四十一話
誰も殺してはいけないとヘレスから言われて考えてはみたのだがナナシはやはりいらないんじゃないかという気持ちが拭いきれない。これは僕が優しくないからなのかもしれないな。
ただ味方にしてほしいと言われたので仕方なくその日は大人しくして、次の日にナナシと接触を図ろうとすればアキが話しかけてきてまた異世界話しを延々と話してきたので大人しく相槌を打って聞いていたら一日が終わり。
その次の日もアキが話しかけてきてずっと僕はうんうんと聞いていたのだけど。一人で考えればよくないか?もしくは他のやつに話しかければいいのに何故僕のこと愛してはいるけどこれでいいのか?ということを話しかけておいて異世界の話しに脱線するんだ?
フィブラが来る日になるのもあっという間に過ぎて一週間という時間になり、朝に部屋から出れば間違いなくアキに捕まると思い暗い夜のうちに抜け出して、かつて子供たちと遊んでいた広場に行き誰かに荒らされたであろう広場の椅子が健在なことに安堵して座って待つ。
この椅子に座っていたらヴェルが話しかけてきたのだったなと懐かしく感じながら夜明けの光が届いてきて、やはり瘴気が薄くなってるなと再度確認もする。
魔眼の調子も大分良くなってきたし休息はある意味で十分だろう。
そこで暇でいたのか空から凄い速度で降り立つ竜に乗ってきたフィブラが颯爽と降りてくる。
「フィン様…」
「相変わらず元気ないな。今度はどうした?」
「いえ、レアラからの早くフィン様に会いたいという勢いが凄まじく疲れました。そして…フィン様のことを恥を捨て魔族を裏切った者と少し口が漏れたところレアラが珍しく怒ってきまして…疲れました」
「よく分からないがお疲れ様。来てくれたところ申し訳ないけど一週間延長で」
「優柔不断なんですか?それとも勇者たちのことを気にしているんですか?たかが数か月ちょっと共にした人間に情でも移りました?」
まぁ間違いではないから特に言うことはないが、こいつもこいつで疲れているんだろうな。
リビリアとフィブラしか場所を知らないとはいえテトを使えば竜で捜索隊くらい派遣できるだろうにわざわざフィブラに頼んでくるレアラはどういう目的なのだろう。
そんなことよりも今はアキの返事とナナシの懐柔が先決だ。
今更考えたところで茶会をしようなんて言い出した意図が分からないしな。
「フィブラ、リビリアの目的はなんなのか知ってるか?」
「今まで何のために戦っていたのか忘れたんですか?魔王になるためと必死に万魔を倒していたのがここで休みすぎてボケてしまわれましたか?」
「その魔王になって何をしたいのかぜひとも聞きたいんだよ、はっきり言って魔王なんてただの称号みたいなものだ。ギュスターヴもゴドーもそれぞれ慕われていて明らかに魔王なんて興味ありませんって感じだったぞ」
「どのように戦闘したのかは知りませんが…所詮は矛も壁も万魔を名乗りながらレアラの犬に過ぎないと言った存在です」
「そこのところを詳しく願いたいんだが?」
「嫌ですよ、リビリア様から聞いたらどうですか?」
「ふむ…」
正論と言えば正論か。フィブラに聞いたところで結局は嘘をつかないリビリアから聞いた方が確実性は増す。しかしその時にはレアラとテトがいる茶会の場ということで聞く時間が設けられるかどうか。
「先にリビリアと合流することはできないのか?」
「既に茶会は準備済みです。互いに停戦状態なのに行動を自由にしたらその間に色々できることもあるでしょう?それこそテトがフィン様のところへ来るなど」
なるほど。それが理由でわざわざフィブラが使いっぱしりに選ばれてるのか、四天王はあくまで今回においては中立か不戦だから利用するにしても…といった具合か。
色々聞きたいことはあるんだがな…。今までリビリアの味方をすると決めていた分保留にしてきた諸々を僕が人間の味方をするということで出来れば次期魔王に直接。
「とにかく一週間後でいいんですか?」
「それでいい。特に言伝も預かってないんだろ?」
「早くフィンに会いたいです会いたくありませんか?会いたいに決まってますよね?というのがレアラからの言伝です」
そんな万魔の知識と謡われたほどの秀才が情緒不安定なのかと思いたくなる言伝だ。
遠回しに急かしてきてるのだろう。気が短いのはテトだけだと聞いていたんだけど。
「ま、まぁ。レアラがどんなやつなのかは分からないけど頑張れ?」
「大丈夫ですよ。レアラは基本的に話し相手がいればずっと喋ってるくらいには時間間隔がないですから」
そう言って竜に飛び乗り飛んでいく。
今日もやたら疲れた表情してたけど話し相手ってフィブラがしてるのか?それなら本当にお疲れ様だな。
話すことは話したのでナナシに会いに行こうと思い家まで戻った後はまたアキに捕まり僕の話しから故郷の話しを再度始めて一日が終わった。
それからも三日続いて、これじゃさすがに駄目だと言うことでヘレスを使おう。
「ヘレス頼みがあるんだけど?」
「なにー?」
「アキの話し相手になってくれない?ナナシさんと話そうとするといつも横から話しかけられるんだ」
「別にいいじゃない?アキちゃんだってフィンちゃんと話してる方が楽しいのよ」
「かれこれ一週間以上これが続いてるんだ」
「そんなの拒否すればいいじゃない…あんたが好かれている理由ってもしかしたら断らないところかもよー?」
そうなのか?それならアキは僕が断れば僕を嫌いになるということになる。試してみるか?しかし試してみて本当に嫌いになったのだとしたらナナシを懐柔する意味がなくなる。
「ナナシを殺さないためにしようとしてるんだ」
「急に物騒な内容を声も単調に言わないでくれるー?怖いから」
「じゃあ頼める?」
「分かったわよー…もー絶対にめんどくさいやつだわこれー」
なんだかんだ言って協力してくれるのだから最初から頷いてほしいものだ。
いつもなら僕がドアを開けていくのをヘレスに行かせてしばらくすれば廊下からドアが開く音が聞こえる。
アキは僕が起きる頃合いを見計らってドア前でずっと待機でもしてるのかな?普通に僕の部屋まで来ればいいのに。
ヘレスがアキに話しかけて、ほぼ強引な形でアキの部屋に入っていく話し声を聞き終わり。
僕は居間まで来てからナナシを探してみるがいないのでとりあえず呼んでみる。
「ナナシさんいる?」
「どうした…?」
「普通に寛いでいればいいのに毎回どこに隠れているの?」
「…寛いではいる」
こいつもこいつで暇なんだな。僕もヘレスに言われた通りアキのお喋りにずっと付き合っていたからそんなに追及はできないけど。こいつは隠れることが好印象になる可能性を秘めているということか。
「また話しをしたいんだけど?」
「それは…うろうろではないのだな?」
「僕から話しかけてるし…というか隠れられているより隣にいるって分かる方が安心するかな」
後は以前に使った空き地に向かいながらそこにたどり着くまでは天気の話しをしたりとしたがナナシはアキの話しを聞く僕みたいに相槌を打つだけだ。魔領で天気の話しができるなんて良いことなんだけどな。
「さて、単刀直入に聞くけど」
「以前も聞いたな…なんだ?」
「ナナシさんって教会の強硬派と呼ばれる連中に所属しているの?」
「知らぬ…ただ繋がりはあるかもしれない…」
もう体調も大丈夫なので魔眼を使ってナナシの魔力を視ながら会話をして少しでも動揺などがないかは確認するが特になにも無いな。
「ナナシさんって任務のために頑張ってるんだよね?どうしてそこまでするの?」
「オレは…別に頑張ってはいない…それしか無いからやってるだけだ」
「じゃあ別のやることできたら任務しなくていいの?」
「そうではない…オレにとっての全てが今だからだ」
「じゃあ別のものを与えたら溢れて零れてしまうの?全てってナナシさん死ねと言われたら死ぬのが嬉しい人間なの?」
「…言いたいことは分かる…レアラを諦めろと遠回しに言っているのだろう?」
全然違うんだけど。そう聞こえてしまっただろうか。
うーん…派閥争いとかそういうの眼中にないんだろうけど指示されたらそれをやりきるまでどうにかしようとするのは性格なんだろうか?だとしたら僕の万魔くらいに使い勝手の悪い面倒な性格している。
「穏健派に入らない?」
「宗教勧誘か…?興味ないんだが」
「興味ないなら繋がり断ち切って僕達と一緒に行動しない?それとも出来ない理由があるの?」
「フィン殿らしくもない発言だ…。魔族と仲良くなる方法はそういうところなのか?」
「むしろナナシさんらしくない。お国の命令がそんなに大事ならゴドーと戦うときに逃げようなんて発言しなかったでしょ?」
それがたとえ本筋のレアラとは違う相手だったとしても国からしたら万魔を倒せば貢献している。
あとは僕に死んでほしくないような素振りを見せていたのもそうか。レアラを倒しに行くならあの時に別行動をとってアキと一緒にレアラのところまで行けば良かった。
「フィン殿…またおかしくなったのか…?」
「そう見えるならそうなのかもね?でも僕も無理強いしてるわけじゃないんだよ?ただね…生きてほしいから言ってるだけなんだよ。みんなで生きていよう?そう言ってるんだよ」
実際はヘレスの言い分なのだが…断っても僕は構わない。人間の代用品ならいくらでもあるだろうし移動速度に特化した人間も作ればいいだけだろう。
「やはり…フィン殿は自分よりも他の命を大切にするのだな…」
うん?あ、ヘレスの言葉を使ったからそう聞こえたのか。
どう思うのも自由だから特に何も突っ込まないが良い風に捉えてくれたなら問題はない。
「オレはその気持ちがわからない…」
「うん」
「ただフィン殿みたいな人は…生きた方がいい…オレのことは気にしないでくれ…」
「意味が分からないけどとりあえずもう誰の命令も受けずに僕達と行動してくれるってこと?」
「…少し考えたい」
「とにかく生きてくれればいいんだよ。ナナシさんだって今まではどうだったか分からないけど今回の旅は生きて行動しようとか少しは思ったんじゃない?それならその気持ちを大事にしてくれればいいんだよ」
それだけ言ったら動かなくなったので後は時間が解決してくれるだろう。無理ならヘレスに失敗したことを言ってヘレスの説得をしないといけない。
ナナシが子供たちのように無邪気に懐いていてくれたら楽なんだけど、そうはいかないのが厄介なところだ。むしろ命令人間なら万魔を使っても人格破綻せずに今と変わらない生活送れるのかな?
あとはアキの…というより二人の報告待ちになるがフィブラにはまた一週間待ってもらわなければならなくなるかもしれないな。
また優柔不断がどうのと言われるかもしれないが仕方ない。今回は全面的に僕が悪いのだからフィブラの愚痴くらい聞いてあげよう。
部屋まで戻るとアキの部屋からこちらに移動して話していたのかアキとヘレス…あとダルガンが談笑していた。
「おかえりーフィンちゃん」
「おかえり、どこに行ってたの?」
「別に、散歩だよ?
「それならナナシさんを見なかったか?吾輩が呼んでも出てこなかったのだが」
「見てないよ」
ヘレスから視線を感じるが無視して、三人の会話を聞いているのだが。そういえばフィブラに勇者達がついていくかもしれないと言った方が良かったかもなぁと今更ながらに思う。
毎回フィブラと話す時間が短いから話そうと思っていた内容が一つか二つしか告げられてない。どうせ暇ならもっと僕に情報を落としてほしいんだけどな。
自分のベッドに座ってみんなの会話を聞くが過去の話しが多く、みんなには思い出があるんだな。
僕とは無縁のような世界だ。資料で知ってるとはいえどうにも異世界だろうとこの世界だろうと変わらない気がする。それとも僕も普通の生活を送っていたら何か変わっていたのだろうか。
ゴドーの復讐という燃えるような命の使い方。ギュスターヴのように冷静でありながら敵に何かを託すかのような散りゆく姿。
僕にも家族というものをもっと知る機会があれば仲良くなれていた世界が…。
「フィンは暇じゃないか?」
「聞いてるだけで十分だよ」
「そっか」
暇そうに見えていたのか、実際は聞き流していただけで考え込んでいたんだけど再度みんなの話しに耳を傾ければどうやら食事の話しをしているようだ。故郷ではどんな料理が出ていただとか。
ま。これから経験していけばいいか。
死んだ者のことを考えても仕方ないことだ。それがたとえ血の繋がりがあろうとなかろうと関係ないだろう。愛とはそういうもののはずだ。
日にちは経っていくが二人から答えをもらうに至らずフィブラには再度一週間の時間を設けてもらい勇者を連れて行く可能性が高いことも告げた。その際には情がどうだのなんだの言われたがどうでもいいことだ。
アキに捕まらないように空き地に行って一人で過ごして、僕は一つの可能性を考えてみる。
リビリアと戦うことになったらどうなるのだろう?僕の万魔は通じないし守護者という言葉の通り万魔二人を相手取りそれでも尚ここまで持ちこたえた。
知識と呼ばれるレアラが一体どんなことをしてくるのか分からないがリビリアは魔術魔法を極めている。それに一体どんなことをすれば勝てるというのか。そもそも苦戦しているとのことだったがテトとレアラはどうやって苦戦させていたんだ?
もし…リビリアを殺すことになったら?
無理だ。テトでさえ勝ち目が見えないのにリビリアとなったら余計に勝ち目を感じれない。
もしもリビリアが勇者を殺すと判断したならばその時は命乞いでもしてみるか。
それとも愛のあるようにアキの命だけはと人間のように懇願してみるか?愛があれば大抵のことはなんとかなるのだろう…愛が…愛が…愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛。
僕は…アキを愛してないのに愛してるという素振りをしようとしている。それならリビリアにだって僕を愛してると言ってたのだからリビリアに訴えかけるならリビリアにも愛があるように振舞えばいいんだ。
資料に書いてあったのだ。物語で読んできたのだ。愛のために戦い抜いた英雄たちを僕は知っている。
でも?実際には今まで苦戦続きだった。なんとか知ってるだけじゃ勝てないこともある。
不測の事態には備えておく必要があるか…。
僕は空き地から離れてまだ使える魔道具を探しに壊れた要塞の中を歩きガラクタを集めに行く。
そう…。魔力爆弾じゃない物を作ろう。それ以外なら試す価値はあるだろう。




