五十二話
明確に邪魔な存在が目の前にいるというのは不快極まりない。そしてそれに対抗する手段が現状では僕が持ち合わせるものに無い。
「交換条件をするのはどうかな?」
「それは回廊の付箋に関して悩んでおった我を見てのことか」
「そうだよ。僕はスピラの言うことが正しければ無知であり記憶も失った何もない空っぽの存在だよ。だからこそ交換条件でお互い不干渉と干渉をする決まり事をしない?」
「試しに言うてみよ」
「僕はスピラの言う真実を追及していくし回廊の付箋やフィブラの思惑から外れることを約束する。その代わり僕が嘘を吐くことを見逃してほしい」
どう足掻いても僕にとって不利になる条件ではあるが、スピラを黙らせることが第一と考えるべきだ。
そもそもフィブラがどういう思惑であってもリビリアがこのままいけば勝利する。仮に僕がいないとしてもリビリアはそれ相応に準備はしているだろうし回廊の付箋が均衡を保つことを目的としてるなら僕が死ねばリビリアの味方をするはずだ。
「我が一番嫌いなことを見逃せと言ってるのなら無理だ」
「嘘も真実にしてしまえばいいんだよ。スピラが知ってることを話してくれれば僕は真実にできる」
「それこそ嘘の塊ではないか。貴様が我の知ってるフィを話せばその通りに振舞うであろう?そうすれば貴様がただの偽物でしかなくなる」
「確かにそうだね。でも少なくともスピラの言う僕とフィは同じ存在なんでしょ?同じことを繰り返せば同じ仕上がりになると思うんだ」
「貴様…本当に生物として成り立っておるのか…?過去が気にならんのか?死んだと言われて何故その時のことを真っ先に聞かぬ?」
はっきり言えばどうでもいい。だから多分どんな答えを持ってしても嘘の看破によって僕が嘘を吐いたとなるだろう。
だが今回において答えを言う必要性がそもそもない。
「スピラの目的がそもそも無いんだよ。何をしても無駄と思っていたからなのかは分からないけどその場の気分次第で動いている。だから明確な目的になると思うんだけど」
「我は別に見届けるだけで――」
「既に関与してるんじゃないの?ここまで関わっておいて今更見るだけなんてそれこそ回廊の付箋の思惑通りだよ」
「では貴様が魔族を繁栄させるという思惑から大きく背くというのか?」
「フィブラや回廊の付箋がそう動くなら僕はその考えを否定する動きを約束するよ」
何故スピラの動きを鈍らせてやる気を削いだのかは強いからの一点に限る。殺そうとしてそう簡単に殺せる相手じゃないし四天王統括であるフィブラでさえスピラに勝てないだろう。
それなら他の四天王もフィブラか、スピラほど強いにしてもそれもスピラを使えば対等に渡り合ってくれる。
「リビリアを殺すことになってもか?」
「その考えもあるかもしれないね。ただリビリアを殺すことにはならないから大丈夫だよ」
「何を根拠にそう言っておる?」
「それなら僕が眠っている間にリビリアを殺す段取りをしている。僕が起きるのをわざわざのんびり待っているなんて回廊の付箋の思惑にしては随分とのんびりしているからね」
「そう…か。良かろう…我の聞いたことだけで良いなら話してやる…嘘も見過ごそう。だが行動を起こす前に、真剣にあの勇者共と向き合ってみよ」
それは…フィブラ達をどうにかしなくてもいいということか?その程度なら別に構わない範囲だろう。
正直回廊の付箋とフィブラを往復してやり取りする方が時間がかかって面倒くさいくらいだ。
「それじゃあ約束するよ。勇者たちと真面目に付き合うから知ってることを教えてほしいな」
「…。我も嘘の中に投じるなどいよいよ腐りはてたと思うべきか…それでも貴様に賭けると決めたからな」
なんのことか分からないがとにかくスピラが協力するなら問題はないだろう。
スピラ目線で起こったおおまかなことを聞けば大体のことはなんと言えば良いのか困ることを告げられていく。
フィンが人間の国まで来てどうにかして勇者と出会い、そこから恐らく僕の万魔を使って人間を魔領まで追い込み勇者たちと共にテトと戦い敗北。その後魔領まで進軍してギュスターヴを殺し。
フィンが単騎でゴドーに挑み要塞レディオンが壊滅状態にしながらもゴドーを追い込んで勇者が遅れて登場してなんとか討伐。この際にスピラと知り合いゴドーをスピラの協力無しで倒したら味方になると約束。
そのあとは勇者と恋仲になり、リビリアとレアラの戦争へ向かいリビリアから真実を追及するもフィンは死んだ。
そしてレアラとスピラが調べた結果そもそもフィンの体は死んだ後に人型を保たずに腐っていくように死んでいったのだとか。
レアラ曰く、フィンを構成していたものは肉体ではなく魔力なのだとか。スピラも同じ見解に辿り着き僕の存在がいずれ出てくると想定する。
「魔力のくだりが分からないかな。それでどうして僕になるの?」
「我も詳しくはない。ただ肉体が本来生物にとって必要不可欠のものだ。それを貴様は体だけはしっかりと作られていたが原型を保たずに死んだ。最初はリビリアの魔法によるものかと思ったがレアラは貴様がまた作られると言っておったぞ」
その後は戦争中ということもあり、リビリアが用意した魔族たちにリビリアが敗退したことを告げて降伏勧告をして大隊はほぼ瓦解しつつも残ったリビリアを支持する者は殺して終戦。
かなりの数がいたがレアラがこの状況をよろしくないと思って残った部隊は亜人や人間に対して防備のために国境まで移動を命じて、テト率いる竜はリビリア捜索に回ったそうだ。
勇者たちに魔王は死んでいることを告げて今はそもそも人間に構っているときではないことを伝えて帰るかと思ったが…。
僕がまた作られるという話しを聞いて生き返ると思い捜索に協力したいと申し出てテトと共に行動し始めたらしい。
「それが勇者アキなの?」
「勇者というよりは恋人を探すただの人間よな。レアラも元のフィではないことを言ったが大丈夫だと言って盲目に探しておったよ」
流れは分かったがフィンが本当にそこまでするかと考えたとき、僕ならそうすると思う。
ただ勇者の恋仲のくだりだけいまいちわからなかった。
「スピラは愛ってなにか知ってる?」
「むずがゆいことを言ってくれるな…それこそ貴様は周りの連中曰くアキアキと慕っておったそうだぞ」
「僕が…?」
ということはすでに庭園で会ったときに僕へ違和感を抱いていたのかもしれない。そんなことをフィンがしていたということにも驚きだが僕にそれができるだろうか。
「と、とりあえずやってみるよ…アキとヘレスとナナシ、ダルガンだね?」
「そうだが…本当にやる気か?」
「レアラの所へ行くまでのことだしすぐだよ」
「出立日はテトに聞け」
長い話しだったため日も明ける頃合いになっている。
しかしフィンが…僕がそんなに勇者を慕うだなんて思えない。嘘じゃないだろうかと何度も疑うがスピラが嘘を吐いて有利になることが分からないから僕に似た存在というのもある意味で僕なのだろう。
リビリアは嘘を吐かない。だがスピラはどうだろうか?こんな作り話しを考えて僕に話すだろうか?可能性はあるがそれにしてもリビリアがフィンを殺した理由が僕を生き返らせられるというのであればリビリアは僕を殺してくるだろうか?
何とも言えないが…スピラは話し疲れたようだし。僕も砦の兵に挨拶をして要塞からいつでも離れる準備をした後は復興作業をもう手伝わなくてもいいということで。一人になれるところと考えたときに庭園にまた足を運ばせる。
ここも別に勇者アキが来る可能性を考えたら一人になれるかは疑問だが少し整理しなくてはいけない。
僕の勇者への対応だ。昨日の今日で元通りになりましたなんて都合が良すぎないだろうか?ただ考えてもそれをするしかないだろう。
そんなに勇者を慕っているだなんてリビリアからは聞かされてないのだがスピラの言うことを聞くなら僕が勇者に迫るような態度をとっていかないと不自然だ。上手くいくだろうか。
全部を信じるわけではないがリビリアがあれほど警戒していた相手だ。油断を誘うためにも必要なことだと割り切って考えた方がいいかもしれない。
ある程度方針を固めたところで草木を踏みしめる音が聞こえてきて振り返れば勇者アキがいる。
「えっと…邪魔じゃないかな?フィン」
この時、僕は分かったことがある。本来の自分ではない何かをしようとするも言葉が上手く出せない。
ただ立ち上がって勇者を見るも、なんと言えばいいのか困る。僕がリビリアにするように勇者に接する?しかしスピラの話しでは相当勇者のことを好きだとやっていたらしいし。
やはりいつまでたっても僕の知識は嘘だと言われても隔離塔の記憶が中心となってしまう。だからこそ物語に出てきた者たちはどのように行動していたかを思い出す。
「アキーーーー!」
「え…?」
僕はそう言ってとりあえず抱きしめに飛びつく。正直体が少し拒絶反応を示すがこれで正解のはずだ。
「昨日はごめんね、色々あって疲れててさ」
「あ、うん?そうだな疲れてはいたと思うんだけど…」
「僕はこの通り元気だから安心してほしいな!アキも昨日元気なかったでしょ?」
「安心はしたんだけど、今の状況に追いついてないというか。俺そんな風に見えてたのかなっていうのもあるけどなんて言えばいいのか」
「アキはどうしてほしい?そうだ!ほら少し屈んで?昨日まで沢山頑張ってきたんだよね」
そう言って体を引き寄せ頭を撫でる。反応を見るもどうにもされるがままというかあんまり良い反応ではないな。対応が違ったのか?
ただ一度やったことはどうしようもないし頭を撫で続けてどんな顔をしているかも分からない。
「フィンはさ、色んな記憶が曖昧なんだよな?」
「うん?そうだね。でも大丈夫だよ」
「無理しなくてもいいんだぞ?」
「無理?」
「少しずつさ、みんなでフィンの記憶を取り戻していこうって話し合ってさ。だから普通にしててもいいんだよって伝えたくてさ」
とはいえ僕が何もしなかったら何を言われても特に何も思わないんだがそれでいいのか?
スピラの要望もあるし何か僕から行動しなければならないんだが。
「無理はしてないよ。アキは嬉しくないの?」
「嬉しいよ。すごく嬉しいけど、もし無理してるなら安心してほしいかなって」
「そっか…」
やはり対応が間違っていたのだろうか?しかし記憶が曖昧なことを心配してのことだし僕がこうしているのは違和感ではないのだろう。
とりあえずは大丈夫だと判断したが嫌がる素振りも無いのでそのまま頭を撫でようと思ったが態勢が辛かったのか起き上がり背伸びをしている。
「今までもこれからも。よろしくなフィン」
「うん。大好きだよアキ」
「お、おう!」
向き合っていることになるのかは分からないがこうして喋って接していればいいのだろう?スピラ。
その後は椅子に座りアキの話しを聞くが過去の今まで何があったのかを色々話してくる。
テトに連れられて色んな竜と接しただとか、魔族と交流する機会もあり色んな話しを聞けたのだとか。
およそ一年ほどずっと僕を探し回っていたと言う。
その間人間の国にも行ったりしたがヘレスがなんとかして魔族が今は戦争をする気がないというのを人間が国境へ攻めたことに対してテトも一緒に説明して戦争になることはないだとか。
スピラ以上に色々教えてくれるがスピラ以上にこいつの言うことが信じきれない。
人間が魔族に対して戦争をすることがないというには勇者の行動を自由にしすぎではないだろうか?仮にも魔王…魔族に対しての戦争道具をテトに振り回されているのはすでにレアラが勇者の味方を、人間の味方をするという判断をしているからでは?
リビリアは僕と同じようにどうでもいいと考えてるとは思うのだがレアラが何をしたいのかよく分からないな。
スピラの話しではフィンのやってきたことはリビリア以外の万魔を殺すことのはずで僕が何かに対してリビリアに真実を求めていたという流れだが、そもそも肝心のリビリアがフィンを殺した理由に関しては分からないのだ。
僕を作るためと言うがフィンはこれまで順調に兄弟を殺してきた実績を考えたらリビリアが殺すなんてことしないとは思うんだけど。
「そういえば覚えてるかな?綿あめ、これは腐らないと思って国に戻ったときに包装して持ってたんだよ」
渡してくるのは雲のような物。これはなんだろうか?
僕が戸惑っていると雲を掴みアキは自分の口に入れているので食べ物か。
分かれば後は食べるだけだと思い食べたら甘い。口の中で溶けていき甘味がじんわりと伝わる。
「美味しい…」
「魔法もフィンに教わったもの以外にも使えるようにたくさん練習したんだよ」
そう言って見せるのは水球…いや泡のようなものを作り宙に浮かばせている。
これが魔法の行使速度、難易度諸々を考えればそこらへんの魔族では到底及ばない速度だ。これが勇者か。
「どうかな?」
控え目に言ってかなりの戦力だ。僕の知っているギュスターヴやゴドーも勇者に敗れたというのは納得だし。スピラも最終的に止めを刺したのは勇者だと言っていたはずだ。僕も何か作戦を考えていたらしいがこの勇者ならテトにも通用するのだと思う。
それどころかリビリアにも一矢報いることもできるのではないだろうか。
「凄いね。並大抵の魔族じゃアキには勝てないね」
「もう戦う理由が無いと思いたいけどそうだな。これで少しはフィンを守れるようになったかなって思える」
まだ大事な戦いが残っている。その手でレアラとテトを殺してもらわないといけないのだから。
話しは日暮れまで終わることなく異世界だという話しまでしてきて一度に覚えるには中々辛い量の話しをしてくるので少し疲れる。
「フィンと一緒に元の世界に戻れたらなってずっと思ってる」
帰るなら一人で帰ってくれと思うのと同時に、フィンの話しだとそもそも勇者を必要としていたという。僕も勇者を使ってどうにかできることがあるだろうか?
それともこの思考そのものがリビリアが危険視していた原因の一つだろうか。分からないがとにかく殺さないとリビリアが悲しい顔をしてしまう。
宿に戻るという時間になり、僕は勇者の手を握り一緒に行く。どこか懐かしい気持ちを感じながら。




