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二十六話

 何故この要塞を落とせるかなんてことや、どう見るかなんてことを聞いてくるかは分からない。

 意図が読めないが嘘をつけない現状なんとか濁しながら話を進めるしかないが…。


「本当に嘘をつかぬな…だがやはり奇妙な言い回しをしおる。やろうと思えば…やれると断言しないのは何故だ?」

「万魔の壁ゴドー様の存在と…スピラ様の存在です」

「ふむ…我がいなければどうだ?」

「ゴドー様の存在が問題ではありますが…ゴドー様を放置して要塞を落とすことは可能です」


 さすがに僕の存在を知っていてわざと言ってるということはないと信じたいが。もはや質問の意図が読めない。

 僕に一体どんな答えを期待しているんだ。


「我も少し見誤ったかもしれんな!クハハハ!貴様が利口ならできぬと言うと思ったが…本気で出来ると思っているのがまた面白い」

「過大評価ですよ…実際に要塞を落とすとなれば現状では不可能ですからね…」

「そうか…ならばいつが良い?」

「へ?」

「いつこの要塞を落とすのだと聞いておる」


 また難しい質問をしてくる。明確に答えても詰み。濁したとしたら?スピラがいる時点で計画に破綻が生じている以上今から計画を練り直した答えを言うか?しかしそれも詰みだ…何故ならその時にはリビリアが敗北して僕が要塞を落とす気がないという自分の気持ちを誤魔化せない。


「質問を別の答えで返すことを許してもらってもいいですか?」

「よかろう」

「スピラ様がいなければ要塞を落とすつもりです」

「…クハッ!クハハハハ!では我と賭けをせぬか?」

「賭け…?」

「簡単なことよ。我とゴドーが戦ってどちらが勝つかだ」


 これまた難しいことを言ってくる。それにこの質問もおかしい話だ。ゴドーと仲が良いのであれば本気で戦うかも怪しい。

 なにより僕がスピラに賭ければ戦闘開始早々に敗北を宣言すれば負けるし。スピラがゴドーとの実力差で魔法で一方的に攻撃すれば長期的に言えばスピラの方が有利とも見える盤面だ。


「僕は賭け事をしたことがないのですが。どちらの方が勝率は高いですか?」

「ゴドーだ」


 即答か。僕の魔眼ではスピラの魔力の揺らぎはずっと変わらない動きをしているとしか見えてないし嘘かも分からない。


「では僕からも一つ提案してもいいですか?」

「聞くだけ聞こう」

「対決方法はコイントスということで」

「…それはむしろ貴様が不利になるのではないか?」

「いえ。コインはこちらで用意しますので…それに魔眼を使われてはスピラ様が先に宣言されたら圧倒的に有利ですのでルールだけは決めさせてください。今…表か裏か教えてください」

「なるほどなぁ…そこまで決めたら我の勝敗を自由にできると確信しておるな?」


 十分に会話しただろう。ここで満足してくれ。

 正直こんな勝敗をどっちかが決めれる権利を言い合うだけの言葉遊びに過ぎない。

 スピラが提示した内容に従えばスピラが勝敗を決めれるし。僕が用意した内容であれば初めから表しかないコインを用意すればいいだけのくだらない勝敗内容を決める権利だ。


 この言い合いにそもそも初めから意味なんてものがない。


「フィ。我はいつこの要塞を離れれば良い?」

「…1カ月以内に」

「よかろう…では我は貴様がゴドーに勝つことを賭けよう」

「まだ賭け事は続いていたんですか?それに僕が死んだら勝ち負けを喜ぶ相手がいませんよ?」

「良いのだよ。あやつは変わってしもうた。我はこれ以上あやつに苦しんでほしくはない…」


 それが何を意味するのかは分からないが、僕の勝利を願っているということか?

 だとしても僕が勝つということはゴドーを殺すという可能性もあるはずだ…いやこの場合、要塞を落とす落とさないではなくゴドーに勝つ勝たないという話だ。殺してくれと言ってるのか?


「フィ…貴様と話すのは気が楽だ。嘘をつかぬからな。最近ではどいつもこいつも嘘しかつかぬ」

「スピラ様は…友達いないんですか?」

「馬鹿にしてるのかぁ!?貴様!友が嘘をつくことが傷つくと察せ!本気で言ってるのが質が悪いぞ!」

「すいません!?」


 しかしスピラが嘘を見抜くとしたら四天王の仲間と万魔くらいだろうけども。今の話題的にゴドーが嘘をついてるという流れか?

 だとしてもフィブラの話ではフィブラがリビリアと共闘すれば四天王全てが敵に回るという話だったはずだが。


「しかしフィ。ゴドーと戦うなら勝算はどれほどだ?」

「…5割くらいかと」

「半々か…賭けるにはちょうどいいが貴様の立場を考えれば公平ではないな。何が足りてないのだ?」

「ゴドーを倒す方法が未確定要素なところですかね」

「ほう…手段はあるが未確定と言うということはそれさえ確定させれば良いのか?」


 手伝ってくれるのかと若干期待してしまいそうな言い方だが。手伝えば賭けにならない。

 スピラと雑談をしながらすでに中央広場を横切り西の砦に近づきつつあるのでこれ以上話を長引けばゴドーと鉢合わせてしまうかもしれないと少し焦りもする。


「貴様にこれをやろう」

「へ?」


 そうして渡されたのは指輪だった。

 てっきり何も手助けするつもりはないのだと思ったが。


「これは?」

「使えばわかる。だがゴドーと戦うときに使わないと無駄になるから気を付けるがよい」

「はい…?」


 魔眼で術式を覗いてみるが見たことがない術式だ。そもそも根本的に魔術として成立してない術式だ。魔法で作ったがゆえに術式が歪んでいるのだろうか?


「ただ…それを使わずにゴドーを打ち破ったのなら我は貴様の手助けをしよう。使えばそれっきりだ」


 そういわれると使いたくないな。はっきり言ってゴドー戦の後に控えてる残りの万魔がいるからスピラが味方になってくれるのなら心強い。


「ちなみにスピラ様が手助けしてくれるというのはなんでもですか?」

「なんでもだ。我にできることならな?」

「それじゃあ使わないでおきます」

「ん…?」


 少し魔力が萎んで不思議そうな顔をしている。

 ここまで萎んでくれれば分かりやすいので出来ればいつもそれくらい抑えてほしい。


「ゴドー様を倒した後は使っていいんですよね?」

「そうだな?」

「それじゃゴドー様を倒してスピラ様も味方になってついでに良いものをもらった方がお得じゃないですか」

「クハッ…欲は身を亡ぼすぞ?」

「あはは」


 笑ってごまかしておく。どうせすでに身を亡ぼすことは確定している。これを使えばきっとゴドーを倒すきっかけになるものなのかもしれない。

 ただそれで僕が今まで準備してきたことを嘘にはできない。


 救いの糸のようなものだ。僕がずっと悩んでいた子供たちの命を無駄にしないように考えてたときに降ってきた救いの糸。

 それを掴めば僕は少しでも綺麗なままで前を向けるだろう。


 宿の主。オンダラ。名前も知らない東の砦で挨拶を交わした魔族たち。店で知り合った店主。

 別に名前を知ってる知らないなんてどうでもいい。子供たちとも触れ合う機会が多かったに過ぎない。


 それでも僕は関わってきた魔族も人間も殺してきたことに変わりはないのに今更少しの命で満足感を得るなんてそんな資格はありはしない。


 指輪を貰うまではまだうじうじと悩んでいたに違いない。子供を救える手段はないのかなんて。

 でも僕が行動を起こせば戦乱に混ざって子供たちか両親か知り合ってきた誰かは死んでいく。


「僕はろくな死に方しないそうですよ?」

「ん…死ぬ気なのか…?」

「死ぬ気は全くないですよ」

「ん?ん?なんだ貴様?」

「スピラ様のおかげで決心ができました」


 もしも…なんて言葉で済むなら。ギュスターヴと出会う前の僕だったらスピラと出会っていたら何かが変わっていた気がすると思う。

 どちらの言葉が僕の本当の気持ちということで死にに行くのか死ぬ気がないのか若干判断に困ったスピラを見て。もしこいつを殺すなら全てを本当の言葉にして喋ることをして戦わないといけないだろうな念のため考えておく。


 気が変わってゴドーの味方をしようものならこの四天王には僕の万魔が通じないほどの魔力量だ。


「…クハッ。まぁよいわ。貴様は適当にくつろいだあと西に向かうが良い。我はゴドーを東に送りそのまましばらくは要塞から離れておこう」

「何から何までありがたい限りですね…。スピラ様がここまでしてくれたなら負けるわけにはいかないですね」

「愛い者を愛でるのは趣味だからな」


 結局スピラの真意などは汲み取ることはできなかったが十分すぎるほどに協力してくれた。

 僕がゴドーを殺すことも分かってなおその判断をする思考はもしかしてリビリアの味方なのではなんてことも思うが…リビリアならこんな回りくどいことはしないだろうからスピラ本人の目的か。


 四天王についてはそこまで考えていなかったが統括とスピラと僕が混ざれば残りの四天王とテトとレアラに対して勝機が見えてくる。


 少なくとも魔法に関してはテトに対抗する手段を得られたと同義だ。


 スピラは軽く手を振りながら僕を置いて西の砦に入っていき。僕は息を潜めて近くの食事処に入って外が見えるように飲み物だけを頼みフードを目深に被る。


 まっすぐゴドーが通るとは限らないが一目でもゴドーの様子を見ておきたかったというのもあり1時間か2時間、何杯目のおかわりになるか分からない頃に足音からして異音の4メートルはある巨体が通っていく。


 そして恐ろしいことに魔眼で見ていたはずなのに揺らぎが感じないほどの魔力量しかなかった。

 初見でなくて良かったと思ったが…大抵の者は揺らぎを感じる魔力を纏っている者だが…。


 少し考えるのだが、もしかしたらゴドーは僕と同じようなタイプなのかもしれないという可能性だ。

 魔法をそもそも使うとあまり聞いたことがないから放出せずに内に秘めて術式か必要な魔法を使うときに放出していく。


 顔までは見えなかったがあんな巨体で平然と闊歩している存在なんて今まで見たこともないし、人がどけて通していく存在でもあった。単純にでかいからどいただけの可能性も捨てきれないが万魔の壁ゴドーの資料では。


 巨人の力を受け継ぎ人型にその力を内包するというものがある…。僕は店を出て先ほどまでいた人たちに聞き込みをして最終確認をしておく。


「すいません。先ほどの方のことで聞きたいことが」

「ん?なんだ、旅の人か?」

「あの方が噂のゴドー様ですかね?」

「そうだな…まぁ巨人なんて珍しいし、気になるのも分かるが…ゴドー様だよあの方は」


 それだけ聞ければ十分なんで感謝を告げて、西に向かう。

 スピラが今頃どうしてるかも気になるが、僕と同じタイプなら…恐らく勝てる。

 魔力爆弾を発動させて周囲に纏ってる魔力さえ飛ばすことに成功すれば魔法障壁を再度張る時間を与えずに僕の万魔を施すことができるはずだ。


 そもそも魔力爆弾が正常に発動しなかったときは悔しいが消耗戦となるだろうが見かける全ての民を以て殺しに行くしかない。



 西の砦まで行くとスピラが気を利かせてくれたのか魔道具管理人が東から派遣されることを伝えてくれていたみたいでそのままプレートを見せたらすんなり入れた。


 スピラはどこに行ったのかと聞けば一言「帰る」と告げてどこかに言ったらしい。

 この場合は魔王城のことなのか唯一中身が分からない南の砦のことなのかは分からないが、今は信じよう。


「それにしても管理人ちゃんはなんでこんな珍しいところで働きはじめたの?」


 兵士が気軽に話しかけてくるので僕は雑談に応じる。


「やはり要塞に来て一度は綺麗な花畑を見たいですからね」

「あぁ…でもそれって南の庭園のことなんだよね。ごめんねここにはないんだよ」

「そうですか…それは残念ですが、『万魔のしゅっ語を一時期的に封印せよ』『1カ月後要塞の爆破の後ゴドー及び邪魔するものを排除せよ。この事は他言無用とせよ』その時に見に行くので大丈夫ですよ」

「あ…そうか。それならその時是非見に行くといいよ」


 失敗したら人目のつかないところで自害するように言うつもりだったが、目が虚ろになったりならなかったりしてる部分を見るに本人の意志でどうにかできないのをちゃんと確認していく。


 しばらくはこいつを実験にこの命令で良いのか反応を見て西を占拠したあとは東に戻り同じようにすればいいだろう。


 そして西にもお風呂場があったが残念ながらスピラがくれたチャンスを無碍にしている時間はないので魔道具の魔力を補充したあとは先ほど命令した存在を尾行しながら様子を見ているとたまに涙を流したりする様子が見られて失敗したかと何度か焦ったが…。


 話すことはない。次第に行動が怪しくなり色んな人に何かを訴えようとしだして言葉にできないのをもどかしく感じている。

 これじゃ不審者だ…。失敗だな。


 ゴドーの元に行かれても困るので1人になる頃を待って、ゆっくりと近づき優しく役目を終えるように告げる。


「『巡回と同じ仕草で要塞から離れ人目のつかないところで自害せよ』お疲れ様」

「あぁぁ…そうする…」


 なんと命令すればいいのか試行錯誤が必要だ。

 前もっての命令がここまで難しいとは。


 それからはもう一人試しに『今から言うことは一か月後の爆破まで思い出さないように普段通り行動しながら』など付け加えていくが。記憶に干渉することがどうしてもできずに相変わらず不審な行動をしていたのでこれも殺した。


 だめだ。兵を無駄にしてはいけないな…。命令したら意志がある程度反映されるから戦力として期待も薄まりそうだということも分かったし。自由時間を使い、一般人を使って実験していくしかない。


 鍛錬場の様子を見てみんなに挨拶を交わしながら、そのまま砦から離れたところまで行き1人になってる人間に近づき実験を行う。


「『これから来る人物に対して殺意を上昇させて襲い掛かり殺害せよ。その際に心に思ったことを喋りながら行動を開始せよ』」


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