五十三話
「フィンちゃーん浄化ちょうだーい」
やたらと絡んでくる女神官がヘレスだと思いながら浄化をかけると気持ちよさそうにしている。
「久しぶりに全員が集まるとやはり嬉しく思うな!」
でかいほうの男がダルガンで無口なのがナナシというのは分かるのだが。これらに関してはスピラは特に何も言ってきてないので僕はアキにしがみつきながら様子を見る。
「なんというか昨日もそうだけどー…フィンちゃん変わったよねー」
やはり対応が違うのかと思うが、他に接し方が分からないのでなんと言ったものか。
「でもフィンはやっぱりフィンだと俺は思うよ」
「アキちゃんはそれでよくてもさー…まぁいいけどねー」
今までどんな会話をしていたのかは知らないがヘレスとダルガンとは良好な関係を築いていたのだろう。ナナシに至っては何も喋らないし表情も特に読み取ることができない。
あとテトが普通にこの空間にいることが凄く違和感だ。テトも喋ることはないがずっとこちらを見ている。
「テトはなんで僕を見るの?」
「見たらいけないのか!?」
「いや…いいんだけど…」
「じゃあ気にするな!いや…気にしなくていいんだよ?」
何故言い方を変えているのかは分からないが僕が話しかけたことで睨んでいた目つきが少し柔らかくなった気がする。
「えとフィン?俺から離れてもいいんだぞ?」
「だめなの?」
「駄目じゃないし一切問題ない」
「アキちゃん…すごい残念な人になって…」
「しかしべったりであるな?それほど恋しかったということであろうか!」
「フィンはそいつにくっつかなくても私の方に来てもいいぞ、いいんだぞ。アキ、少しフィンを寄こせ」
テトが僕の腕を引っ張ってきて魔法障壁がピキっとひび割れかけて凄い握力を感じて思わずアキの後ろに隠れるとテトは困った顔をしている。
さすがに驚いた。服に備わっていた魔法障壁があったから大丈夫だったけど僕は意識的に魔法障壁を張るように意識しておかないと一瞬で腕が千切れていたかもしれない。もしくはそれを狙っていたのだろうか。
「す、すまない…そんなに脆いとは思わなかった…」
人間たちは何が起こったのか理解してないがテトは僕の魔法障壁を壊しかけたことを分かったのだろう。僕の疑似魔眼で視るがテトは別に魔眼を使ってるわけでもないしどうやって僕の魔法障壁が壊れかけたことを分かったのだろうか。
それとも純粋に離れたから?それなら脆かったなんて言うだろうか?
「とりあえずテトは力加減気を付けてね。僕死ぬから」
「分かった。だがフィンは変じゃないか?それだけ魔力があるのに無駄にしているぞ」
実際ただ垂れ流してるだけで無駄にしているというのはその通りすぎる。
だが僕の記憶とは違って魔力を抑えようと思っても勝手に溢れているし、そもそも魔法障壁やらなにやらと無意識にやる癖が付いてない。念のため服に頼らずに魔法障壁を張るように魔法を行使すればテトも頷いている。
「どういうことか分からないけどフィン死にそうだったの?」
「それってテトちゃんが引っ張ったからよねー…」
他のみんなも状況が分かったのか少し呆れているような様子を見せる。
テトちゃんって言われるくらいには馴染んでいるのか勇者たちと。
アキの話しによれば約一年ほどの付き合いとは聞いていたがその程度で仲良くなれるとは凄いものだ。人間からしたら命が短いからある意味関係性を省略する文化でもあるのかもしれない。
「そういえばテトはいつこの要塞から飛び立つの?」
「ん?んー…そうか、私はリビリアを探してたのだった!しかしフィンが戻ってきたなら別にもういい気がするが?」
「じゃあどうするの?」
「探索は続けるが…一旦アキ以外の人間を国に戻した方がいいか?ヘレスはどうなんだ?」
テトも判断に困っているのか。というよりもテトはレアラの言う通りに動いてるだけなのか?もう少し自分の意思で動いてるのかと思ったけど。
「結局国に帰ってもあたし達することないしリビリアを探した方がいいんじゃないのー?ただまたフィンちゃん殺されても意味ないしフィンちゃんをレアラちゃんのところに返した方がいいと思うけど…」
「うーん…霊長にも聞きたいが…」
スピラは砦の兵士たちと仲良くしてるころだろう。やたら好かれていたし。
「レアラから通達が何もないということは帰還するべきか…」
「そのレアラから通達っていうのは?」
「竜を何体かレアラの所に置いてきている。何かあれば連絡するように言ってあるし、フィンを発見したこともすでに伝えたのだが何も返事がきていない」
ということは魔王城にほとんどの戦力が集まっているということか?
暴れているという話しをフィブラが言っていたがそれに関しては何をしていたのかはよく分からないな。
しかしいつどこで連絡したかによってレアラも返答して竜が場所に困っていたりとかはしないのだろうか。
まぁそれを言っても折角合流するのなら邪魔する必要はないのだが。案外普通に話しが進むものなんだなと呆気ない感じもする。
「霊長が問題なければさっさとレアラにフィンを預けてリビリアを私は捜索することになるだろうな」
他の人間もそれに異論はないようで問題なくそれぞれが雑談をし始める。
テトはずっと僕を見ているのだが、何か話した方がいいだろうか。
「テトは竜と話せるんだよね?」
「そうだが…フィンは竜に興味あるのか?」
「古木の竜について聞きたいなって思って」
「あいつか。爺ははっきり言えば親みたいなものだな…爺は難しいことをよく喋っている」
爺呼ばわりする程度に仲良いのだな。四天王はなんだかんだ孤立で動いてるのが多いと思っていたが古木の竜は話せる相手もいないのだろうしテトと仲良くなってもおかしくはないんだが。
さすがにスピラや回廊の付箋のことを聞くわけにもいかないしな。
「爺に興味があるなら会話してみたらどうだ?」
「僕じゃ話せないよ…」
「私が間を取り持つぞ?」
「そこまでは…いや、お願いしてもいい?」
「任せろ!とはいえ爺も魔王城にいるから帰ってからだな」
古木の竜で来たわけではないのか。だとしたら通常の竜だとは思うがこれもリビリア対策のためだろうか?
「竜に聞きたいならこっちに来い。私が知ってることを話してやる!」
「あー…うん」
アキから離れることに人間がどう思うかも気になったがテトの話しも聞きたいのでテトの近くに行くと優しい微笑みで頭を撫でてくる。魔法障壁があるから今度は大丈夫だと思っていたが今度は力加減をしているのかくすぐったいように撫でてくる。
「竜はな、色んな事を知っている。爺だけではなく昔を知ってる者や卵から産まれたときなんかは私達とそう変わりはしないんだ」
古参がいたことは知らなかったがそれ以外は隔離塔の資料で見たことがあるような知識が多く新鮮さは感じなかったが。テトが僕に対して楽しそうに話すのがとても新鮮に見える。
元々テトは殺したくはないと思っていたがそれ以上にこんな風に喋るんだなと意外に感じる。
「フィンも自分の竜を持ってみるのはどうだ?相棒がいると心強いぞ、話せなくても…なんとかなる!」
「そうなの?それなら相棒ほしいとは思うけど竜は僕のことをどう思ってるかとかあるんじゃないの?」
「多分フィンが思ってるほど気難しく考えなくていい。むしろ産卵期以外は穏やかな方だ」
それなら移動手段としても便利だろうし快適だろうとは思うが、フィブラの竜みたいにテトが敵対しても味方になってくれる竜となると難しいだろうな。
こうやってテトが味方してくれる間は相棒だろうが、テトを殺した時点で竜と敵対してるようなものだし。
「産まれた竜を育てるとかは?」
「それもいいとは思うが竜は飯を食うぞ」
「うん?うん」
「フィンではあの大食らいは大変だろうから世話が面倒だろう」
「そんなに食べるんだ。テトは子育てするの?」
「当然だ!強き者が弱き者を育てていくのは…あれだ!なんか育っていて楽しいと思えるものだ!」
正直意外な一面かもしれない。ただ話せるだけなんだと思っていたけどそんなにお互いに仲良くやれているなんて。
それといちいちリアクションがテトは大きい。手を大きく振り回しながら説明してくるので物が壊れないか動きの方に目がいって内容が逆に頭に入ってこない。
「フィンに竜を紹介するのが今から楽しみだ!レアラにも紹介したんだがどうせ城から出ることがないと断られたしな…妹が出来たら紹介すると決めていたんだ!」
「妹?その…弟は?」
「あぁ、弟でももちろん紹介するつもりだったとも。ただゴドーは雑に扱うし、ギュスターヴは世話をするような奴じゃなかったからな…あいつらにもフィンのように竜に興味を持ってほしかったな」
そんな顔をさせるつもりではなかったのだが寂しそうに語るテトは兄弟を大事にしていたのだろう。
寂しそうな顔もすぐにどこかへ行き楽しそうにまた竜の話しをしはじめていつの間にか近くに来てダルガンが会話に混ざっていた。
「吾輩にも紹介してほしいと言っているのだがな!」
「人間は駄目だと言ってるだろうが!食べ慣れてる奴が多いから…赤子から育てるにしても貴様の命が先に消える」
「フィンさんと一緒なら乗ってもいいのではないだろうか?」
「それは…そうだが…フィンにはフィンだけ乗ってほしい」
なにかこだわりがあるのか僕に紹介する竜は僕にだけ乗ってほしいような言い方をしてダルガンを邪険に扱うが、純粋に優しさから人間にとっては危険だと言ってるのだろう。
ただダルガンの様子も気になるし僕も一応聞いてみるか。
「僕だけ乗せたいっていうのは理由があるの?」
「ある。相棒だからだ。友を乗せることはあってもまず相棒になることから始めなければならん…ならない」
「相棒って絆を深めないといけないってこと?」
「そうだな…相棒が伝わってなかったか…。家族みたいなものだ!会話できれば一番いいのだがそれができないなら時間をかけて絆を深めて家族になる…と言えば分かるか?」
分かりやすい。少なくともスピラみたいに駄々こねて喋るのを妙に歯切れ悪く言われるよりテトが自分なりにシンプルな言い方をしようとしてくれる分、気を許してしまいそうになる。
理由は分からないが僕はテトをあまり殺したくないと思っているように本来は仲良くなれる気がする。ただ立場が違うというそれだけの理由だ。
「吾輩も魔族になりたいと思ったのはこれで何度目か…寿命さえあれば竜騎士も叶ったのだがな」
「なんだそれは?」
「竜に乗る騎士である!竜にも甲冑を着せてそれは格好いいものである」
「甲冑か…鱗でいい気がするが…まぁなんだ?人間的にはそれが英雄なのだな」
僕も竜騎士の物語は少し知ってるが甲冑なんか着せていたっけ?ダルガンの話しは別の物語なのかもしれないがテトの言う通り甲冑に意味があるとは思えない。
「それってワイバーンとかじゃないの?」
「あぁそういうことか。飛竜なら確かに鱗が頑丈ではないから意味はあるかもしれんな。ダルガン分かりにくいうえにワイバーンと一緒にするな!」
少し体を縮こませて萎縮してるダルガンを見ているとテトと仲が良いのだなと思う。
しかし飛竜は亜竜に分類されるから魔領じゃなくて亜人の国にいると思うんだが。ダルガンからしたらまぁどっちの国にいるかくらいの違いしかないのかもしれない。
長らくテトと話していたのかダルガン以外は部屋に戻り休んでいたようでいつの間にか三人しかいない。
しまったな。アキと離れてしまうのはあまり都合がよろしくないので部屋の場所を知らないのだが。
「アキの部屋って知ってる?」
「知らん」
「知っているが吾輩の隣がアキさんの部屋である」
「なんだ?フィンはあいつと一緒に寝るのか?」
テトが少し反応に困ったように聞いてくるので素直に頷くとやたらそわそわとし始める。
「そ、そうか。ダルガン!今日は耳を塞いで寝ろ!」
「何故であるか?」
「そういうものだ!こういう時もあるということを知れ!」
何かと勘違いしているのか。まぁ仲良くしてるのならそれでいいだろうと思いダルガンに場所を教えてもらってからドアを開けて中を見る。
そこには既に寝ているアキがいたので僕もベッドに入ってアキの頭を撫でながら今日のことを考えるが。
テトに関しては案外最初の殺気から人間たちとの交流でなにかしてくるかもと思っていたけどそうではなかった。むしろ話しやすかった。
それこそ魔法障壁を砕かれそうになったときは驚いたがその後も普通に魔力が勿体ないと助言までしてくるし面倒見がいいのだろう。
ところどころ分からないところは分からないと言えば言い方を変えてちゃんと伝わるように話してくれるのも助かる。
リビリアが嘘を吐かないことで信用を得るのだとしたらテトは言葉を交わしていくうちに言い方はきついように聞こえるが話し方を変えようとしてきたり優しさが滲み出ている。
それと比べて僕の知ってるレアラはどうだろうか?実際に話してみないと分からないがお喋りな記憶しかない。スピラはレアラのことをわりと信用していたと思うがそれも何故だろうか。
そもそも放任主義なスピラで情に厚いというスピラが一見矛盾していると思う。スピラが僕の提案よりも人間と接してほしいと言ってきたのはもしかしたら単純に僕を情で訴えかけようとしているのかもしれない。
かといって僕の手助けをすればいずれ死にゆく存在だ。
「…フィン…」
「どうしたの?」
呼ばれたから起きたのかと思ったけど寝言だったのか、返事はなく夢でも見てるのかもしれない。
僕も隔離塔にいたときは瘴気が晴れる夢を見たっけ…そういえば実際は瘴気が薄いのだな。




