四十九話
短いながらも濃密な二日間を過ごしてリビリアは僕にリュックを渡す。
「これ新しく作ったのよ?フィンは渡したものをボロボロになっても使うようだから今回は私が手作りで用意したの」
「手作りって…リビリアいつの間に?」
「知らなかったのかしら?あなたの服はほとんどは私の手作りなのよ」
予想以上の愛に驚きを隠せない。魔法で作ったのだろうがそれでも一生懸命に作ってくれたのだろう。
こんな立派なリュックを使うことに少し躊躇いもあったけどせっかく作ってくれたのだから大事にしよう。
「ありがとうね。中身はほとんど衣服かな?」
「そうね。フィンは魔道具も好きみたいだから服に少し術式を施しておいたわ。使ってみてくれるかしら?」
「うん?」
そう言われると気になるもので着替えた後に魔力を通すと疑似的な魔眼が発動した。
僕が魔眼を使えないと不便なことを覚えてくれていたのか。
「これは凄く便利だね。なんというかしっくりくるよ」
「フィンは本当にその魔法が好きね。魔眼頼りにしていると相手の実力を見誤るときもあるのよ?」
「んー…言いたいことはなんとなく分かるんだよ。ゴドーも魔力以上の実力を持っていた気がするから。でも魔眼だと相手の動きをなぜか読み取りやすいんだよね」
リビリアを視ると僕が知っているリビリアよりも遥かに小さい魔力に視える。こんなに小さかっただろうか?
そのことをリビリアに確認する前にフィブラが部屋に来る。
「失礼します。準備はできましたか?」
「うん。大丈夫だよ」
フィブラを視るとやはり予想してたより小さい。今の僕ならリビリアにすら命令できるのかと一瞬考えてしまうが、そんなことをしても仕方ない。
「フィン、気を付けてね?レアラ達は偽物の…嘘の存在をあなたに言ってくるとは思うけれど…」
「そんなに心配しなくても大丈夫だよ。僕は作戦だけを考えておくから」
「信じているわ」
二日間の間にどうすればいいのかを考えていたがリビリア曰く何も知らないふりをして普通に過ごしていれば問題はないはずだと言っていた。
堕落の霊長だけは注意しなければならないと、そして堕落の霊長をスピラと呼ぶように言われた。
何故かは分からないが誰に対しても堕落の霊長と呼ばれることを嫌うらしい。疑われないように注意しなければならない。
そしてフィブラと一緒に外へ向かえば、全く誰もいない城を歩いて進む。
部屋から出たことはなかったけど一人もいないとは…追い込まれているとは言っていたがそれほどまでに情勢が悪いのか。
「フィブラに聞きたいんだけどリビリアを支持してる魔族はいないの?」
「先の戦争で敗北してほとんどいませんね。リビリア様が万全ならもう少し持ちこたえていましたし被害も最小限で済みましたが予期せぬ事態になりリビリア様が戦場から離脱しなくてはいけなくなりました」
そんなことがあったのか。というよりも想像してたよりも絶望的な状況なのか。
そんな状況で僕に頼りたくもなるのは分かる。とはいえそれでも別の作戦を考えようとしていたのはなんだったのだろうか。もはや魔王軍はレアラが掌握してるのでは?
レアラは僕に魔王の座を譲るつもりというのもリビリアからは聞いているが仮初の魔王でも作りたいのだろうか。
「フィン様…大変申し上げにくいのですが…」
「どうしたの?」
「どこまで覚えているのですか?」
「んー…ほとんどリビリアに記憶違いだと言われたけど、さすがに姉や兄のことは忘れてないよ。話した記憶はあんまりないけどテトとは仲良くなれそうだった気はするし。だからこそ今の状況が信じられないかな」
「そうですか…」
「あ、フィブラのことはちゃんと覚えているよ。僕に才能が無いと言うときにグサグサと嫌味を言ってきてたりとか」
「何故私の評価がそんな嫌な記憶だけ残ってるのか分かりませんが私はいつも真面目にしていますよ」
たしかに僕が起きてからというもの今のフィブラは最初の嫌悪した目つき以外は口調もどことなく優しい気がする。
嫌味を言われていたように感じていたのは僕が自己嫌悪していたからそう見えていただけだったのかな。
「私はどこかリビリア様のことを信じきれていなかったのかもしれません。ですが今のフィン様は紛れもなく才能に満ち溢れてますよ」
「そうかな?確かに魔法を自在に扱える感覚が何故かあるのは不思議だけど」
「フィン様は…いえ。きっとこのことも忘れてしまうのでしょうね。ただもし覚えていたらフィン様は立派な魔王になるのだと私は信じています」
そこまで言われるとむずがゆい気持ちになる。とはいえさすがに忘れっぽくなってるとはいえ信じてるのか信じてないのか判断に困ることを言われるとやはり嫌味なのかもしれない。
「忘れないように注意しておくね」
「そうしてください…。また繰り返すのは嫌ですからね」
考えすぎだろう。とはいえ普通にしてろと言われたが実際にどのように会うのかまだ分かってないのだけどな。
フィブラが庭まで出るが森の中で城まで森に覆いつくされている。こんな場所に隠れて過ごしていたのか。
たしかに森の中なら竜の目を欺けるかもしれないが、燃やされたら城も燃えるだろうから隠れるためだけに用意された場所だな。
見慣れた竜を見つけ僕は近寄ると竜は少し怯えた様子を見せる。
「フィブラの竜はいつもこの子だけど、テト達とは違う竜なの?」
「いえ元々は竜の住処にいたのですが私が何度も乗らせてもらううちに懐いてくれたんですよ」
「じゃあこの子はテト達とは無関係なんだね」
乗せてもらいながら考えるのはどこまで殺せばいいかだ。リビリアを支持するものがいないのは分かったけど四天王をなんとかするにしても僕が命令しても人形のように言うことを聞くだけになってしまうなら統治しているとは言わないだろう。
それともフィブラが四天王統括として働くのだろうか?それなら敵は堕落の霊長と古木の竜だけか。
あとはどうにかスピラを離した状態にすればいいのだろうがどうなるだろうか。
「今向かっているのは?」
「要塞レディオンです。今では元要塞と言うべきでしょうか?そこで生活していればテトが勝手に見つけてくれるでしょう」
「要塞レディオンかぁ…一度でいいから花畑を見たいと思ってたんだよね」
「今もあるかは分かりませんが南の廃墟に…庭園があるそうですよ?」
場所も分かるなら問題はない、行くだけ行ってみよう。
たしかゴドーが討ち死にしたのは要塞レディオンだから壮絶な戦いだったのだろうと思うとあまり期待は出来ないが楽しみではある。
「それにしても低空飛行するんだね?」
「呑気に空高く飛んでいたらテトに見つかりますからね。フィン様を降ろす場所も要塞レディオンから少し離れた場所で降ろす予定です」
「そんなに探索範囲広くリビリアを追ってるんだ」
「…まぁ。そうですねリビリア様を追っているのと同時にフィン様も探しているのだと思いますよ」
戦争している間も寝ていた僕を探しているとなるとレアラ達は一体何をしたいのだろうか。
低空飛行ということもあって結構な時間がかかるが、目的の場所付近まで近づいたということで森の中に着地してフィブラから現在地と地図を言い渡される。
「正直こんな作戦通るのか疑問ですが…フィン様の安全だけは保障されてますので安心してください」
「心配してくれてるの?」
「そうですね…できるなら今回で終わりたいとは思っています」
「なんとか成功してみせるよ」
僕もそんなに自信があるわけではないが少しでも大丈夫だと思わせるように胸を張って答える。
そんなに長い間戦争状態だったのか、フィブラは疲れた顔をしていて僕に少しだが微笑んで見せる。
「今のフィン様は元のフィン様なんですね…それだけ分かれば少し安心しますよ」
「少しでも安心してくれたなら良かったよ。フィブラはリビリアのこと頼むよ」
「そうですね…何かあれば駆けつけますので問題が起きたら適当に民衆を煽って魔族ばんざーいとさせてくれたらいいですよ」
「さすがにそんな変なことはしないよ…とはいえ暴動させたときは失敗したときかな」
そろそろ移動したほうがいいだろうと地図の確認を済ませてフィブラに地図を返してから僕は移動を開始する。
現在のフィブラはどうにも元気がないように感じるので出来ればもう少し元気づけてあげたいが僕が何か言うよりはリビリアがなんとかしてくれるだろう。
森の中を歩いているとどこか懐かしい気分になる。果実を見ては昔の記憶…いや夢の記憶と同じような物を見かける。
ただ夢の中と違うのは瘴気の影響がなくなっていて見た目が違ったりと…どこか記憶のずれを感じる。
僕はずっとリビリアと一緒にいたと言っていたけど隔離塔での出来事はなんだったのかいまだに思い出せない。
隔離塔そのものが夢だったのだとしたら僕の過去は一体どんなものだったのか。
でもリビリアの存在もフィブラもテト、レアラ、ゴドー、ギュスターヴ。スピラも姿かたちを思い出せる。
初めて会ったときはテトの存在を恐ろしくも感じていたはずだ。ゴドーなんて鬼の形相をしていた気がするし。
レアラなんて凄いお喋りだったはずだ。それが何故謀反なんかを起こしたのか…勇者にそんな能力でもあるのかとか不安なことは尽きない。それでもリビリアの弱っていた顔を思い出し地面を強く踏みしめる。
少しずつだが思い出す。その光景はただ夢を思い出してるだけなのかは分からないが。それでもリビリアのために頑張らないと。
元要塞とフィブラが言っていたように北の壁はボロボロになったまま放置されているようで恐らくここから勇者たちが攻めてきたのだろう。北の街並みは大分壊れているようで中央まで行くと魔族の姿も見かけるようになって北以外は機能してるのかと思ったが南も大分壊れているようだ。
東西で魔族たちが復興している姿を見かけて商人も賑わっている。
そんな姿を見ながら宿なんてものはないだろうと空き家を勝手に住み着いてしまってもいいかもしれない。
兵も少ないがちらほら見かけるので要塞レディオンの姿も何十年かすれば元に戻るだろう。
南の砦の様子をそのまま見に行ったがこちらはあまり手付かずなのか損傷も酷いものだ。
たしかここでゴドーと会ったことがある気がするんだけど、ゴドーの最後は立派だったのだろうか。
とりあえず住み着くところを適当に見繕ってからは再度中央まで戻り魔族たちを眺める。
僕が何もしなくてもテトが勝手に見つけるという段取りだがいつになるかは分からないし先立つ物をそもそも持ってないので何か手伝って食料とかを集める必要があるかもしれない。
周りを視るとどれもこれも小さな魔力で頑張ってる魔族が多い。もしかしたら復興作業を手伝えば貰えるものがあるかなと思って近くの兵を探して声をかける。
「すみません」
「ん?旅の者かな?」
「そうです、少しでも役に立てたらと思うんですけど何か困ってることはないですか?」
そう聞くと主に東西で成り立ってるから北から先に復興したいということを聞いてそのまま兵士についていき瓦礫などがある場所に着く。
「ここらへんで使えなくなった建物をどかしたりとかかな?旅の最中なら無理しない程度に協力してくれたら助かるよ」
「分かりました。僕であれば多少は役に立てると思うので頑張りますね」
壊していい建物などを紹介してもらって、どれくらい壊したものか悩んだが僕の使える魔法に重力系の魔法があるからそれを使って潰すか、使えそうなものは軽くして持ち運ぶ。
その様子を見た兵士さんはそのまま大変だと言う場所まで案内されてたくさんの撤去を頼まれてしまったが関係性としては良好な関係を築けるのかもしれない。
何人かの兵と挨拶をしながら一緒に作業をこなしていくが、数が多すぎる上に魔法を使う魔族が少なすぎて作業がどうにも遅い。
「管理人ちゃん?」
誰かは知らないが僕の姿に驚く兵士がいて、誰だろうと首を傾げていると相手も困ったような表情になる。
「そっか今では管理人じゃないもんな。名前も聞いてなかったし」
「えっと…」
「けど無事で良かったよ、あれから避難誘導した後も姿を見なかったからさ」
多分誰かと見間違えているか僕がゴドーと会ったときにいた兵士だろうか?しかし名前がまったくわからないし合わせておくか。
「なんとか生きてはいましたが大丈夫ですよ」
「そっか…それよりも管理人ちゃんそんなに魔法すごかったんだな!」
「あはは。大した事ないですよ。協力できることしますから困ってたら声をかけてくださいね」
「ありがとうな!良かったら前みたいに魔道具も魔力を入れてほしいし泊まるところなかったらまた東の砦に来るといいよ」
魔道具に魔力を入れることすら難しいのか。案外この場所も戦争の影響を受けているのかもしれないな。
魔王になると考えたら案外大事なことかもしれない。
「東ですね?分かりました。それじゃあせっかくなのでお世話になろうと思います」
そのまま分かれて作業を再開していくと何人かは僕にわざわざ管理人ちゃんと言って挨拶をしていく。そんなに関わりがあったのかとも疑問だけど…僕の記憶だとたしかにゴドーと会うとき結構な兵士と関わっていた気はするが意外と好かれているものだな。
それとも僕とは関係ない人物…似ているといった存在が関係してるのだろうか?
まだ作業も夜になってから間もない中、暗い作業は危険だというので東に行くことになり歩いているとまたもや声を掛けられる。
「フィさんですか?」
「…?」
「フィさん、その!うちの子供なんですが!」
「僕の名前はフィンなんですが…?フィですか?」
「あ…あまりにも似ていて…ですが、違いますか?ジョルジュのこと…」
「ごめんなさい。そのジョルジュさんのことは知らないです」
そう言ってその場を後にする。まだ何か言っていたが人違いだろう。ただジョルジュという名前に少しだけど懐かしみを感じるがもしかしたら関わっていたことがある人物だろうか。




