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五十九話

 作戦実行に伴って僕は予めレアラに告げていた魔族に「魔王様ばんざーい」「リビリア様のために!」という言葉を魔族に言わせるように行動して、僕一人で人気のない城下町を散歩することにした。


 初日では効果が見込めなかったのかと思い何日か過ごしているとローブを目深に被っていて歩き方が綺麗に様になっている者が近づいてきてフィブラかと身構える。


「フィン様…何か問題がありましたか?」


 フードを少しずらして僕に顔が見えるようにして、僕も少し安堵する。


「実は想定外のことが起きたから連絡したかったんだけど、大丈夫だった?」

「呼ばれたということはそうなのでしょうね…大丈夫ではありませんが若干警備体制が疎かになっているので問題はなかったですよ」


 僕が万魔を使っていると思わせると言う作戦でもあるがそれ以上にフィブラに来てもらうためにレアラ達が工作したことだ。


 万魔を使うと言う手段ももちろんあるがそれで失敗したら元も子もない。


「リビリアの作戦がばれているのか警戒されて上手くいきそうにないんだ」

「その程度の些事国民全員を操れば問題は無いかと思いますが?」

「その前にばれてしまえばテトに僕が殺されてしまうじゃないか。だから一度リビリアのところへ戻りたいんだけど」


 少し考える素振りをしながらフィブラはこちらの顔色を窺っている。そんな変化しない僕の顔を見ても何も分からないとは思うが。


「フィン様…戻るにしても手土産の一つでも持参しなければ行けないと思いますよ」

「手土産…?」

「混乱に乗じてフィン様が一度帰還するとなれば相応の立場に立つ者を殺して置かなければフィン様がいないことに気づき怪しまれます」


 そういわれることはあえて織り込み済みだ。テトとレアラで話し合いこういわれた際の言い訳もすでに考えている。


「それなら問題はないよ。怪しまれない程度に問題のある人物はすでに殺してきた。回廊の付箋が死んでいるから表向きではあまり騒がれてないけどみんなは大慌てのはずだよ」

「…そうですか、彼が死んだのですね…」


 連絡役に使っていたみたいなことを回廊の付箋が言っていたが、それでも情はあったのかフィブラは少し物憂げな表情を見せた後に頷いて歩き出す。


「もうすでに行動を起こしたなら仕方ないです。リビリア様のところで参りましょうか」


 あとは竜のところまで移動したところで万魔を使い移動手段も奪ってから全員で隠れ城へ向かえば良いはずだ。

 ここまで順調なことに怖い気持ちがないと言えば嘘だがそれでも順調に進んでいるなら問題はない。


 僕は後ろを付いていきながらフィブラは時に遠回りをするように城下町の西側へと歩みを進めていく。


「フィン様に聞きたいことがあるんですが」

「ん…?どうしたの?」

「フィン様は辛いとか苦しいとか思ったことはないのですか?」


 唐突な質問に驚いたが、質問の意図を考えても特に分からないので素直に答えようと思った。


「そりゃ辛いとか苦しいって思うことはあるよ?毎日、僕が何をしてももしかしたら無駄になるんじゃないかって不安になったりもする。それでも今できることを僕はしていかなきゃいけないって思うからさ」

「どうして前向きになられたんですか?」

「前向きってわけじゃないけど…僕がやらないと、僕にしかできないって思ったからなのかな?そんな難しいことを普段から考えてないからわからないけどさ」


 他愛ない雑談と思いフィブラの質問に答えたつもりだけどリビリア特製の疑似魔眼が捉えたのは人気の少ない裏路地でフィブラから魔力が膨れ上がったこと。


「『戦闘行動を停止せよ』」

「相変わらずその呪いの言葉ですか」


 何をしていようとしたのか分からなかったから思わず言ってしまったが、それで膨れた魔力が収まったので間違いなく戦闘行動をしようとしていたと分かる。


「フィン様は忘れているかもしれませんが、フィン様は誰からも愛されてなんていませんよ」

「それは…そうかもしれないね。だから僕は役に立ちたいのかもしれない」


 フィブラの言うことは多分フィンのことだろう。偽物の僕ではなくオリジナルの僕。

 そうだとしても僕が何もしないということにはならない。


「先に言っておきますが、私に何を聞いても答えられることはありませんよ」

「リビリアの居場所とかは知ってるんじゃないかな?」

「それはフィン様も知っているでしょう?それと私からもう一つ大事なことを言っておきますが…リビリア様のところへ挑まれるようでしたらフィン様一人で向かわれた方がいいですよ」

「その方がリビリアの都合がいいからかな…?」


 それ以上は答える気がないと言った様子だったので仕方ないから万魔を使って喋ってもらおうと思ったがフィブラは吐血し始める。


「フィブラ!?『自殺することは認めない!』」

「残念ながらこれは自殺ではありません…私の役目はここで終わりのようです…」

「待て!まだ何も聞いてない!」

「フィン様の知りたいことを私は知りません…何かするのならお一人で頑張ってください…」


 虚ろになっていく瞳に僕は唖然とするしかなかった。

 そのまま目から鼻からと血を出して倒れる姿を見るしかできなかった。


 早速作戦が失敗に終わったと思うとフィブラをなんとか抱えて人目の付くところへ出ていけば竜を徘徊させているテトに気づいてもらえるのを待っているとすぐにテト達が駆けつけてくれる。


 事情を一通り話すと少し困った様子でレアラが全員を宥めながら話し出す。


「タイミングが良すぎますよ?明らかに意図的なことでしょう。となればフィブラが死んだのは予め決められていたか、私達の作戦がすでに筒抜けになっている可能性がありますよ」


 だとしたらフィブラが僕一人にリビリアの所へ行けと言うのも罠だろうか?それともフィブラがもしかしたら何か言いたかったことがあるんじゃないだろうか。


「フィンは落ち着いてください。こうなった以上はフィブラの言葉よりも作戦をそのまま実行したほうがいいですよ」

「待てレアラ。様子見も含めてアキ達は置いて行った方が良くないか?」

「フィブラが死んだ時点で恐らく相手にそのことが伝わった可能性があります。今ストックを叩かなければいけません。それに一番の違和感は重宝していたフィブラを切ったことです。となれば最悪の想像をしないといけません」


 レアラとテトが言い合いになって居ながらもレアラが一呼吸入れて全員に視線を渡してから息を整えて告げる。


「フィンが大量生産されて命令権を与える血統魔術を使える集団が作られている可能性です」


 それは…ありえなくはないのだろうか?

 僕は死んだら作られるという法則があると思っていたがやろうと思えばそんなに一度に同じ人物を作りだすことなんてこともできるとでもいうのだろうか。


「それじゃあフィン一人で行けっていうのはおかしくないですか?俺たちも同行したほうがいいでしょうし」

「結局フィブラの言いたかったことは分からずじまいですよ?それの真意がフィンをその中に混ぜたいと言う気持ちがあれば間違いなく向こうに対抗する手段がなくなりますよ」


 レアラの気持ちは分かる。

 僕が何人も大量に作られていたらそれだけでかなりの戦力になるのだろう。命令を与えられれば逆らうことができないというのもはっきり言って厄介なものだ。


「行きましょう?もう私達には時間がないようですよ」


 その言葉を聞いて付いていきながら考えているとレアラを見て思う。

 こんなに焦っているレアラはとても珍しいのではないだろうか。


 つまりはそれほどまでに事態は困窮になっているということで、レアラの言う通り急がなければ何もかも間に合わなくなる可能性。


「ちなみに聞くんですけど作戦の変更はあるんですか?」

「ありませんよ。勇者と霊長ならフィンの血統魔術に対抗できるという意味でも私とテト、フィンでリビリアの時間稼ぎをするつもりです」


 適材適所なのだろうが、ヘレスとダルガン、ナナシに関しては不安が残る采配だ。


 いっそ連れて行かなければいいのだろうがそれはそれで戦力が不安だということか。


「全力で挑みますよ?」


 レアラの言葉を受けてテトが竜を呼び全員が広場に集まり竜に乗っていく。

 その中僕は本当にこれでいいのか?という考えがよぎる。


 フィブラが今まで信用に足る人物だったかとかを考えてもそうではないと言い切れる。ただわざわざあんなことを言うのは何かしら理由があったんじゃないだろうかとも思う。


「フィン?」


 アキが僕を呼ぶ。その声でさっきまでの考えを消し去り僕は不安をよそに竜に乗る。





 行先は完璧とは言えないまでも僕が知ってる限りの移動ルートで進んでいく。

 周囲を警戒しながら空を飛んでいるが安全とはいかないまでも無事に問題なく進んでいくこの状態が逆に違和感を覚える。


 フィブラが死んだことが分かっているなら多少は迎撃態勢を整えるものではないのだろうか。


「フィン…」

「どうしたのアキ?」

「この戦いが終わってもさ、色々やることがあるとは思うんだけどまた1からやり直していきたいんだ」

「うん」

「終わったらデートをしよう。俺が出来る限りエスコートしてみせるよ」

「…うん」


 緊張感のないその言い方になんとも能天気なものだと思ったが、僕が緊張をしてるのを和らげるためにあえて言ったのかなと思うとそれも悪くないと思える。


 実際どうなるか分からない。分からないからこそこうしていることがいいのだろうと思う。


 目的地が具体的にどこにあるかは僕にもそこまで分からなかったが案外テトの目が良かったのかレアラの魔法かは知らないが森の中に降りてから、真っすぐに進めばそこにあるということを伝えてくる。


「ここら一帯に隠蔽の魔法がありますので多分進めば良いと思いますが勇者たちは霊長に先導してもらって、私達は正面からリビリアを呼びますよ」


 その言葉に応じる人間とスピラを見て大丈夫であるように願う。


 スピラ達とはここで既に別行動を取るらしく散り散りになって僕とレアラとテトの3人で歩く。


「フィンに言っておかなければならないことがあります」

「どうしたの?」

「説得は少しの時間で無理だと判断したら全員で総攻撃しますよ。今のリビリアは何をするか分かりません」


 承諾しづらいことを平然と言ってくれるものだ。助けたいと思ってここまで来たのに殺さなければならないと思うと行動が鈍ってしまうだろう。


「分かりあえることが一番ですよ?ただフィブラをあんなあっさりと切り捨てるくらいですから慎重になりすぎて取り返しのつかないことになればそれこそ危険ですよ」

「…分かったよ」


 テトの方を見てみれば複雑そうな顔をしている。テトもテトで殺したくない気持ちの方が強いのかもしれない。

 僕にリビリアを殺せるだろうか?リビリアの為を想うならテトとレアラを殺す決断をしているはずなのにそうしなかった時点でリビリアを殺すという選択を取れるとはおもえない。


 ただ無力化なら…もしかしたらできるんじゃないだろうかと淡い期待を寄せる。


 隠蔽の魔法をいつのまにか潜り抜けたのか今まで気づかなかった僕が旅立った城がそこにあった。



「やっぱり来てくれると思ってたわ」


 優しい声音でリビリアがゆっくりと僕達のところへ歩いてくる。


「わざわざお出迎えしてくれるとは思いませんでしたよ?何か城に入ってはいけない理由があるんですか?」

「そうよ、あそこは私とフィンのお城だもの」


 なんの悪びれもせずに淡々と答えながら少し恥ずかしいのか頬を赤らめている様子はこれから戦いに来たという雰囲気ではない。


「リビリアよ。貴様が何かを企んでいるのだろうがフィンの話しを聞いてやってほしい」

「テト?私は何も企んでいないわ。元からこうなる予定だっただけだもの」

「ちっ!」


 舌打ちを大きくして苛立ちを露わにするが、今のところやりとりだけならリビリアは話しをしてくれるんじゃないのだろうか。


「リビリア!聞いてほしい!僕達は回廊の付箋に騙されているんだ。そのことも今から少しずつ話していきたいから話し合いをしてほしい」

「そうね。私も回廊の付箋には少し迷惑をかけられて面倒だったの。けど安心してほしいの。フィンは必ず魔族として生きれるようにするから」

「そうじゃなくて…身内で殺し合いをするように仕向けたのとかも回廊の付箋のせいなんだ」

「別に私は回廊の付箋がどうとかで逆賊を殺そうとしてるわけではないのよ…それにしてもフィンはよくやってくれたわ。私もフィンが今こうして来てくれたことがとても嬉しいのよ」


 話しがかみ合ってない気がする。説得に失敗したならテトとレアラはリビリアを殺すように動くかもしれない。それだけはなんとかしなければいけない。


「フィン…ありがとうね」


 リビリアはとても嬉しそうに両手を広げて歌うように魔法を紡いでいく。


「フィン!危ないですよ!」


 レアラがそう言って僕に何かしたのか、それともリビリアが最初からそれを狙っていたのかは分からないが。


 僕は気づけば血まみれになっていた。誰の血なのか一瞬分からなかったが、先ほどまで僕に危ないと言ってくれた人が上半身を消し飛ばされているのを見てようやく理解した。ただレアラはそう簡単に死なないと思っていた…茶会の話しではレアラは何度も不死身性を見せていたという。


「ようやく一番厄介なのが死んでくれたわ。フィンよくやったわね」

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