四十三話
朝日が昇る前に僕はアキの部屋に向かい。小さくノックをするが返事がなかったのでそのまま部屋に入ればアキはまだ眠っていた。
出来る限り静かに歩いてアキのベッドに座り頭を撫でる。
この人と出会って色々考えることが増えたが僕は一人の生活をしていた時よりも果たして成長はできたのだろうか。
物語では色んな者と関わっていくたびに英雄は強くなっていったが僕は案外そうではなかった。
魔族の英雄と言える存在も殺してきたというのに僕は何も成長してないのは結局アキが英雄だっただけなのではないだろうか。この人と一緒ならどんな危機も英雄譚のように上手くいくのではないだろうか。
そんな風に考えていると頭を撫でているのがくすぐったからかゆっくりと目蓋を開けて瞳をこちらに向ける。
「…綺麗だ」
「ありがとう?」
「もう朝…?」
「まだだけど返事を聞きに来たよ」
「不意打ちはずるい…」
なにが不意打ちなのかは置いといて、起きて早々質問をするのは申し訳ないとは思う。
ただ断られるにしても分からないと言われるにしても置いていく判断をした場合ナナシとダルガンにフィブラの姿を見せるとヘレスに迷惑がかかる。
「本当はもう決まってるんだ。でも言ったら話す内容とか困っちゃうからさ…俺はやっぱりフィンが好きだ」
「そっか…」
「あ。あ、愛してるの方な?」
「そっか…」
「あ、反応あまり変わらないんだな。喜んだりとかしてくれるかと思ってた」
「きっとアキは異世界の人だし人間だし色々考えていたんだろうなと思うと嬉しいと思ってるよ」
ただ。これで僕の方向性は決まったわけだ。
人間の味方をする。そして残りの万魔、最悪リビリアを殺してでも魔族と敵対しなければいけない。
怖いとか思った方がいいのだろうけどむしろ諦めている方に近い感じだ。勝てるわけがないと最初から分かっていながら戦わなければいけない。
物語の英雄が今目の前でこんな感情が壊れた魔族を愛してくれてると言うのになんて情けないことだろうか。それでも出来ることはやらなければいけない。
「アキ。色々これから分からないことが出ると思うけど一緒について来てくれる?」
「元から分からないことしかないや。でもフィンが教えてくれるって信じてる」
「それとわりとアキからしたら嫌なことを僕はするかもしれないけど大丈夫?」
「今から不安を煽ることを言われると困るよ。一大決心のつもりで告白してからが本番って心臓が持つかわからん」
それはそうだ。ただこれからやることはひたすらに戦い続きだ。
頭を撫でる。それだけでゆっくりと時間が過ぎていき明るくなる。
部屋をノックする音が聞こえてヘレスが声をかけてきたので、現状を報告するのとフィブラの元へと行かなければいけない。
「アキちゃんのところフィンちゃんいるー?」
「ヘレス入ってきていいよ」
「はーい。どうなったのー?」
「行くことに決まったよ」
アキだけはなんのことか分からないといった様子だが、そのまま分からないままでいてほしい。
もし戦うことになったら僕が出来る限りは守ろう。
「そうなのねー…。じゃあ他にも伝えてくるわー」
そう言ってみんなに伝えに行こうとするので浄化を後ろからかけてあげると手をひらひらさせてドアを閉めていく。
「えっと、旅立つとは聞いてたけどその話し?」
「そうだよ。また戦うことになるかもしれないけど大丈夫?」
「あぁ。元々フィンと一緒にいるって決めた時点で倒さないといけないのは分かってたから」
そういえばテトに狙われているっていうことにまだなってるのだったか。実際はもっとやばいやつにも狙われているのだけどレアラに関しても倒す予定だったのだから大丈夫か。
アキが起き上がって装備を整え始めるので、僕も部屋に戻りリュックを背負いやり残したことがないか確認をする。
ヘレスが戻ってくると色々説明不足だとは思うけど何も聞かずにいてくれた。
「急に移動ってなったからナナシちゃんが一応携帯食になりそうなもの探してきてくれたけど足りるかなー?」
「どれくらいの日数ありそう?」
「節約して一週間だけどフィンちゃんの分ないけど大丈夫?」
「僕は魔族だから一カ月は食事しなくても大丈夫だよ」
「じゃあ大丈夫ねー」
節約してと言ってた割に干し肉をかじりながらヘレスは立ち上がる。
「なんというかヘレスもヘレスでわりと正直になったよね?」
「なによー?こんな旅してればストレスも溜まっていくしお淑やかにしても教会の目なんてどこにもないもの」
ストレス溜まってたのか。まぁ僕の知らない期間もずっと移動に費やしていたのだろうしその間の食事とかも考えたらこの休息期間がようやく休めた旅だったのかもしれない。
それもまた再開するわけだけど。
僕とヘレスが一緒に部屋を出ればダルガンが鎧を着こんで無くなった盾の代わりになる小さい鉄の板を持っている。
「おぉフィンさんヘレスさん。先に外に出ておいた方がいいだろうか?」
「そうだねとりあえず廊下に集まるよりは家の前に出ていようか」
家の前ではナナシが立っていて姿を大人しく晒してるのは珍しい。
会話は二人に任せてアキを待っていると出てきたので全員が揃う。
「待たせてごめん」
「大丈夫だよ」
「フィンちゃーん?どこにいけばいいのー?」
「僕について来れば大丈夫。みんなも黙って付いてきてくれるかな?談笑くらいならしてもいいけどヘレスにはある程度伝えてあるから安心してほしい」
そう言うとヘレスがすこしむすっとするが今まで感じていた嫌悪感のようなものではなく聞いてないぞという拗ねたような顔だ。
少しは打ち解けたと思えばいいのだろうが、行先は教えているのだから許してほしい。
そのまま魔眼を常に発動するようにして広場の方までみんなを連れて行く。
広場まで来たらナナシが呟くように喋っているのが少し聞こえた。
「子供と戯れていた…」
なんだかんだ要塞の出来事を多少なりとも隠れて見ていたのか。だとしたら僕が命令を下して殺している様子を見られていたら今頃は信用なんてなかったかもしれない。
しばらくそこに立っていると上空で旋回するように竜が飛んできたのでヘレス以外が警戒するようにしてるが僕が手を振ってみればそのまま降りてくる。
「僕の知り合いだから大丈夫。みんなは状況を知ってる風を装ってくれたら問題ないから」
緊張は解けてないが竜と言えば嫌でもテトを思い出すから苦い記憶だろう。
降りてきたのがテトではなく知らない女性だと分かれば少し安堵した空気が後ろから感じる。
「フィン様…本気で連れて行くつもりですか?」
「連れて行くよ。勇者も呼んでいたんでしょ?」
「そうですが、実際に来るとは思ってなかったでしょうね。はっきり言いますがフィン様が連れて来たからと言って状況は何一つ変わることはないんですがそのことは分かって言ってますか?」
「今更だよ、フィブラの方こそ出発となったのに不満ばかり垂れてそんなに暇だったの?」
「…まぁいいです。乗ってください」
「もっと竜を屈ませてくれない?みんなが乗れないからさ」
溜息を吐きながらも竜に飛び乗ったフィブラが竜に何かを告げて竜は伏せをするように屈んでくれる。
「さ、みんな?行こうか?」
「えと、大丈夫なんだよな?ヘレス」
「あたしに聞かないでー?」
「ヘレスさん竜に乗れるとは!」
「フィンちゃんに言ってー」
「ヘレス殿は知ってると…フィン殿が…」
「フィンちゃんが黙ってろって言ってたでしょー?」
悪いとは思うが僕に話題を振ってこられるとフィブラがまた何か言い出しそうなのでそのままヘレスに相手してもらうしかない。
僕が多少雑に竜の鱗を削るように足をひっかけて登るのを見てみんなも同じように登るのでそれを手を伸ばして掴んで手伝いながら全員が乗ったのを確認する。
「フィブラ、ゆっくり移動できる?」
「言われなくてもそうするつもりです。移動しながらの説明になりますが…本当によろしいので?」
「みんなはちゃんとしがみついててね?」
「はぁ…勇者だけかと思いましたが全員連れていくとは…」
相変わらず何か言ってるが竜がゆっくりと羽ばたきながら空を飛び地上から離れていくと後ろからは色んな声が聞こえる。
「吾輩実は竜に乗るのが夢だったのである!」
「あたしは地上の生き物だからーフィンちゃん落としたら許さないからねー!」
「急な移動だったけどドラゴンに乗るからだったのか!」
アキはできれば余計なことを言わないでもらいたい。そしてヘレスは僕ではなくフィブラを恨んでほしい。
ナナシは多分何を考えてるか分からないだろうし見なくてもいいんだが、これからフィブラが何を話すかによって色々考えることが変わるかもしれないな。
「フィン様。茶会は見ての通り南西に向かいます。というより戦場そのものが南西で行われていたのでそのまま南西で落ち着いた状況です」
「うん。とりあえず初耳だけどそのまま続けて」
「もう戦う気がないのかと思いまして言う必要が無いかと思ってました。とにかく南西でレアラが用意した茶会の席に着いてもらいます。その後は好きに発言してもらって大丈夫です」
「好きにって…」
「そこから先は私には発言権がそもそもないので。分かりますよね?」
四天王は戦場で中立か不戦だと言いたいのだろう。それなら分かる。
会話の中でレアラの名前が出て後ろから何か喋らないか気になったが案外空の旅を楽しんでいる声だけが聞こえる。
「フィブラが中立なのは分かるけどテトが乗っていた古木の竜とかは?」
「…。気になるところがそこなのは疑問ですが四天王は茶会において呼ばれてはいます。来てるかは分かりませんが竜は来てるでしょうね」
スピラも来てるかもしれないならそれでいい。味方が増えてくれれば助かるし、残り二人の四天王が何をしてるかは分からないが古木の竜なら僕の万魔が通じる分戦闘になれば多少は役に立つだろう。
ただレアラかテトが古木の竜に魔法障壁を張るようならあの二人の守りは突破できないだろうしできるならスピラが来てくれることを祈る。そうすれば自分の意志で僕の味方をしてくれるはずだ。
しかしゆっくり飛んでいるとはいえやはり空の旅は早い。南西ということもあって森の上を飛んでいくが地形を気にしないで進めるというのは贅沢なものだ。
そういえば…。
「魔王城ではなく西で戦ってる理由は戦闘の規模が原因?」
「ですね。テトはともかく竜の軍勢が魔王城で暴れたら民衆が大変ですから…まぁそれだけならリビリア様一人でも十分ですがレアラと魔王城で戦われたらどうしようもないですから」
聞く限りだとテトよりもレアラを危険視してるのは単純に魔法を扱うという点だろうか?
疑問は尽きないが、実際に話し合えるという場で確認するしかないのだろう。
森を超えた先が見えるようになってからは空が、一面の竜が羽ばたいている姿と奥の山側にいる。
地上も地上で山側では魔族かと最初は思っていたがよく姿を見てみればあれは魔物だろうか?アンデットの類が多いが亜人のような生き物や魔族のような生き物が見える。
それとは反対に位置するのは間違いなく魔族の軍勢なのだが、情勢を一目で見る限りは魔族がリビリア側だとは思う。
「あの山側の地上にいるやつのことは聞いてもいいの?なんか魔族だと思ったけど違うような生き物がいるけど」
「説明し難いのでレアラに直接聞いてください。私もいつからあれらがいるのかは分かりません」
魔族や亜人…のような生き物がなんなのかが分からない。いつだったかフィブラはレアラをキメラと蔑称していたが何かの合成生物だろうか?だとしても何故同族まで混じってるのか。
その中心に目立つように屋根だけ取り付けられた場所があり魔眼で確認する限り色んな魔力が織り交ぜられている。
「戦闘…してるわけじゃないよね」
「臨戦態勢ではあるでしょうね」
実際に見れば分かる。のだろうと思い竜がゆっくりと近くに向かうが魔力酔いしそうな密度だ。ただ魔眼を止めれば僕の少ない戦闘能力が軽減するので我慢はする。
竜が地面に降り立って、僕達はのろのろと降りて屋根のあったところを見ればテーブルが用意されている。
テーブルの向こう側にいるのは赤い髪に紫の瞳を持つ万魔の皇竜テト。
右側にいる者は笑顔でこちらへ手を振り…右目が金色に左目が紫色の銀糸の髪はリビリアを想像させるがグラデーションのように髪先に行くほど紫に染まっている髪、これが万魔の知識レアラか。
左側には銀糸の髪で染まり切り紫の瞳を持つリビリア。表情はなんとも言えない顔でこちらを見ている。勇者たちを連れてきたのが問題だったのだろうか。
僕達がそこへ向かうが手前に用意されてある椅子は一つだけなので僕が座るのだろう。そう思い僕は口を開き。それと同時にリビリアも口を開く。
「『万魔の守護を封印せよ』『戦闘行動を停止せよ』」
「フィブラそこの勇者以外の人間を殺して頂戴」
冷や汗を思わず右腕で拭い、リビリアを見ると不機嫌そうにしている。
他に誰がいるか周りを見れば知らない魔族が二人と地面に寝そべってるシャツにサンダルの少年スピラ。あとはちょこんと置かれているように苗木が鉢植えの中に入ってるが魔眼が魔力を感知してるのだが…あれが古木の竜だろうか?




