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五十五話

 まだ頭がはっきりとはしてないがそれでもレアラを前にして油断するわけにもいかないし魔法障壁だけは張っておく。魔眼に関しては衣服がリビリアの作ったものではないから使えないが問題はないだろう。


「レアラはなんのためにここにいるの?」

「私と話したいんですか?今すぐにリビリアの所に行きたいのではないですか?そうですよね?」

「そもそもリビリアのことを聞きたいと言っておいて何も質問されてないんだけど…?」

「そうでした!リビリアの場所を聞きたいんでした!私は聞きたいんですよ?どこにいるんですか?」

「回廊の付箋から聞いたんじゃなかったっけ?」

「そうでした!彼が答えてくれた場所を探したんでした!でもいなかったんですよ?酷いと思いませんか?思いますよね!」


 それは酷い話だ。何がしたいんだって怒ってもいい。むしろレアラは本当のことを話してるのなら怒ったりしないんだろうか?

 僕の記憶にいるレアラも怒っていた記憶はないな。


「レアラ?」

「なんですか?私はここにいますよ?」

「僕のことが嫌いなの?」

「…。どうしてそうなるんですか…?」

「答えないってことは嫌いなんだね?」

「いいえ。いいえ!もちろんフィンの事は大好きですよ!ですがフィンではありませんよね?私も混じってますが今の貴方も大分混じってますよ?」


 それは僕の記憶では魔法なんて使えなかったのに魔法が使えることと関係してるのだろうか?

 スピラの話しと総合するなら僕の肉体改造でも行われたってところだろうけど、そんなことできるのかってことになる。


「僕はレアラのことが好きだよ。その右目を見ていると綺麗だなと常に思ってる」

「よりにもよってこの右目が綺麗ですか…?好きなところを褒められるのは好きですが嫌いなところを褒められると嬉しくないんですよ?知ってますか?」

「それこそ知ってる?自分にないものを持っている誰かを見て素直に綺麗だと思ってるだけなんだよ?」

「私が?フィンが羨むほどの何かを持っていると言ってるんですか?」

「持ってるよ。僕よりよっぽど頭もいいしね。単純に僕が努力不足と言えばそれまでだけど万魔の知識と言うほど知力に長けていて使わないだけで色んな魔術使えるよね?」


 お喋りなところは苦手だとは思うが、それでも勝手に喋らせているだけで何もかもを知ろうとするそれが恐ろしいほどに羨ましいくらいだ。


 ただ僕の知ってるレアラは嘘なんて基本的に吐かないと思っていたがどういうことだろうか?

 本当に隔離塔で僕は幽閉でもされたのか?


「二人で話すとそんな風に話してくれるんですね?それとも騙そうとしてますか?」

「騙す必要があればそうしたかもしれないね…本当のことだよ」


 今こうして見ればたとえ僕のことを試すような姿勢すら別に嫌なわけではない。頭痛が起きたときは一瞬レアラの可能性も考えたがレアラなら実際こんな風に話し合いという場にしてくれるだろう。


 やはり回廊の付箋か…。


「駄目ですね私は。もう一度聞きますが本当にフィンなんですか?以前見たときより別の物が混じってますよ?」

「僕は僕だよ。逆に聞きたいんだけど何が混じってるの?」

「そこまでは分かりませんでした。ただ貴方のことは他の者から聞きましたが記憶が曖昧なんですよね?何をされたんですか?」

「本当に分からないんだけどね。しかも僕が眠ってるのが一年くらい経ってるっていうのもアキから聞いて驚いたくらいだよ」

「何をされたのかも分からず、気づけばレディオンの近くで何をするでもなく復興作業ですか…?」


 リビリアのことを抜きにすれば僕の生きているのは隔離塔の生活くらいだ。これがリビリアに偽りだと言われたのを考えたら空っぽになっているが。


 レアラは楽しそうに笑っている。よく考えたらレアラのことを僕はあまり知らないと気づいて折角なら何か聞くのも悪くないかもしれない。


「レアラは夢ってある?」

「夢?眠るときに見るものですか?」

「いや、僕も詳しくは知らないけど叶えたい出来事みたいなものかな」

「なるほど夢ですか!ありますよ?ただもう叶わない夢ですが?だってフィンが殺してしまいました!だから私の夢は終わりました?」


 兄弟か。ここまで話しを合わせてきて僕を騙すってこともないだろうしリビリアの言ってることも嘘だとも思えないなら僕は案外偽物なのかもと疑問を抱くが…。

 スピラは僕を本物みたいな言い方もしていたのだから自分を疑ってはいけないだろう。仮に死んだ者がいたとしてもそれはリビリアが言ったように同名の似た存在なのだろう。


 ただそれすら認めるとリビリアが同名の似た存在を殺して僕の所に来たということだけど…。


「おかしいですね?今の貴方なら私を殺せると思いますよ?」

「そうかもしれないね」

「じゃあ何故そうしないんですか?殺して他の者を殺しに行った方が早くないですか?」

「むしろ聞くけどそうしてほしいの?」

「いいえ?その為にわざわざここで貴方が起きるのを一人で待っていました」


 むしろこれでいいのかもしれない。スピラの約束もあるし行動をすぐに起こせないとしても、レアラが自分語りを始めたら僕はきっとレアラを殺したくないと思ってしまうかもしれないし。


 僕は頭を枕に落としてレアラが笑顔でこちらを見てくるので右目をじっと見つめる。


 喋っても駄目。行動も起こせない。ただ見るだけだ。


「えっと…フィン?」


 テト達は本当に行ったのだろうか?仮に行くとしてもスピラが最大限引き留めてくれたとは思うからある意味レアラの言う通り殺してから追いかける方がいいのかもしれない。


「どうしたんですか?私の顔に何かついてますか?おかしいですよ?」


 でもそうして実は滞在してたとなったらスピラと対峙するのか。勝てるのだろうか?僕が使える魔法を考えるがとてもではないが勝てる気がしない。


「フィン聞いてますか?無視してるんですか?怒りましたか…?」


 スピラに対して万魔が使えないと僕は戦力外だ。


「フィン…?」


 不安そうに笑っているレアラがじっと見つめている瞳を揺らしてずっと話しかけてくる。


「僕が偽物なら殺した方がいい」

「…何を言ってるんですか?」

「分からないよ僕にも。ただレアラは疑っているんでしょ?それなら殺した方がいい、むしろなんでそうしないのかな?」


 数日関わったリビリアの悲しい顔は今でも忘れられないし、僕はあんな顔をしたリビリアを放置したくない。


 そして数日関わった人間とテト達、あんな純粋な笑顔をしたテトを僕は殺したくない。


 今日出会った初対面のレアラが本当に僕から本気でリビリアの場所を知りたいならこんな寝室で悠長に喋る必要なんかどこにもない。


「さっきからおかしいですよ?自分を殺した方がいいなんてあまりにもおかしい――」

「じゃあ拷問かな。少しずつ体を削って出来損ないの治癒魔法をかけていけば長く苦しめれるんじゃないかな」

「フィンはそうしてほしいんですか?それとも何をされてもリビリアのことを話さないという意味ですか?」

「いっそやるなら僕を磔にして動けないようにしたうえでリビリアに出てきてもらうように呼び掛けるとかかな。それなら可能性はあるかもしれないね。死なない程度に両手両足を落と――」

「もういいです!そんなことするはずがありません…おかしいんですか?おかしくなったんですか?」


 おかしいと思うならおかしいのだろう。僕は自分がどうしたいのか分からないしレアラの言葉を聞けば本当にそうなのかなとすら思える。


 もしくはこれがリビリアの懸念してた事だったのかと思えば、ある意味僕は術中にはまったと言えるだろう。それくらいにはレアラの事を殺したくないと思えてしまう。


 だってそうだろう。言葉ではどんなに責め立てようと、嘘を吐いていようと苦しそうに楽しい笑い声で苦しそうに金色の瞳を揺らしているこんな子に一体どうして殺そうなんて思えるだろうか。


 スピラの言う何をしても無駄という気持ちが少しだが分かった気がする。仮に回廊の付箋が均衡を保とうとして僕が行動できないようにしつつお互いの戦力をちょうどいいようにしているのだとしても。


 僕はただ眺めるだけだったらどれだけ楽だったろうかと思う。


「聞いたことはないけど、鈴みたいに綺麗な声というのはレアラの声のことなのかもしれないね」


 疲れた。もし僕がレアラを殺せるとしたらそれこそフィンだけなんだろう。

 ギュスターヴを殺し、ゴドーを殺し、突き進んできた本物のフィンがそれをできるのだろう。


「レアラの夢は他にないの?」


 気づけば笑い声が消えて涙を零す魔族がそこにいる。それは姉であり、リビリアと重なるかのように悲しそうに涙を零しながら笑みだけは崩さない。


「お願いですよ。これ以上なにも奪わないでほしいんですよ。もう何も失くしたくないんですよ。そんなことすら私達は許されない存在なんですか」

「きっとそれを答えれたのも本物のフィンだけなんだろうね。僕には分からないよ、隔離塔で過ごした記憶が大半の何も知らない僕には」


 お喋りなレアラが何も言わずに僕を抱きしめ泣きじゃくる。それを頭を撫でることしかできない僕はなんなのだろうか。


 フィンならどう行動してたのか。それを予想して行動するなら僕はこのまま殺して回ったほうがいいのかもしれない。


 凄いよフィンは。英雄万魔の矛ギュスターヴを殺し、英雄万魔の壁ゴドーを殺し、それでも諦めることなくリビリアにすら挑もうとしてたのでしょ。


 どうやったらそんなことができるのか僕には分からないよ。きっとギュスターヴも優しい性格だったのだろう。口下手だったかもしれない。喋るのが得意ではなかったかもしれない。


 ゴドーはどうだった?僕には鬼の形相をした記憶が曖昧にあるだけなんだ。それでもテトがあれだけ気を許していたんだ。スピラが悲しそうに毎回語るんだ。決心するには何が必要だった?たくさんの兵士に慕われる巨躯をした兄を殺めるのに。


 勇者も殺すつもりだった?ヘレスがあれだけ油断をしながらフィンは兄弟を殺していったのだろう?

 ダルガンは無邪気でゴドーも案外そんな感じなのかもしれない。

 ナナシはあまり関わってないけどそれでも一年間探し回ってくれるほど何か考えてくれていたのだろう。


 家族の愛なんて僕はよく分からないよ。リビリアの悲しい顔を見たくないなんて言っておきながら酷い話しだね。

 アキの愛も僕には分からないよ。いつの間にか愛されていたなんて状況が分からないのにどうやって愛するフリをすればいいのか僕には分かるわけがない。


「レアラ、僕を殺したらまた別の僕が生き返るの?」

「分かりません…分かりませんが…恐らく生き返ります。数は限りあるはずですがリビリアがやっているのは亡き陛下の肉塊を使ってる行為のはずです。それが幾つあったのかは私にも分かりません」


 肉塊。それがなんなのかをレアラは話す。かつて茶会という停戦で行った出来事をレアラは語る。

 それをちゃんと聞くが僕の記憶にそんなものはない。ただ何故レアラやテトの記憶があったのかと思えばフィンが関わってきたからなのだろう。どうやってそれを僕として作ったのかは分からないが万魔の成り立ちを聞いても何も感情が動かない。


 僕が何故こんなにもレアラの言うことを聞けば聞くほど殺したくなくなってくるのはフィンが知ってるのだろう…。


 そして聞いたからこそ、他人だからこそ思う。堕落の霊長があれだけ悩んでいたのに介入してきたこと。古木の竜がテトに慕われ家族だと言ってたこと。四天王はそれぞれ独立した考えを持っていて回廊の付箋がやはり何か知ってるのだろう。


「レアラ?やっぱり回廊の付箋は殺そう」

「何を言ってるんですか…それに私が勇者の事を聞いたのは霊長からですよ?」

「そのスピラがそもそも回廊の付箋にそうなるように仕組まれていたとしか僕は思えないんだ。他人事のように言うしか僕にはできないけどテトですらその陛下を慰めるために魔王と呼び続けていた。古木の竜が知っていたならテトに話してテトはそれを陛下に告げただろう」


 僕はレアラをゆっくり離して涙をどうにかする方法なんて分からないから服の袖で拭ってあげることしかできない。


「回廊の付箋の居場所を教えてほしい」

「ほ、本当に殺す気ですか?駄目ですよ?これ以上身内で争うなど!」

「『回廊の付箋はどこにいる?』」

「王城の書庫にいるはずです。フィン…?」


 僕はレアラを抱き寄せてベッドでゆっくり眠れるように優しく言葉を紡ぐ。


「『一日眠っていて』」


 布団を掛けて、僕はそのまま部屋を出て行こうかと思ったがリビリアが作ってくれたリュックが目に入り、念のため服を着替えておきたく中に入っていた服を着る。


 これで疑似魔眼が使える。あとは書庫の場所だが、ここが魔王城なら魔族がいるだろう。数人喋らせるか案内させれば十分迷わずに行くことはできるだろう。


 部屋を出れば隔離塔なんていうのは嘘で十分なほど廊下が長引いて続いている。身近な所にいればいいのだけどと思いながら僕が部屋から出たことで膨らんだり縮んだりする魔力がこちらに近づいてくる。


「フィ、レアラはどうした?」

「一日眠ってもらっているよ。スピラから来るなんてそんなに信用なかったのかな」

「信用はしている。約束が守られてる間に限った話しだがな?」

「申し訳ないけど僕は偽物みたいだ。約束はもう守れない」

「…ほ、本気なのか?レアラは!?」

「嘘の看破で視てるはずだよ。一日眠って次の日には元気に起き上がるだろうね」


 そんなことよりもここで都合良く出てくるのが見知ったスピラで四天王だという方に僕は物語性を感じてしまう。別に古木の竜まで殺すつもりはないけども。


「回廊の付箋はどこにいる?書庫の場所は?」

「ん?あやつなら…場所は城の離れにあるのが書庫だが…何をする気だ?」

「とりあえず殺すよ。生かしておいて良いことが何一つないからね」

「それは前にも言ったが、無駄に終わる」

「だとしたらそれでもいいよ。何かされる方が迷惑だ」


 特に止めるわけでもないらしくスピラは歩き始める。


「案内してくれるの?」

「それくらいはする…だから本気で偽物などと言うでない」


 レアラの言う通り僕はフィンではないのだろう。じゃあ一体僕は何だと言うのか。

 肉塊としてどうやってか生きて、リビリアによって人型に模されてフィンの記憶を部分的に持った何か。


 ただそれでもリビリアが愛を込めて作ってくれたのだから受け入れよう。

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