三十四話
フィブラから茶会という言葉を聞いて呆けてしまったがフィブラ自身判断に困っている様子だ。
「その…茶会っていうのは?」
「詳しくは分かりません…ただリビリア様と皇竜テトも同席するそうです」
リビリアがいるなら少なくとも大丈夫だろうと思ってしまいたくなるが。決戦とかはどうなったのか。
「争いはどうなったの?」
「結果的に言えば万魔の壁ゴドーの討ち死にが魔王城に伝わった時点で休戦状態になり、そこからは争うこともなく平穏…でしたね…」
多少は僕が役に立ったということだろうけど…。
「元々はというか。ギュスターヴもゴドーも結局勇者が討伐したんだけど?」
「それに関しても勇者たちも茶会に誘われています」
「…どう説明すればいいの?」
「万魔を使われては?」
「勇者には効かないんでしょ?というか今更茶会って、僕の嘘がばれたら勇者と僕が敵対しちゃうよ?」
「では勇者たちには密に行動されては?」
それが一番無難ではあるか。とはいえこのタイミングで消えれば間違いなくアキ達が混乱するだろう。
ナナシから部屋にいるように念を押されていたし。
「出立はいつにされますか?」
「ちょっと…少し考えさせてもらってもいい?」
「皇竜テト以外は気が長いのであのお二方が付いてるのであれば1カ月以上は待つことが可能です…ただ私がすることがないんですが?」
「フィブラには申し訳ないけど1週間置きに様子見に来てくれる?」
「分かりました」
案外あっさりと納得してそのまま音も立てずにドアを閉めて足音すら無くどこかに行ったのだろう。
あ、目のことついでに聞いておけばよかった。
まぁいいか。しかし茶会って…表向き僕は兄弟をすでに2人殺した存在なのだから敵視されて殺されるんじゃないだろうか。
窓を開けて外を見れば明るく、春の暖かさも感じられる。
空を見れば瘴気で…。
瘴気が薄く、ほのかに青が強まった色の空があり。太陽は淀みを減らし地上をちゃんと照らしていた。
これがどういうことなのかは分からないが、瘴気が何故か薄まってる?
今思えばアキ達がここまで瘴気に汚染されずに来れたのも意外と言えば意外だ。
レアラの茶会といい何かが起きているのは間違いないんだろうけど…とりあえず茶会に行かないと僕は何も分からずじまいということだろう。
外の光景はお世辞にも綺麗とは言い難いが明るくなった廃墟は悲惨だというのをまじまじと映し出している。
これが僕のやったことなのかと思っているとドアがノックされアキが「入るね」と声をかけてきた。
アキの当番は魔王城。つまりは南に行くための確認と、魔族たちが今密集してる地帯の観察だったかな?
「フィンはもう起きて大丈夫なの?」
「うん。アキは様子どうだった?」
「被害の少ない東に魔族たちは密集していて魔王城に行くなら西から出るのがいいだろうね。あとはついでにこれ」
どこかから拾ってきたのか干し果実を取り出して渡してきた。
せっかくなので貰って食べると甘味がほんのりとして美味しい。
「アキって食べ物好きだよね」
「好き?まぁ、お腹すいたら食べておいしいものがいいとは思うけど。食べれるかもわからなかったからなぁ」
「でもアキはよく食事するじゃない?」
「大食いってこと?そんな食べてるつもりはなかったんだけど…?」
人間はよく食事をするから別に違和感ではないのだけど。それでも美味しいものを選別するのをよくやってるから好きなのかと思っていた。
「僕も別に詳しいわけじゃないけど本で読んだくらいだし。人間は腹が減れば雑草も食べるって書いてあったよ?」
「まじか…いや貧困な地域だとそうなのかな?俺もこの世界にそんな詳しいわけじゃないけど食べるなら美味しいものがいいと思わない?」
「まぁ、それは思う」
「そうだ。俺の世界の話しをしようか?」
別に聞いても僕が行けるわけではないから…とは言えず。目を輝かせて話したそうにしてるから素直に頷いておこう。
「そうだなぁ…フィンの好きそうな話しなにがあるかな?」
「魔法かな?」
「機械の話しは前にしたしなぁ…」
「じゃあアキの好きな話しでいいよ。食事でしょ?」
「あ、やっぱりそういうイメージなんだ…まぁ、うん。それでもいっか」
最初に語りだしたのはラーメンとかいう物を話し始めて、焼肉とか分かりやすいものもあれば寿司とかピザとか。色々話し出したらわりとキリがないほどの名前を出すからやっぱり食べるの好きなんだなぁと相槌を打って聞いていると途中で意見を聞かれた。
「今話した中でさ、フィンが食べたいと思ったものってどれかな?」
「えぇ…見たことないんだけど…肉まんとか?肉料理だろうし」
「そっか!たしかにフィンが肉まんを食べていると似合いそうだね」
ん?肉まんて服とかアクセサリーだったのか?いやでも食べるって言ってたし食べるアクセサリーか?
「でもケーキとかあってケーキにも色んな種類があるんだけどさ、フルーツとか乗ってたりするんだよ?」
「へ、へぇ?たしかケーキはパンの仲間だっけ?」
「まぁ似てるようなものかな?パンは菌を使うんだっけかな?」
「菌…キノコ?」
「ははは、キノコじゃないよ」
誰か助けてくれ。全然話についていけない。
僕がアキに魔法の説明してるときも同じような感覚だったのだろうか?いやでもアキは魔法使えてたしな…ただ実物がないとさっぱり分からない。せめて絵で描いてほしい。
しかし何が楽しくて僕にその話をするのか。他の連中はあまり興味ないのかな?聞いてあげるくらいすればいいのに。
「アキはどれが好きなの?」
「んー。悩むなぁ…久しぶりに食べるってところも悩みどころだ。あっさり…?いやこってり?」
また分からないことを呟きだした…こってりというと肉か?あっさりは野菜?
「うん。俺はもし食べれるならピザが食べたいかも」
「ピザ…。それはこの世界にないの?」
「作り方は分からないけどパンの仲間だとは思うんだよね。でもそもそも小麦粉とかあるのかな?」
「えーっと…亜人の国に行けば多分パンはあると思うよ?人間の国でもあるところにはあると思うけど」
「そうなの?亜人の国ってどこ?」
仕方ないので、リュックに入ってる紙を取り出して…ちょっと血を吸いすぎて浄化でも落としきれてないけどいっか。
地図を軽くだが描いてあげる。
「北が主に人間の国。南が魔族の国。東が亜人の国。西は未開拓地かな、言語を扱うはぐれ種族が済みついてたりするけど魔物が多いから基本的には誰も近寄らないらしいよ」
「へー…大陸は凄い広いのに四つ…三つしか国ってないんだね?」
「そこを説明するとややこしくなっちゃうけど…種族の国ってだけの話しね?そこに王がまた何人もいたりするよ」
「魔族は魔王一人なのに?」
「そもそも魔族は強い者が正義みたいなところはあるし。魔王と名乗ってないだけである意味ギュスターヴやゴドーも魔王みたいな扱いだよ。民衆が従ってる者が王って感じかな?」
「んー…宗教みたいなもんなのかな?」
「あぁー…似てるね」
エイガムアス教会の名が広く知れ渡っているが、実際には亜人には亜人の教会もあるし魔族にも何がを崇めてる宗教団体がいたはずだ。
僕がみた資料だと宗教戦争もあったことがあるらしいし、国と宗教も似たようなものだろう。
「亜人の国かぁ…行ってみたいなぁ」
「やめた方がいいと思うけどね。亜人は魔族よりも種族にこだわるから監視の目が厳しいし…まぁ国境沿いで交流してるところがないか探すくらいに留めた方が安全だよ」
「亜人の国とも戦争してるの?」
「今は分からないけど…奴隷攫いがいるから…あ、でもアキなら返り討ちにできるのか」
「人間を奴隷にするのか亜人は…」
「魔族でもいるけどね人間を奴隷にするの。逆もそうだよ人間も魔族や亜人を奴隷にする」
そこまで言えば嫌な顔をしながら地図をじーっと眺めていた。
アキの国では奴隷がいないのか少ないのか。それとも食事をしたいがためにどうやって亜人の国に入り込もうとしてるか悩んでるのか…。凄いな執念。
「そこまで食事したいなら何か作る?」
「え?フィンて料理できるの?」
「できないけど?食材なら瓦礫に埋まってると思うし探せばあるんじゃないかな?」
「んー…やめておく。せっかく復興作業してるんだろうしその人たちの分を取りすぎたら困るだろうから」
魔族に優しくしてもいいことはないと思うけど…。まぁ実際に指示していたのは僕だしアキからしたら仕方なく戦ってるだけで敵とは思ってないのかな?
その考えだと亜人に騙されて閉じ込められてペットにされてるアキの姿が軽く想像できる。
人間の勇者ともなればそこそこ値段も良いだろう。亜人のお金はどんなのだっけかなぁ?魔族みたいに魔銀で統一してくれればいいのに人間の国とか銅とか銀とかややこしいんだよなぁ。
「いつかフィンにも食べさせてあげたいな」
「そう?アキがそんなに言うなら美味しいのは間違いないんだろうし食べてはみたいけど」
でもさすがに毎日食べるとなったら疲れないだろうか?魔族で毎日食べる種族とかいたっけ?感想でも聞いてみたいな。食べなきゃいけないとなると疲れるから美味しいものを求めるとか?
「あ、そういえばアキ?」
「どうしたんだ?」
「ちょっと僕の目を見てほしいんだけど」
「いいけど?」
魔眼のことをふと思い出してアキの方をじっと見るが、特にアキからなにも反応がない。
見えにくいのかな?
姿勢を変えてちゃんとアキの頭を掴んで目線を合わせて正面から見えやすいようにアキの瞳を見ればちょっと僕の顔が映っている。
僕が見る限りおかしなところはないんだけどなと、もう少し近づいてみるがアキが僕の頭を掴んで離してきた。結局どうだったんだ。
「えっと…フィン?どうしたんだ?急に」
「いや?どうだったか聞きたいんだけど」
「と、言われても…綺麗だった…かな?」
傷ついてないと言ってるのだろうか。それならいいんだけど、魔眼が使えないのは困るな。慣れ親しんだ術式なら使えるけど魔眼頼りで術式を組んでいたものは使えなくなってしまう。
元より僕が戦力として有効かと言われるとそうではないが…単純に不便だ。
そうだ。アキに魔眼を付与して再度見てもらおう。
「アキに魔眼を渡すからもう一度見てほしいんだけど?」
「え?魔眼?てかまた見るのか!?」
とりあえず魔眼の術式をアキに付与して再度正面から見てもらう。さっきよりは状態が分かりやすくなってると思うんだけどどうだろうか。
真面目に…見てないのか視線が横にずれたり下を見たりしてる…。僕の魔力がおかしくなってるから?
「アキ?」
「なんでしょうか?」
「…?どうだった?」
「えっと…綺麗だったよ?」
異常なしか。となると魔力爆弾の影響の可能性が高いな。自分の魔力を無理やり爆弾に変えたのだからそこから見えない部分で異常があるとみるのが妥当だろう。
「でもまたなんで急に?」
「なんか魔眼の調子が悪いのか、僕が魔眼を使おうとすると頭痛がするんだよね」
「え?それって大丈夫なのか?」
「んー。不便だけど、とりあえず様子見かなぁ?ヘレスに後で見てもらうかな」
ベッドに座るとアキも隣に座ってきて、今度は深刻そうな顔で僕の方を見てくる。
「もう一度見せてもらってもいいか?」
「いいけど?魔眼いる?」
「できればほしい」
術式を付与してアキをじっと見て、僕も瞳の反射で出来る限り自分の目を見るがやはり違和感はない。瞳の反射では限界があるからアキの返事待ちかな。
その時にドアをバンと勢いよく開けてヘレス達三人が帰ってきた。
「ちょっとー水の魔道具重いんだけどー…って。なにしてんの?」
「え、いや違っ」
アキが勢いよく離れて挙動不審になり始めたので僕が説明するか…。
「これは――」
「2人でいちゃいちゃとねー…あたし達はフィンちゃんの言う通り重たい変な魔道具運んできたのにー?」
「いちゃいちゃ?」
「俺は!真面目に見ていたんだ!」
「…冗談よ。フィンちゃんの反応も普通だし…むしろアキちゃんは下心ありすぎなんじゃないかなー?」
ヘレスに言われてアキが落ち込むように下を向いていたので本当に下心でもあったのか。でも下心って言われても特別なことはしてないのだけど。
「ヘレスが来たなら話が早いんだけど、魔眼を使おうとすると頭痛がするから異常がないか見てもらっていたんだよ」
「魔眼?あの魔力見るやつ?」
ナナシとダルガンは荷物の整理を始めてアキもそれにこそこそとしながら混ざりに行くのを見て。
本格的にヘレスに目を見てもらう。
「ちょっと魔眼貸してもらえる?」
そう言われて付与してヘレスに見てもらうが。少し難しい顔をされる。
「多分ただの魔力枯渇が続いてる状態だからそのうち治ると思うわ。だからしばらく魔術禁止ねー」
いまだに魔力枯渇が続いてるとなるとやはり魔力爆弾の影響なのだろう。




