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三十話

 民衆の勢いは凄まじい。はっきり言ってこのまま数で押せばなんとかなるのではないかと思ってしまうほどだ。

 ただやはり関係値が築かれてないという状態というのもあってただの暴徒で戦闘は期待できないので南の正常な兵士が少しずつではあるが無力化していってる。

 まぁ。無力化して塊となってるそれはもはや僕たちにとっては無意味なのだが。


「『見よ!民衆が屍の山となっている!逆賊を今攻め立てよ!』」

「この裏切り者がぁ!」

「なんでこんなことしやがってる人間の手先が!」

「何言ってるんだお前たち!?やめろ!?」

「なにが起こってんだよ!?」


 倒れてる民衆を踏みつぶし血の香りが充満していきここはもう戦場でしかない。

 そして兵に限らず民もまた南の砦へ「助けて」と悲鳴のごとく集まっていく。


「ちくしょう!信じていたのに裏切りやがって!」

「正気に戻れ!ばかやろうがあ!」


「もしもこの戦場で今も平静を保ってる者よ『兵士である者は刮目し清聴せよ!僕を見てゴドーとして見よ!相手は南砦を占拠している4メートルの体格をした人間の勇者が首謀者である!』」


 声を張り上げ僕は争ってる兵たちの見えやすい位置にして宣言する。


「ご、ゴドー様!?」

「この裏切り者が!」

「ま、待て!俺たちが間違っていた!」

「なに!?」

「南砦にいるものが勇者なんだな?」


 混乱に乗じて死ぬ者もいたが逆に味方を少しだが増やしていく。

 そして南砦に到達するころには入口は破壊され、中に簡単に入れる状態にあり民も兵もそこへぎっしりと入っていく。


 僕はただ子供を連れてゆっくりと進む。そして入口よりも端で待機している連中がいたので何をしているんだと思ったら、僕を見て近づいてきた。


「フィさんよ。商売ってのはここなのか?あまりの騒ぎに安全な場所で待ってたが何が起こってんだ?」

「あぁ…ここにいたのか。『魔道具を生業にしている者どもよ!貴様らの魔力を使う先は4メートルを体格にした人型魔道具だ!攻撃魔法を当てることで魔力補充を行える欠陥品だ!総員で攻撃を開始せよ!』」

「はー!なるほどねぇ、そんな珍しい魔道具の補充だから報酬が弾んでるってことか!野郎ども稼ぎ時だ!」

「この中にあるんですかね?」

「全員でやればあっという間に終わるだろ!さっさと済ませちまおうぜ!」


 今まで守ってきた連中を相手に平然と攻撃できることはギュスターヴで確認済みだ。ただ今回は僕は一切の遠慮をせず総動員だ。これで崩れ落ちるならその程度だったということだゴドー。


 僕も確認すべく入口がどんどん壊れていき余裕が出たころに中に入ると凄惨な光景が広がっていた。

 床も壁もひたすらに人で埋まりとてもではないが生きてるとは言い難い。やはり鎮静化させることができないと分かると殺意をもって戦闘をするか…。


「ガァァァァァ!!」


 まるで獣の咆哮だな。万魔の壁ゴドー…。


「ゴドー様!あれは勇者ですよね!?我らも向かった方がよいのでは?」


 僕の後ろについてきていた兵たちが確認をとってくる。悪いけれど僕があれに進めば一瞬で肉塊になるから行くのは君たちだ。


「『僕は後方支援する!先行して僕の攻撃を補佐せよ!いっそ討伐すれば英雄と誉れを持って抹殺せよ!』」

「わかりました!いくぞぉお!」


 そうして更に援軍を送り出してゴドーを攻め立てるが…どうしたんだゴドー。1人で国を止めるとまで謡われた存在なのだろう?


 手甲を迫りくる兵を殴りつけ吹き飛ばすが何十人と迫りくる攻撃を捌ききれずに肉体は傷だらけになり巨体から血が溢れんばかりに武器が刺さっていく。


 呆気ないものだ。そう思わず感じてしまう。さすがの万魔の壁もこの精鋭と民衆の数相手では打ち破れるのか。

 まだまだ僕の援軍は残っているというのに。


「あああぁぁぁぁ!」


 その獣の咆哮も今では悲しいものだ…ただこれで決着が――


「どこだああぁぁぁ!」


 咆哮ではなく何かを叫んでる?


「兄弟の仇はどこにいる!?この光景を見て楽しんでいるのかぁぁ!お前が魔族を操ることくらい聞いている!正々堂々出てこい!どこだぁぁぁああお前かぁぁぁ!?」


 はっきりと聞けば…咆哮に間違いはない。ただそれは復讐という怨嗟の咆哮だ。

 思わずびくりと震えるが、奴はもう傷だらけだ。ましてまだ残存兵はいくらでも残っているのだ。


 そういえば魔道具の連中はどうした?魔法はちゃんと放ったのか?

 周りを見渡せばすでに死んでいる顔がいくつかある。


 思わず魔眼で確認するがゴドーの纏ってる魔力はやはり多くはない。肉体に合わせて綺麗に動いてはいるがちゃんと減っているはずだ。


 何千と向かっているんだぞ?まだ倒れないのか?


「があぁぁぁぁぁ!」


 その咆哮が止まることなくただひたすらに暴力という形になって兵の鎧なんて紙のようにへしゃげて吹き飛ばしていく。


 お、落ち着け…ギュスターヴと違って攻撃が当たらないわけじゃない。確実にダメージを負っているんだ。それにまだ…まだ兵士も残って…。


 後ろを見ればもう何百という数しか残っていない。


 いや、本来なら頼れる数なのだ。それなのにどうしてこんなに心もとなく感じてしまうんだ。


「ご、ゴドー様…あれはどうすればよいのですか?」


 横に控えていた兵が泣きながら訴えかけてくる。僕に言われても…そんなのこっちが聞きたい。

 なんなんだあれは。


 思わず指輪を触ってしまうが。そうではないだろう。まだこちらには…そう思い子供たちを見る。虚ろな目をして僕の周りから離れないようにしている。


 使うか…?


 しかし魔眼で確認する限り一定量を保ちゴドーは魔力を纏っている。

 僕と似たような魔力の放出の仕方だとは思っていたが魔法障壁にしか使ってないのか?


 いやそれにしても魔法攻撃はしたはずだ。それで以前見たときとそこまで変動してないのは内包する魔力が予想以上に強大なのか?


 くそ…少しでも魔法障壁が削れてると信じて万魔を使うか?

 怒り狂うあの化け物に対してそれを使えば僕は一瞬で潰されるのではないか?


 馬鹿げている。だとしても試さないでいるよりはマシなはずだ!


「『万魔の壁ゴドー!戦闘行動を停止せよ!』」


 そう言えば一瞬だが動きが止まった気がした。気がした瞬間こちらに向かって鬼の形相と呼ぶべき顔に笑みを付けて見てくる。


「お前か…お前があぁぁ!」


「『せ、精鋭達よ!僕に注意が向いてる今が好機だ!攻め立てろ!』」

「「「お、おぉぉぉ!!」」」


 控えていた兵士が剣を拳を槍を繰り出すが邪魔だと虫をはたくような軽い動作で吹き飛ばされて壁にぶつかり潰れる。


 これはだめだ。本来なら死んでもおかしくないであろう出血量だろう。その幾重にも突き刺さった武器たちは内臓まで達しているだろう?なのに一切それらの傷を感じさせないほどに迫ってくるこいつはなんなんだ?


「お姉ちゃん」


 その声を聞いて僕は横に飛ばされたのだと恐怖で一瞬気を失っていた中気づいた。

 そして僕が本来いた場所では小さな血だまりが出来ていた。


 「あ…『ヴェル…!ジョルジュ!僕の渡した魔道具を!とっておきを起動せよ!』」


 どうしてケミリが庇ってくれたのか分からない。ただそれでも…それを考えるよりも先にこの化け物を先になんとかしなければならない。


 子供二人は魔力を通し自らが放っていた魔力が光を伴い爆発する。

 魔眼でかろうじてゴドーの魔力を覗き見ていたがたしかに魔力を削っているのを確認して僕は再度万魔を行使する。


「『ゴドーよ!戦闘行動を停止せよ!』」


 爆発した煙が四散する頃には獣の瞳がこちらをしっかりと睨んでいた。

 そして動きを鈍くしながらも間違いなく僕に迫りくる。効いていないのか?無駄だったのか?


 それならあれだけ葛藤したこともなにもかも無駄だったのか?僕と関わってきた命は全てこいつの前では無駄に終わったのか?


「『ゴドー…自害せよ』『ゴドー止まれ』『ゴドー停止せよ!』」


 勝てなかったのか…。ただ無為に犠牲を増やして僕のせいで殺してしまったというのか。


「ぐがぁぁぁぁぁ!」


 い、いや…?それなら何故さっきまでの勢いで僕を殺しに来てない?

 まるで重りがついたかのように勢いの失った足取りでこちらへ迫ってくる。


 僕の考えうる限りの攻撃方法は術式で火をぶつける程度だが魔眼で魔法糸を紡ぎ展開させてぶつけるがゴドーの纏っている魔力に妨害され四散する。


 所詮僕の魔術なんてこんなものだ…。


 なんとか起き上がり、近くにある血濡れの剣を握りしめて、物理攻撃ならもしかしたらまだ通用するかもしれないと思い突き刺すようにゴドーに向かって突進すれば剣は確かに太ももに突き刺さった。しかしそれも途中で止まり。


「ガァ!」


 明らかに遅くなってる腕に振り払われ僕の体が飛ばされ壁に当たり血反吐を吐く。

 地面はすでに血まみれで全身は血濡れ。


 ただ僕は誰かの血に塗れていて、あいつは自分の血で染まってるはずなのに。勝てない。


「あはは。あはははは…これが僕の末路か…たしかにこれはろくでもない死に方だ」


 もう万策は尽きた…。いや?まだ指輪があったか…これを使えばなんとかなるか…。

 スピラの用意したなんの効果があるか分からない術式の指輪。


 ただどうにも使う気が起きないのはなんでだろうか。


 死にたいわけではない。ただ生きたいと思うにはどうしてもここで関わってきた皆の顔が思い浮かんでしまう。

 すでにこの血だまりの中に沈んでいったみんな…。


「ゴドー…」

「あああぁぁぁぁ!」

「ギュスターヴを殺したのは僕だ」

「あああああああああああああ!」


 そう言えばゆっくりと無理やり筋肉を動かすように近づいてくる。その最中僕はと言えば走馬灯のように記憶がフラッシュバックしていく。


 リビリアのこともアキ達のことも。そしてケミリが僕の万魔を無視して付き飛ばしたことを。


「ふぅ…」


 僕は普段使わない内包された魔力を放出していく。再度起き上がり、僕はリュックの中身を取り出してゆっくりと意識する。相手の動きも遅いのだ。それなら僕がレイモンドから取り上げた魔力爆弾の術式を再度重ね掛けして威力を上げればなんとかなるかもしれない。


 二重三重と重ね掛けするのは僕の魔法糸で紡ぐ攻撃も防御もできないただの糸。


 僕から近づこうかとも思ったが体の骨が折れてるのか動こうとすれば口から血が零れ落ちる。

 でもどうせ奴の方から近づいてくるのだろう。それならもっと魔力を放出してこの戦場全域に広がるほどに魔力を垂れ流す。


 魔力暴走をすることで魔力を爆発させるための自爆術式。


「なにが…仇だ…どうせお前も僕も誰かを愛しむ心なんて持ち合わせてなんかいないんだ」

「ガアアァァ!」

「お前が愛した民も僕を好きだと言ってくれた者もただ殺すしかできないんだから…」


 謝る資格はないけどもケミリ…言葉にはしないけどごめん。


 魔力を通そうとしたときに僕の手から魔力爆弾が弾かれた。何が起こったのか理解できずに飛ばされた魔力爆弾に手を伸ばしたが体が悲鳴を上げて血が口から零れ落ちる。


「フィン殿!」


 またお前か…。


「フィン!」

「うわなにこれー…ていうかなにあの化け物…」

「無事であるか!?」


 お前たちが…来るのか…。結局僕は何も残せないのか。


 思考がぼやける中地面を見れば血濡れた中にそこそこ大きい石があるから恐らくナナシが僕の爆弾を飛ばしたのだと理解する。


「フィン、今助けるから」


 アキ…どうして僕がこいつを殺すのを邪魔するんだ。

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