三十八話
それから聞く話は聞いていてうんざりする話しだ。
アキは知らず知らずのうちに多くの亜人を殺していってる話し。
「狼ってさ、俺の世界では四足歩行が普通でさ。それが二足歩行で武器も使ってきてさ魔物って色んな種類がいるんだって聞いてはいたけど強かったな…もちろん魔族の方が何十倍も強かったけど」
だが果たして僕のやってることと強硬派は変わらないだろう。ヘレスが僕に対して嫌悪感を出していたのはもしかしたら知っていたがあえて真実を告げないことを選択したからなのかもしれない。
「アキはさ…魔族を殺しても震えてたの?」
「そりゃあ、まぁ。やっぱり魔物も喋ってたけど魔族は特に種族が違うだけでって思ったから…」
聞いてアキの顔を見れば少し青い気がする。指も震えている。
聞くべきではなかったか…。
僕は椅子を近づけアキの頭を僕の膝に乗せてゆっくりと撫でる。
ここまでとは知らなかったぞヘレス。ダルガン。
何も知らない勇者を国に戻って保護?真実を隠し通したまま保護できたとしよう。それでも戦争になれば勇者を使わなければならない場面になるだろうヘレス。
何も知らない異世界の兵士が真実を知れば自分は種族の違う亜人。人を殺してきたってなるだろうダルガン。
いやしかし…それが無ければアキはギュスターヴの時に確実には死んでいただろう。それでも真実を覆い隠すのは…。知ったときの衝撃を考えたら人間の心は耐えれるのか?
僕は魔族だ。だから人間の心の弱さなんて知らない。異世界の人間の心なんてもっと知るわけがない。
ただ綺麗事を言っていたヘレスに苛立っているのは何故だろうか。僕に罵詈雑言を浴びせるのは別に良い。僕は嘘つきだ、戦わせるために嘘をついた。
それでも自分も同じようなことをやっておいて何故あんな綺麗事を…?
落ち着こう。僕も所詮は同類だ…同族嫌悪のようなものだ。だから今苛立っているのか?
違う。これは自分の写し鏡だ…。
ヘレスが僕に対して怒っていたのは、僕の姿がヘレスそのものに見えたからだろう。
ダルガンは恐らく優しい嘘で言わなかったに過ぎない可能性の方が高い。今日の話し方も別にアキに対しての懺悔ではない。兵士としての在り方について愚痴を零していた程度だ。
「ねぇアキ?」
「えと、なんでしょうか?」
「なんで敬語?」
「どうして膝枕されてるのか分かってないのも相まって。はい」
「アキは…どうしてここまで来たの?戦いたくないって言ってたよね?」
そう聞くと膝枕がどうのと言ってたくせに僕の膝にさらに蹲るように頭を擦り付けてくる。
なんだろう?肉付きは悪いから多分枕としてぐりぐりしても自分の頭の方が痛くならないか?
「その…笑わないか?」
「え?笑う内容なの?」
「いや…まぁ笑われても仕方ないのかもしれないけどさ…俺…僕っ娘好きなんだ」
「ごめんちょっと意味が分からない。僕っこ?」
「あ、まぁ普通そうなるか」
なんの話しをしてるのか分からないことを言い出すのはアキにはよくあることだが今回はまた多分異世界用語だろう。
「そのな、一人称ってあるじゃん?自分の事僕っていう女の子のこと僕っ娘って言うんだけどね」
「うん。それで?」
「あ、わかりませんか。フィンって自分の事を僕って言うでしょ?」
「うん。だから?」
「無理ですか。フィンのこと気になって、1人にしたくないと思って来ました…」
最初のくだりは分からないが心配してきたのなら最初からそう言ってほしい。
しかし心配かぁ。そんな理由で自分の嫌なこともやっていったら人間って耐えれるものなのか?
心が弱いって聞いたんだけど。それとも勇者だからできることなのか。
「アキは心配したら自分の嫌なこと。それこそ異世界では戦争とかなくて平和だったんでしょ?心配する人をいつも助けていくの?」
「そんなことはない。さすがに俺もそこまで善人じゃないよ。それこそ本当の勇者みたいだ」
「この世界だと誰が死ぬとかわりとよくある話しだよ。ナナシさんを見たでしょ?死ぬってわかっても誰も付いてこなくても行こうとするんだよ。ダルガンさんもそう。今日話しを聞いたって言ってたならダルガンさんの昔話少しは聞いたんじゃないの?」
「それは…」
そんなお人好しだと知っているならリビリアもわざわざ万魔を持つ僕を寄越すことはなかっただろう。
むしろ人型に近い魔族であればばれなければ誰だって良かった。単純に僕を戦力として万魔と勇者の二人で倒せとかだったと先見の明で考えていたのだとしたらリビリアは未来視だもはや。
「俺がフィンを好きだっていうの伝わらないかな…?」
「好きだからって命懸けでこんなことするのが異世界人なの?」
「特別な好きだからって理由じゃなきゃここまでできないよ」
「…?特別って何?」
「ぐわぁぁぁあああ」
「痛い痛い、太ももを削るように頭を擦り付けないで」
特別ねぇ…。戦友とか親友とかだろうか。ダルガンとかなら喜びそうだが、僕の場合臨時的に付いてきた仲間だろうに。
「フィンはさ…愛してるって言ったら分かる?」
「それは理解するけど」
「俺がフィンを愛してるって言ったら伝わる?」
「あぁ…特別ってそういう意味なの?」
「うん…」
だとしたらいつからだ?僕と出会ってそんな時間は経ってないし、まして交わした言葉もそんなに多くない。
見た目か?だとしたら何回か万魔を行使したときにいつの間にかその影響を受けていたのだろうか。
でもナナシもダルガンもそんな気配はなかった。ヘレスなんか同族嫌悪してるくらいだ。
「うーん…」
「やっぱ…駄目かな?」
「なにが?」
「俺じゃ」
「ごめんちょっと何言ってるか分からない」
「えぇ…。俺がフィンをあ、あ。愛してるって迷惑かなって!」
「そもそもなんで愛してるの?いつから?」
これで万魔の行使してからならその影響かどうか分かる。
「最初に可愛い子がいるんだなぁって思って。わりとずっと気になって、話しとかも俺の話し真面目にいつも聞いてくれてさ。こんな無力な子が俺なんかのためにずっと頑張って…いや。ヘレスから聞いたりもしたよ。勇者だからって。でも俺が勇者として戦いたくないってなってもフィンは一人でも戦ってたんだよな?それって俺が勇者じゃなくても俺のためについてきてくれたことは嘘じゃないって…恥ずかしいんだが!?」
判断に困る。本当にいつからだ?見た目に関してはリビリアが褒めていたからそうなのかもしれないがずっと気になってのずっとっていつ?
それに僕は無力ではない。戦闘能力がないだけで万魔を持っている。リビリアから聞かされた時はまさかとは思ったがフィブラで実証してからは僕も魔王の血を受け継いだ者だったんだなって自覚した程度だ。
アキには勇者だから近づいた。たしかに役に立たないと思ったらいつでも切り捨てて一人で行動は起こしたかもしれないが、テトと出会ったときに一人だったら降伏を迷わず選択していただろう。
リビリアに期待されたからと言ってもそこまでする義理はないし、竜を操っても勝てないのは初撃で理解していた。
本当…分からないな。
リビリアも愛していると言ってたな。せめて比べたら何か分かるだろうか?
「アキは僕に戦ってほしくないの?」
「そりゃ当たり前だ」
「当たり前なんだ…」
「好きな人に死ぬかもしれないことなんてやってほしくないもんじゃないか?いや。この世界だと分からないけどさ」
僕はどんな形の愛も分からない。リビリアの愛の形も、アキの愛の形も。
でもどうなんだろう。
リビリア、勇者には万魔が半分程度しか効かないんだったよな…。僕は最初の方だけ小さく呟きアキにはっきりと告げる。
「『万魔の守護を一時的に封印せよ』『アキ、僕の事を嫌いになって』と言っても愛してる?」
「あぁ。間違いなく愛してる…何回言わせるんだ…もしくは言わせたいのか…?」
「『万魔の守護をここに』そっか…」
「あれ?もしかして俺振られてる?なんかごめん」
そう言って起き上がろうとするので頭を押さえつけて撫でておく。
そろそろ日が暮れ始めるだろうか。
どうやらリビリア、僕は愛されてるらしい。僕はやっぱり確認しなければならないリビリアの愛とアキの愛を。
知識では知ってるんだ。家族に向ける愛と他者へ向ける愛が違うことは。
リビリアが仮に僕に家族に向ける愛を向けたとしたら僕は家族愛を知らない。知らないというか感じたことすらない。それがリビリアの愛し方だったとしても。
他者へ向ける愛も知らない。物語でしかどちらも知らないんだ。
「じゃあアキは僕を愛しているわけかぁ…」
「あ、はい…」
でもさリビリア、僕は家族を、父を兄弟を平気で殺せる姉と。命懸けで涙を流して蹲ってる勇者だと勇者を信じたいと思ってしまうんだ。
これは僕の感情なんだと思いたい。だから少し真面目に考えてみようと思う。
「ちなみにヘレスは愛してるの?ダルガンさんは?ナナシさんは?」
「いや、後半二人は分からないというか。いや三人とも愛してないが、もちろん好きだぞ?ただ特別ではないかな。それにこの世界がどうであろうと俺は一人しか愛せないかな…まぁ愛した経験なんてそもそもないんだけど」
「元の世界だとなんか違うの?」
「んー…国によるけど俺の国は一人妻をもって終わりかな」
平和だとそういうものなのか。まぁ確か国王とか貴族もいないとか聞いた気がしなくもないが異世界の話しはこの世界と真逆と思えばいいのだろう。
ん?しかし真逆だと同性でも好きになるのか?うーん?
まぁ…いっか。どうせ茶会の時点でリビリアの計画は壊れているんだし。
「アキ」
「次はなんだろうか?できればジャブ程度で遠慮願いたいけどそろそろ恥ずかしさも限界というか」
「僕は男だけどアキの世界では同性でも愛するの?」
「おっとちょっと待ってくれ。渾身のストレートがきたようだ」
「そっか。その反応的に普通ではないんだね」
性別的問題は人間は大きいというし、僕の性格を好きだと思ってくれていたというのならそれはそれで喜ばしいことだから別にいいのだけど。
あ、そういえば魔族と人間なのもあるのか。一応僕は何かの混血だとは思うけど。
「フィンはむしろありなのか?というかこの世界では同性とか普通にあるものなの?」
「うーん。王族とか貴族ではそういうのあるらしいよ。あと魔族はそもそも性別気にしないかな」
「一般的には?」
「僕もそこまで詳しいわけじゃないけど異性同士が人間にとっては普通だと思うけど?」
「そっか…なんか色々フィンは属性持ってるんだな?いやでも、驚いたけど好きな気持ちは変わってないぞ?ただちょっと頭を整理させたくてさ…なんかごめん…」
「いいよ。僕もまさか愛されてるなんて思ってなかったし。あと僕も時間が欲しいかな色々しなきゃいけないことが少しあってさ」
ゆっくりと頭を撫でて。さすがに完全に日が暮れたらこの位置から帰るのに多少困難になるだろうし二人で話す時間は終わりかな。
「とりあえず今日は帰ろうか?」
「うん…俺ちょっと真剣に考えてみる」
今までは真剣じゃなかったのか。まぁ良いか、人間だもんな。いっそ魔族なことも今言った方がいいかと考えたけどその前にやることやってからか…。
アキを立ち上がらせて、僕も帰路に着くのだが。アキが道を間違えそうになるので手を掴んで引っ張っていく。
「なんというか心の整理がまだついてないんだけど…」
「そうは言っても帰り道わかってないでしょ?」
「はい…」
さっきまで膝枕してたのに手を繋ぐのは整理が必要なことなのか。スキンシップの仕方一つでも複雑なんだな。
家に着くまで結局手を繋ぎっぱなしで帰ることになり、手を離すとアキは少し寂しそうな顔をしていた。
それとも僕の勘違いで実際はようやく手を離せたと思っているのか。
人間の感情を顔で読み取るのは僕を愛していたと言う時点できっと僕は苦手なのかもしれない。それでも寂しそうに見えたのだからもしかしたら単純にまだ肌寒いのか。
アキはそのまま部屋に戻り、僕もヘレスがいる部屋に入る。
ヘレスは干し肉をかじりながらこちらを振り向いて帰ってきたのを確認してから食事をしている。
「ただいま」
「ほふぁへり」
「食べてから喋ればいいのに」
そう言うと果実を水代わりにかじって飲み込んだ後に改めて言う。
「おかえりーフィンちゃんどこ行ってたのー?」
「南の砦まで様子を見に行ってたよ。実際にどうなっていたのかとか確認したかったし」
「そっかー真面目だねー…」
なんと切り出せばいいだろうか。とりあえず僕も隣のベッドに腰かけてヘレスの方を向く。
「そんなにヘレスは僕が強硬派に見えたの?」
「…毎回…突然切り出すよねーフィンちゃん」
「今日聞いたよ。アキは亜人を相当殺してたんだね。亜人の国と戦争なんかしてたっけ?」
「小さないざこざくらいあるだろうねー…って言ってもー?あたしが聞いたのは最初の魔王の子を殺してフィンちゃんが寝てる間だけどねー」
そうか。教会からは聞いてはいなかったのだな。だとしてもあの時点で帰ってもアキはひたすら戦争の道具に変わりなかっただろうに。
「ヘレスはどうしたかったの?亜人との戦争に備えておきたかったの?」
「あたしは保護するように言われただけだからねー…ただ今フィンちゃんの言いたいことは分かるよ?」
「じゃあ僕が聞きたいこと答えてくれるかな?」




