを殺しているんだと思うと…」
「それを言うなよ。俺も辛くなる…」
「アキちゃんはもう最初から悲痛な顔してたよー?」
ヘレスはなんとも思ってないのか踏みつぶしていく。この世界の女性はタフな人が多い。
思えばフィンに惹かれたのは儚そうな見た目だったというのもある。フィンと話すときにこのことを話したら少しは照れてくれるだろうか?
「アキよ…外の決着が終わったと思うが…」
「え?決着ってことはリビリアさんを説得できたってこと?」
「…そうであったらどれほどよかったであろうか」
言い方からして良い結果ではないということだろう。テトの強さを知ってるからこそフィン達は無事だろうという安心感があるが、それでもリビリアさんを説得するための作戦だったのだからそれは失敗したと言っていい。
「えと、ナナシに見に行ってもらった方がいいのかな?こういうときって」
「いや、余計なことはせんほうがよかろう。むしろそっとしておいてやるのが良いのかもしれん…ただアキ、貴様が行くのは問題ない…」
なんとも歯切れ悪く言うものだ。俺が行ったところで何かできるとも思えないが。
「アキ殿…行ってくるといい…」
「そうよー?スピラちゃんがそう言うときってむしろ行ってほしそうなときじゃない?」
「クハッ!我の何を知っているというのだ!」
みんなの言い分もあって俺は行こうかなと思うが、肉塊が変なところに隠されていたりするのでわりと探すの大変なのを任せるのを気が引けていたりもするとダルガンが俺の両肩に手を乗せてくる。
「大事な人を気にかけることができるときにしたほうが良いのである」
「そ、そっか…そこまで言われると照れるけど…ありがとうな気を遣わせて、行ってくるよ!」
俺はそのままみんなと分かれて城の外に出向く。道順はわりと質素な作りをしてるから迷いそうになるが出口に近づくほど道が広がる形状をしているので案外分かりやすかったりする。
外に出て争っていた形跡であろう煙のある場所へ走って向かうとテトの後ろ姿が見えた。
「テト!」
俺は見知った姿に安堵しつつ他のみんなの姿が見えないことに不安を感じる。
周りを見渡せば布…それもこれはフィンの服だ…フィンの服を被せてある塊が二か所ある。
「えっと…これはどういうこと?」
「…貴様は見るな」
「それは…えっと」
二つのうち一つはやけに大きい塊でもう一つその近くにある塊は服が足りなかったのか腕を伸ばしきってる人の手が見える。
見間違いじゃなければその手の大きさが俺が好きな人と同じような大きさに見える。
「テト…」
「フィンは…生きてるが見ない方がいい…」
「生きてるのか…?レアラは?リビリアさんは?」
「あいつらは死んだ…」
短い言葉にこれ以上に聞くのはテトに申し訳がない気がして、それでもフィンが生きてるなら会いたい。見た目がもしかしたら酷いことになってるのかもしれないとしてもそれでも俺はフィンが好きだ。
「――――」
腕を伸ばしきってる…フィンからくぐもった声が聞こえる。
「テト…どうしても確認したいんだ。見てもいいか?」
「…好きにするといい…貴様がどう思うことになっても…文句は言わん」
そんなに酷い有様なのかと。わざわざフィンのリュックから服を取り出して隠しているところから見せたくないという気持ちは伝わってくる。
俺は覚悟を決めて服をどかしてフィンの姿を見る。
それは想像してたよりも普通で、ただ髪の毛が短くなっていてセミロングくらいだろうか。綺麗な紫の髪をしている。ただ焼け焦げているのか髪の先がちぢれているのが少しかわいらしく思える。
後で整えてあげれば良いだろう。
俺はそっとその手を掴んで胸に寄せる。
「フィン」
「あー…ああぁぁ」
「フィン」
「ああぁ…あぁああぁ」
虚ろな瞳でよだれを垂らしながら意識があるのかすら分からない。それでもちゃんと生きてる…生きてる。
「テト…これは精神的ショックとかでなったのか?それとも…」
「リビリアの魔法だ。リビリアの言い方からしてリビリアを殺したらこうなるように作られていたのだろう」
「そっか…」
最初からリビリアに何かしようとしなければまだなんとかなっていたのかな。それとも茶会で守られるだけの存在だった時からどうしようもなかったのかな。
俺が何かしてやれたことはなかったのかな。何か頑張っていたことが途端に馬鹿らしく感じてくる。
今まで何してたんだろう。
ストックの破壊はテトも協力して全部を終わらせてから二人の遺体を丁重に魔王城まで運んでフィンも一緒に魔王城まで来た。
「アキ。貴様に言っておくことがあるんだが、いつまで魔王城にいるつもりだ?」
「え…?」
「レアラもああなってしまった以上…私が魔王城に滞在するのはほとんどない。霊長に言えば魔王城での暮らしはできるだろうが人間の国に帰りたいなら私がいるときでないと早々送れないぞ」
テトは淡々と述べているが、結局兄弟達が全員死んでテトだけが残ったのだ。何も思わないわけがないのにレアラやフィンの意思を継いで魔領をなんとかしようともう考えているのだろう。
「ダルガン達に相談しても…?」
「もちろんだ。ただ…フィンに関しては…貴様はどうする?」
「どうするって…」
「嫁に取るも良し、取らないも良し。私はどっちを選んでも貴様を責めたりはせん。介護も私や竜たちがするから貴様は好きに生きて構わない」
レアラの言っていた政略結婚の話しだろう。そうしたほうが良いとは思う。むしろそうしなければテトはやることが増えるのかもしれない。
他にもヘレス達もそういうことでこれから忙しくなるだろう。
とりあえずは全員と相談してこいと言い残してテトはその場を離れた。
魔王城でどこに行けばみんなと会えるかは分からないのでぼけーっとしながら散策しているとダルガンが中庭で剣を振るっていた。
「ダルガン?」
「おぉ!アキさん。見てくだされ、少しは剣術も様になってきたかと思うのだが!」
「いつも盾で攻撃してるから珍しいけど…どうしたの?」
「吾輩は兵士を辞める予定なので盾以外もそろそろ使えておかねばと」
「やめちゃうんだ?ダルガンがいないと少し寂しいな」
「何を…アキさんは国に戻って兵士を続ける気なのであるか?」
そう言われて見れば別に続けなくてもいいのかと気づく。ただ続けなかったらそれはそれで何をすればいいのか分からなくなる。
いつもなぁなぁで過ごしてきた人生だけど、フィンと出会ってからは忙しい毎日だったから色々と考えることも増えてしまう。
「俺もやめようかな…」
「それでしたら是非みんなで旅をしたいであるな…!まぁ…こんな時に言うのもなんであるが、フィンさんとよく旅をしたいと話していたのであるよ」
「フィンと?」
少し意外だ。フィンはよく分からないことに興味を示したり、色んな事を出来たりするから旅というよりは研究者みたいなイメージが強かった。
中身を開けてみれば魔王の子供というびっくり箱だったがそれでもテトやレアラの話しではかなりの箱入りだったから常識知らずだったらしいけど…だからか?
常識知らずだからダルガンと旅の話しをしていたのだろうか。
「フィンさんは知識だけは持っているけど行ったことのないところが多いと話していたのであるよ」
そういえば花畑のこともそう言っていたような気がしなくもない。フィンは魔法関連のこと以外は興味ないのかと思っていたから余計に意外だったあの花畑の幻想的な空間が懐かしく感じる。
「俺は…フィンと一緒にいた方がいいのかな…」
「…それを決めるのは吾輩ではないが、アキさんがやりたいようにするのが一番であるよ。吾輩も何度も選択肢を後悔した。それでもアキさんやヘレスさんナナシさん。フィンさんと出会って良かったと思えるから吾輩は後悔する選択肢を選んでよかったと思うときもある」
それはその通りだ。テトも言ってた通り俺の気持ち次第なのだろう。ただフィンが何を望んでいるのか分からなくなる。
フィンは今も考えることは出来てるのだろうか?それとももう考えることもできてなくて俺が誰かも分かっていないんじゃないのか。
不安が募る。怖い。もうフィンがフィンじゃなくて違う誰かでいて俺のことをなんとも思っていないのだと思うと怖い。
ダルガンはもう少し考えた方がいいと言って再び剣の稽古を始める。
俺はどうしようかと思っていると城内を歩いてるとナナシが壁にもたれかかっているのが見えた。
「ナナシが普通にしてるの珍しいな?」
「話しが…したい…」
それもまた珍しい。いつもはみんながナナシに話しかけていたがそれをしないでナナシから何か言うときは大抵なにか会った時だから身構えてしまう。
「フィン殿を…どうするつもりだ?」
「え、どうって…」
「アキ殿が何もしないのであれば…オレが引き取りたい…そうテト殿にも交渉したい…」
ナナシがフィンのことをどう思っているかは分からないが、ナナシは俺とは違ってフィンの事を面倒見たいと思っているのだ。すごいな。
「俺は…」
「多分…オレはテト殿に断られる…だからオレは魔王城に残る…アキ殿が連れて行くなら一緒に行きたい…」
そんな決意を決めているのか。
どうしてそう思ったのかなんて聞くのは失礼だろうか?ゴドー戦の時、最も一緒にいたのはナナシだ。そのときになにかしら思うことがあったのかもしれないし。
それ以前にナナシはフィンとよくコソコソ話し合って俺はどんな会話してるのかいつかフィンに聞いておこうなんて思っていた。もしかしたらナナシはフィンのことを好きなんじゃとも思っていた。
「もう少し…考えてもいいかな…」
「分かった…」
曖昧な返事をしてダサいなんて思ってしまう。ずっと思いを寄せていた相手なんだからもっとはっきりしろよ俺。
でも…どうしろって言うんだ。俺が何を考えてもフィンがどうしたいのか考えても分かりっこないのに。
フィンの顔が見たくなって、けど見たくなくて。それでも見たい気持ちがあってフィンが担ぎ込まれた寝室に向かう。
部屋を開けるとそこにはヘレスがフィンの介護をしてる姿があった。
「アキちゃーん?ノックノックー」
「あ、ごめん」
「フィンちゃん見たー?無作法だよねー?」
「あぁぁー」
その声を聴くたびに好きな声のはずなのに悲しくなってくる。
俺は近くの椅子に座ると二人の様子を見る。
「フィンちゃんどうせ食べられればなんでもいいと思ってるんだろうけど今日は美味しい果物だよー?」
「あぁぁぁー…あぐんぐ」
「ちゃんと噛まなきゃねー」
その様子を見ていると微笑ましいような痛ましいような気持ちでいっぱいだ。これ以上見ることがまるで悪いことのように感じる。
「アキちゃんはなにしにきたのー?」
「え…フィンの様子を見に来たんだけど…ヘレスがいて安心したよ」
「ふーん…あたしがいて安心したんじゃなくてフィンちゃんと二人きりにならなくて安心したんじゃないのー?」
図星でしかない。二人きりだと心が苦しくて早々に退室していたかもしれない。
「フィンちゃんさー…話しかけると喋ってくれるんだよー?何言ってるかわかんないけどさー」
「そっか…」
「それにたまにだけど泣いたり、ちょっと分かりづらいけど笑ったり。今もなに考えてるか分かんないけどまだちゃんと意識あるんだよ…」
「そうか…」
それが本当なのか確かめようがない…。ヘレスもそれを分かっているから涙を流しながらフィンに語り掛けているのだろう。
「憎たらしいほどさーやるべきことやってますみたいな顔してくれる日が戻るといいねー」
「ああぁああ…」
「そうだねー?今も憎たらしいくらいだよねー?」
俺は…本当にフィンの事を心から好きだと言えたのだろうか。
こんな風になるだなんて覚悟できていたのだろうか?別人になってると言われてもこんな廃人のようになっている姿を見て俺はそれでもフィンのことを愛してると言えるのだろうか。
「俺も…俺も一緒に話してもいいかな…?」




