二十八話
僕が偽ゴドーしてたことで兵士が二人消えたことは問題視されておらず鍛錬場を覗けばその話題も出ることはなくなっていた。
そして鍛錬場へ僕はみんなの注目を浴びるように前に出る。
「あれー?管理人ちゃんじゃん!もしかして鍛錬混ざりたいのー?」
「やめとけやめとけ、そんな華奢な体だと簡単に骨折れちまうぞ?」
みんなが談笑しながら僕をちゃんと見て、それでも鍛錬を続けている者も耳は傾けてくれているのを確認する。
「みなさんはお風呂って好きですか?」
「風呂?」
「砦に設置されてるんですけどお風呂の魔道具があって汗を流すのとかにも適しているのでそれをお知らせに来たんです」
そう言えば多少興味を持ってくれた者もいて。元々存在を知ってる者は喜んでる様子も見える。
「それと軽い冗談を言うんですけど『一か月以内に要塞で爆発が起きたら僕のことをゴドー様だとして見てください』」
「ははは。急にどうしたんだよ」
「管理人ちゃんはゴドー様に憧れてるのか?なんなら俺は今からでもゴドー様として扱おうか?」
「あはは。みなさんお風呂良かったら楽しんでくださいね」
西の砦には念のため最終行動地点として動く予定だ。
もしかしたら僕の万魔が一カ月後に効果が切れてるなんてことがあったら計画が台無しになる。
あとはしばらくして北と東の様子を見に行きたいが。スピラの計らいで西に来ないようにしているゴドーを一旦こちらに引き付けておきたい。
その為に鍛錬場にいなかった巡回に行く予定の兵に声をかけておく。
「『ゴドー様がいないと鍛錬に励みが足りないと感じてみんなを代表してゴドー様を西砦で鍛錬してもらうようにお願いして』少しはそう思いませんか?」
「あ、あぁ。それは思うし管理人ちゃんが言うならそうしてみようかな。でもゴドー様の鍛錬厳しいから嫌なんだけど…言うくらいならいいか」
効果が出るかは分からないがとりあえず一旦西の砦とはお別れだ。
あとはゴドーの所在地を確認しなければ。
そのまま巡回兵の後ろをついていくように歩いて中央広場まで出てきたが。巡回兵は周りの兵たちにゴドーの居場所を聞いてから北に向かう。
違和感の少ない命令だと自主的行動が多いのか?
でも国境へ向かわせた人間は村々の食料を荒らしていたが…あれは生存本能的に食事が必要だったからか?
とにかく僕はそのまま東へ向かう。西にゴドーが留まるとしてもどれくらい留まってくれるかは分からないし気が向いて東に来られても迷惑だ。
東に行く途中に巡回兵を見ながら動くが、できればこの巡回してる兵たちも仲間にしたいというのはやりすぎか?
そもそも都市内にいる状態でプレートを見せて話しかける行為自体が違和感を覚えさせる原因になられても困るからもう少し自分の能力を試さないと分からないな。
東の砦に着くと念のため魔眼では確認しづらいので巨大な魔族がいないか目視で注意しつつ中に入り、お風呂場の魔道具を浄化してお湯を張ったら。西でやったことと同じことを繰り返す。
反応的には同じようなものだったが元々東に住み込みだったのもあって。西寄りは暖かい反応がもらえた。
鍛錬場をぼうっと見てて全員が巡回で入れ替わりを待つが、基本的に 日ごとの当番なのかもしれない。後ろの方にいる連中は巡回に行く気配がないので、お風呂紹介という名の万魔を施すにはしつこすぎる命令はあまりしないでおこうか。
寝室に戻ると魔道具リストでも眺めながらどれか改造して使えるものがないか確認して、今のところすることがなくなってしまった。
子供たちのところには今から行ってもまだ未完成だろうし、それに子供たちには作戦決行日僕の元にいてもらわなければいけない。
明日はこの東砦にゴドーを誘いこみ、北の連中にはナナシの足止めをしてもらわないといけないから一応人間を殺さないように言っておくか?いや。それくらいの危機管理くらいはナナシもするか。
今のところ僕の作戦の欠点を見直しておくか。
まず巡回兵の数。そして肝心の南砦に関しては何も手付かずという状況。
これは本番で大立ち回りをするしかないし。ゴドーの敵意をそのまま受けるつもりで行動するしかない。
あぁ…ナナシにそういえば報告するのを忘れていたな。現状無事なことを言っておくくらいはしておくか。
また人通りが少ないところで適当に魔族が通りかかったらお金を調達してどこぞで死んでもらうように言って食事を買って久しぶりに宿に戻る。
ドアをノックして見れば微かな声で「誰だ?」と聞こえてくるのでずっと引きこもっていたのかと思い少し安堵した。
「フィンだよ」
するとドアが開き中に入ると僕がいる間は浄化していたから気にならなかったが中々臭い。
全体的に浄化の術式を施すとナナシも椅子に腰かけてこちらを見てくる。
「まず報告をしにきました」
「無事で…良かった…」
「うん、まぁ…一応ね。とりあえず今まであったことを少しずつ話していくよ」
とはいえ真実を全部なんて話せるわけないので。魔道具管理人となって東と西の砦に入れたことと。魔王軍四天王がいたが気に入られたのか味方になってくれそうな雰囲気があって今回は不戦を誓ってくれたこと。そしてゴドーは4メートルほどの巨体をしていること。
「…凄すぎるな」
「だよね。巨人の力を受け継いでるって言うし」
「そうではなく、フィン殿の潜伏能力だ…」
潜伏に関しては元々見た目の問題で大丈夫なことの方が案外多いから大丈夫だ。今回に限っては魔法が有能と認められたことも大きい。
「四天王の説得といい…フィン殿がいなければ作戦は失敗だったな…」
「僕もさすがに予想外だったよ。魔法が不得手な魔族ばかりだと思って油断してたのもあったしね」
「そうだな…やはりフィン殿はオレより上手くやる…」
「偶然だよ。そもそもなんで気に入られたのかはいまだにわからないしね。だからナナシさんも不戦とはいっても注意だけはしておいて?ナナシさんは何かあった?」
スピラの存在はイレギュラーだからな。僕ではなくナナシの存在を知って殺すなんてことも考えなくはないが、僕の仲間であるナナシをスピラが殺すことはないと信じたい。
あとはゴドーの動きもそうだが魔力爆弾の完成を待ちつつ北を内乱状態にする手筈にすれば準備自体は終わる。
「それなんだが…」
言いづらそうにしていて言おうか悩んでる素振りが見える。何か不備があったか?
爆弾の数が足りないのならわりと時間が余裕できそうな気がするから少しは手伝えるが。
「外へ出てアキ殿を探しに出た…」
「え?なんで?」
「今の状態では勝てないと…やはりゴドー討伐には戦力が足りない…」
「いらないよ?あぁでもまぁ結果聞かないとだね」
「…?フィン殿。なにか変わったか?」
急に話を逸らしてどうしたのか。それともいらないと言ったのが気になるのか。どちらにしても今の作戦だと東西を味方にして北の援軍を暴徒と化すから仮に来たとしても間に合わないだろう。最短ルートの中央広場も破壊するのだし。
「僕は普通だよ。それよりもアキ達とは会えたの?」
「疲弊はしていたが会えた…フィン殿と会えたことも伝えたら安心していた…」
「そうなんだ。でも間に合わないんじゃないの?」
「それは…急いでこちらへ来ているから間に合う可能性は…ある…」
まじか、迷惑だな。仮に間に合ったとしてもアキとゴドーを戦わせる準備をしてない以上僕の正体がただ露呈されてしまう。
ここは北門で待機してもらうように言い渡しておくか。
「それじゃあ中央広場は僕の方で起爆するから、北門でナナシさんが爆発したあとはアキ達と合流してくれる?そのあとは北の兵が南に来ないようにしてくれたらいいから」
「待て…フィン殿やはり今日はおかしくないか…?戦力が足りないとあれだけ悩んでいたではないか」
「戦力はまぁどうにかするよ。ゴドーのために布石はいくつか打っておいたからもしそれが駄目だったら北門まで逃げるよ。それでいいかな?」
「…死ぬ気ではないよな…?」
「あはは。さすがに死ぬつもりで戦うつもりはないよ」
むしろナナシこそどうしたのか。今更アキが来ても移動で疲弊してる勇者が来ても困るだけだ。
それに別に邪魔が理由だけではない。冬に食料を人間が魔領でまともに摂取出来てるとは思えないし、来たとしてもゴドーよりも他の万魔のために戦ってほしい。
今回に限っては僕の魔力爆弾とゴドーの鍛えた兵たちと…民衆も含めて戦わせるつもりだ。
相手は魔族一人でこちらは僕の近くを通るだけで味方になるのなら上手くいけば五千くらいは揃えれるはずだ。
「…少し休んでいかれるか?」
「いや、大丈夫だよ。ナナシさんに報告とか食事のために来ただけだから。まだ今のうちにやれることを僕はやっておくよ」
「…そうか」
「あ、そうだ。決行日は2週間後でいいかな?」
「も、もう少し待てないか?3週間後なら…」
魔力爆弾の完成度は時間が多いことに越したことはないが…それでも2週間で結果が見られないなら1週間増えたところで期待は薄いだろう。それよりも僕の万魔が効果期間が心配だ。
「いや、2週間後にしよう。四天王が気が変わるとも限らないし」
「そうか…ではこちらも急ぐ…」
「うん?急ぐなら爆弾作り少し手伝おうか…?」
「…頼んでもいいか?」
仕方ない。できればジョルジュの両親から魔道具に魔力補充してた連中を従わせておきたいが、まぁそこまで急ぐこともないか…。
僕はベッドに座って容器に入ってる物をこねこねとして。ナナシも無言で新しく容器を取り出してはこねこねし始める。
久しぶりに地味な作業だ。それにしても隅の方見ると結構な量の黒いものがあるが。もちろん僕の暖房爆弾も含めて。
これらを駆使してもどうにもならないと実際に砦に行くことを決めて良かったと思える。
なによりの成果は子供たちだ。あの子たちを犠牲にすることを躊躇していた自分は甘かった。もし僕がいまだに悩んでいたらそれこそアキ達を待ってゴドーとスピラと戦闘しながら屈強な戦士まで相手にしなくてはいけなくなる状況だ。
もう僕がやることは暗殺なんて程度じゃ駄目なのだとスピラの発言から分かる。
僕が絶対に勝てないと思える魔力を持ったスピラがゴドーの方が強いと即答するほどの相手なのだ。
生温い手段じゃ勝てない。所詮僕の万魔は人頼みの力なのだから最大限有効活用しないと。
「…あまり集中してないな」
「ん?そうかな?」
「やはり…無茶なんじゃないか…?」
「ナナシさんも言ってたじゃない。2割の勝率だって、それを少しでも勝つために――」
「それならやはりアキ殿たちと共闘すべきではないか?」
んー…僕はアキに会ってないしな。ナナシはわざわざ探しに行って出会ったのかもしれないけど。戦いたくないと泣いていたあの姿を見て期待できる相手ではない。
そんなにアキ達と戦いたいのだろうか?
それなら…。
「それならアキ達のところに行ったら?」
「…?」
「爆弾ありがとうね。さすがに暖房爆弾は使うけど、ナナシさんの爆弾はアキ達のところに持って行っていいよ。あとは僕だけでやるから」
「どうしてそうなる…?」
「だってアキ達と戦いたいんでしょ?止めないよ」
「そうではない、一緒に戦おうと言ってるんだ」
「だからさ…時間がないんだってば」
ただでさえ僕が歩き回らないと万魔は発動できないのに…あぁでもそういえばナナシからしたら殺す対象は僕だったか。ゴドーとの戦いに真剣だったのは僕だけなのかな。
「フィン殿…オレは、あまり上手いことは言えない…だけどつらいことは言ってほしい」
「つらい?つらいってなに?元々そういう作戦だったでしょ?」
「出かける前までは…いや…それまで…アキ殿たちと分かれるまでフィン殿は慎重で、知恵もあって」
「ごめんけど何を言ってるかよくわからないよ。前にも言ったけどレアラを倒すならアキ達と協力したほうがいいよ。ゴドーを倒したら僕もその時は手伝うし」
これ以上ナナシの話を聞いても無駄になりそうだ。
とにかく暖房爆弾をリュックに詰めるだけ詰めておかないと、入らない分はまたあとで取りに来よう。北門は破壊できないとしていっそ北門の兵もゴドーに差し向けるか。
できれば色んな方法でゴドーの万魔の壁という尊厳を壊して僕の万魔を通じる手段にしたかったけど今からならまだ間に合うだろう。西に行ってると信じて北門を制圧して…あぁその前に信頼を多少でも得るために魔道具整備しなきゃいけないのか…。
「すまぬ…」
「別に謝ることじゃないよナナシさんは元々目的が違うんだし」
「いや…最後まで協力させてほしい…」
「…どっちなの?」
「協力する…」
「じゃあ2週間後北門を爆破してくれたら大丈夫だから。あとはさっき言ったようにアキ達を待つか、もしくは火の魔道具で燃えそうなところを燃やしてくれたりしてくれたら大丈夫だよ」
途中まで詰めていた暖房魔道具をまたリュックから取り出してから、ナナシ爆弾をこねこねとする。
今日のナナシは変だな。いや…元から戦闘放棄したがっていたんだっけ?逃げることまで考えていたなら戦いたくないのも分かるかな。
僕からしたらあと少しでゴドーを倒した後のことまで考えないといけない。
ただ…あぁ…アキがいなくてもテトに勝つ方法がスピラがいれば大丈夫という安心感からアキにそこまで期待しなくなったのがあるのか…。
古木の竜は脅威ではあるがフィブラの言い分を信じるなら僕の万魔で防げるらしいし、残りの四天王二人の存在が多少ネックだがスピラがこんなところにいたことを考えるとフィブラに言えば短期決戦でリビリアと共闘すればテトとレアラを倒す算段が思いつくかもしれない。
スピラが約束を違えたら…最悪の状況にはなるだろうが…今はゴドーに勝つ方が優先だ。そうすれば協力を得られないとしてもフィブラを味方に加えてスピラに今回も不戦ということにしてもらえれば多少は有利な状況ができるはずだ。
しばらく静かにナナシ爆弾をこねる音だけが響いていたが。僕も僕でそろそろ行動しようかというくらい時間が経てば、あまり作れてないがもうそろそろ行かないといけない。ナナシに準備してくると告げてそのまま宿を後にした。




