五十話
東の砦に着くと迷路みたいに似たような壁が続く飾り気のない場所だ。
兵士にここで泊まってもいいという風に聞いたと聞けば少し埃っぽい部屋まで案内される。
浄化の魔法を使おうとしたがまた癖で魔法糸を出そうとしてしまい、気を付けないとと思ってそのまま魔法で行使する。
なんというか違和感が拭えないが夢の中で使っていた魔法ほど魔法糸で術式を紡ごうとしてしまう。
しかしまだ別に疲れてないがベッドでこのまま休むのもどうしたものかと考えた結果、服に施されてる術式を解読しようと思った。
これもまた癖みたいなものだろうか。術式をわざわざ解読しなくてもいい気はするのだが魔道具という時点でどうにも解読したくなる。
他の服もどうなっているか確認すれば大抵は魔眼の術式が施されているが他にも魔法障壁がかかるようになっていたりとリビリアが心配性なのが伝わって胸が暖かい気持ちになる。
そんなに心配しなくても大丈夫。ちゃんと今でもリビリアのことを想っているから。むしろリビリアの方が心配だ。結構な距離だとは思ったが見つかったらリビリアとフィブラしかいないのだから追い詰められたら間違いなく死ぬだろう。
なんとか早めに勇者たちに見つかってほしいがあまり悪目立ちするのも疑念を抱くだろうし。
しばらくは復興作業かな。
そういえば魔道具の魔力を補充してほしいみたいなことも言っていたからそれも協力したほうがいいと思い部屋を出て疑似魔眼を使い近場の魔道具から補充していく。
そんな中兵士たちが寝泊りしているところに間違って入ったりとか、意外なことにお風呂場があることで浄化しつつ使えるようにしたら兵士たちから喜ばれた。
僕のことを知ってる者からはお風呂を待っていたなんて言葉も掛けられてこんなことを僕は以前にしていたのかと少し呆れてしまう。
ゴドーは魔法に長けていなかったのか、しかし施設としては魔道具がやたら多いんだけどな。
次の日になってから復興作業を手伝いつつ今までの環境を近場の人に聞きながらゴドーが死んでからを知る。
元々は東に住んで少しずつ復興作業をしていたのだとか。それからは中央。西。とようやく損傷が軽微なところをなんとかしたが南と北はあまりにも酷いため東西と違って人口が増え始めたら着手しようとしてたらしい。
実際それなりに魔族もいるし、以前の状況が分からないが短い期間で結構直ったと自慢げに話された。
とは言ってもこんな広いと東西だけだと少し寂しい気もする。
早く元の要塞に戻ってほしいな。
しばらくはそうやって過ごしていたが、たまには休んでいいと言われて折角フィブラからも聞いていたしゴドーの亡くなった見舞いを兼ねて南に向かう。
庭園があるとは聞いていたけどどこだろうか。ゴドーもどこで戦ったとか兵士の話しでは聞かなかったし実際どういう状況だったのか悲惨な光景すぎたのか語る人も少なかった。
瓦礫を登って奥の方まで行くとまだ元気な草木を見つけてこの中にあると自信のない根拠を抱いて周囲をうろつけば草の入口から中に入れる場所を見つける。
潜れば、中には黄色い花が咲いていた。何の花かは分からないが世話もされてないため雑草もちらほら見えるが花畑だったのだろう。
中央には椅子などもあり、そこで楽しむのだろうと僕はそこへ座る。
あぁ懐かしい。懐かしいと思えるということはここで僕はゴドーと会話したりしてたのかもしれない。
話した記憶がないのがもどかしいが…。それでもこの懐かしいと思えるほど僕はゴドーと仲が良かったのかもしれない。
その日は一日のんびりと過ごしてから休んでいいと言われた休日はここで懐かしい気分を味わおうと思い暗くなるまで椅子に座り夢の記憶に思いを馳せた。
そうして何日も復興作業を繰り返していくだけの日々だが兵士とは仲良くなれてると思う。食事も携帯食が多いが果実など新鮮な物があると何故か嬉しい。
食事にそこまでこだわりなんて無かったと思うけど無くした記憶ではやたら食事に関しての知識があった気がする。
そうして休日に何度も花を見に行くが一向にゴドーとの記憶が思い出せない…。
たしか4メートルくらいの巨躯を持ってすごく強かったんだけどそれ以外のことが全く思い出せない。
勇者に果敢にも戦ったという英雄なのに思い出せないことを申し訳なく思うことしかできない。
裏切り者と違って魔王軍として清く戦った英雄を思えば彼は最後にどんな気持ちで死んだのだろうか。
祈るように両指を絡ませるように祈祷する。どうか僕にもゴドーと同じように勇敢な気持ちを分けてもらえるように。
「フィン」
あぁ、懐かしい。ゴドーの声かと振り返るとそこには黒髪に黒目の男が立っていた。
誰だろうか?
「フィン…だよな?」
全く思い出せないが、僕の知り合いか。しかし黒髪黒目となると勇者なのかと思い疑似魔眼で視ると濃密な魔力を纏っている。ただ大きさで言えばそこそこだろうか。
こちらへ向かって走って抱きしめてきたのに戸惑うが、これが勇者だろうか?それにしては魔力が少ない気がするが。
「良かった…生きてて」
普通に喋ればいいとは聞いていたがどんな風に話していいか分からないし、これが勇者なのか判断が微妙に困るがこの要塞の魔族よりも濃密な魔力を持っていたし一応警戒はしておこう。
「フィン?」
ただ名前が分からない。体を離して僕を見てくるがなんて返事をしたものか。
「えっと。生きてるよ僕は」
「あぁ…生きてる。生きてるな…そうだよな?」
「あはは」
何度も確認されるように体を触られるがどうしたものか。
「えっと…どうしてそんなに体を触るのかな?」
「あ、ごめん…あの後のことなんだけど。フィンはどうやってリビリアのところから抜け出したんだ?」
こいつが勇者か。そう確信するも何故勇者が一人でここに来たんだ?来るならテトと一緒かと思ったが。
「僕もよく分からないけど気づいたらここの近くにいたんだよ」
「近く?ということはこのあたりにリビリアが潜んでいるかもしれないのか…」
「そうなのかな?それよりも一人で来たの?」
「いや、その…せっかくだから二人で話して来いってみんながさ」
「みんなって誰?」
「あぁ、レアラ以外だよ、レアラも来たがってはいたけど魔王城で少しでも痕跡を探すのに必死になっているみたいでさ」
ということは魔王城まで行かないといけないのか。どうせなら全員で来てくれていたなら良かったんだけど早々上手くはいかないものか。
勇者とテトが争っても微妙みたいな話しをリビリアはしていたし出来るならもっと人数も必要だろう。
「フィンごめんな。俺結局何もできなくて」
「大丈夫だよ」
たしか誰かと勘違いしてるとかいう話しだったな。そんなに似ているのか?
どうでもいいか。それよりもテト達がいるなら合流してそのまま魔王城まで行った方がいいのだがスピラ…堕落の霊長に気を付けないといけないのだったな。
早急に向かいたいと言うのは不自然か?それともその方が自然か?
「フィン?」
「どうしたの?」
「えと…なんか、雰囲気違うなって…あ、色々あったもんな?レアラから聞いた話しだとフィンであってフィンでないみたいなよく分からない言い方してたけどさ」
「あはは。レアラの言うことは毎回よく分からないよね」
「そ、そうだな?」
「どうしたの?」
普通にしてるだけだが怪しまれているのだろうか。それともレアラがここへ来てないのはそのよく分からない話しが原因だろうか?
リビリアの話しだと嘘を吐いてくると言っていたが…恐らく僕自身が警戒されてるのかもしれないな。もう少し慎重に行動したほうがいいかもしれない。
「いや…フィンは、フィンだよな?」
「僕だよ?レアラが何か言ってたのかもしれないけどさ、大丈夫だよ何もなかったから」
「そっか…」
とりあえずここにいても仕方ない。テトやスピラの話しを聞いてなんとか勇者の名前だけでも聞きださないといけない。
そう思って庭園から出ようと足を動かそうとしたらまた抱きしめられた。何がしたいんだこいつは。
「ごめん。もう少し二人で話したいと思ってさ」
「そっか?僕もごめんね。何を話したいのかな?」
「ほら!昔ここで色んなこと話しただろ?あ、でもその時があったからフィンがあんなに頑張ってくれたのかなって思うと色々あれだけど…」
「そうだね?僕はそんな大した事してないと思うから気にしないで?」
なんの話しをしているのか分からない。似ている存在の話しか、たしか同じ名前だったな。
とりあえずこの場はどうにか誤魔化しておかないといけないが過去話しなんてされても勇者との記憶なんかないしいずればれるから出来れば早く終わってほしいんだが。
「フィンがどんなことになっても俺は愛してるから!…ってちゃんとこう言わないとフィンは分かってくれないよな…。うん、愛してる」
「そっか…そう言ってくれて安心するよ」
「安心って、俺にとっては一大決心だったし、今でも変わってないことをちゃんと伝えたくて」
「ありがとうね?」
「あぁ…その、やっぱりフィン疲れてるか?」
「復興作業してたからかな?あんまり疲れてる気分はしてないけどみんながいるならみんなの無事も確認したいかなって」
「そっか…」
違和感はないはずだ。別におかしなことも言ってないはずだ。ただ何故か寂しそうな表情をするからもしかしたら違和感はあるのかもしれない。
その違和感の正体がなんなのかは分からないから出来れば情報が欲しい。
「戻ろうか?」
「みんなのところへ?」
「うん」
結局あまり話してはないが満足してくれたならそれでいい。ようやく本番といったところだろうか。
そのまま庭園を後にして瓦礫の山を登って行くが勇者の様子はどうにも元気がない。思い出話を僕から何一つ提供しなかったことが駄目だったろうか。
ただ別に何か言われるわけでもなくそのまま南砦から出ると知らない人間が数人とテト…そしてスピラがいる。
「フィンちゃんだー!」
「フィン殿…」
「フィンさん!」
こいつら全員誰だ。疑似魔眼を発動させて視るが明らかに魔力量が少ない、密度も並み以下だろう。勇者とは格下なのは分かるが。
それと同時にテトを視てリビリアと同じような感想だ。想像してたよりも小さい。
「我の問いに答えよフィ。貴様本物か?」
僕が視て分かるのは魔力を抑えようとして膨らんだりして不定形の魔力を持っている。スピラはやはり別格なのだろう。明らかに万魔を超えている。
「本物って…僕は本物だよ?偽物がいるの?」
「…。そうか、本物なのだろうな…。」
こいつ…。僕の知ってる魔眼とは違う何かで僕を視ていたな。嘘の看破か、ただその質問の仕方はよく分からないな。
「それよりスピラは僕を心配して来てくれたの?」
「そうだな…。心配と言えば心配だが」
「だとしたら大丈夫だよ。僕は普通だよ」
「記憶はどうだ?元通りなのか?」
曖昧だと答えたらそれはおかしいか?いや、しかし嘘の看破が厄介すぎる。
「少し曖昧かな…昔の記憶がどうにも間違ってるらしいんだけど」
「内容は?」
「隔離塔での過ごしていた記憶かな」
「どう過ごしていたんだ?」
「どう?隔離されてからどんな風に過ごしていたかだけど…本の知識とかが色々覚えてない箇所が多いってくらいだと思うよ」
実際はリビリアと過ごしていたと言われていたけど僕にその記憶がない。隔離塔で過ごしていたとは思うんだけどその記憶そのものがリビリア曰く無いとされているから曖昧になってる部分は正直に話したつもりだが。
「リビリアとの記憶はどうなっておる?」
「少し顔を合わせたくらいの記憶しか持ってないかな。その記憶っていうのもフィブラの方が喋っていた気がするよ。それに記憶だと隔離塔に二人が来たのは一回くらいだったはずだよ…とは言ってもこれも曖昧だから本当かは分からないけど」
「それ以外は?」
「それって戦争の話し?」
「ん…?残っているのか?その時の記憶は?」
フィブラの記憶ではリビリアが撤退せざるを得ない状況になったのだったな。
だがそれを口にすればもっと深堀されてしまえば僕の記憶がないことがばれるのか。
「ごめんけど曖昧かな。ただここの…要塞レディオンで復興作業を手伝っているよ今は」
「我にはお手上げだ。記憶が曖昧だというフィの言葉そのものが偽りではないのだから何を聞いても曖昧で終わってしまう」
スピラの尋問がこれで終わったのか。ただスピラの目の前で嘘を吐けないことだけは気を付けないといけない。
そしてスピラの尋問が終わりを告げた瞬間に女が抱きついて来て残りの人間も喜んでいる様子だ。
「「「「おかえりー!フィン」ちゃーん」殿」さん」




