五十四話
「フィン?」
寝ぼけた声でこちらを見てくるので抱きしめておく。
実際にこの勇者にテトとレアラを差し向けて勝てるのかは分からない。ただそれでも挑まねばならない。
それとは別に懐かしくてたまらないこの感覚はなんだろうか。リビリアの時に思わず頭を撫でてしまっていたときよりもこのベッドで眠ってる勇者を撫でている感覚が落ち着くように思える。
「えっと、フィンさんや…これはなんだろう?」
「なんとなく?」
「そっか。嬉しいからいいんだけどさ」
起き上がって二人で部屋を出れば居間ではそわそわしているテトがいて、なんだろうと思ってみているとアキの様子を見て、そのまま怒った様子でアキを外に連れて行ってしまった。
「貴様!まさか寝ていたのか!」
「――」
「その寝るではない!」
テトの声だけ大きいので聞こえるが寝ていたことを怒ってるのか。人間は寝る生き物だと思うが。魔族だって寝るし。
外のやりとりが何事もないかのようにヘレスが居間に来てからこちらをぼんやりと見てる。
「じょうかー…」
一瞬何のことか分からなかったけど浄化してほしいとのことかと気づいてから浄化をかけると気持ちよさそうにする。
「なんかフィンちゃんの浄化変わったー?」
「そうかな…?」
「前より綺麗になる感じー…んー、時間経ってるからそう感じるだけかなー」
浄化の魔法を僕の知ってる術式でやるのと今魔法でやってるのであれば細かいところまで操作の行き届く今の方が確かに綺麗にはなるだろう。
そんな違いが分かるほど浄化を受けていたのか。
ダルガンが来たことであとはナナシだけかと思っていたらテトとアキが家の中に戻ってきてスピラの所に行くことを伝え始める。
「霊長の所にいくぞ」
「まだ集まってないんじゃないの?」
「ん?もう全員いるぞ」
改めて後ろを見てナナシがいるか確認したらいつの間にかダルガンの後ろにいた。隠れていたのか?
「本当だ…」
「霊長の所にいくぞ」
同じ言葉をテトが言うのでそのままアキに近寄り腕を掴んでおく。
スピラが実際に見て僕が関わってないと思われるのも不審に思われるだろうしとにかく仲良くしてるところは見せておかないと。
「フィン!私の腕もある!」
「あ、今は大丈夫かな」
「そうか…」
「俺のことはいいからテトのところに行ってもいいんだよ?」
「ここがいいかな」
「そっか…」
二人して何故かテトの方に行かせたがるのは何か意味があるのか。スピラからはテトと僕は仲が良いという情報は聞いてないが案外仲が良かったのか?
いや、それなら昨日竜の話しを楽しそうにしてた時点で少しでもテトなら疑問に思うだろう。
そうしなかったということは関わってなかったからだと思うんだけど。
何事もなく歩いてると人間の姿を見ても魔族が戸惑うこともなく暮らしているので本当に停戦とかではなく休戦をしているんだなと実感する。
もしくは勇者たちが特別なのかもしれないが。
東砦まで進んでいくとスピラの声が聞こえてくる。
「貴様らぁ!瓦礫ばっか運んで弛んでいるんじゃねぇのかぁ!あぁ!?」
「「「「申し訳ありません!」」」」
本当に仲が良いようでスピラは生き生きとしている。
「なぁフィン?スピラさんはいつもああなのか?」
「いつもかは分からないけど仲良さそうだよね」
「そうか?まぁあんな元気なスピラさんは初めて見たな」
僕もよくもまぁ大声で張り切ってるなぁとは思うがスピラがあんな風にやっても兵が言うことを素直に聞いてるから慣れているのだろう。
「スピラ!うるさいぞ!」
「貴様の方がうるさいわ!竜のついででもいいからこいつらの面倒を見んか!?」
「断る!」
なんて潔い断り方だろうかと感心していると僕とアキを見て微妙な顔でこちらを見てくる。
「あぁ…その…我はそういう意味で言ったわけじゃないが…まぁよいか」
小さく呟きながら僕とアキを見た後何事もなかったように頭を振りかぶってテトと話し始める。
「で、どうした?発つのか?」
「そのことも含めて霊長の意見を聞きに来た!レアラからは連絡がないので戻るべきと思うが」
「んー…我的にはあまり気が進まんが…」
「なにかあるのか?霊長が嫌がるということはリビリアか?」
「いや、そういうわけではないが…ちょっとフィよこっちへ来い」
そう言って話し途中だったろうに呼ばれたので付いていくと呆れたような目と声で僕を見てくる。
「あのな?いや、我が悪い言い方をしたのかもしれんからいいか…。魔王城へ言ったら貴様はどう動くつもりだ?」
「スピラとの約束もあるからしばらくは大人しくするよ」
「そうか…ならよいが…いつ動く?」
「テトにもよるかな。リビリアを探しに行くと言ってるからそれは困る」
「そうよな。テトにはしばらく滞在するように言っておく」
話しは終わったのかスピラは戻っていき魔王城に向かうという話しになっている。
僕もアキの所に戻り腕をつかんでおくと、顔を見れば少し気恥ずかしそうにしているのが見える。
別にスピラに見せたからある意味もう掴んでおく必要はないのだが離れた方がいいだろうか?
テトの方に腕をつかんで来いみたいなことも言ってたし案外邪魔だったりするのかもしれない。
出立するということでスピラは最後に兵たちに喝を入れてみんなは少し名残惜しそうにしている。
こんな風に自由でいられたらスピラは満足なのだろうか。僕や兄弟のあれこれが、四天王がどうだのとかなければ十分楽しそうに見えるのにどうしてそうしないのか。
それほどまでにスピラを思わせる何かがあるのだろう。ただそれはあまりにも息苦しいだけではないか。四天王の件よりも僕を人間と関わらせようとする。
人のことが言えたわけではないがスピラは長生きしてるのだからその分生き方を知ってるだろうに。
テトは竜を呼んでくると言って壁上に登っていく。
疑似魔眼で視ているつもりだけど魔法を使ってるわけではないので身体能力だけであんなことができるのか、それとも爪が伸びているのか壁を楽々と登る様は凄いものだ。
僕も重力魔法を使えば似たようなことができるだろうか?重力反転なんてすれば複雑すぎて魔力暴走とは違って体が耐えきれるか不安なんでやらないがそれでも少しは移動手段の自由は欲しい。
しばらくすれば竜が飛んできて鍛錬場に降り立つ。
あとは全員で乗ってからテトが移動を指示するのだがその際にテトが僕に近寄るように言ってくるのでテトの後ろでしがみつくと楽しそうに空を竜は飛び始める。
「フィンよ、私はな一つ夢が叶ったぞ!」
「夢?」
「ああ!私は妹を乗せてこんな風に一緒に飛びたかった。だからありがとう」
僕を今更ながら妹と思っているのは冗談なのか分からないが、夢とまで語るそれに偽りがないように楽しそうに飛ぶ。
「空は自由だ。口調が悪いだの気にしなくていい」
口調がきついの気にしていたんだな。
「こうして空にいれば地上なんてちっぽけなものだ。もちろん私も含まれるがな。それでもそれを気づかせてくれるから私は竜と共に生きることがとても楽しい」
「テトは本当に竜が好きなんだね」
「私はフィンのことも好きだ。レアラもリビリアも好きだ。ただ魔王のようになっていくリビリアは見ているとどうすればいいのかわからん…」
「魔王のように?」
「自由に見えて不自由を強いてきた。私はリビリアに押し付けすぎてしまったのだと気づいたときには何もかもが遅かった。だから私にできることはやりたい、レアラも本心ではそう思っているはずだ」
やっぱりテトは敵ではないのだろう。むしろ味方なのだと思う。
僕と関わって楽しそうにするテトは本心から楽しそうにする。それでも僕が思い出すのは悲しそうなリビリアの顔ばかりで、そしてそれをテトも知ってるからこそリビリアを好きと言ってるのだと思う。
何を押し付けたのかは分からない。テトは…殺したいと思えない。
ただ僕は間違えたはずだ。何を?とは自分でも疑問に思う。
間違えてしまったことだけは覚えている。リビリアを悲しませてしまっているのは僕なのではないかとも思うし、テトもこうやって話してくれるのは僕のことを想ってくれているからなのだろうと思う。
「テトは他にも夢があるの?」
「もちろんだ!爺の言葉もあるしな。多くの家族に囲まれて笑い合いたい。フィンも含まれているぞ?だから私は自由でいられる」
「そうなんだ」
あまりにも楽しそうで眩しくて羨ましい存在だ。真紅の髪はまるで太陽を示しているんじゃないかと勘違いしてしまいそうになるほどに美しい。
「フィンがいつか行きたいところまで私が連れて行ってやろう。爺も喜ぶぞ。まぁ…アキも一緒の方がいいならあいつも乗せて行ってやる」
「ありがとうね…そうだね。僕もいつか自由になったときにお願いしようかな」
「任せろ!」
殺したくないと思う気持ちと殺さないといけない気持ちが混ざってぐちゃぐちゃになりそうな感情が、思考があまりにもテトの姿とは相反して黒く染まってる。
その気持ちを誤魔化したくて後ろを見てみんなの様子を伺えば空の旅に慣れているのか楽しそうにしている。
どこを見ればこの心は晴れるのかとスピラを見れば優しい笑みでこちらを見ていた。
嘘の看破で視ていたのだろう。それこそスピラからしたらテトは正直で気持ちの良い存在だろう。
何故ゴドーのところにいたのかとか思うがしかしスピラがテトと一緒にいたら古木の竜も加えて厄介にな存在でしかなかったと考えるとフィブラと回廊の付箋には感謝しなければならないのだろう。
フィブラが関わってなかったとしても回廊の付箋でスピラはかなり無気力になっていたはずだ。そもそも堕落の霊長なんて呼び方がそうなのかもしれない。
考えても僕の心は晴れないまま魔王城と城下町が見えてくる。
その瞬間に頭が。頭痛がして思わず頭を押さえる。
「な!?フィン?誰でもいい!フィンを支えろ!」
テトの大きな声が余計に頭痛に響いてくる。なんだ?
周りで僕を支える感触があるも、声をかけられれば頭痛が酷く体も怠く感じる。
誰かが僕に何かしたのか魔法障壁が壊れる音と一緒に僕は意識を失う。
目を覚ませば、こちらを眺めてクスクスと楽しそうに笑う右目が金色で、左目の紫色と違って吸い込まれそうな感覚になる存在が見ている。
「目を覚ましました?ここに来る途中で倒れたと聞きましたよ?」
「えっと…レアラ?」
「おかしいですね?私を知ってるんですか?初対面ですよ?初対面ですか?初対面ですよね!」
やたら喋ってくるのは記憶の通りだ。ただ初対面と主張してくるのはそうなのか?と思ってしまうからやめてほしい。
「そんなことないはずだよ。どんな出会いだったか記憶は曖昧だけど僕とレアラは何かを話したことがあるはずだ」
「やっぱりおかしいですよ?でもいいですよ!そういうことならそうしておきます。ただ私とフィンは初対面ですよ」
周りを見ればベッドで寝かされていて窓からは城の中なのだろうか、城下町が見えるほどに高い位置にある部屋らしい。
「他のみんなは?」
「リビリアを探しに行きました?」
その言葉が本当だったら僕は今すぐにこいつを殺して後を追わないといけなくなる。ただこちらを見て様子を見てる姿があまりにも試そうとしてるように感じる。
「ここはどこ?」
「新しい隔離塔ですよ?」
「正直に答える気は?」
「ありますよ?貴方がリビリアのことを話してくれたらですが?」
ここでやりとりをしていてもいいし、時間が経つまで待ってもいいが。本当に隔離塔だったとしたらテト達は僕を置いて行ったということになるが…。
そうではないのなら待っていれば誰かが迎えに来ると思う。
「レアラ、回廊の付箋はどこにいる?」
「…。それはまたどうしてですか?」
「殺す」
「物騒ですね?彼が何かしたんですか?ただ貴方に殺気が無いので殺す気はありませんね?なんのために回廊の付箋を口にしたんですか?」
「半分冗談だよ。半分は本気だけど、僕が眠ってる間に回廊の付箋が何かしたんじゃないかって疑っているだけだよ」
「恐ろしいですね!ですが安心してください。回廊の付箋はリビリアの所在地を喋ったりなんてしてませんよ!」
僕の頭痛が誰の手によるものか考えたが均衡を保つためというスピラの話しが本当だとしたら…まぁ回廊の付箋だよなと疲れながら思う。




