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三十九話

「違うでしょー?あたしはフィンちゃんがどうしたいのかの方が気になるんだよねー」


 ヘレスは間延びした声を僕の耳に届けてくる。

 別に今更、騙しあい化かしあいみたいな話しをしても仕方ないから問題はないがそれでもスピラのいう公平性で言うなら僕は今不公平な方だろう。


「そんな話し本当はどうでもいいんでしょ?だってヘレスからしたらここまで来た時点でアキの保護はもうしている場合じゃないんだから」

「もしかしてあたしを脅してるつもりー?本当のことを話して勇者様助けてって悲劇のヒロイン面してアキとあたし達の関係性を壊すとかー?」

「おかしいね。僕の言いたいこと分かるんじゃなかったの?」


 実際それも考えたが一蹴した。僕がアキに本当のことを告げるならもうここでヘレス、ナナシ、ダルガン。三人を置いて勇者だけを連れて行くとしても僕が魔族ということも明かした上で説得しなければならないだろう。


 ナナシに関してはまだ騙して戦力として数えてもいいか?いやそもそも役に立たないか。


「アキちゃんは真実を知っても壊れたりしないよー?むしろフィンちゃんのこと話した方がアキちゃんは不安定になってあたし達を拠り所にすると思うなー?」

「僕の何を知ってるっていうの?」

「フィンちゃんのお着換えとか毎回大変だったんだよー?フィン君って言った方がいいのかなー?それとももっと正直に魔族だって話した方がいいー?」

「僕が男というのはアキには話したよ」

「魔族のことは話してないんでしょー?そもそもあたしがフィンちゃんに対して微力の攻撃を放った時点で正体に気づいてることくらい分かってほしかったなー」


 だとしたら僕が魔族だって言ってあの時点で撤退を提案するくらいできたろう。要塞までの道中で彼らが何をしていたか僕は知らないがそれなりに会話をする機会が数か月もあったのだから。


 しかしダルガンの話し方からしてヘレスは誰にもそのことを話してない。まだ何か別の目的でもあるのか。


「それでも人間のように扱ってヘレスはそれをみんなに黙っている。それは人間でいうところの優しさってやつ?」

「あんたそもそもなんなの?って話しよ。魔族のくせに魔族を滅ぶように動いて勇者すら関係なく争ってる。人間と同じようなもんだって最初はそう感じていたけど勇者を真っ先に見抜いていたから強硬派が隠し玉で用意した魔族って考えもあったけど勇者にあまりにも固執しなさすぎてる」

「そんなくだらないことが聞きたかったの?」


 実にくだらない理由だ。教会からしたら僕の正体を判明させる方が先決させるべき内容だったということか?

 ヘレスはそれでも勇者の保護をしたがってはいたから二の次ではあったがここまで来たから優先順位を変えたといったところか?


「人間と同じようなものだって分かってるならそれでいいんじゃないの?魔族だって内乱くらいあるでしょ?主義思想が違えば争うのは生き物にとって普通のことじゃないの?」

「こっわー…鏡でもあれば見せてあげたいくらい…。はぁ。だとしてもフィンちゃんはただの魔族なんでしょ?味方だっている素振りが欠片も感じない。それがおかしいよね?アキちゃんもナナシちゃんもダルガンちゃんも信頼して。ナナシちゃんの話しだと味方のいないこの場所でもかなりの味方を作ったんでしょー?」


 今までの内容と違って本質的な部分に近い質問だ。僕の万魔について知りたいということか。

 僕にとっての切り札を言えばその時点でもう僕に価値なんてないのだから言うわけがないだろう。


「ヘレスが今までやってきたのは優しいから?」

「まっさかー。あたしは自分の事優しいだなんて思ったことないよー」

「正体不明の不穏分子が目の前にいて、魔族と分かっていて教会の治療を施して命を救うなんて実に人間らしい優しさを持ってるものだね。それとも穏健派というのは目の前に大量虐殺している可能性がある魔族を助けてあげるのが仕事なのかな?」

「今日はよくしゃべるねー。あたしは教会の仕事をしているだけ。これで満足?」


 ヘレスの一挙手一投足を見ているが別に不自然な動作はない。

 僕に対しての目つきは多少の嫌悪感を感じるがそれでも明らかに戦闘にはならないという確信でもあるかのような油断した動作。


 仕方ないので頭痛を顔に出さないように魔眼で視て術式を確認したがそれも無駄に終わる。


 ヘレスは術式を準備していない。自分の命が危険だとは思わないのか。


「ふぅ…。僕は残念ながら大した目的は持ってないよ。それこそヘレスが疑問に思うことを試しに言ってみるといいよ」

「へー。それじゃ聞くけどフィンちゃんは誰の命令で動いてるのかなー?」

「姉だよ。姉に勇者のところへ行って助けを呼んでほしいみたいなことを命令じゃなくて頼まれたってだけ」

「…。そのお姉さんは今も生きてるの?」

「生きているということは知ってるけど今何をしてるかは分からないよ。そして僕一人じゃどうしようもなかった状況で姉の言う通り勇者がなんとかしてくれたね」


 ヘレスは考える素振りを見せるが。いくら濁したところで色々な違和感を持って僕と接して魔族とも知ってるならもう分かるだろう。

 だがそれでも可能性を色々考えてるのか深く思考している。


「あたしが信じられないと言って本当のこと話してほしいなー?って言ったら?」

「それを言われたらヘレスでも間違った判断をするんだなと僕が思うだけだよ」

「それならそう言うことにするしかないけどさー…。じゃあこんな弱いフィンちゃんが魔王の子だと言うの?今まで戦ってきたのは実はただの将兵だったかなー?」

「それも含めてヘレスは間違った判断をするんだなと僕が思うだけだよ。なんでここにきてこんなことを話すのか分からないの?」


 一瞬冷めた空気が部屋に感じるが。ヘレスの術式に戦闘の類はないというのを信じての言葉だ。

 仮に本当は攻撃魔術を知っていて行使。もしくは魔法を即座に放てる奥の手でもあろうものなら僕は殺されてもおかしくはない。


 ただそれでも殺し合いとなれば僕の方が優位性を保っていて。情報という意味ではヘレスの方が圧倒的に有利という状況。

 馬鹿じゃないんだから分かってほしいな。


「用済み…と思われてないだけ感謝しろとでもいうのかなー?」

「違うよ。それならさっさと僕の知りたいことを吐かせればいいだけなんだから。でも僕は万能じゃないしヘレスが思ってる通り弱い存在だからね」


 情報を吐かせて自暴自棄になられてもアキから不信を生じるだけだから正気は保ってもらわないと困る。だからこそ万魔を使って吐かせるのは最後の手段でしかない。


「だったら何が知りたいのー?先に言っておくけど教会から派遣されたと言ってもあたしは下っ端よ?」

「別に教会に興味はそこまでないよ。勇者を判明する方法は気になるけど穏健派のヘレスより強硬派の方がそのあたりは詳しそうだしね」

「反論の余地がないわねー」

「簡単な話しだよ。亜人と人間との関係性を知りたい」

「…。そんなことでいいならいいわよー?」


 最初にヘレスは小さないざこざがあると言っていたが、実際には強硬派の意見によって勇者のほとんどは魔族討伐遠征に向かいギュスターヴに対して大損害を負った。結果的に言えば人間の負けと言っていい。


 それによって攻められたら負けを感じた強硬派は国に進言し亜人の国を落とすという方針に切り替えた。

 穏健派も行動はしてたが。そもそも戦争に関与できるほどの権力は持ち合わせてないからただ勇者を利用されないように匿おうとしてたに過ぎない。


 半分はヘレスの愚痴に近いような言葉だ。


「亜人を攻めても疲弊した人間が勝てる見込みなんかどこにもないでしょ?」

「あたしに言われてもねー…。それをどうにかしてくれるのが我らが勇者様なんじゃないのー?」

「そっか。やっぱりヘレスはただ優しさだけで行動してたんだね」

「急になにー?だからあたしは――」

「そうでなければ僕の存在をはっきりと言った方が良かったんだよ。けれど国に戻っても勇者は酷使されて使いつぶされてると分かっているからどうしようもなかったんだね」


 アキは八方塞がりの状態にいることをヘレスは知っていた。そして僕の正体まで分かってもそれでもどうしたら救えるのか考えていたんだろう。

 何をしても死にに行くようなものなら好きにさせてあげたいと自分の立場に板挟みにされながらも。


「そうやってみんな手懐けていったのかなー?」

「手懐けた覚えなんかどこにもないよ。ただそれは不自由な生き方だなと思っただけだよ」

「力のない人間なんてそんなものよー。その中に少しでも自分の意志を大事にしたかっただけ…でもねフィンちゃん。あたしも人の事言えないけどフィンちゃんも大分不自由だよー?姉の頼みだからって兄弟を殺したことに変わりないのよ?」


 その辺の事情はヘレスが知るわけないからそう思うのは勝手だが、あれらを兄弟だと思ったことは無いから問題はない。

 僕は一人なのだから。


「まぁヘレスからしたら魔族相手に言ったところでじゃない?そんなことよりヘレスはどうするの?」

「なにがー?」

「このまま魔族に対して強硬派と似たようなことをしているとはいえ成功している。それなら国に戻るなんてことをするよりそのまま攻める方が人間に勝ち目あるんじゃないの?」

「本気で言ってるのー?そもそも平穏を望んでるあたしたちが強硬派と一緒の考えに染まるのってどうなのよ…」

「事実だよ。このままいけば人間はいずれ滅びるだけ。いくら平和を提唱しようと自国すら耳を傾けてないのに」


 魔族が人間相手に本気になって攻め込んでない理由は色々な説があるが。もっとも有力な候補としてはそもそも人間なんて気にも留めてないということだ。


 人間が何をしてこようと危険視すらしてない中なにかしてきても無視できる。それよりも亜人を警戒して亜人の国との戦争を考えて行動をしていたとすれば魔族と亜人にどれほどの強さの差があるかは分からないがかなりの規模で被害が出るだろう。


 そんな中…魔族側の弱体が露骨に出た。


 万魔の矛と万魔の壁という二つの柱が崩れた今均衡が壊れつつある。

 このまま万魔を潰していけば魔族は瓦解していき人間と亜人の国で二分されていくだろう。


「フィンちゃんがいっそ人間の国も滅ぼしてくれた方があたしは良かったかなー…なんてね」

「僕にその感情は理解できないよ。人間の心は弱いから生きるのも一生懸命なのに自ら死を選ぶほど人間の心は弱かったの?」

「そうも思いたくなるわ。はっきり言って今の人間たちが住んでいる国でまともな国と言えば指で数えられる程度よ。あとは負けてると理解できないプライドの塊で出来た民を殺すやつらの集まり…。魔族の方がまだ人間らしいと言っていいわ」

「それは持ってる者と持ってない者の差だよ。魔族は人間よりもタフなのもあるけど実際に勝利を続けてるから兵じゃない民衆も平和ボケしてるんだよ」


 この要塞に住んでいた連中が実際に魔法を疎かにしているのを目の当たりにしたからこそ確信して言える。


「それなら余計にそう思うわー…あたしがどうしたいのか?そんなのどうしようもないとしか言えないわよ…むしろ助けてみてよ…」


 これが人間の弱さか…。ヘレスは強い、僕はそう思っているし今でも強いと思っている。

 使い勝手の悪い治癒を使いこそすれどヘレスは毎回戦闘になれば判断を怠ることなく自分がいつでも誰かを救える場所へ立ち位置を考えて行動していた。


 下っ端なんて言っていたが実戦でちゃんと自分の役割を全うしていた。


 助けて…か。人間の国ははっきりいってそれこそ一度滅亡でもしないと戦争を止める気がないだろう。裏に強硬派がいるのも面倒なのでいっそのこと教会も滅ぼさないといけないくらいには。


 わざわざ人間を一人一人探して殺すなんて無謀にもほどがある。それよりかは穏健派の意見を強める動きをしたほうがまだ現実味がある。

 ようは魔族と一緒の状況なんだ。


 リビリアが言っていた魔王が争うことを好んでいたと言うように、そこから魔族の主要な存在を抹殺していく。

 これを人間国で同じことをして最終的に即位するものが穏健派と繋がっている者を据えれば話し合いという一つのテーブルに落ち着かせることができるだろう。


 もちろんそのためにはどの人間が邪魔なのかを知って潰していかないといけないが。国を滅ぼしてから再建するよりかは実現的だ…。


「僕にはどうしようもないことだね。それでもヘレスが困っているのは分かったよ」

「もう…何の話し合いだったのかあたしには分からなかったわ…」

「確認したかっただけだよ」

「何を…?」

「ヘレスが勇者をどうしたいのか。ヘレスは結局自分のことも手一杯でそれでも他の人を救うということを生きがいにしていたんだなって」


 僕が話していると途中からただ泣き声が聞こえたから僕は他の人にもしたようにヘレスの隣に座ってそっと頭を撫でる。


 それが拒否されることもなく疲れて眠るまでずっと続いた。


 そうか…ヘレスはアキの邪魔をしないならそれでいい。もし教会にそれでも連れて行こうだなんて考えていたら殺すしかなかった。アキの愛を邪魔するなら僕にとっては迷惑でしかない。


 もちろん僕が魔族だということを責め立ててくるようならそれもアキに悪影響なので殺しはしたがそんなこともなかった。さすがは穏健派と言ったところか。


 しかし意外だったな。魔王の子だと分かるとこまで教えたのに僕のことを殺そうとしないなんて。それともこれから殺しにくるのか?でも人間の国を滅ぼしてほしかったなんて言葉を言うだろうか?


 やはり心なんてものは分からないよダルガン。あんなに強く自分を保っていたヘレスですらこのありさまなんだよ?ダルガンの悩みが小さいだなんて言うつもりはないけどそれでもヘレスの境遇を考えたら絶望しかない状況で生きていた人間が何を希望に生きていたのか不思議でしかないだろう。


 リビリア…どうやら魔族が考えてるより人間はある程度の絶望でも生きてるようだよ。


 アキが愛を伝え。ダルガンが仲間を想い。ヘレスが生きている者を尊び。ナナシは使命を何よりも絶対とする。


 殺すのは簡単な存在が明らかに強大な物に押しつぶされながらもがき苦しんで尚も生きて頑張っている。


 さて…それでもまだ不穏分子がいる…。ダルガンとナナシ。出来れば生きたままアキを助けてやってほしいがそれでも邪魔だと判断すれば殺すしかなくなる。


 僕はヘレスに布をかけて、自分のベッドに潜り込む。

 少しでもまだ魔力を回復させるように横たわって冷静に考えをまとめなければいけないだろう。


 ダルガンは恐らく平気なはずだ。けれどナナシはそうではない。使命を重んじるあの生き物は間違いなく僕を殺すという目的に切り替わるはずだ。


 このまま安心して茶会まで行ったとしてもレアラが人間を操る存在でないとすれば誰が?となったときの候補なんて魔王の子で残るのはリビリアと僕。


 そしたらあとは消去法で僕となる。


 だがやはり殺すとアキの考えが纏める時間がなくなってしまうから殺すにしてもアキが答えを定めてからになるだろう。

 一体どんな答えを出すのだろう。僕のことを愛しているのだろうか?それともアキからしたら異性を求める人間の性というやつだろうか?


 それなら愛の存在とはなんなのかまた僕は振り出しに戻るから、そのまま愛をくれる存在であってもらわないと僕にとってアキは…なんなのだろうか。

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