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四十七話

「いくら話しかけても何も答えずギュスターヴが死んだことを聞いても何一つ動じることなどなかったですね?フィンを返してもらうにはリビリアから止めなければとテトと一緒に判断したところでもう遅かったんですよ?ゴドーに話しかけてもギュスターヴの仇討ちをすることしか頭になかったです」


 肝心な部分はリビリアの胸の内に秘めたままということだろう。

 その話を聞く限りだと魔王がいつリビリアに殺されたのかは分からないが何か目的があってやったのは間違いないと思うのだが。


「なんとなくの流れは分かったけどリビリアの目的が分からないんだけど?」

「そうですね?そうでした!血統魔術ですよフィン。私達を殺す目的があるのだとしたら陛下の血を受け継いで相手の体を乗っ取ることができる魔法を使えるはずです?そのことをリビリアは思ったはずです!でなければ陛下の子を逆賊扱いなどするはずがありません」


 そんな簡単に使えるようになるのか疑問だがリビリアの方を見れば疲れた態勢でスピラとただ睨み合ってるだけだ。


「僕が騙されたというのは?」

「そもそも陛下は魔王の立場にいるだけの者でしたが陛下は魔族です。リビリアの言う魔王とはフィンそのもので逆賊であるのはフィンも同じはずです?勇者はフィンなんです!」


 血筋的な話しでいけばそうなのかもしれないが…そもそも勇者になった覚えがないのだけど。


「勇者は魔王を倒すものであり、リビリアは魔王という存在を兄弟達にその役目を押し付けました。あとは出来上がったシナリオを踏んでいけば陛下の望みだった魔王が誕生するだけです」

「シナリオって…僕はそんな簡単に倒してはいないのだけど。それに真の勇者のところへ連れて行くと言われてアキ…後ろの人間たちのところへ僕は連れていかれたよ?」

「フィンは勇者が何人もいることは知りませんか?真の勇者と呼べるのはフィンくらいですよ?ただそうですね…陛下の意思を継いだというには少しおかしいところもありますが?」


 レアラの言い分だと僕は勇者となって魔王になる物語を進んでいたらしいけれど、それがアキ達を生き残したい。人間を助けたいという思いがリビリアにとって許せないことと繋がるとは思えないんだけど。


 その中アキがこちらの方まで歩いて来て、今までの話しは聞こえていたとは思うがわざわざどうしたのかと思って見ているとアキがリビリアの方まで近づいていく。


「アキ危ないよ?」

「いや。俺は以前その、リビリアさん?に会ったことがあるんだけど…」


 話しがややこしくなってる中また新しい情報だろうか。


「俺が…っていうかこの世界に来てから魔物と戦って殺されかけたときに助けられたと思うんだけど…記憶違いでなければ俺の知ってる人なんだよ」

「別におかしいことではないのではないですか?フィンを勇者の元に連れて行くという言葉から勇者の位置や場所を調べていたというのであればその偶然もありえます?全然おかしくはないです」

「そっか。それだったら話の腰を折ってごめん。でも、俺はリビリアさんがフィンを勇者にしようとしてるって話しおかしいと思うんだけど」

「…。聞きますよ?勇者も茶会の招待客ですよ?話したいことは話すべきです」

「その魔王については聞いていてもわかんないんだけどさ。嘘は吐かないんだよな?それならフィンを大事にしていたのは間違いないと思うんだ。それなのにそんな危険な真似するかな?」


 アキが話したいのはわざわざ用意されたとはいえ、僕とは明らかに戦力の差が開きすぎてる兄弟達を倒すなんてことを出来るかという話だ。


 シナリオを進まされていたというには何回も死にかけたし、リビリアがそんなミスをするとも確かに思えはしないけど。


「それで俺が言いたいのは――」


 スピラが瞬時にアキを守り、リビリアが再度魔法を展開し始める。

 四天王という存在を舐めていたわけではないがリビリアと対等に渡り合えるというのはさすが真の魔王に付き従っていたというべきだろう。


 テトとレアラからしたら勇者はそんなに大した存在ではないのは分かるが僕からしたらアキが死ぬのは困るので魔眼でスピラを直視しないようにリビリアを捉えようとしてレアラから離れたのが間違いだった。


「フィン!?」


 リビリアが放つ魔力の流れがアキとスピラではなく僕を狙い始め、これは避けられないなと他人事のように思いリビリアを見ると歪んだ笑みに満ちている。


 僕の体がまた痺れるような感覚に陥り失血し、一面を汚していくのを眺めている。


「『リビリア、目的を言って――』んぐっ」


 かろうじて言葉を発するも届かず血を吐き出すしかできず。レアラを見るがレアラが術式を僕に行使しているが鈍い感覚が戻ることはない。


「リビリア…何をしたんですか?何をしているんですか!やはりおかしくなってしまったんですね?そうなんですか!」

「大丈夫よ…フィブラ撤退よ」


 そう言ってリビリアとフィブラが去っていくのを全員が警戒しながらもみんなが僕の元へ駆けつけてくれて治癒しようと何かをしている。

 スピラがなにかしているが、スピラでも治せないなら僕はもう駄目なのかもしれない。


「我では無理だな。そこの人間の神官で無理なら諦めよ」

「あたし!?いや…それこそレアラさんと四天王さんで無理なのにー?」


 戸惑いながらもヘレスが指名されて教会の術式を施すが、それでも僕が治る気配を感じない。


「ヘレス!駄目なのか!?」

「駄目というか…あたしより詳しい魔族に聞いた方が早いわ」


 なんとも呆気ない終わり方をしてしまったものだ。

 レアラとスピラを見るも手の施しようがないと言った様子で見られてしまう。


「私にもこの攻撃が当たったことはありますね?あるのですが私の場合は自己再生するだけで治ります。恐らくリビリアが私を殺すために用意した魔術なのですが?他の者が当たれば見ての通り知ってる術式では治らないのでしょうね」


 対レアラ用の魔法ともなればこれくらい用意してもおかしくはないだろう。レアラの不死身と言える再生を見た後ならある意味納得だ。


 それでもどこかリビリアなら僕を殺さないくらいの気持ちを持っていた油断もあるのかもしれない。


「その、テトさんはどうにかならないんですか?」

「黒髪の。無理だ!私も自分の体に頼り切った再生ならともかく他者を癒すのは霊長か…いまだ様子を見てる回廊の付箋くらいなものだろう」

「それならその人に!」

「霊長が何故協力してるのかは分からないし、フィブラもそうだ。自分の意思でしか四天王は行動しない」

「フィン!待っててくれ、またいつもみたいになんとかなるはずだ」


 そうは言ってもテトが説明してる間もスピラ以外の四天王は立って動く気配がない。

 ヘレスも無理だったようだし今からでは絶望的なのではないか。


 状況を分かってるかのようにスピラはアキを押さえて、近くに来て僕の傷を再度診てくれる。


「フィよ、分かってると思うが貴様は死ぬ。何か言い残すことはあるか?」

「アキ達を…人間の国に返してあげて…」

「そうか。分かった」


 スピラがいるなら大丈夫だろう。少なくともここに来るときになんとか守ろうと思っていたことはできたわけだ。

 ただやっぱり今でもあまり実感湧かないなぁ。リビリアがこの場で敵対して死ぬのか僕は。


「フィン駄目だ!まだ何も説明を受けてない!俺が…なんとかするから」


 何度死にかけたかもう覚えてないがいつもの暗くなる感覚が迫ってきてる。

 結局使う機会の無かったスピラから貰った指輪をアキにあげようと思ったが自分の体がどうなってるのかそこでようやく分かった。


 胸から右腕にかけて吹き飛んでしまっている。

 失血死以前の問題でこれじゃ喋れるだけでも良かった方だろう。


「スピラ…指輪を…アキに」


 言いたいことがあまり言えないがスピラは意図を汲み取ってくれたのかアキに指輪を渡してくれる。

 アキからしたら何を渡されたのかも分からないだろう。ただこれがあれば多少リビリアがアキの敵になったときに役に立ってくれるだろうと少し安心した。


 あとはレアラあたりにでもナナシの誤解を解いてもらえればナナシの方も安心して帰れるだろうなと思うがちょっと喋るのは疲れてしまった。

 ヘレスの方から説明してくれることを祈るとしよう。少なくとも僕がフィブラに命令していたのを全員は見ているわけだから上手いこと説明してくれるかもしれない。


 みんなが近くに来てくれて優しい視線を向けるが。みんなからしたら最初から茶番だったろう。結局僕が何かしなければ全員が苦労することもなかったのだし。


 とはいえせっかく見つかった愛が。愛…。


「フィン大丈夫。大丈夫だ。なんとかなるはずだ。これまでもなんとかなっただろ?俺が、必ず救って見せるから」


 愛がここにあるのに。僕はアキを愛してあげることができないまま終わってしまう。それは嫌だなと。


「俺が助けるから」


 助けるという言葉で思い出すのはヘレスに助けてみろということを言われたのを思い出して叶えれそうにないことを謝罪してなかった。


「ごめ――」


 最後まで振り絞って謝ろうとしたが意識が暗くなっていって最後まで言えたかは分からない。

 それでも良かったのかもしれない。最後までいって謝るなんてここまでしておいて今更ではないか。


 結局リビリアは何をしたかったのだろうか。魔王…父上と魔王の正体については分かったけどリビリアのしたいことがなんだったのか分からないままだ。僕はもしやり直せるのなら、もっとリビリアのことを分かってあげるべきだったんだろうか。


 愛が。愛がほしい。愛さえあれば、リビリアのことを愛してあげれていたら。きっと。









「おはようフィン」


 目が覚めるとそこには、隣にリビリアがいた。何があったのか、いまいち思い出せないけれど、僕は眠っていたのか。


「なんでここにいるのか分からないけど姉上。守護者と呼ばれるリビリアが隔離塔に来るなんて珍しいですね」

「あら?勘違いしているわ、ここは隔離塔ではないわ。きっと寝ぼけているのね…」


 そう言われて周りを見ればたしかに隔離塔ではない。

 寝かせられている場所もベッドで柔らかな感触だ。


「えっと…なにが?」

「フィン可愛いわ!きっとあなたは色んなことが起きて困惑しているのね!でも大丈夫よ。私が…私とあなたがいれば出来ないことなんて何もないもの」

「ど、どうしてそんな迫ってくるのさ!今までそんな素振り…なかった…?」

「何を言ってるのかしら?私は今も昔もずっと愛情を注いでいたわ。本当に寝ぼけてしまったのね。少し休むといいわ」


 そう言ってリビリアは起き上がって、テーブルの近くにある椅子に座りお茶を飲み始める。


 色んな事があった気がするんだけどどうにも思い出せないのは夢でも見ていたのだろうか。


 僕はいつも通り本でも読んで過ごしてそこから変わりない日常を送っていた時に何かあったような。


「姉う…リビリア?僕は隔離塔にいたんじゃないの?」

「違うわ。フィンはずっと私と一緒にいたわよ。隔離塔の記憶があるのはおかしいわ?あれはかなり前に壊れてから修理もしてないもの」


 そうなのか?では隔離塔で過ごしていたというところから夢だったのだろうか?

 自分の体なのに右腕があることに違和感を感じながら起き上がり、どうしようかと悩んでいるとリビリアが手招きしてくる。


「目が覚めたのなら髪を綺麗にしてあげるわ。いらっしゃい」

「う、うん?」


 リビリアの向かい側にある椅子に座り、リビリアは部屋に置いてあった櫛を持って僕の髪を優しく梳いていく。こんなことされた記憶はないのだけどあまりにも自然な動作で手慣れているものだから本当に僕は寝ぼけているのかもしれない。


「フィンはもう少し身だしなみに気を付けるべきね。せっかく可愛いのだから」

「今までそんなこと気にしたこともなかった」

「いつも言ってるのよ?気にしたことないのは私としては悲しいわ、聞き流していたの?」


 あまりにも悲しい声音をするものだから焦ってしまい何か言わなければと思うが本当にそんな記憶がないのだ。

 僕は今までリビリアと話した記憶がそもそも指で数える程度しかないはずだ。


「なんかごめん?これからは気を付けるよ」

「本当に?それならいいのだけれど…それじゃあフィンのやりたいことをこれからやっていかないといけないわね。フィンは今までまともに立つこともできなかったのよ?」

「え?どういうこと?僕は…」


 僕は旅をしていた。そう言おうと思ったがこれもおかしな話しだ。リビリアはずっと一緒にいたのだから旅なんてできるはずもない。


「ほらまた寝ぼけてるのよ。悪い夢でも見ていたのかしら?」


 そんな和やかに時間が流れていく中、僕の髪を梳くだけじゃなく結ってなんとも言えない髪型にされてしまい鏡を見せられたが自分の姿をまじまじと見る。


 紫の髪に紫の瞳。魔族の特徴だ。ただ人間と同じような姿から忌み嫌われていた気がする。


「どうかしら?フィンの好きな髪型にしてみたわ」

「僕の好きな?」

「フィンはこういう髪型好きではないかしら?」

「別に髪型に興味を持ったことはないんだけど…リビリアはなんで僕にこんなことするのさ」

「それはもちろん愛しているからよ。だからつい可愛がってしまうの」


 愛という言葉に思わず魔眼を発動するように術式を行使したつもりが特に何もなく僕はリビリアを見るだけになった。


 その顔はとても慈しみに溢れていて。僕が求めていた物に近い気がする。


「フィン、あなたにやってほしいことがあるの」

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