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四十六話 万魔

 そう。あれはなんでもないことですね。ただ私は言われたんですよ。


「父上?」

「また贋作が出来上がってしまった」


 以降、父上と呼ぶことは無く立場もあり陛下と呼ぶことにするしかなかったんです。そうしなければ贋作と言われるだけですから。


 ただゴドーもギュスターヴも愚かにも父上と親父と呼び。テトは慰めるために魔王と呼んでいるんです。これがおかしいと言わざるを得ないでしょう。

 もはや妄執に囚われた存在でした。


 リビリアだけはどうやら父上と呼んでも贋作と呼ばれずにいたようですが、それも利用価値があるからに過ぎないだろうと分かるまでの話しでした。


 陛下は、かつて君臨していた本物の魔王を再現することに憑りつかれてしまっていた。それを誰も何も言わずにいることがただおかしかったです。

 でも私も周りの姉妹たちのことは言えないのでしょうね。あらゆる文献、書物を漁り魔王がどのような存在であり、どのような能力なのか調べ上げて陛下に進言すると喜んでくれるのだから。


 私達は魔王の贋作。

 リビリアは魔王の魔法を受け継ぎ。

 テトは竜族との会話や身体能力を受け継ぎ。

 ゴドーは屈強な肉体だけを受け継ぎ。

 ギュスターヴは一瞬だけ魔王と同等の力を受け継ぎ。

 私は無駄な生命力だけを受け継いだ。


 所詮は贋作に過ぎない私達だが間違いなく本物の魔王を受け継ぐ力があるのだ。それでも陛下は満足をすることがなかった。しかし調べても調べても何も分かることはない。

 そもそも所詮はたかが一魔族に過ぎない私達がどれだけ頑張ってもオリジナルになることなどありえないのだ。それなのに陛下は魔王を求める。一体そこにどんな価値があるのだろうと夢見るも陛下の気持ちは欠片も分かりはしない。


 なんてことはない陛下もおかしいだけだったんです。


 万魔と呼ばれるありとあらゆる魔を司る魔王への憧れ。もはやそれは子供が夢を語る児戯そのもの。ただそれでも私達は陛下を慰める。

 あるものは傍に着き。あるものは言葉で慰め。あるものは無垢に。あるものは期待を背負い。あるものは児戯に付き合い。


 陛下が弱いと気づいたのはいつだっただろうか。もはや陛下の子が挑めば誰でも勝てるほどの弱さしか持ち合わせていない魔族だった。


 ただ不思議なのこともあった。魔王に付き従ったと言われる長命種の四天王は陛下に従っているのだ。だから聞いたことがある。何故陛下に従うのかと。あれは魔王ではないのにと。


 書物を整理する回廊の付箋は語る「魔族の繁栄」だと。

 竜を従える古木の竜は語る「かつての約束」だと。

 魔力の根源堕落の霊長は語る「友の情」だと。

 人形を軋ませる空洞の残骸は語る「亡くなった者の願い」だと。


 誰もかれもが憐れんでいた。それでも魔王を知るものがいるのなら陛下の望みが叶うんじゃないかと私は諦めなかった。諦めてしまえば良かったのにどうしても捨てきることが出来ないでいたんです。


 そして陛下は今日も魔力を練る。陛下の魔力が、陛下の血が混ざった時点で贋作となることは分かっているのに。本物の魔王は一体どこにいったのか、それさえ分かればくだらない妄執が終わってくれると信じて調べ尽くし私は懇願しました。


 答えてくれるであろう可能性を賭けて堕落の霊長に今のままでは駄目だとそれこそ情に訴えかけて。


 結果だけを言ってしまえばそれは悪いことでした。

 魔王の正体はなんてことはない人間だった。それも勇者と呼ばれる存在。


 魔族でさえ無いのにどうすればいいのか。最初から陛下の望みは叶うことなんてなかったのでした。

 もし私が愚かにも知ったことを話しさえしなければ死ぬまで妄執に憑りつかれてくれたのでしょう。


 魔王の正体が勇者と分かったのちに陛下は魔王を今度こそ再現しようとした。その結果生まれたのは醜悪な物だった。生き物と呼んでいいかさえ分からない肉の塊。それを何度も何度も何度も作っていました。


 もう魔族を作ることもないだろう。私はそう思っていましたし、リビリアも同じ意見だったので私とリビリアは諦めてしまいました。


 それからの日々は実に穏やかに過ごしていました。私は知りたいことを知り、テトは竜と交流し、ゴドーはギュスターヴと一緒にいたがり、かといえばギュスターヴはひたすら鍛錬を繰り返し。


 今思えばこれでようやく陛下から姉や兄は妄執に付き合う必要はなくなったのだと前向きに捉えました。あとは少なくとも魔王と呼ばれた者の再現者で本物の万魔を作っていこうとしました。


 色んな混ざりものの私達が頑張れば本物になれると信じて。


 そんな中どうやったのか、招集がかかりいけばまるで人間のような子が魔族の象徴を有し陛下に抱かれていた。


 そうか、完成したのかとその時は純粋に喜んだ。喜んでしまった。


 その子が成長すれば陛下も普通の魔族として、家族として生きていけるようになるのだろうと。


「レアラ!来て頂戴!」


 いつものように本を呼んでいた私はリビリアの慌てた様子を見て一緒についていくと狂った陛下の姿とリビリアが施した守護の魔法で守っていた赤子の姿。最初こそ何が起こったのか理解なんてできるはずもなく陛下を鎮めて、リビリアに事情を聞きました。


「父上がやろうとしていたことは自分の記憶も魂も赤子へと移す魔法よ」

「何を言ってるんですか?また陛下がおかしくなったとでも言うのですか?」

「ただの魔族だと思っていた父上にも才能があったのでしょうね。本気でやろうと思えば私にもテトにもゴドーにもギュスターヴにもあなたにもなろうと思えばなれたのよ」


 このままでは新しい子が乗っ取られてしまう。それもただ産まれただけの無垢な赤子が。

 事態は急を要すると陛下以外の家族をリビリアは集め一つの提案を全員に話し始める。


「フィンを同じ環境で育てましょう。そうすれば私達と同じように育ってくれるわ」

「貴様!何を言ってるんだ!?魔王の求めていた存在を私達と同じようにするのか?」

「テト落ち着きなさい。フィンには私達と同じ家族になってもらうためよ?父上はこの子を殺そうとしていたのよ?」

「しかし…」


 テトの反対は最もだった。私達は陛下をこれまで慰め続けてようやく念願が叶ったのだ。今更魔族一人の命を差し出すことくらいならと。


「どこをどう見たらあの子が勇者だと言うの?人間ですらない魔王ですらないのに父上はまた同じことを繰り返すだけだわ」


 せっかく私たちは自由になったというのに同じことを繰り返すという言葉を真摯に訴えるリビリアを見て全員は悩み、陛下からその子を遠ざけるという提案を飲んだ。

 それぞれがいつになったらフィンと出会える年齢になるのだろうと思い馳せながら。


 成長している様子はリビリアからの報告だけにどうにも待ち遠しく感じていました。

 それと同時に陛下の様子もリビリアから聞いてはいましたが落ち着いたという報告を聞いて陛下も魔王とは言わないまでも万魔の何かと呼べる存在になったフィンを見たら今度こそ家族として接することもできるかもしれないと。妄執から解き放たれて自由になるのだと。



 そんな私が夢を思い描くなんてことをして誰も彼もが束縛のない世界を望んでいるなか人間は攻めてくるからとギュスターヴは兵を率いて国境付近まで行き。

 テトは竜の住処で竜と一緒に暮らし。

 ゴドーはいつかを夢見て家族が楽しめる場所を作るのだと似合わないことをしだして。


 私が陛下の様子を見に行ったのは本当にただの気まぐれにすぎない。リビリアの報告ではただ安静にしていると言っていたがどこかまた妄執のように肉の塊か魔族を作ってるんじゃと思い陛下の部屋を覗けばそこには誰もいなかった。


 最初は健康になったから外でも出歩いてるのかと思っていたが毎日覗きに行っても陛下が私室にいることは無かった。


 ただリビリアの報告の時間が来てリビリアは何事もないように語り始めました。


「フィンは順調よ、魔法だけじゃなく武術も鍛え始めたみたいで将来がとても楽しみね」

「そうなのですか?そうなのですね!ではそろそろではないですか?フィンも自由になるときが来たのではないですか?来ますよね!」

「まだ早いわ…。魔族なのだからゆっくりと待てばいいのよ」

「そうですか?時が流れるのは遅く感じますね?ですが、私はこんなにも成長しました!回廊の付箋も私の知識量には驚いていると言ってました!本当ですよ?」

「分かってるわ。万魔の知識ですものね…」


 そうは言うが。知識なんて誰でも漁れるから長生きであれば別に私のやったことなんて大したことではない…それよりも私達が考えた。陛下とフィンを守ってきた万魔の守護者をもっと誇ってほしい。そう感じていました。


「父上についてはいつも通り安静にしているわ」

「…?安静ですか?」

「そうよ?まぁそうね、やはり魔王への羨望は凄いみたいだけれどきっと分かってくれるわ」

「私の時間間隔が狂っているのですか?狂っていましたか?陛下をしばらく見ないのですが!リビリア陛下はどこに行ったんですか?」

「しばらく見ないって…レアラは父上に呼ばれたの?」

「いえ…呼ばれてないのですが?むしろ部屋にいないのは変ではないですか?毎日覗きに行ってるのに全然お見掛けしないのですよ!」

「そう。レアラは時間帯が悪かったのかもしれないわね。父上は部屋にいる時が無い時間なのではないかしら?」

「そうですか?リビリアがそう言うならそうなんですが?安静にしてるなら良いのです!兄弟はほしいとは思いますがまたおかしくなられては困りますね!」

「そうね。父上はそうやって家族を狂わせてしまってたものね」


 言い方が気になった。ただそれだけでしたが確信に至るにはリビリアの特性はあまりにも歪すぎました。真実を語るのは血統魔術を扱う異常免れられないものだと思っていました。

 私にも色んな混血がある分不便な特性というものをなまじ理解していたがゆえにリビリアの語ることは全て真実なのだと信じていました。


 それからも毎日陛下の部屋へ足を運ばせるがどこにも見当たらない。少なくともこの魔王城で見たという者もいなかった。もしかしたら陛下はテトなら知ってるのではとテトが城へ来たときに聞きましたが知らないと言うばかり。


 どこに行ってしまったのか。ただテトと話すとフィンの成長を互いに楽しみにしている話しができて楽しくはありました面白くはありました…。

 ずっとずっとずっと何故と思いながら。


 私は部屋を出て王城を歩いているとリビリアが疲弊した様子で歩いているのを見つけ何かあったのかと思い話しかけました。


「レアラ?」

「どうしたのですか?疲れていますよね?リビリアが疲れることなんてありました?」

「私を何だと思ってるのかしら…。レアラから見てそう思うならきっとそうなのだと思うわ。ただそうね、私が魔王になれたらと思うことが増えてきたわ」

「魔王はただの勇者だったじゃないですか?それに種族がまず違いますよ?違います?いえ何をもって勇者と呼ぶかですか?」

「勇者は魔王を倒しに来るものを勇者と呼ぶんじゃなかったの?別に種族なんて関係ないと思うわ」


 珍しい。リビリアが悩んでいるのなら私もリビリアのためになることを考えるがそもそも何に悩んでいるのか分からなかったから名案と思うのは勇者をもっとも知ってる陛下だと思いました。


「陛下に聞けばいいではないですか?一番魔王でありながら真の魔王を求めていたのは陛下ですよ?」

「父上が聞けば喜んで魔王復活を望むのでしょうね。ただそれじゃ駄目だったじゃない?だって父上はおかしかったんですもの」

「たしかにおかしくはありましたが…。こうして私達が産まれたのは陛下の妄執が生み出した産物ですよ?」

「レアラはたしか血統魔術に詳しかったわね?少し聞いてもいいかしら?」


 話しを変えるなんてやはりどこか疲れているのかと思いましたがせっかくリビリアが聞いてきたのならと私の知ってる範囲のことは教えたつもりです。

 その血でしか行えない魔術はたしかにありました。何故なのかも追及しました。


 結果だけ言ってしまえば、血の中に含まれる魔力に変換されたときに使える魔力がその魔術と安定して発動行使できるといった内容のもので別に血統と言えるほどの大したものではないこと。


「それはつまり血統なんて関係なく魔術は使えるのよね?」

「そうですね?ただ安定しないので魔力暴走が起きて大体は不発に終わりますよ?リビリアがテトの真似をしても腕が吹き飛ぶ危険があります?腕なら良いですがリビリアの魔力量なら身体も飛ぶので私と違う貴方がやることはおすすめしませんよ?言いましたからね?駄目ですよ?」

「わかってるわ。それに別に気になったところはそこではないもの」

「分かりませんよリビリア。疲れているなら休んだ方がいいと思います?それがいいです!たまには陛下たちのことを私に任せるんです!」

「駄目よ。レアラは自由になれたのでしょう?それに話したことで疲れはもうなくなったわ」


 まるで自分は自由ではないかのように話すその姿はいつものリビリアだったので違和感はなかったですが、今ので何が分かったのかをそこまで大した問題ではないと片づけてしまった私も実に愚かだったのですね。


 それからしばらくして夜に隔離塔が爆発したという城内にいる魔族から聞いて、またフィンが魔力暴走を起こしたのだと軽く考えていましたが。どうにも気になって仕方なかったのもあり、そして私がフィンに会いたいというただの我儘を抱いて隔離塔に向かいました。


 そこにあったのは大量の瓦礫と書物の破片。そして後付けするように異臭が伴っていました。

 どうしてこうなっているのか分からなかったですが誰も隔離塔が壊れたのにフィンの救出を行わないので少し焦りました。


 私は瓦礫をどかして中を探すも知らない魔族の死骸が転がっているだけで見つからないので急いでリビリアの元へ行けばお茶を飲んでいるリビリアを見て苛立ちが。私が嫌う感情に支配されていく感覚に陥りました。


「リビリア!フィンがどこにも見当たらないのですよ?何故動いてないのですか?貴方が一番に探さなければならないのではないですか?」

「落ち着いてレアラ。フィンは無事よ」

「しかし…いえ、リビリアがそう言うならそうなのですね?ですがどうなっているんですか?」

「ちゃんとフィンは戻ってくるわ。それよりもレアラ?父上が亡くなられたわ」

「そう…ですか。それは仕方ないことですがおかしいですよ?おかしいですね!今陛下の話題を出すのはおかしいではないですか?」

「次の魔王は誰かしら?私?」

「またその話しですか?魔王はリビリアが継げば誰も文句などないですよ。それよりもフィンはどこにいるんですか?」


 じっと見つめるリビリアの視線は私など見ていなくて、何を聞いても答えることがなかったから私は急いでテトの元へと行きました。

 なんで好き好んで山にいるのかはわかりませんが竜が好きなことだけは分かる分不便くらい許容するのですね。今は迷惑だと思いましたが。


「テト!フィンが消えました!いえ、リビリアの様子がおかしいというのもあります。竜を使って探してきてください!」

「何故…ここにというのもあるが…話しが見えん。レアラの話しが分かりづらいのは知ってるが一度冷静に話してくれ」


 テトは竜をすぐに動員してテトを探してくれましたし、テトも自らが動いてくれました。

 私がその間にしなければならないことはリビリアへ問い詰めなければならないということです。


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