四十話
起きて魔力の回復を確認して頭痛が弱まっているのを確認しつつ、どこまで枯渇していたのかと自分で作った魔力爆弾を恨むが…。まぁ仕方ないだろう。
ヘレスは相変わらず眠っているのを見て、そのまま部屋を出る。
今日のすることとしては家の中でどこでもいいのだが呼べば来るだろうと思いナナシを呼ぶ。
「ナナシさんどこかいる?」
「なんだ…?居間で眠っていたが?」
「アキと同じ部屋じゃなかったんだ…。ま、いっか。少し外で話さない?」
「分かった…」
そう短く話して外へ出て、東に魔族がいるというので西の方に向かって歩きながら手頃な場所はないかと思って適当な空き地で話すことにする。
「単刀直入に聞くけどナナシさんは人間が暴走した原因が無くなればいいんだよね?」
「そうだな…そのためにレアラを狙う…という話しか?」
「レアラを倒さなくてもその願いが叶うとしたらナナシさんは任務遂行したことになる?」
「話しが見えん…」
「人間がこれ以上暴走しなかったらナナシさんはもう国に戻ってもいいことになる?」
「…。原因が解明してその危険性が無くなったのであれば…」
危険性かぁ。じゃあやっぱり無理なのかな。
色々お世話になったからできれば生きていてほしいんだけどな。それにナナシはなんだかんだゴドーでヘレスを連れてきた時点で僕の命を救っているようなものだし。
「じゃあ質問を変えるよ、危険じゃなくなく味方になったら?」
「…。判断に困る…」
「つまり実質人間の味方になるのならそれは問題ないということでいいの?」
「そう…なのか?」
「ナナシさんはアキが亜人を殺していたのを知っていて話してないんだよね?」
「さっきから話しが読めん…過去に亜人や魔族を殺していたのは聞いたが…」
まぁ、人間からしたら魔物も亜人も魔族も敵でしかないのだからナナシからしたら変わったことではないのだろうしわざわざ言うまでもないと言った雰囲気なのかな。
しかしこれをどうする?今まで斥候から殺そうと思ってはいたが単純に存在が邪魔になったから殺すとなればそれはそれでどうなのかとも思うし。
殺すしかないか。アキが考え終わったら適当に説明すれば良いだろう。
「わざわざ呼び出してごめんね。もう大丈夫だよ」
「フィン殿…こちらも聞きたいことが」
「なに?」
「何故ここにきて悠長になられたのか…気になる」
「ナナシさんって前に話した内容聞いてなかったの?」
「いや…それは理解できる…しかしいつもなら前に進みながらなのに今回は期限も設けずに休息とだけ言っていたので…」
今更こいつに何を説明しても無意味に終わるだろうし、適当に言っておけばいいのだが。
いやむしろ自害を命じるよりも無駄だとは分かっていても茶会で暗殺を命じてみるか?
ただそんなことをすればレアラから反感を買うだけか…。うん。やはり今では邪魔にしかならないな。
「『万魔の守護を―』」
「フィン、ナナシ。なんでこんなところで話してるんだ?」
適当に偵察に行って行方不明にでもしておこうと思っていた中アキが能天気に歩いて来ていた。
「少し雑談していただけだよ。あ、ナナシさん今後僕の周りをうろうろとかしないでね?驚くから」
「分かった…」
「話すなら家の中で話せばいいだろうに。ナナシはヘレスが呼んでたぞ?」
あれから起きたのか。しかしヘレスがナナシを呼ぶとはこれまた珍しいこともあるものだ。
タイミング的にヘレスが僕を監視してほしいとかだったら少し面倒なことになりそうだが…。
「では…行く…」
「ナナシさん。うろうろ…しないでね?」
「…?分かった」
本当に分かってるのか怪しいものだ。しかしアキは考えると言っていたがもう考え終わったのだろうか。
ナナシを見送った後はアキがその場に留まって、僕も話すことはないのだがとりあえずアキが何か言ってくるのをじっと待つ。
「その…まだ考えてるんだ…なんかごめん」
「いいんじゃない?ゆっくり考えたら。それとも考えてる内容聞いた方がいい?」
「いや、えっと聞きたいのか?」
「それはまぁ僕に対してのことだから聞けるなら聞きたいよ?」
少し邪魔をされたのもあってアキに不要な人物を排除しようとしてただけなのに当人が来るものだからどうせなら途中経過を聞いておきたい。
「まずな?俺はそういうことに疎いんだ…。だからいきなり実はこうでしたっていうのが苦手であって」
「うん」
「好きなんだけど、どうしたらいいか分かっていないというのもあってな」
「うん」
「それから――」
話しをまとめると人間的にも異世界的にも同性愛というものがどういうものか分かってない。というのを分からないという話しを言い方を変えて繰り返して話されていくのをとりあえず相槌を打って聞いているのだけど。
結局なにがいいたいのかはよく分からないんだけど大丈夫だろうか。
「ほら、元の世界とかではそういうのを見たことあるんだよ。元の世界の物語では同性愛だろうが魔族だろうが神でも悪魔でも恋愛しててな?」
「うん。そうなんだ、ちなみに僕は魔族だよ」
「そう、そんな感じでな?魔族とか魔物でも…ん?」
「うん」
「うん?」
「あ、続きをどうぞ?」
「そ、そうか…んー?僕っ娘で魔族っ娘で男の娘?」
「うん機械で出てくるやつだよね」
物語でそういう話しがあるなら免疫自体はあるみたいな話しだろうか?じゃあ別に僕が考えてるより人間的には問題ないのかもしれないな。
「ちょっともう一度考えてもいいか?」
「うん。ゆっくり考えたらいいんじゃないかな?」
「聞くけど…魔族なの?」
「そうだね。僕は魔族だね」
「今まで…俺が殺してきたのも…」
「別になんとも思ってないからそこは気にしなくていいと思うよ?むしろアキがやらなかったら僕は一人で戦ってたし」
むしろアキの世界では魔族どころかなんでも恋愛至上主義だったということに驚いたくらいだ。
魔法がない世界だから魔族の立場は弱いのかもしれないけど…。
それとも物語と言ってもフィクションの方だったのだろうか?それなら今話す理由はないだろうし…やっぱり僕の同族を殺していたことを気にし始めたのかもしれない。これじゃあまた判断に困らせてしまっただろうか。
「人間も同種で殺し合いするでしょ?戦争とかもするだろうし。それと同じようなものだから気にしないで?」
「いや、そうなんだけど。フィンて属性がありすぎて俺の頭が追い付いてないというか」
「ちなみに聞くんだけど属性って前に言ってた魔法のやつ?」
「違う。違うんだけど…属性の人間版みたいなやつだよ僕っ娘の仲間」
属性が増えると考えることが増えていくのだろうか?この世界の基準に囚われすぎることなく異世界の基準も合わせてもっとシンプルに考えてくれたらいいんだけどな。
「逆に俺が聞きたいんだけど、俺が告白したらフィンは受け入れてくれる…のか?」
「いいよ?」
「いいんだ…昨日考えるって言ってなかったっけ?もう考えたのか!?」
「しなきゃいけないことがあっただけでそれは半分済ましてるから大丈夫だよ」
主にヘレスの意図を聞くことだったけどヘレスが優しい人で良かった。案外すんなりと自分のことを話してくれた方だし。
それよりナナシの排除とダルガンの扱いについてかな。ダルガンが旅を呑気にやりたいと言ってたからそれが本音なら国の忠誠とか無いとは思うけど忠誠があるならアキの知り合いということもあって残してはやりたい。
「なんというか…相変わらず行動早いんだな…」
「アキは一人だけ愛してる存在がいればいいんでしょ?」
「ん?あぁ、一人だけ特別ってやつな。そうだけど」
「じゃあやることは簡単だから大丈夫だよ」
そういうものなのか?と疑問に思っている様子だがそういうものではないのか?
僕もさすがにアキのことを考えているのだからそこは任せてほしい。ヘレスから国の事情は聞いたし魔族と比べたら人間の国を平和にすることは容易いだろう。
人間の勇者がアキ並みに魔力が濃密だったら僕の万魔が通じない可能性もあるけどギュスターヴを殺せるアキがいるのなら大抵の問題は解決するだろう。
でもそういえば同族を殺したことを意識していたな。さすがにアキには人間は殺せないことを考えたら普通に亜人を使って勇者の残りは始末する方向の方がいいかもしれない。むしろその方が安全とも言える。
「念のため聞くんだけどフィンって他にも属性を持っていたりするか?」
「僕にはどんな属性があるのか分からないから答えに困るかな…」
「そうだよな…んー。なんて言えばいいんだろうな。猫耳が生えるとか?」
「生やしてほしいの?獣人みたいにするとなるとさすがに頭を改造しないと無理だけど…僕の専門ではないかな…」
「いや、聞いてみただけな?そんな真剣に言わなくていいから。改造ってなんなんだ」
こういうのはレアラの専門分野だろう。さすがに敵対してる関係上教えてほしいと言って答えてくれるか怪しい。
リビリアに聞いてみたら案外魔法でなんとかなるものだろうか。
「魔族と人間が恋愛とかってこの世界では普通なのか…?」
「別にないことはないと思うけど、人間ってそもそも異種族と子供ができにくいからそれに困るくらいじゃないかな。出来たら出来たで奴隷扱いなら処分されるだろうし」
「恋愛だから奴隷とかの方は気にしないというか生々しいな!というか俺とフィンだったら子供できないだろ?」
「作ろうと思えば作れないことはないけど、アキの魔力は問題ないから僕がうまく魔力を扱う必要があるかな…」
「ちょっとこの世界を舐めてた…というか魔力ってなんだ?魔法で作る的な?」
「ある意味?」
「生々しいな!いや別にそういうことを期待していたわけではないが!」
さっきから何を言ってるのか分からないのが困るけど、魔族との子作りに興味があるのだろうか?
おそらく生殖行為自体にさほど差は無いとは思うのだけど。
「とにかく!俺はまだ悩んでいる内容を言ったと思うんだ!」
「うん」
「それでな?」
また話しが元の世界の話しをしだしてきて、とりあえず相槌を打つのだが似たような話しを聞かされてるからやはり何を言いたいのか分からず相槌しか打てない。
「だから俺が思うにこういうのは二人の心の問題が大事なんじゃないかと思うんだけど」
「僕は別にいいけど」
「そうなんだよな…俺が悩んでるだけなんだよな…ごめん」
「うん」
そうして今日ものんびりとアキが話しているのを聞いていると日が傾き始めるまで続いて一旦家に戻ることになる。
部屋に戻るとヘレスが暇そうにしているのを横目にして僕もベッドに座っているとヘレスがちらちらとこちらを見てくる。
「どうしたの?」
「べつにー?フィンちゃんはいつも何考えてるのかなーって」
「今はヘレス暇そうだなって思ってたよ」
「そりゃ暇よー…。路地を見ても魔族がうろついてるわけでもないから警戒する必要もないしー?」
むしろ警戒する必要がある方が面倒ではないだろうか?
それともそういうのが好きなのかな。
「そういえばナナシさんと何を話したの?」
「東の様子見に行ってーって言っただけよー…ま、言わなくても行ったでしょうけどフィンちゃんとナナシちゃんいなかったでしょ?フィンちゃんがナナシちゃんを殺す可能性もあったしねー?」
「どうしてそんな考えになったのさ」
「昨日からフィンちゃんの様子が変だからよー。だから先に言っておくけど殺したりしないでよー?ダルガンちゃんも」
そんなばれやすいようなほど様子が変だっただろうか?
ヘレスを殺してないということもあって大丈夫だと判断しているものだと思っていたがまだ疑われている最中だったか?
「んー…その様子じゃ知らなそうだけど…ナナシちゃんは強硬派の連中よー」
「そうなの?」
「そもそもあんな殺意しかない任務を出してるのは大体強硬派の連中だよー…ダルガンちゃんは違うからねー?」
「じゃあ殺してもいいんじゃないの?」
「…本当に殺す気だったの?」
カマをかけただけだったのか、ヘレスの視線がすごいじっとりした目線でこちらを見てきている。
でもおかしいな。ヘレスと強硬派は敵対関係じゃないのか。
「もしあたしが昨日助けてって言ったの気にしてるなら忘れてよねー」
「単純に邪魔なんだけど?」
「…本当になにがあったの?昨日からフィンちゃん素直すぎないかしら?」
「ダルガンさんも比較したら別にいらないけどナナシさんは移動能力しか取り柄がないんじゃないの?」
「もし本気で人間の国に関与しようと思うならむしろフィンちゃんなら味方にした方がメリットあるんじゃんないの?その味方にしたら使い捨てる発想恐ろしいわよ」
言われて見ればたしかに必要…必要か?ナナシの活用方法を考えるが中々思い浮かばない。
「フィンちゃんは何考えてるのー?」
「メリットとやらを考えてる」
「あたしはフィンちゃんが何を出来るのか知らないけど連絡手段としてナナシちゃんの移動速度は効果的だし、今みたいに雑用をこなしてくれるでしょー?強硬派から穏健派に切り替えしてもらえるようにしてくれるー?その方が…みんな幸せでしょ…?」
そうか。そういわれて見れば確かに便利なのかもしれない。僕視点だと万魔でいくらでも情報を取り寄せればいいかと思っていたがヘレス達からしたら困るものな。
それに連絡手段と言われたらたしかにその通りすぎる。ナナシは人間なのによく鍛錬されていて移動に関しても多少無理をしてこの要塞までたどり着いていたのだし。
「分かったよ。穏健派の味方にすればいいんだね」
「…そんな簡単に言ってのけるフィンちゃんが味方なのはとても心強いわ…」




