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五十八話

 レアラからなんとなく昔話を聞いているとスピラもテトも人間を連れてやってくる。


 食事も運ばれてきて食べながら聞いてもらおうかと思ったが食事中には暗い真剣な話しはアキにしない方がなんとなく良いと思って静かに食べて過ごす。


 全員が食べ終わるのを見計らってから、レアラに話したように同じことを出来る限り話す。

 途中に何か言いたそうにしている人間たちをスピラが黙らせていたが静かに聞いてくれて問題はない程度に話せたと思う。


「レアラには相談中だけど回廊の付箋を僕は僕が死んだあとにも殺せるようにしたい」


 そこで話しを区切ると思うところがあるのかレアラとスピラ以外が話したそうにしていると、まずテトが話し始める。


「私が動くことではだめなのか?」

「駄目ですよ?竜を総動員しても他国にまでストックを隠している時点でテトでは間に合いませんし戦争が起こり結局動かせる竜が減って探すに至らないですよ」


 古木の竜も協力してくれるなら少しは期待できるかもしれないが夜の調子を見るとあれは回廊の付箋に味方してそうだから難しいだろう。

 もしくは戦争になったらそれこそ古木の竜も戦いに混ざるのかもしれないがレアラの言う通り戦力が減っていくだろう。


 次はヘレスが発言するということでわざわざ立ち上がり発言し始める。


「ナナシちゃんもダルガンちゃんも思うところはあるだろうけど、あたし達の目的は休戦が成立した時点で終わってるのよねー…フィンちゃんはそれを分かったうえで話してるのかなー?」

「分かったうえで話してるのもあるけど、僕はヘレス達が知ってるフィンじゃない。そして人間も利用されてるからこそ関係者と思って話してるよ」

「だとしたらフィンちゃんが言ってるのは何十年何百年先のことよねー?あたしも未来で子供や孫が争いに巻き込まれると思えば嫌気が差すけどあまりにも不確定要素が多いと思うんだけど」

「僕は他者に命令を下せることができる」

「…脅してるのかなー?」


 脅しているように見えたらしい。まぁこのタイミングで言えばそう聞こえて当然なのかもしれない。


「今、僕が命令していないのをまず信じてほしいことと。回廊の付箋よりも先にヘレス達もどうにかしたい存在がいるはずだよ」

「信じるかは置いておいて…それってリビリアのことでしょー?」

「そうだねリビリアもそうだけど、ヘレス達からしたら僕の存在も邪魔なはずだよ」

「すごいよねー…最初に起こした問題もフィンちゃんってみんな薄々は茶会で気づいていながらも探して見つけたのが偽物だしねー…」


 作られたものはどうしようもないのでその話しをされても何も言い返すことはできないんだけど。

 ただそんな偽物の僕が最初のフィンと同じように命令を下せることそのものが問題だろう。


「リビリアに僕を作ることをやめてもらわないといけない、そこは共通点だと思うけど」

「そうしたら回廊の付箋が好き勝手するんでしょー?結局フィンちゃんを作ってもらわないと太刀打ちできるものなのー?」


 なるほど。僕がこれからも生まれ続けることを危惧しているのか。


「レアラ?僕抜きで回廊の付箋を排除することはできる?」

「できますよ?と言っても時間は必要ですね?もしくはリビリアが協力してくれれば時間は短縮されますよ?狂っても魔法においてリビリアの右に出るものはいません。探索系の魔法も使ってくれるはずです」

「ということで僕を作らなくてもいいし、リビリアをどうにかした後は僕と僕のストックを廃棄してもらって構わないよ」


 レアラとテトの視線が痛いが、人間の国とこれからも良好な関係を築いておかないといけない。

 それに一度は死んだ存在が生き返るなんてことがあれば第二の回廊の付箋が生まれてもおかしくはない。


「別に今のフィンちゃんをどうにかしようとはあたしは思ってないよ…ただ平和な関係を続ければいいと思ってるだけよ」

「だからこそレアラかテトに魔王になってもらえたらこれからも平和であり続けようとするはずだよ」

「人間の方から宣戦布告してきたらどうするのよ?」

「被害は最小限にしてくれるとは思うけど…」

「つまりフィンちゃんがいれば戦争そのものを止めることだってできるんでしょ?やっぱりいてもらわないと困るのよね」

「今の僕が平和を望んでも次の僕がそうとは限らないからリビリアを説得できても40年の平和しか望めないよ」


 そもそも僕の存在自体、支持がないから魔族が素直に言うことを聞いてくれるとは限らない。

 お互いに平和を保つなら一番レアラが魔王に収まって統治していくのがいいのだろう。


「フィンちゃんはそれでいいの?生きたいとか思わないの?自分の人生全部使ってひたすら回廊の付箋を追うだけの生活するつもりなの?」

「僕に出来ることは今までフィンがやってきたことを続けることなんだと思う。それが間違えた選択肢だったとしても最初のフィンは少なくともそうやってきたし茶会でリビリアに歯向かったということは今の現状を望んでいなかった…と、思う」

「わかんないなー…前のフィンちゃんも分からないときはあったけど今のフィンちゃんはもっと分からないなー…」


 話したいことが終わったのか席に座ったので、他に喋りたい人がいないか見渡すが全員の視線がアキに集まっている。


 僕もアキに関してはどう接したものか分からないからどうすればいいか悩むところだが勇者の力であれば休戦をもっと平和的な関係を築けると思う。


「俺は、フィンが好きだ」


 凄い真剣な空気の中、申し訳ないが何を言いたいのか僕には分からない。


「フィンが偽物とか言うのを聞いてもそれは変わらないつもりだし。俺はフィンはフィンだと思う」

「それは僕が似てるだけだと思うよ」

「それでもフィンは本物のようになりたいと思って行動してる。それって他の人から薄情だと思われるかもしれないけど本物と何が違うんだ?」

「明確な違いは記憶だろうね。人間と過ごした記憶なんてありはしないし感覚が残っている気はしなくはないけどそれも希望論だよ」


 結局偽物はどこまで行っても偽物だ。本物が死んだから用意された本物に似た存在でしかない。


「たとえ偽物と分かっていても俺はフィンを好きなままで居続けている」

「そのセリフをあと何回言えるの?次の僕にも?そのまた次の僕にも言い続けるの?」

「曖昧でも感覚でも記憶を引き継いでるならそれは紛れもない本物で一人しかいないフィンのはずだろ?俺は何度でも同じように好きでいる」


 なんとも呆れるものだ。リビリアと似てるようで違う愛の在り方なのかもしれない。

 ただ決定的に欠けてるものがあるとすれば僕でしかない。


「次の僕が、リビリアの説得に失敗した僕が味方になる保証すらないんだよ」

「その時は俺が今度こそ守り切って見せる。生きてても死んでも俺が好きなことを覚えてもらえるようにする」


 心のどこかで愛がほしいと訴えてる僕がいるのはフィンの存在が原因なんだとは思う。

 ただリビリアから愛してるという言葉を受け入れたのも、アキが言ってることもきっとそうなのだろうと思えるのは僕がなんとなく覚えてると言う不自然な現象に他ならないのだろう。


 だからやはりその気持ちは本物に向いてほしいと僕は思う。リビリアもアキの愛も全部本物に向いてほしい。


「私から一ついいですか?」


 レアラがクスクスと笑いながら手を上げる。わざわざ手を上げなくてもいいとは思ったが。


「フィンは私を魔王にしたいんですよね?」

「できればそうしてほしいと思うけど」

「そしてアキはフィンに生きて愛し合いたいと言ってるのですよね?」

「そ、そうだな」

「でしたら人間の流儀に則って政略結婚しましょう?フィンは見た目は人間と変わらないので人間の国にいても問題はないですよ?そうですよねヘレス」


 話題を振られたことで反応に困りつつも頷くヘレスに満足そうに笑うレアラがこちらを見る。


「とはいえリビリアを止めることが全員の共通と言うフィンの言うことは正しいはずです。アキにはこれで納得してもらいますよ?しませんか?」

「え?いや俺は、納得というかむしろなんでそうなるのか」

「嫌ですか?先ほどまでずっと好きだと言ってました?言ってますよ?」

「もちろんだ!ただフィンの気持ちも大事というか…」

「フィンは魔王の命令を背きますか?」


 背くわけがない。というよりもレアラが素直に魔王になってくれるのならとても助かる。

 僕の処遇に関しては人間の国が受け入れるかは怪しいとは思うが。


「解決しましたね?それではフィンの話しは終わりですよ。フィンが結婚してくれれば人間とも良好な関係になりますし、亜人への交渉材料にもしますよ。本題に入りましょうか」


 あっさりと解決の流れに持っていくものだからそれでいいのかという疑問もあるが、本題。リビリアの話しとなればそっちの方が優先度が高いだろう。


「まず最初にフィン以外の言うことを聞くとは思えません。殺すとなれば勇者がいるので問題はないですがそれだとフィンの言ってた通り回廊の付箋に対する行動に時間がかかります」


 あくまで味方にするという方針は変えないままというのを伝えつつどうすればいいのか?ということだろう。


「フィンが以前話したことを推測するに人間か私達を殺したくないと告げたことでリビリアは更に狂ってしまったのだとおもいます。そしてリビリアの恐れていることの一つとして私達が陛下の血統魔術である誰かの体に乗っとるなんて可能性から逆賊と罵っている…というのは仮説ですよ」


 そのことも恐らくは回廊の付箋がリビリアに進言したことだろう。

 そうでなければ陛下の存在というのがリビリアの目の前でフィンを乗っ取ろうとしたことになる。そんなことをせずにさっさと乗っ取ればよかったのだからリビリアはそのことを知って注意してたことになる。


「はっきり言えばそもそも術式が書庫にもありませんから陛下の魔法を再現できるのは私たちに無理だということを伝えることができれば多少は緩和されるかもという希望はあります。しかしそういう可能性くらいリビリアなら分かって当たり前なんですよ」


 では何を伝えればリビリアを止めることが出来るのか?という話しだ。


「なので先にフィンのストックを破壊しましょう。一番困るのはリビリアが暴挙に出ることです。リビリアは相当追い詰められている現状です。フィブラしか味方にいない状況で一番頼れるものはフィンが血統魔術を使って誰にでも命令できるということです」


 肉塊という話しだが自分が偽物だからか、これから生まれるかもしれない命を殺すことになるというのはどうにも気乗りしないがレアラを眠らせることが出来た以上リビリアが諦めざるを得ない状況を作ると言うことか。


 ただ肉塊の場所は僕には分からない。


「フィンの血統魔術では恐らく霊長のように魔力で無理やり効かないようにしているか、リビリア自身がそれに対策をしていると思います。なのでフィンはフィブラに肉塊の場所を聞き出してください。無理だった場合はしらみつぶしに探すしかありませんが先にそれを済ましてから説得を開始します」

「では我は勇者たちと行動すればよいのだな?」

「そうですね。霊長には勇者たちと一緒に肉塊を探してもらいます。テトと私でフィンを守りながら時間を稼ぎます」


 そうなるとリビリアの居場所へ僕達で行くということになるが大丈夫なのだろうか?


「リビリアは森にある城みたいなところにいたけど今でもそこにいるかな?」

「います。竜で探せるところは大体探し終わってますし監視を掻い潜って移動するよりそこでフィンを作る方がリビリアにとって安全なはずですから」


 大体のことはレアラの言う通りで良いと思う。不安な点が無いと言えば嘘になるがそれでも間違いなく僕が考えるよりも的確な指示に思える。


 勇者たちの行動についてはレアラがどのように動くか説明をしつつ。テトと僕はリビリアに対してどのようにアプローチするかを話し始める。


「レアラがいるから大丈夫だとは思うがフィンは自分の命を一番に動け」

「それだとテトとレアラは大丈夫なの?」

「私に関しては自分の命を守るくらいなら問題はない、レアラに関してはフィンを守るくらいは余裕のはずだ。気にするな」


 リビリアと徹底抗戦をするということを前提にしているのは不安要素しか残らないがそれでも今はリビリアにフィンのストックを用意されていることの方が重要なのだろうから仕方ないだろう。


「勇者たちの方は大丈夫なのかな?」

「霊長がいる限り問題はない。それこそ私やレアラよりも安全だろう…霊長にはストックを見つけてもらうことの方が主な動きになってもらうからな」


 言いたいことはわかるが、やはりどうにも不安が拭えない。

 レアラの作戦はとても良いと思う。僕が下手に考えるよりも安心感があるというのもあるがそれ以上にリビリアの方が今まで上手くやっていたというのなら僕達がこう考えることくらい計算しているのではないか?


 テトと話しているとレアラの話しが終わったのかこちらの会話に混ざり始める。


「フィンはフィブラを呼ぶことはできますか?」

「一応できないことはないと思うけど、それで僕が失敗する可能性とかはないかな?フィブラから直接リビリアに連絡がいくとか」

「そのことも織り込み済みですよ。とはいえそうなった場合はもう直接対決して一時的にリビリアに動けなくなってもらうようにするしかありませんが」


 フィブラに直接聞いても無駄だった場合は思い切って森の隠れ城に乗り込み話し合いの場を設けるということだ。


 思い通りにいかなかったときの予防線を張るのはいいが、そこまでやってもなお実力行使でしか解決できないというもどかしさが気にかかって仕方ない。


 リビリアも助けて、協力してどうにかできれば良いのだが。


「フィン…これだけは言っておきますよ。もしこの作戦で何か失敗しても私が…私達が貴方を必ず助けてみせますよ」

「そこまで言われると恐れ多いと言うか、むしろできれば僕よりも次代の魔王であるレアラが一番大事なんだけどね」

「嬉しいことを言ってくれますね…魔王に興味はありませんが、フィンが大事と言ってくれることがとても私は嬉しいですよ?本当ですよ」


 寂しそうに笑っているのはリビリアとの戦いに決着をつけるという気持ちも相まってか不安も混じってるのかもしれない。


 僕にできることをするだけ。ただそれだけのことだが、まずはフィブラを呼び込みリビリアの元へ行く。


 大切なものを何もかも守れる自信はない。それでも僕という存在が断罪の証としてリビリアとちゃんと話し合い協力して神様気分を味わっているやつへ目にものを見せてやりたい。


 それが僕の大切にしたいと思える人たちへの渡したいものだから


 だから僕は…僕の万魔で願いを叶えて見せる。誰にも見向きもされなかった僕が期待されてできることを最大限に使って。

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