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五十一話

 一応東の砦でお世話になっているということを告げて。挨拶だけしたい、そう言って全員と一旦離れることにした。


 ただスピラだけはずっと付いてきている。


「どうしてスピラは僕と一緒に来るの?」

「貴様ほとんど記憶がないだろう?」


 さっきお手上げと言ってなかったか?あれは嘘か。


「どうしてそう思うの?」

「我に限らず貴様と少し接したものなら様子がおかしいのは見てわかる…。それにその魔眼はなんだ?服で術式を練らなければならないほど貴様の魔術は廃れたのか?その体はどうした?魔力が別人になって尚本物と言い張るのはレアラの言った通りなのではないか?」


 そもそも対応が間違っていたのか。それなら何故さっきの人間たちがいる段階で言わなかったんだ。

 それに僕の魔眼が服で補っているというのも視ていたのなら追及すればよかったろう。


「レアラはなんて言ってたの?」

「…。リビリアがフィンを生成すると言っておった。ここまで見てくれだけは完璧なのに中身がすっかり入れ替えられておる…」

「ん?それはおかしいよ。僕は僕のままだよ?スピラは忘れたの?スピラは怪しいところもあるけど僕の味方なんだよね?」


 記憶が曖昧なままだが、それでも何か言った方がいい。だからこそ曖昧な記憶で僕はスピラにそのまま本物であることを主張しないといけないのだろう。

 ただ中身が入れ替えられたとはなんだ?


「だからこうして一人になったときに話しておる…。別にフィが作り変えられようと嘘をつかぬならそれでいい…だが貴様、いつまでも騙しとおせんぞ?」

「そっか…じゃあスピラは僕が今も嘘を吐いてると思ってるの?」

「いや何も嘘を言っておらん。だが我がリビリアの敵かどうか聞けばどうだ?曖昧にするか答えることをしないであろう?」

「僕は最初から敵かどうかで区別はしてないよ。ただリビリアとは敵になりたくないとは思ってるよ」

「あの者らとどう接する?姿は覚えておるのか?名前は?」


 本当に味方なのかどうか分からないな。この問いだけははっきりしている…何一つ覚えてない曖昧な要素もない。接し方もなんとかなると言えばそれも嘘だ。


「貴様は死んだのだ。リビリアに何を吹き込まれたのかは知らん…だがな、貴様は戦争に巻き込まれて、リビリアに殺された。昔の記憶とやらも今の体もどう弄られたのかは知らん」

「じゃあスピラは何がしたいの?」

「死んでも尚本物としてここにおる…我は口約束を守ってるだけだ…」


 味方のくだりか?それとももっと他に何か約束を交わしていたのか?

 ただもし味方なら心強いことこの上ない。


「フィよ…我は別に他の者に偽物だと言いたいわけではない。しかしな?死ぬ前の貴様はあの者たちを大事にしておったぞ」

「それっておかしくないかな?僕は死んだんだよね?じゃあ今の僕が本物であるはずなのにどうして死ぬ前のことを気にしてるの?それって本当に僕なのかな?」

「もしそれを本気で言うておるなら我は貴様の敵になるな…いや本気なのはわかっておる…だがもう少し本音で記憶がないと言って関わって心変わりせんのであれば別に良いのだ」

「スピラは嘘を吐いたことある?僕に嘘の看破が出来ないのであればスピラが本当のことを話してるかも分からないのに、スピラは敵なのかどうか曖昧にしてるよね?僕と同じことをしてる」


 喧嘩を売りたいわけではない。ただ僕が今後動くにあたってスピラが真実を言ってるかなんて分かりはしないと言いたいだけだ。


「やはり貴様は死んだのだな…だが何故だ?貴様は利口ではないなりに真実をあと少しまで迫った。その気持ちさえ踏みにじられているのにリビリアを擁護している意味が分からぬ」

「真実?真実なんてどうでもいいことだよ。だってスピラはただ見ているだけなんでしょ?四天王堕落の霊長と呼ばれることを嫌っているのにその場に居座るだけで何もせず見ているだけなら敵も味方もないんじゃないかな?」

「クハッ!それもそうか。所詮我は…いや我も他の連中と変わらんのは確かにそうだ。だがな?それでも友を失うのは苦しいものだ」


 スピラが何を言いたいのかは分からない。記憶を失った原因がリビリアにあるように話していたがリビリアは嘘を吐かない。

 仮に記憶を失っても僕を愛してると言ったその言葉が本物であり真実であるのだから。


「貴様の言う通り我は敵になるか味方になるかは貴様次第だ…だから嘘はやめてくれ」


 面倒くさいことこの上ない。スピラが付いてくる間は嘘が許されないのだとしたらあの人間たちと関わってる間に敵となって襲ってくる可能性すらある。


 いっそここで敵対してしまうか?その身にどれほどの魔力を内包してるかは未知数だが無限ではないのだとしたら万魔が通じるほど削れば勝ち目があるか?

 いや、僕が死ぬとしたら一番殺さないといけないのはレアラだ。レアラがいるときでないとリビリアが悲しい顔をしてしまう。


「分かったよ。嘘は吐かずに記憶がないことを言えばいいんでしょ?」

「そうしてくれ…クハ…根が変わらんというのも残酷よな」


 一体僕の何を知ってると言うのか。ただ明日になれば人間たちに正直に話すとなればまた今日の出来事を掘り返されたときに面倒が増える。

 ただある意味で正解なのかもしれない。名前の呼び方すら知らない現状でなんとか誤魔化すのはあの人数だと無理があるのもそうだし、一切会話を交わすことのなかったテトがずっと殺意をむき出しにしていた。


 最初は不機嫌なだけかと思っていたがテトは終始無言で臨戦態勢を取っていた。


 東の砦まで来ると兵士たちはスピラに挨拶をして堕落の霊長と言うなと怒っていた。ただ付いてきただけかと思っていたら兵士たちと知り合いだったのか。


 たしかにスピラと出会ったのは要塞レディオンだった気がするがそれでも慕われている様子を見ると結構長い間滞在していたのかもしれない。


 部屋に戻るとスピラはそのまま僕が使っているベッドで横たわる。

 どうせばれているならいいかと思って僕は気になることを話すことにした。


「僕とゴドーはどんな風に仲が良かったの?」

「…。本気で殺し合うくらいかの」

「それは仲が良いのかな?」

「実際に奴を殺したのは勇者ではあったが間違いなく止めを刺す瞬間まで貴様は追い詰めておったよ」


 喧嘩みたいなものだろうか?しかし僕はそんなに強かったのか。リビリアの言う話しでは万魔さえ使えばゴドーは命令に従わせることができるだろうけど喧嘩でそこまでするわけないとは思うが。


「むしろ我が聞きたいのは貴様になにがあったかだ?何も本当に覚えておらんのか?」

「隔離塔のこと?それとも兄弟達のこと?そもそもそんなに関わりは無かったと思うんだけど」

「貴様にとっては大事な数か月の記憶のことだ。勇者から大半のことは聞いたがかけがえのないものだと思った…少なくともそれで貴様はリビリアと敵対しておった」

「そもそもなんでリビリアが僕と敵対するのか分からないよ」

「レアラに聞けば良い…元々そのはずだったのだし、リビリアがあの時邪魔さえしなければ貴様は選択しておったはずだ」


 それが本当だとしても嘘だとしても僕がリビリアと敵対関係になるのが想像つかない。

 もし僕がリビリアと戦うと決断するに至った理由が分からない。それこそスピラの嘘かもしれない。


 リビリアは言っていた。嘘を吐いてくると。それで過去になにがあったのかは知らないが嘘を吐かれて騙されていたという可能性もある。

 ただ僕に過去の記憶が無いのはリビリアのせいだろうか?それもリビリアはずっと一緒にいたと発言していたからそもそもスピラの発言とは違う気がする。


 いやおかしくないだろうか?要塞レディオンにいた僕はリビリアと一緒にいただろうか?リビリアの言う夢での出来事だろうか?しかしスピラは僕のことをフィと呼び、僕のことをフィと呼ぶ住民がいたことから僕はここにいたんじゃないだろうか?


 管理人というのも僕のことを指してるのだとしたら確かに僕が…。


 僕と同名の存在か…?それが僕と同じ見た目をしてスピラ達と関わっていた。その記憶を僕が持っている?ただ人間の記憶だけは全くないのは何故だ。微妙に記憶が欠けている。


「どうしたフィ?」

「いや…スピラは全てを知ってるのに話さないんだなと思っただけだよ」

「…。正直どうすればいいのかわからん。リビリアのやろうとしておることは間違ってないしレアラ達のやっていることも間違っておらん…」

「それは僕が魔王になること?」

「そうだ。貴様が魔王になるという結末は変わらん」


 それはどっちを生かすかという話しだけだろうか。だからと言って何もしないならスピラは結局なにがしたいんだ?

 ただ見ているだけなら邪魔しないでほしいが…。


「他の四天王と呼ばれるものも同じ考えよ。だから何もせんのだ…。結果は変わらん」

「四天王が?」

「そう…貴様が死んでもこうしておるように仕組まれておる」

「それは誰に仕組まれてるのさ」

「回廊の付箋だ。魔族が繁栄するように願い、その実一番絡んでおるのは奴だ」


 四天王の資料はまともな情報がない。スピラに関しても隔離塔の記憶は魔力の根源としかなかったはずだ。たとえこの記憶が本物であろうと偽物であろうと。


「じゃあ回廊の付箋をどうにかしようと思わないわけ?スピラは嘘が嫌いじゃなかったっけ?」

「別にあやつは嘘を吐いてるわけではない。それに我が関与しても、回廊の付箋を殺しても解決せん」


 どうにも納得できない。何をしても駄目だと言うスピラの諦観の姿勢は恐らく本当になにをしても回廊の付箋の望んだ結果通りになるということだ。


 ただ魔族の繁栄なんて言ってもそれに反することをすればいいだけじゃないのだろうか?


「魔族を殺していったらどうなるの?」

「それも結果の一つとしか言い様がないのう…」

「そんなこと言ったら可能性を言ったもの勝ちじゃない?魔族を繁栄させなかったら結果は変わるんじゃないの?」

「絶滅させればある意味では回廊の付箋の思惑からずれるが、少なくなってから増えても繁栄していると言えるであろう?」


 なるほど。つまり誰が魔王になろうと実際にはどうでもよく魔族が生き残る結果こそが回廊の付箋の言いたいことというわけか。


 ただそれはおかしくないか?それこそ言ったもの勝ちだ。絶滅させることが困難だとしても不可能ではないはずなのに結果は変わらないと言っているのはおかしい。


「つまり魔族であればなんでもいいってわけかな?」

「ほう?」

「混血混種でも魔族の血が入ってればいい。人間でも亜人でも少しでもその血が入っていれば絶滅はそれこそ地上の生き物を殺さないといけない」

「違いないな」

「やっぱり回廊の付箋は別にどうなってもいいと思ってるだけじゃない?スピラは騙されてるだけじゃ?」


 スピラも僕が言えば少し考えるがベッドの上で転がり始める。


「たしかに言わんとすることは分かる。しかしな…」

「もっと言えばそうやってスピラみたいに何かできる魔族が何もしたくなくなるように仕向けることそのものが目的だったら?」


 単純にリビリアとか関係なく魔王の血筋よりも四天王の動きを鈍らせることだけが目的なら?

 スピラなんか露骨に動かなくなるだろう。嘘を嫌い、そして約束だからと言って動いたりしたりしてその結果が無駄だと分かれば今みたいに話すことも中途半端になってしまう。


 古木の竜は竜だからそもそも意思疎通ができるものが限られているし、空洞の残骸も半分無機物みたいな存在のはずだ。そもそも興味が無い可能性もある。


 そしてスピラ以外に動く可能性があるものと言えば統括のフィブラだろう。だがそうなるとどうだ?フィブラはリビリアの味方をしている。そして現状を見ればリビリアの味方はフィブラと僕だけになる。


「うん。やっぱり回廊の付箋はどうなってもいいと思ってるんだよ。もっと深く言えば均衡を保ちたいだけだと思う」

「均衡?」

「僕は記憶が無いからスピラに過去を遡ってもらうことになるけど、リビリア陣営とレアラ陣営がいて戦力差はずっと同じ状態にしてたんじゃないかな?それこそスピラ自身も含めて」


 だとしたら何が目的だ?魔族の繁栄と言って分かりやすいのは人間と亜人を滅ぼして魔族が統一することでもある。ただそれなら内乱状態にある今の環境がおかしい。


「より強者を増やすことが一番の目的なんじゃないかな?結果が変わらないというにはあまりにも状況が分からない。恐らくリビリアが勝てば魔族は繁栄しないだろうしレアラが勝っても魔族は繁栄しないよ」

「それは何故だ?貴様が統治するからか?」

「その通りだね。僕は魔族にそもそも興味がない、だから増やそうとも思わないし人間や亜人なんて放置すればいいと思ってるよ」

「強者を増やすのが繁栄だとしたら回廊の付箋はなにがしたいと?」

「他の種族から負けない魔族を作りたいだけなんだと思うよ?だからどうでもいいんだよ回廊の付箋は。実際にそれが作れるかどうかなんて関係ない。ただ争わせ均衡を保ったままにしたい」


 それだと思い通りじゃないかと言えるが、人間も亜人も特に変わり映えしないのはそれが原因なのではないだろうか?

 人間なんてそれこそ弱者に位置する存在だ。勇者という変わった者もいるが本気の魔族なら滅ぼせるだろうし。

 亜人に関しても魔族が一致団結したらどちらかが滅ぶ結末を迎える。


「つまり結果自体は変わってるんだよ。ただ一番嫌なことは本気で戦争をしてほしくないだけの平和主義者なだけ」

「じゃあ何か?我がうじうじ悩んでおるのも手のひらの上というわけか?」

「そういうことだね?僕は回廊の付箋について深くは知らないけど、やりたいことはそれだけなんだと思うよ。理由は知らないけど」

「理由か…」


 思うところがあるのか考え込んでしまうスピラを横に、少しでもスピラが味方になればいいなと考えたがどうにも腑に落ちない点がある。


 回廊の付箋が平和主義者だと仮定したとしてフィブラは何がしたいんだ?古木の竜は純粋にテトを気に入ってるのだとしてもフィブラの行動が分からない。


 恐らくだが回廊の付箋の気持ちを一番知ってるのはフィブラであり、スピラが動かないように望んでいるのもフィブラだろう。味方につけようと思って味方にできるわけじゃないし、嘘を吐かないという点で言えばリビリアの味方になるべきなのに回廊の付箋の言葉で動きが止まってスピラは地味にしか動かない。


 フィブラは本当にリビリアの味方なのだろうか?少し不安になってくる。


「スピラはフィブラについてどう思うの?」

「フィブラか?あやつはどっちつかずの存在ではないか?元々この争いで四天王の不戦を命じてきたのはフィブラだったはずだが?」

「一見するとリビリアが四天王全員と戦わなければいけないからに見えるけど」

「そんなことはなかろう?古木の竜と回廊の付箋はレアラの味方になるが空洞の残骸は…まぁ戦力になるかは置いといてリビリアの味方になると思うぞ」

「だったらやっぱりフィブラがそうしたいんだよ。結果が変わらないんじゃなくてフィブラがリビリアを勝たせるために回廊の付箋も協力してるはずだよ」


 多分このままいけば僕はレアラ達を殺せるし殺すと決めてる。今一番邪魔な存在はスピラであってスピラのきまぐれ一つでリビリアは不利になる。

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