三十二話 幕間
何もかもが許せない!
ギュスターヴが努力をしているというのにそれを笑う奴を何度殴ったことか。
リビリアなんかは特に許せなかった。
「あなたが怒ってどうするの…?彼の事なんだからあなたが何をしても無駄よ…」
兄弟のことを笑われて平然とするのはどうなのだ!?仮にも血のつながった者同士だというのに…。
テトもテトで許せはしないが、あやつの場合は純粋に努力というものを知らないのだろうから放った言葉なのだろうが。
「ハッ!私に聞くな!ギュスターヴが私に鍛錬を求めるならともかくあいつはしたいことをしてるだろうが。むしろ貴様は邪魔をするな!」
毎日ギュスターヴは頑張ってるんだ…努力の仕方を分からなくてもしかしたら助けを求めてるかもしれないというのにテトは本人から言わないと協力しないと言う。
他に頼れるあてもなく、普段は引きこもって何をしているか分からないレアラの所へ行くと相変わらず楽しそうに笑っている。
「面白そうな話しではあるけれど…半分はテトと同じ意見ですよ私も。でもゴドーの言い分も分からなくはないですね?」
「そうだろう?そうなんだよ、あいつはいつも頑張っているんだ!なのにみんな分かっていないんだ!」
「そうですか?分かってはいると思いますよ?ですがそうですね…ゴドーはどうしたいんですか?」
「決まっている!あいつを応援したい!」
「困りましたね!困ってしまいますね!でもいいですよ。貴方がそこまで言うなら彼に協力してあげましょうか?」
「な!?レアラがしてくれるのか!?正直予想外というか…しかしどうすればいいんだ?」
レアラは笑いながら立ち上がって何かの本を取り出す。正直本は苦手だからそれを読めと言われたら無理だと即答できる。
「安心してください。ゴドーは本が嫌いなのでしょう?私が代わりに読みますよ」
「助かる!」
「ゴドーの言う通り努力は裏切らないです。しかし努力にも方向性というものがあるんですよ…ってゴドー?分かってますか?方向性ですよ?向きです。右とか左とかそう言う奴ですよ?」
「ええい!そこまで言われれば俺でも分かる!」
ただそれだとまるでギュスターヴのやってることが間違ってるみたいではないか!あいつは俺よりも…誰よりも努力しているんだ!
「ちなみにこの本に書かれているのは主に彼の武器の扱い方についてですね。私も読む気はなかったんですがこれを読み終えるまで待ってくれますか?」
「うむ!それくらい待つぞ!」
そうして数時間経って。一日、二日。一週間か?それくらい待っていたら本を閉じる音が聞こえた。
「この本は意外と面白いですね!ゴドーは本が嫌いかもしれませんが私が思うに読書というものは時間の節約にも繋がるんですよ。それにですね?」
「ま、待ってくれ…ギュスターヴについてはどうなったのだ?」
「そうでした!そうでしたね?ゴドーは0からよりも10から知りたいのでしたね。安心してください。ギュスターヴに関しては時間の問題でもあります。もしそれでもどうしようもなかったら私がなんとかしますからそれまで待ってくれますか?」
「む、むぅ…しかし今もギュスターヴは笑われているのだぞ?」
「それは貴方がどうにかしてください。私も私で笑われる身なのですから」
だがレアラは笑われていても楽しそうではないか?ギュスターヴのいつも悲しそうな顔を見ると凄く俺も悲しくなる。
ただ俺よりはレアラが何とかしてくれるという言葉を聞いてからギュスターヴに鍛錬の誘いをすることをやめて笑うやつを黙らせてはと繰り返して何年経ったか分からない時に親父から招集がかかった。
道中テトと出会い久方ぶりに出会ったテトに懐かしさを思いテトの前に立つと吹き飛ばされてしまった。
「なんのつもりだ!貴様はでかいんだからせめて目線を合わせろ!私がまるで小さいみたいじゃないか!」
「お、俺がでかいみたいじゃないか!?」
「でかいんだよ!面白くない!まったく面白くないな貴様は!」
何故テトはこうも怒りっぽいのだ。黙っていれば可愛いのに。
そうして親父の部屋に入りしばらくするとリビリアはすでにいて、後からレアラが入り。ギュスターヴも来てくれた。
「よくぞ集まった。完成品だ」
親父がそう言った瞬間頭が沸騰しそうになるほど怒りに満ち溢れてしまった。
リビリアが。テトが。レアラが。ギュスターヴがまるで不完全みたいではないか!みなすべてが頑張っているというのに!もちろん完成品と呼ばれたこの子もこれから頑張っていくのであるがみんなを馬鹿にされた気分だ。
親父は嫌いだ…。何を考えているかいつも分からない…。リビリアは聞けば答えてくれるし。テトは何事も正直に答える。レアラはむしろ聞かなくても何か話しかけてくるし。
そういえば俺はギュスターヴに対してどうだっただろうか?聞くよりも俺がいつも何かしようと言ってた気がする。そう思ってギュスターヴを見ると、いつも悲しそうな顔をしていたはずなのに穏やかな顔をしていた。
もしかしたら今なら大丈夫かと思い鍛錬を誘うと悲しそうな顔をされて俺は間違ったことをしたのかと思っていたらレアラが俺に賛同してくれた。
そのあとはレアラがみんなを誘い試合形式のようになってしまった。俺はどうしたらいいのか分からないまま鍛錬場へと歩みを進めていたがその際にレアラが近づいて俺にだけ聞こえるように話しかけてきた。
「ゴドー?今の貴方はとても不自由ですよ?もしそのまま本気でギュスターヴと戦わなければ死にますから本気で挑んであげてくださいね」
クスクスという笑い声と一緒に「死んだらもっと笑ってあげますからね」と付け加えられて言われてしまい。確かにギュスターヴにも俺が手加減をしたと知ったらそれは俺がギュスターヴを馬鹿にしてしまってると思った。
そして結果的に決着は一瞬で終わり…テトが本気で俺たちの戦いに介入して止めていた。
今まで馬鹿にしていたやつらよ!今のこいつは誰がどう見ても最強だ!俺が。テトが止めなければと判断するほどの強さを持っているんだ!
試合も終わり治療を受けながらギュスターヴに色々話をした。
「私はね…今まで考え方が違っていたんだ…」
「しかし先ほどの戦いは間違いなく俺が負けてもおかしくはなかった!」
「そうじゃないんだ…今更なんだけどね。みんな自由にしていたんだ…それを私は気づけなかった。いつも気をかけてくれてありがとう…」
ギュスターヴが俺にお礼を言うことが今まであっただろうか?不覚にも涙が出てしまい。この結果に俺はすぐにレアラに感謝を告げねばならないと思いレアラの引きこもってる部屋まで向かった。
「まぁ?どうしました?」
「レアラああああああ!俺はなんと感謝をすればいいんだ!あいつの!努力がああ!」
「おかしいですね?おかしいですよ。貴方も言っていたではないですか?努力は裏切らないと。嘘だったのですか!嘘だったんですね?」
「ちがあああああああう!努力は裏切らなあああああああい!」
楽しそうに笑うレアラに感謝を告げるとレアラは俺にも分かりやすいように話し始めてくれる。
「言ったじゃないですか。右とか左が分からないと。ギュスターヴはずっと貴方のいない左ばかり見ていて。右を見たら隣に貴方が立っていたんですよ」
「そうだったのか?リビリアやテトの言ってた通り放っておいた方が良かったのだろうか?」
「その結果はとても気になりますね!気にならないですか?私は気になりますよ?でも貴方はそんなことできますか?」
「できん!」
「それならそれが正解なんですよ。むしろゴドーが大人しくなったら私は面白くないですね!」
テトには散々面白くないと言われたが…。しかし俺は面白いらしい!テトと今度出会ったら言っておかねば。
「そういえばゴドー?新しい魔王の子を見ましたか?」
「うむ!聡明そうな可愛い子であったな!」
「あの子もとても面白いですよ。せっかく貴方の大好きな兄弟なのですからちゃんと気にかけてあげてくださいね?ギュスターヴばかりに構っていたら拗ねちゃう子になっちゃいますよ?」
「何を言うか!俺は兄弟を大事にする!ギュスターヴと一緒に鍛錬をせねばな!今から誘ってくるか!」
「赤子になんてことをしようとしてるんですか!面白そうですが…やめてあげてくださいね?」
そうか?今のうちに鍛錬をしておけば間違いなく強くなると思うんだが。
「…ゴドー?これだけは覚えておいてください」
「どうしたのだ?」
「陛下がわざわざ完成品と言ったことです。私たちはもちろんあの子のことを大事にしますが陛下はそうは思わないでしょう」
またレアラが難しいことを言い始めてしまった…とりあえず大事にすればよいのであろう?それならば大丈夫だと思うが。
「ゴドーには難しかったようですね。でもその穏やかな顔を見ればわかります。あの子のことが好きなのですね」
「うむ!当然だ!」
「それならばいいのです。さて…できればテトにもそう言いたいのですがあの子は小難しい性格をしていますからね」
たしかにテトはいつも怒っていて兄弟達とは何か違う気がする。それでもいつも正直なテトのことだ大丈夫だろう!
俺はレアラが悩んでいたので代わりにテトに言ってやろうと思い、遠くにある竜の住処まで山を登りテトに会いに向かう。
「テト―!どこだぁー!」
「グァ?」
「む?竜か。貴様ではないのだ!テトはいないか?むしろテトを知らないか?」
「グルルル…」
「知ってるのか?知らないのか?」
「貴様…何をしてるんだ…?」
いつの間にか後ろに立っていたテトはここに俺がいることを凄く不思議そうにしていた。
たまに遊びに来るくらい兄弟なのだから普通のことだろうに。
「テトよ!新しい兄弟を可愛がるのだ!」
「別に…構ってと言われれば構う!貴様はいつもおせっかいなんだ!」
「しかしレアラが赤子は上手くしゃべれないと言っていたぞ?」
「くそっ…レアラの入れ知恵か…そもそも私が可愛がらんとは言ってないだろう!?」
「それもそうか!」
そういわれたら確かにそうだ。それにテトはたまに王城に降りてはくるしな。それなら問題はないのか!
だがそれならレアラは何を心配していたのか?
「そうだ!テトよレアラが言ってたのだが完成品と親父が言ってたこと、あれの意味が分かるか?」
「へー…それはゴドーが考えたことか?」
「そうだ!だがあの時は俺たちのことを不完全だと思われていると思って怒りしかなかった」
「私も思うところはあった。魔王がかつて一度も我が子に対して完成品だなんて言ったことなかったからな」
「そうだったのか?」
「…貴様は何を疑問に思っていたんだ…」
正直毎回親父と会うときは怒ってばかりだったから怒ってる記憶しか残ってない。
だがテトがそう言うということはそうなのだろう。
完成品とはそもそもなんなのか?強さか?しかし強さならテトより強い者を知らん。
「親父は何を考えてるか俺はいつも分からない…」
「魔王の考えてることなんて決まってる…」
「なんだ?」
「それくらい自分で…!ってまぁ貴様では無理か。無理強いは良くないな。うん。魔王は常に配合種のことを考えてる」
「それはレアラのことか?」
「まぁ…間違いではないが…恐らく限りなく完成品というのであればリビリアだろうな」
リビリアが?いつも何を考えてるか分からないがそうなのか?
だとしたらリビリアが完成品なのではないのか?余計に分からなくなってきたぞ。
「しかしリビリアよりテトの方が強いではないか」
「強いって…褒められてるのは分かるけどそういうのではないんだよ…」
リビリアやレアラはいつも沢山のことを教えてくれるがテトがこんなに考えてくれるのはとても珍しい。
やはりテトも兄弟を大切にするやつだ。レアラの心配は恐らく考えすぎというやつだな。
「ゴドー…貴様は今日も何も考えずに来たんだろうが。ちゃんと考えないと取り返しのつかないことになるぞ?」
「む?そうか…でも俺はレアラのように頭はよくないぞ?」
「レアラの場合は動かなすぎなんだがな…。まぁ私も他の奴の事は言えないか」
なんというか今回の兄弟はいつもと違ってみな雰囲気が違うな。リビリアにも聞いてみるか?
「それじゃちゃんと弟を大切にするのだぞ?」
「あぁせっかくできた妹なんだ脳筋にしないように注意しておく」
うむ!これで問題はないな!あとはリビリアの元に行って聞いてみよう。
「リビリアああああああ!」
「どうしたの?」
「うむ!忘れた」
「そうなのね。じゃあ思い出したらまた来てくれるかしら?」
竜の住処からここまで急いで来なくてはならないということは覚えていたのだが…テトと何を話していたか?そうだ!完成品についてだ!
「思い出したぞ!リビリア完成品とはなんだ!」
「仕上がった作品とか、作り上げた作品とかそういう意味だったはずよ?」
「そうか。つまり親父は子供を作ったから完成品と呼んでいたのか!」
「あぁ…フィンの話しね。それは簡単よ父上がずっと求めていたものが手に入ったという意味よ」
「では俺たちは求められてなかったのか?」
「私たちがあってフィンがあるのだから私たちも求められていたということにはなるわね」
そうか。そうか?ならば何も問題はないか。しかしテトはもっと複雑そうな考えをしていたしレアラも珍しく悩んでいたように思ったが。
「リビリアが最も完成品と聞いたのだがなぁ?」
「…誰に聞いたの?」
「テトだが?」
「はぁ…あなたはいつも周りに流されすぎなのよ。少しは大人しくしなさい?」
「しかしレアラが俺はこのままが面白いと言っていた!では良いではないか!」
「もぅ…ゴドーはそういうところが流されすぎと言ってるのよ。いざというときに取り返しがつかないわよ」
それはテトからも言われた気がするな。やはりリビリアもテトもレアラも何か分かっているのだろう。俺だけ分かってないのだろうか?
「そうだ!リビリアにも言っておかなくてはいけなかった!」
「今度は何かしら?あなたに言われることなんてあったかしら?」
「弟をちゃんと大事にするのだぞ!」
「…えぇ、もちろんよ。だって愛しているもの。むしろゴドー…あなたの方が大事にする気持ちを忘れないで」
「当然だ!!」
兄弟は大事だからな!なにがあっても兄弟仲良くあるに決まっている!




