六十一話
死にながら考えたなんて聞いたことないけど実際治療してなかったらそのまま死んでいたのだろうか。
「状況が分からないんだけど、どういうことなのかな」
「まずリビリアの強行によってフィンではないフィンを生み出してしまってること。ストックに関して詳しくはありませんが、それでもフィンが生きてる状態で作り出した時点で歪んだ存在が生まれています。これに関しては死にながらもう一人のフィンを見ていたから分かったことですが…」
未完成品ということなのはなんとなく戦いながら思ってはいたが、それでも僕が死ねば力の譲渡みたいなことが起きるのではないかと思ったりもした。
「フィンが生きてるのはなんでか分かりますか?」
「僕?それともあっちのフィン?」
「フィンはこの世で一人だけですよ。あちらは二世とでも呼んでおきますよ」
それを言ったら僕が二世であちらは三世なのではないだろうか。
「まず私が死にかけた理由を話しますが、私はフィンに何かあったときのために身代わりの魔法を常にかけていました。本来爆発する予定だったのはフィンなんですよ」
「それじゃあ僕を殺そうと…?」
「その魔法は別に一回で使い切りなわけではないはずですよ。それでも使ってこなかったのは今はテトがなんとかしてるのもありますし、そもそも私を殺すためだけに用意して今のフィンを生かしておこうとしていたということですよ」
早口で言われ、いまいち理解が及んでいない。それでも一生懸命伝えようとしてくれるのをくみ取ったらあれか。
何度も使える爆弾を僕に仕掛けているけど、それをレアラを仕留めたと思ってから使う気が無いと言うこと。
「とりあえず気持ちは沈みますが二世を殺すとしましょう」
「大丈夫なのかな?」
「あまり気乗りはしませんが今のフィンでは相手できないでしょう?」
実際防戦一方だったから仕方ないとはいえ自分と同じ姿を殺すと言うのはなんとも微妙な気分だ。
「ふざけるなよ!なんでお前が!お前が偽物なのに!」
「偽物なんかどこにもいませんよ?フィンはフィン、貴方は貴方じゃないですか…私は貴方とも仲良くしたかったですよ」
そう言ってフィンの体を空間ごと捻じ曲げるように潰してみせた。僕に配慮していたのか何も残るものがないくらいに潰されたそれを見た気分は良いものではないが何も残ってなかったのが今までのことが嘘のようにすら感じる。
「レアラは大丈夫なの?生き返って早々魔法を使ってみせてるけど」
「私は問題ありません…問題と言えばフィンに取り付けられた爆発する魔法と…リビリアを倒す方法ですね…」
テトがリビリアが何かしないように攻撃をしかけてはリビリアがそれに対応する形でなんとかしている状況だ。これにレアラが加勢すれば均衡が動く気はするがそうはいかないのだろうか?
「僕に仕掛けられてる魔法は取り除けないの?」
「解体すればできないことはないでしょうけどフィンはただでさえ人間と同じ程度の寿命しかもってないからそれは難しいですね」
「それでももう身代わりとかはやめてね?」
「どうですかね?私としては何度だってフィンのことを守りたいですよ」
笑いながら言われてもそれは僕が困る。魔力が空っぽの僕はもう見ることしかできないから仕方ないけどレアラは何をしているのだろうか。
戦いに混ざるわけでもなくかといって僕の治療はもう終わっている。
「フィン。最後に聞きますが説得はできそうですか?」
「僕には荷が重そうに思えるよ、都合の悪いことはリビリアは答えてくれそうにないし」
「そうですか…でしたら後の事は全てテトに任せてくれますか?」
「テト?」
「そうですよ…?テトは嫌がるかもしれませんね。それでもフィンが思っているより私が魔王をするよりも良い結果を生み出すかもしれません」
さっきから何を言ってるのだろうと疑問に思っているとレアラが抱きしめてくる。
こんな状況下で随分と余裕だなと思ったが僕も緊迫したようにレアラが抱きしめてくるものだから抱きしめ返す。
「フィン…あぁ…家族で、仲良くしたかった…それだけを夢見てきました…」
「一体何をするつもりなの…?」
そう問いかけるも何も答えずにレアラは立ち上がり、リビリアの方へと歩んでいく。
僕に背中を見せて守るように進んでいきテトと共闘するのだろう。そう思っていた。
「リビリア終わりにしますよ」
「ふふ。あはは。あははははは…私を殺して全てが終わると思っているのかしら?私とフィンはずっと一緒なの。一緒なのよ!」
「これは亡き陛下をリビリア一人に背負わせてしまった私の責任でもあります。テト後は頼みました」
テトには何をするのか伝わっているのか戦闘態勢を止めてレアラがゆっくりとリビリアに近づく。
その間に攻撃でもされるのかと思ったがその気配は一切ない。
「ごめんなさい。もっと早く止めていれば良かったのに私も死ぬのが怖ったのかもしれませんね」
「フィン!聞いて頂戴!レアラは私と一緒に死のうとしてるわ。それを貴方の万魔で止めてほしいの、貴方は私が…レアラが死んでもいいの?」
唐突にリビリアが僕に呼びかけるが、レアラが上半身を爆発して以降、リビリアに教えられていた魔法は使えなくなっていたし魔力も上手く扱えない。
なにより魔力量が僕とここにいる三人では圧倒的な差がある。万魔が通るとは思えない。
「貴方ならなんとかできるの!私を助けて…!」
助けたい。助けたかった。どう足掻いても僕が無力なことを嘆くことしかできない。
「私が死ねばフィンも一緒に死んでしまうの!お願い、一緒に生きて…!」
仮にそれが本当であってもリビリアを止めないと一生終わることのない争いが続くのだろう。いや終わったとしてもそれはもうテトとレアラ、もしくはリビリアの死による終わりしかない。
そんなことは分かっている。分かっているから僕は止めたかった。一緒に協力できればどれほどよかっただろう。一緒に頑張れればどれほどよかっただろう。
もう何もかも手遅れな現状を変えることなんてどうしようもない。
リビリアは歌うように魔法を行使する。それはレアラを直接攻撃するものではなくテトに対して攻撃している。
ただテトはそれをあしらうかのように魔法を弾いて見せる。
万能ではないにしてもテトの実力は単体で完成されてる強さだ。
レアラがリビリアの傍に来て慈しむように抱きしめる。
「なんで…私の邪魔をするの…」
「どうして私たちは分かり合えなかったのですか…」
「そう思うなら私とフィンを放っておいてよ…」
「大切な人と離れたくなんかありませんよ」
二人が優しく、それでいて悲しく会話するのを呆然と見ているとレアラの胸が弾けて、それに同調するようにリビリアの胸が弾ける。
「なにが…」
「レアラの魔法だ…身代わりもできるし、相手にも同じように身体の感覚を伝えることができる」
それはなんとも凄まじい魔法だ。血を吐きながら抱きしめ合って倒れる二人を眺めているとリビリアと視線が合った気がした。
「フィ…ン…」
手を伸ばして僕を呼ぶ声にせめてそれに応じようと近づこうとするのをテトが食い止める。
何かしてくるかもしれない。それでも僕はリビリアに近づきたくてテトをどけて歩こうとすれば心臓が掴まれるような感覚に陥る。
「ん…あぐっ」
脳が痺れるような感覚が。身体が動きづらくて指の感覚が無くて。
「リビリア!何をした!?」
「言った…でしょ…私が死ねば…」
息の仕方が分からない、二人の会話も遠く聞こえる。僕は死ぬのか?
そういえばレアラが僕を助けられないとか言っていたがこうなることを分かっていたのだろうか。
途中リビリアの言葉も無視して倒すことを選んでいたのも、レアラが、自分が死ぬことも僕が死ぬことも考えてみんなで死のうと言っていたのか。
「あ…あぁああ」
喉が痺れて喋ることが出来ない。
せめて…せめて死ぬなら。あの二人の近くで。
僕は動かし方を忘れた腕をもがくように二人に近づく。
視界がぼやけてしまう。呼吸ができない。苦しい、傍にいたい。ただそれだけを願って身体を動かす。
「――――」
「――――――」
聞こえてくる音は何を話してるか鈍い音しか頭に届かない。
痺れた手に何かの感触が伝わった気がした。
それが彼女たちに届いたのかは分からない。ただぼやけた思考のまま僕はまた二人を泣かせてしまったのだなと思った。




