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四十八話

 リビリアが何をやってほしいのかと疑問に思って聞いてみると色んな服に着替えてほしいと頼まれたのでリビリアの渡される服を着替えて見せるということを繰り返していた。


「これも可愛いと思うけどやっぱりこっちが可愛いかしら?フィンはどう思う?」

「いや…僕はどれも変わらない気が…」

「衣服をちゃんと選べないといつか困ってしまうわ?フィンは魔王になるんだから」

「魔王?魔王って父上がいるんじゃなかったっけ?」

「父上は亡くなられたわ。次の魔王はフィンなのよ?本当に寝ぼけてしまったのね…仕方ないから説明してあげるわ」


 父上がいて僕を隔離塔に入れていた気がしたのだけど、父上が死んだのはかなり前のことらしい。

 魔王亡き後、人間の勇者が攻めて来て兄弟である万魔の矛ギュスターヴと万魔の壁ゴドーが討ち死に。


 なんとか皇竜テトが撃退するも。万魔の知識レアラの策謀によってテトが一緒に人間の勇者側へと謀反を起こしたのだとか。


 そんな中でも次の魔王は必要で僕が後釜に収まるのだとか…なんというか壮大すぎて話しについていけない。


「なんでリビリアが魔王にならないの?」

「私では魔王の器ではなかったということね。フィンは万魔の美貌を持っているのだから自信を持っていいのよ」

「その万魔の美貌ってやつも僕からしたら初耳なんだけど…」

「フィンが命令すればたとえレアラでもテトも逆らえはしないのよ?だから謀反した二人は殺さないといけないわね…ギュスターヴとゴドーの仇討ちという形にはなるけれど、勇者にはさすがにまだあなたの能力では命令できないと思うわ」


 万魔の美貌とやらで僕が誰かに命令すればその通りに動いてくれる。その命令している最中は意思を反して行動もさせれるけど命令し終わった後は記憶を持っているから注意しなければならないらしい。


 僕が眠ってる間のことだったとはいえ、記憶がどうにも曖昧なのはなんでだろうか?起きていれば謀反なんか命令一つでどうにかできただろうに。


「味方にはできないの?命令できるんでしょ?」

「無理やり従わせることはできるかもしれないわ?でもあなたさえいれば魔族は大丈夫」


 そう言って優しく抱きしめてくるリビリアはとても安心する。


「レアラはともかくテトは従わせた方がいいと思うんだけど?竜と一緒にいれるのはテトがいるからだよね?」

「正確に言えばテトがいるからではないわ。まぁ…古木の竜が報復を願えば竜が敵対してくる可能性があるのはたしかね」

「それじゃあ――」

「古木の竜を従わせればいいでしょう?テトよりもそっちの方が安全だわ」


 そうか。何故かテトはそんなに殺したいと思ってないのだけど、どうにも判断能力も鈍ってる気がする。

 裏切ったのはレアラとは言え、テトも裏切り者なのだから殺すのは別におかしいことではない。


「それじゃあ勇者はどうするの?」

「勇者に関してはあなたが周囲の者に命令して殺せばいいわ。どうしても危ないときは私が傍にいるから大丈夫」


 それならいっそのことリビリアがなんとかすればいいのではと思うが。それともそれほどまでに勇者は格別な存在なのだろうか。

 実際にゴドーとギュスターヴを倒してるから相当な実力者だとは思うが、だからこそ僕には手が負えるとは思えない。


 魔王か…あんまり実感が湧かないな。そもそも魔王として教育されてた記憶もないし。寝ぼけてるとリビリアは言うが、今までの記憶が全くないのは何故なのか。


「そういえば僕魔法を使おうと思ったんだけど発動しないんだよね?魔眼なんだけど」

「あぁ、あのフィンがよく使っていた目に魔力を通していたやつね。いらないと思ったのだけれど、いる?」

「あったほうがなんというか僕にはしっくり来ると言うか…今までそれに頼って生活してた気がするから」

「そう…次があればそうしておくわ。フィンが使える魔法を教えておいた方が良さそうね」


 そう言ってリビリアが部屋の中にある数ある本の内何冊かを取り出して探していく。

 そしてしばらくしてから見つけたと言って僕にその本を手渡してきた。


 内容を確認すると使えなくはなさそうな魔法がいくつかある。


「これは僕がやっても魔力暴走するんじゃないかな…」

「大丈夫よ?むしろそれ以外を使えば暴走する危険があるからなるべくこの本に書いてあるものだけを使ってほしいわ」


 そう言われるので試しに使ってみようと初歩的なものを選んで使おうと思ったのだけど魔眼を使えないことに違和感を覚えて魔法糸を癖で出そうとするがそれも上手く出てこない。


 魔法糸が出なければ僕は魔術を紡げない…ただそれを言えばまた寝ぼけていると言われそうな気がしたから魔法として行使しようとすれば紫色の炎が目の前に出てくる。


「綺麗な紫ね!それにちゃんと魔法も発動出来てるし大丈夫。感覚はそのうち慣れると思うわ」

「えっと…なんというか意外というか…」

「フィンが夢と混合して忘れてるだけで体はちゃんと魔法を使うことを覚えているのよ」


 そうなのか?そうなのだろうか。それなら別に問題はないのかもしれない。


 二人でそんなやりとりをしているとドアがノックされてリビリアが許可すると中からフィブラが現れる。


「リビリア様…それと…」

「どうしたのフィブラ?フィンよ?」

「そうですね。フィン様、レアラが激怒して魔王城を破壊して回ってるそうですがどうしますか?」

「無視していいわ」


 僕が大丈夫なのかと疑問に思ってリビリアを見れば優しく笑って状況を教えてくれる。


「そもそもここは魔王城ではないわ。だからレアラが怒っているのは八つ当たりでもしてるんじゃないかしら?」

「そうなんだ?じゃあここはどこなの?」

「ここは…まぁ話すほどのことではないわ。魔王城から離れた私とフィンのためのお城よ」


 魔王に就任したときに魔王城がありませんでした。なんて恰好のつかないことになるのはどうでもいいのか。

 それに魔王城は資料によれば城下町もある魔領ではかなりの規模がある場所のはずだけど。


「テトが捜索してますからいずれこの場所もばれるでしょう。リビリア様はどうされますか?」

「やはり空を飛んでくるのは厄介ね。でも竜が来てくれるのはむしろ嬉しいわ。フィンが出れば移動手段が手に入るのだから」

「その…フィン様は大丈夫なんですか?」

「大丈夫よ?おかしなことを言うのねフィブラは」


 現在進行形で寝ぼけていると扱われているのに本当に大丈夫だろうか。それにフィブラが僕を見てきた目つきが嫌悪感を出している目つきなのは間違いないだろう。こんな風に見られることは慣れているはずなのに。何故だろうか。


 フィブラが今まで僕の知ってるフィブラなら確かに嫌悪感を少しは出していたかもしれないけど今はより一層酷いものだ。まるで穢れそのものを感じて近づきたくもないというような雰囲気すら感じる。


「フィンは初めて会うわよね?この人は――」

「四天王統括のフィブラでしょ?初めてじゃないと思うんだけど?今までも何度か会ってるし…色々手配してくれたりとかもしてたよね?」

「そう、そうよフィン!私としたことがフィンはてっきりまだ寝ぼけてフィブラのことを忘れてしまったかと思ったわ!」


 嬉しそうにリビリアは飛びついて抱きしめてくる。

 フィブラは反対に嫌悪感から驚いた目つきに変わり恐る恐ると言った感じで口を開く。


「本当にフィン様なのですか?」

「むしろいつもなら嫌味を言われるのかと思ったけど…状況が悪そうだしリビリアに任せて少しは休んだら?」

「いえ…そうですね。たしかにその通りですが…」


 さすがに四天王統括ともなれば忘れるはずもないのだが…フィブラの反応もさっきまでの嫌悪感がどこか薄れているし、もしかしたら眠る前に何か悪いことでもしたのかもしれない。


 今ここで聞くのもリビリアをぬか喜びさせてしまうだけになるだろうし、大人しく二人の会話を聞いておこうと思ったらフィブラが喋りづらそうにしている。


「フィブラ?報告は以上なの?」

「いえ…テトが勇者一行を連れて捜索しているのですが…よろしいのですか?」

「大丈夫よ!だってフィンがいるんだもの…とはいえフィンのことを考えるとテトと勇者を戦わせるように仕向けてもどちらが勝つかわからないわね?少数なのかしら?」

「少数ですね。リビリア様というよりはフィン様への対策なのでしょう」

「レアラも必死ね。よくもまぁ死骸一つでここまで分かったものだわ」

「堕落の霊長が完全に勇者側についてますからね。その…死骸が最後に何かやった可能性はあります」


 死骸というのは分からないが、堕落の霊長と言えば四天王の一人ではないだろうか?なんというかほとんど魔王軍を裏切っているんだな。

 いくらフィブラがこちらにいるとはいえ魔族も崩壊寸前まで来ている気がする。


 フィブラは報告を終わり。リビリアがなんと言うか待っているがさすがのリビリアも判断に困っているのか…。


「同じ過ちを繰り返すのは愚者の行うことね…フィンに頼みたい気持ちはあるけれど今のフィンは万魔の美貌以外はほとんど使えないものね…」

「その、ごめん」

「別に謝ることではないのよ!?むしろ私の方がごめんなさい…少し追い込まれていて…本当にごめんなさい」

「いや、大丈夫だよ?本当なんでこんなことになってるのに記憶が曖昧なのかごめんね」


 僕は…考え違いをしていたのかもしれない。万魔の守護者と言えば最強と言ってもいいと思っていた。それでも追い込まれていてこんなに弱弱しいリビリアを見ていると僕はどうにかしてあげないとと思う。


 ただし、今の僕は魔法がまともに使えない。何か協力をしてあげたいがそれができないものか。


「リビリアは僕に何をしてほしいの?できることなら手伝いたいよ」

「フィン…?」

「あんまり何ができるとかは分からないんだけど、少しでも役に立てるならそうしたいかな」

「嬉しいわ…とてもとても嬉しい。でもねフィン、これはとても危険なことなのよ?それでも大丈夫かしら」

「そんなに喜んでくれるなら十分頑張れそうな気がするよ」


 喜んでいるリビリアを見ていると落ち着く。それとは裏腹に嫌悪感とは違う目で見てくるフィブラを見て、何か言いたいことがあるのではないのかと思っているとリビリアが僕を抱きしめてゆっくりと作戦を告げる。


「フィン?恐らくレアラ達の狙いはあなたよ?だからあえてフィンがテト達に見つかり潜入してきてほしいの」

「え?僕殺されない?」

「それは大丈夫よ。むしろレアラもフィンが魔王になることは賛成のはずよ。とはいえ恐らく私とは違って向こうは平気で嘘を吐いてくるわ。だからフィン…一人一人確実に…それでいて誰の言うことも信じずに殺してきてほしいの」


 わりと無茶な要望な気がする。とはいえそこまで追い詰められているといえばリビリアの心境は穏やかではないのだろう。


「僕なら勇者以外は万魔が通じるんだよね?」

「そうよ、今のあなたならテトもレアラも逆らえないはずよ…ただ迷惑なことに堕落の霊長には通じないわ。それが関与しているから堕落の霊長と勇者がいない時を狙わないとばれるわ。もしくは全員が集まっているときに一気に命令してしまえば同士討ちを行い始めるわ」


 それならなんとかなるんじゃないだろうかとも思う。

 ただやはり僕の存在が勇者達からしたら討伐対象なのではという考えもある。


「不安なら別の方法を考えるわ。フィンはまだ少し寝ぼけてしまっているものね」

「そんな何度も言わなくても…不安なことは勇者かな?魔王を倒すための存在なんでしょ?勇者って」

「それなら心配しなくてもいいわ。勇者はあなたの美貌で虜だもの…だからこそ綺麗な言葉を並べ立てることでしょうね」

「僕と勇者って会ったことあるの?」


 勇者なんて書物でみたことくらいな気がしたけど…黒髪で黒目の異世界人。

 でも書物は文字だけだったような気がするのにどうしてか見た目がそうだと思う。どこか幼いような見た目をしていてそれでいて弱さを兼ね備えた。


 リビリアは言いづらそうにしているがどうしたのだろうか?


「会ったことは無いわ…ただあなたに似た存在を勇者は知っているの。そして似た存在もフィンという同じ名前なのよ」

「ん?じゃあ見間違えが起きるってこと?」

「そうね…見間違えて変なことを言ってくるかもしれないわ。初対面なのにすでに知り合ったことのある関係のように…」


 そんなことありえるのだろうか?ただリビリアは嘘を吐かない。だから大丈夫だとは思うが心配そうにしているのは何故だろうか。


 僕は不安そうにしているリビリアを見て思わず抱きしめて頭を優しく撫でる。


「ふぃ、フィン!?」

「大丈夫。なんとかしてみせるよ。だから安心して待っててほしいな」

「フィン…そうね!愛しているわ!この世界の誰よりも大切なあなたの言うことを私は信じるわ!」


 問題はリビリアが言ってたようにタイミングなんだろうな。堕落の霊長もそうだけど僕の万魔もそんな便利な物に感じられないし。


「フィブラ?くれぐれも失言のないように頼むわ」

「はい…」


 いつものようにフィブラが連れて行ってくれるのだろう。いつもと言えば僕がフィブラを知っているのをリビリアは喜んでくれたし僕が本当にど忘れしてるだけなのだろう。


 ただ隔離塔での生活も嘘だったのだろうか?今まで使えてたと思っていた魔法も夢?


「フィン様、準備に時間がかかりますので明後日までに準備を整えてもらえますか?」

「わかったよ。とは言っても僕は準備するものがないから何週間も待たせるようなことは無いと思うよ」

「…そうですか。明後日また来ますね」


 そう言ってフィブラは部屋を出ていく。

 僕も何か勇者たちにむけて作戦を考えた方がいいのだけど今のところ何が起こるか分からないから作戦の立てようがない。


「フィン?そのいつまで撫でてくれるのかしら?」

「え?あぁごめん、リビリアが不安なのかと思ってつい」

「いえ!嬉しいわ!準備は私がするから二人の時間をゆっくりと楽しみましょう?」


 そう言って僕を強く抱きしめてくるので優しく頭を撫でる。

 少しでも僕を愛してくれる人の不安が無くなるように。


 それからは二人で魔法の練習をしたり、僕が記憶違いをしてないか確認をするのだが大抵のことが記憶違いらしいことを言われる。


「フィンと私はずっと仲良しなのよ?フィンも私のことを愛してくれてるといいのだけれど…」

「上手くは言えないけど、僕もリビリアを愛せれたらと思うよ。その気持ちは記憶違いじゃないから」

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