三十五話
運んできてもらった温水の魔道具を見ようと思ったけど魔眼が使えないので解体ができないこともあり、せっかく運んできてもらったのだけどしばらく放置になりそうだ。
「フィン殿は…魔眼が使えないと魔道具を使えないのか?」
「うーん…魔力を通すこととか簡単なものなら解体とかもできるけど運んできてもらったのはちょっと無理かな。爆弾なら作れるよ?」
「もう…それはいい」
何十個も同じ作業をしたから仕組みをもう覚えてしまっている。
あとは浄化。風を起こすこと。火の玉。水球…生活魔術くらいなら覚えているから使えるし。
魔道具は分解して術式をわざわざ見ないと内容が分からないだろうなぁ。
「別にいいんじゃない?フィンちゃんは元から知略担当でしょー?」
「え…?」
「そうであるな!」
「え…?」
「確かにな…」
「…」
「物知りだしな。頼りにしてるよフィン」
何もしてないのだけれど何故か頼られてる。そもそも戦慣れしてるのはダルガンで魔術系統は違うけどヘレスもそうだし。ナナシとアキは…強いし?なにが彼らの中で僕を信頼に足る要素になってるのか。
事実は僕という存在を消せば解決するというのは置いといても現在進行形で魔術が使えないただの足手まといがいるという事実だ。
「みんなの言い分は分かったけど、これから先はもう僕が何を考えても作戦そのものが今回みたいに誤算しか出ない結果になると思うよ」
「完璧な作戦などなかろう?フィンさんは難しく考えすぎなのでは?」
「そうそう。フィンちゃんがいなかったら倒せなかった存在を…ていうかこの規模の要塞を落としてる時点でって話しなのよねー」
得体はしれないが万魔の力をどことなく感じていて頼っているということだろうかヘレスは。
他の三人はまぁ…何も考えてないとしてもヘレスに関しては油断しないようにしなければ。
それとナナシも、僕の能力を隠れて見てしまう可能性もあるから一応警戒…。
僕にとっての癒しはある意味でアキとダルガンなのかもしれない。
そんなことをぼんやり考えていると全員が揃ったということで話題が魔王城攻略についてになっていく。
「まーあたしのせいでもあるけど、今までぼんやりしていたフィンちゃんの知ってる情報をそろそろ全部知りたいなーなんて?」
「ヘレスのせい?」
「元々喋る気があったのかは分からないけれどー。結果的に言えばフィンちゃんのしたいことがあたしは分からないんだよねー。あの時は撤退すればいいって思っていたけど本格的に攻め続けるならフィンちゃんの知ってること教えてほしいんだよー」
当然のことではあるか。いつも行き当たりばったりで説明をしていたし。
ただ僕自身フィブラから貰った知識などをあてにしていたから僕の知ってる情報はたかがしれている。
それに今回のことで完全に理解したことは資料に目を通して知った気になったくらいで万魔をなんとか倒せていたのは奇跡に近いということ。
今までの戦いを思い出しながら。そして実際にテトを見たからこそ言えることは一つしかない。
「正直何も分からないっていうのが僕の出せる情報かな」
「少しでもいいんだけどー?」
「…魔王の子。万魔と呼ばれる存在が5人いる。ただ僕が知ってるのは資料とか二つ名とかで聞きかじった程度の情報で、戦ってみて分かったことがあるけど情報を頼りに戦ってみたら想像以上に勝てない相手だった…って言えば満足かな?」
「ふーん。5人ねー。じゃああと1人は誰なの?」
今までリビリアの存在を名前にしてこなかったから当然の質問だろう。
ただリビリアのことはなんて説明すればいいのか僕にも分からないんだよなぁ。
現在の問題も相まって茶会の件を話して勇者一行で向かい、リビリアが勇者の味方として話すべきなのか。それとも普通に知らんぷりして茶会を僕がこっそり抜け出して参加する…。
即答できる内容でなかったからヘレスは不機嫌なようでいて困った顔をしている。
「そんなにやばい相手なのー?」
「うーん…なんて説明すればいいのか分からないとしか…」
「じゃあ詳しいことは置いといて名前とかはー?」
「万魔の守護者リビリアだよ」
「守護者ねー…」
復唱されて思い返すのはまずリビリアとの会話とかだったけど。僕がそれよりも前に見た情報だとスピラのように抽象的な魔力の根源なんて呼ばれるような四天王ではなく。
ありとあらゆる魔法を扱い魔術を極めた存在…。
これだけ聞けば近接戦闘に関しては分からないが中距離及び遠距離戦闘において最強だと思う。
テトの強さを身に染みてわかってはいるが。情報だけならリビリアが最強なのだろう。
またその強さを裏付けするのはレアラとテトの攻撃をリビリアが味方がどれだけいるのかは分からないがずっと耐え続けていることだ。
万魔一人でさえ圧倒的強さを誇っていたためレアラも相当に強いんだろう。
それを二人同時に相手取り、劣勢だったと聞いてはいたが現在まで戦闘を長引かせ続けていた。
「フィンが今までその守護者の話しをしなかったってことはさ、味方ってこと?」
アキが僕の話しを深堀りしてくるが正直に言えばそれも分からない。僕の味方だとは思うんだけどアキ達を最終的にどうするかっていうのは話したことあったっけ?
勇者を使い逆賊の万魔を倒せとは言われたけどそのあとの処遇についてはあまり覚えてないんだよな。
でも良い方向ではなかった気がする。となれば敵とも言えるし…。僕の一存で決めれることではないんだけどなぁ。
「アキさん。相手は魔族、それにフィンさんも言ってた通り情報通りではないとすれば敵とも味方とも答えづらいのでは?」
みんなもみんなで勝手に話し合い始めて僕も改めて考えてみる。
まずリビリアの言う通り…というよりも結果的に言う通りになってしまったが勇者を使って万魔を二人倒した。
本来の計画をもっと思い出していこう。
まず勇者との接触。その後勇者の信頼を勝ち取るために勇者しかいない状況を作り出していく、ようは仲間であるダルガン、ナナシ、ヘレスの殺害だ。
ただそれをしなくても何故か知らないが信頼を得ている状況が作れた。
そして万魔を全員倒しさえすれば勇者の役目は終わるので恐らく使い捨てだろう。国に返すか殺すかはリビリアの判断。
ここまでは万魔を倒すという点において必要だったからということだ。
最終的にリビリアは魔王となることを望んでいた。だから魔王を殺し、邪魔になる存在を殺そうと判断し僕を…。
いや、違うな。リビリアは魔王が争うことを好んでいたから殺したと言っていたはず?それなら最終的にリビリアは魔王になってなにをしたいんだ?
別に僕が魔王になっても構わないとも言っていたはずだ。そんなつもりは一片も僕はないがリビリアの目的としては魔王になるということ以外を僕は知らない。
僕はてっきり死んだ魔王が争いを好んでいたから殺して平和を提唱でもするのかと思っていたがそれは僕の推測に過ぎない。
やはり本人と直接話し合うしか方法はないかな。あとは勇者を茶会に連れていくかどうかということだけど…。
連れていけば僕が魔王の子と判明するという可能性が大いにあるためどうしても決断までに至らない。
とりあえずもう少し考えがまとまるまでは一週間後にしてしまったフィブラに直接質問して聞きたいな。
他のみんなはこれからのことや、どのテトから行くのかレアラから行くのかという話しもしてるが…。
「テトを倒さないとフィンが狙われているんだから」
「アキちゃんがフィンちゃん大好きなのは分かるけどー…倒せるのー?」
「それは…」
「アキ殿の気持ちも分かるが…また人間を操られる危険性の方が高い…」
「それにアキさん。フィンさんがここまで用意周到に即興でやってこれたとしても最初の時点で手も足も出なかった存在であるドラゴンとは一体でも恐ろしく強い」
まるで僕は関係ないかのように聞いているのだが。アキ以外の意見がまともだ。
茶会の件もあるし安全が確保されているから他人事のように聞こえるが、それがなかったら僕はアキに賛同してテトから殺しに行ってただろうな。
とはいえ作戦が何もないんだけど。竜ではなくテトそのものをアキが倒せる状況を作るってどうすればできるんだ?
いっそ万魔同士で殺しあっている…それこそリビリアの協力を得ないと不可能だと僕は思う。
「僕が言えたことじゃないんだけど。魔力枯渇の件もあるししばらくここの要塞で休息しない?」
「…あたしはフィンちゃんがまた何か言いだすとは思っていたけどさー…それも理由あることなのー?」
「そのままの意味だと思うけど、ヘレスは僕の何を疑ってるの?」
「うん、疑ってる。でもーアキちゃんの気持ちを利用してテトから挑むのかなーなんて?そう予想してたかなー」
図星な部分もあるから何とも言えない。もし茶会も魔力枯渇もなかったら僕はどうしていたかなんてあまり考えても仕方ないことだけどテトから始末はしておきたいとは思うだろう。
でも勝算がないから今度は魔王城の城下町と竜を利用した戦いしか想像できないくらいには見込みが薄い。スピラを戦力に混ぜたとしても、だ。
「今の本当に思ってる僕の心境はテトにしてもレアラにしてもリビリアにしても。勝算が何一つ思い浮かばないってことだよ」
「珍しく弱気ねー…」
「それはフィンが魔眼を使えないことと関係してるの?」
「魔眼を使えても使えなくても僕が戦えば一瞬で死ぬだろうね。ギュスターヴもゴドーも武術を使うと知ってたからなんとかなると思っていたけど実際にはそうはならなかったし。魔法を使う…テトに関してはあれが魔法なのかすら感知できなかったしね…」
腕を振る素振りを見せていたから何かしらの魔法を飛ばしてきたのだとは予想してるけど…。
ギュスターヴの件とゴドーを見て分かったこともある。
ギュスターヴは無意識なのか意識的なのか致命の一撃を繰り出す際に魔力を相手まで伸ばしてきて魔力の予備動作を行い縦横無尽に矛を振るっていた。
対してゴドーは恐らく巨人的な力だと思う。魔法障壁を張ってはいるが種族的に単純な武力のみで戦っていた。いくら傷ついても襲い掛かってくるなんてもはや魔法ではない防御力は魔法であっても戦闘のスタイルと生命力が種族の特徴と考えた方がいい。
それを踏まえてのテトは半竜半魔の存在。巨人より何をしてくるかもわからなければ、どれだけ生命力があるのかもわからない。
これで半竜半魔は涼しい顔をして腕を振るだけで魔力と関係ない攻撃をしてくるとかなら全滅なんて一瞬だろう。
「うん。やっぱり休息でいいんじゃないかな?」
「でも!フィンは命を狙われているんだろう!?」
ナナシもそれは懸念してくれてるのか判断を急いでるようにも感じる。言えないのがもどかしいがやはり嘘をつくしかないだろう。
「何も知らない人間ならこんな短期間で万魔と呼ばれる魔王の子が二人も死ぬなんて異常事態だよ。テトも警戒しているんじゃないかな。アキ達が何かしてると予想したとしても攻撃よりも守備を強化する考えになってもおかしくはないんじゃない?」
「フィン殿…本当にそう思うのか?」
「全部僕の妄想だよ。最初にテトと戦闘してテトが撤退した時も負けるかもなんて言って撤退したからそれくらいは用心するんじゃないかな…とかね?」
それらしいことを言って撤退していったという実績があるからこその嘘だけど信憑性は少しでもあるだろう。
アキとナナシはとりあえず落ち着いたのか、あまり言うことはなくなったがダルガンからしたら元々中立的な立ち位置だ。
あとはヘレスなんだけど…。そう思って僕がヘレスを見て、それを見習うかのように全員の視線がヘレスに向いて溜息を吐いていた。
「そこまで言うならむしろ人間国まで撤退を提案してくれないかなー?」
「…うん。そっか。それもありなのかもね」
「っ!フィンちゃん本気なのー?」
「それは…オレは出来ん…」
「あー…ナナシちゃんのこと忘れてたわー」
僕からしたらとりあえずこの場は休息としか言えない。ナナシはレアラを殺すまでは旅を終われないだろうな。だからやっぱりヘレスの気持ちもナナシの気持ちも妥協するしかない。
「ナナシさん一人じゃ無理でしょ?死ぬとわかってても行くの?」
「フィン殿…少なくとも情報を持ち帰るという意味なら…アキ殿たちが生きて帰れば…」
「結局ナナシさんの意見にしてもヘレスの帰るという意見にしても戦争が長引けばどうなるか分からないっていう意味で言い合いになっちゃう…ってなったら作戦が思いつくまで休息でいいんじゃないかな?」
そもそも目的の違う集団だ。いや僕の嘘によってそうなってるだけなんだけど。
「ヘレスも分かってるんでしょ?ナナシさんをこのまま置いていって帰っても問題が解決しない以上勇者の保護とかよりも教会ですら危険な状態だって」
「それはー…まぁねー…」
言い濁しているのは勇者の保護さえできればいいとヘレスが思っているからこそだろう。
ただ教会も被害にあうかもしれないと遠回しに言ってしまえば留まるしかない。
まったくもって歪な関係性だ。
どうしようもない状況をどうにかしようっていうのをひたすらに繰り返して。
「フィンちゃん的にはどうなのー?何か思い浮かびそうとか…」
「ないかな。だから休息という意見だったわけだし。移動しながらも考えたけどそれだと食料とかに困るでしょ?」
「そっかー…あたしは最終的にフィンちゃんの意見が通るようになってる現状がなんだかなーって思うんだよねー」
「じゃあ今度からあえて逆のことを言ってみようか?」
「例えばー?」
「魔王城へ正面から突っ込むとか」
「あはー…フィンちゃんがそれを真面目に提案してきたらちょっとは笑えるかもねー…」
ヘレスから反論もなくなり、ナナシも単独で挑めば勝てないのを分かってるから結局休息しながら作戦会議しつづけるしかないという結論に落ち着く。
多分僕が何か言わなくてもこうなることくらいヘレスが冷静になれば分かってくれるだろう。
むしろ僕の命がとか言いながらアキがやる気になってテトに挑む方がヘレスにとって一番嫌な行動だったろうし。
あとは若干空気が重たかったが、食事も行い。各々の部屋へ戻って休息することになる。




