二十五話
汚い記録帳を解読するのに少し苦労したが大体の魔道具の場所は確認できたので地図と照合してどこから周るべきかを考える。
オンダラの話では僕の行動は仕事さえすれば基本自由なのでさっさと魔道具を補給して建物や兵の配置、行動などを頭に覚えて少しずつ制圧していくのがいいか。
近場ではなく一番奥からまずは魔道具を確認しに向かい、念のため魔眼は発動しながら周囲を見渡していたら何人かの兵とすれ違い軽く挨拶をする。
「管理人ちゃんが来たって本当だったんだー」
大体それが最初の反応であったのはよほど人気のない職場ということだろう。
実際仕事の内容を聞いたらその反応で間違いはないのだがまるで僕も変人扱いされてないか少し不安になる。
前任者は魔道具愛に溢れていた変人だっただけにそれと同じに見られるのは少し嫌だ。
東砦の最奥は武具庫だろうか?あまり手入れの行き届いてない武具があるので、使えるものとかないか確認したが僕には扱えないようなものばかりだ。多少武術の心得を持っていたとしても僕には才能がないので魔術に没頭していた分筋力も足りてないだろう。
照明の魔道具に魔力を入れておいて、そこから順に近場の魔道具を魔力を入れていく。
地味な作業ではあるが、奥までくると兵の数が極端に少ない。一応警備ということなのか、鍛錬場で見た兵よりは魔力総量も少ないしあまり鍛錬をしてない連中なのだろう。
ナナシの地図を見て不明と描かれた場所も確認したが空き部屋だったりして、魔力の流れも確認したが別に違和感もないので放置して他の場所へ行けば。予想外なことにこの砦お風呂が設置されてあるのだ。
中を見ると使われた形跡が無く浄化してお湯を出す魔道具なども見てみたが正常で問題はないのだがお湯を出すように魔力を通したのだけどお湯がなかなかでなくてやはり壊れてるのかと思っていたが、途中から氷がにょきにょきとお湯が出る場所から出てきたので季節的問題だったみたいだ。
汚れていたし誰も使った形跡がないので一通り点検したら後で使わせてもらおう。
あとは人数が多いところだが食堂という名の食料保管庫を見れば固いパンや干し肉などがあるが…オンダラの話を信じるのであれば不味いのはわかっているので手は付けずに照明と珍しく冷房の魔道具が設置してあったので少し中身を確認してどのようになってるのかだけ見て満足してその場を後にする。
結構見てきたが別に破損してる魔道具はないし大事に扱われてる様子なので直す必要もないので半分以上はあっさりと済んだ。
あまり行きたくはないが鍛錬場にも魔道具があるらしいので鍛錬場の方へ行くと鍛錬してる連中から軽く声をかけられたした。
「管理人ちゃーん仕事がんばってねー」
「管理人ちゃんも一緒にやってく?」
「えと、仕事は頑張ります。鍛錬は見てるだけでお腹いっぱいなので応援してますねー」
返事をすれば楽しそうにしてるのでわりと暇してるのだろう。
魔力を注ぎながら覗き見れば、やはり圧巻の光景だ。半裸の魔族たちが掛け声と共に鍛錬していて。巡回に行くとなったらさっきまでの勢いはどこに行ったのか真剣な顔になり鎧を着こんで外へ行く。
あくまで鍛錬は彼らにとっては気分の憂さ晴らしみたいなものにもなっているのか雰囲気ががらりと変われば歴戦の猛者のような風格に変わる。
見ていて面白いものではないと思ったが巡回とのギャップは少し面白いので軽口を言っていた連中がいきなり真顔になる瞬間は時間のあるときに見てみたいものだ。
あとは入口付近と壁上の管理くらいで一日休まずに動いたらなんとか全部周回することはできそうだ。
これは前任者の魔道具愛のおかげで丁寧に扱われ破損していなかったおかげが大きい。
ありがとう変態前任者。
さすがに僕は魔道具に名前をつける趣味はないが彼のおかげでほとんど楽に過ごせれそうだ。
入口付近の点検の後に壁上に向かう階段を使うのだが、この階段ナナシの地図によると一か所しかないのだ。ここを壊せば壁上へ上る手段が他にない。
脳筋集団なら壁をよじ登ってきそうなのであまり意味はないかもしれないが、僕としてはやたらと長い階段を上るのがわりとしんどいので最初に壁上から仕事すればよかったかもしれないと若干の後悔をした後に壁上まで上がったときの景色がとても良かったのでとりあえず満足ではある。
要塞というだけあって周囲を囲む壁の高さと分厚さは作戦決行日の爆弾作戦に不安をもたらすが。要塞都市を一望できるこの光景は見事なものだ。
おっと、それより仕事を先に済ましてしまおうと思って歩くが魔道具が見当たらない。
多分雪で埋まってるのかなと雪をどけていってるとようやく一つ見つけた。
ただ照明の魔道具で、雪で埋まってるなら別に使わないのでは?と疑問にも思う。
それに配置されてる箇所が一定間隔ではないので雪をどける作業がわりとしんどかったりもする。誰かにお願いすれば雪かきしてくれるのかな?
それはそれでまた階段を上るのは嫌だから今回は真面目に雪をどけていこう。
壁上の魔道具は残量が少なかったので補充漏れがないように注意して探していく。
一度魔力補充すれば次からは僕の魔力を魔眼で辿ればいいから楽なのだが…まぁこれ以上は弱音は吐くまい。しんどいのは最初だけ。
朝日が昇る前には多分終わったと思うので振り返れば壁場が照明で綺麗に光っていて少し得した気分だ。
そういえば壁上には警備がいないのだな。面倒くさいって理由ではないと思うし何故かは兵士に聞けば教えてくれるだろうか?
さて、せっかくここまで終わったので浄化ではなく純粋にお風呂場へと向かおう。久しぶりのお風呂だ。
隔離塔に入る前はお風呂に入ってた気がするけど、それ以外で記憶にないので楽しみである。
一度寝室に戻って衣服をリュックから取り出してお風呂場に向かいローブにだけは浄化をかけて使いまわすとしてお湯を溜めて、溜まっていく光景を見ながら鼻歌を歌い待つ。
準備が整えばお風呂場でゆっくりと浸かり体の力が一気に抜けていく。
「あぁぁ~…」
体が思考がとろける~…。
浄化では味わえない体全体が軽くなる感じが染みわたる。
一日中緊張して行動してた分が解されていく…。
でもなんで砦にこんなお風呂が用意されているのだろうか?
ゴドーが作ったわけではないだろう。そもそも使われる形跡がなかったから明らかにゴドーより以前の統治者が作っていたものだ。
それに魔道具でお風呂を溜める仕組みがあったことから魔力を使う前提の構造建築してるってことなら尚のこと。
東の砦にはそういう歴史書の類や本が無いので調べようもないけど、前任者ももしかしたら1人でお風呂を楽しんでた可能性はあるな。
口まで浸かりぶくぶくと泡立てているとあまりの心地よさに眠りそうになってしまったのでそろそろ上がり体は拭くものがないので風の術式で乾かしてから服を着替えて寝室に戻る。
これって西にも同じようにお風呂があるのかな?だとしたらお風呂の魔道具を改造してなんとか溢れさせて東西から水攻めのようにすることは可能だろうか?
いや…いくら質の良い魔道具でもさすがに要塞の中を一気に流すほどの量は出せないか。
仮に改造しても下手したら暴発して壊れる可能性の方が高い。
髪の毛を本格的に術式で乾かしながら過ごしているとナナシはどうしてるかなとか思ったりする。
いまだにこねこねしているのだとしたら少し申し訳ないな。
今日は砦の全体像を見るのに必死だった分、兵たちとの交流を深めてどういう体制で動いてるのかなどを確認していこう。
髪も乾き。時間的にも兵たちがまた鍛錬でもしてるだろうと思い鍛錬場を覗くと寝室以外では魔眼を発動させていたために巨大な魔力の揺らぎを感じた。
まさかゴドーかと不思議に思い柱の陰に隠れて覗き見れば巨躯…小さい…?
僕とそんなに身長が変わらない程度の少年が鍛錬場に現れて兵たちも鍛錬をやめて畏まっている。
「なんだぁ!?その弛んだ筋肉は!ふざけてんのかよ!お前らそれでもレディオンの精鋭かぁ!?」
小さい体とは裏腹に大きい声にすこしびくりとするが、あれはさすがにゴドーではないよな…?
「「「「「申し訳ありません!」」」」」
「声だしゃ良いってもんじゃねえだろうがぁ!あぁ!?」
「「「「「おっしゃる通りで!」」」」」
あんな存在フィブラの情報では聞いたことがないが誰だ?
「そこで隠れてる奴出てこい!」
…!?僕のことか?少し間をおいて顔をのぞかせると、少年は少し驚いた様子を見せた。
「んだぁ?見ない顔だな…新入りか…?」
「堕落の霊長様…あの者は…!」
「黙れ!貴様らに口出しの権限を与えた覚えはないぞ!そしてその名で我を呼ぶな!」
「す、すいません!」
「そこの…お前誰だ?」
会話を聞いて分かったことがある。四天王が一角、堕落の霊長。たしか資料では魔力の根源と記載されていてそれくらいしか情報がない。
フィブラの話では四天王は政治関連のみに口出ししてるんじゃなかったのか?
「はい!僕は魔道具管理人として働き始めたフィと言います!」
「魔道具管理人…はーん?管理人ねぇ…いつから働き始めた?」
「一昨日から配属して、働き始めたのは昨日からです!」
「…クハハハ!良かったなお前ら!こいつは有能だぞ!一日でこの砦ご丁寧に全部魔道具の魔力補充してくれるやつだ!」
冷や汗が止まらない。こいつの魔眼はどこまで見通しているんだ?全部の魔道具を補充したなんて言ってないし。まして魔力の揺らぎが笑ったときに膨らんだり萎んだりしていた。つまりこれでも魔力を抑えてる方だ。
「フィ…フィか!面白いな…今日は貴様することないのだろう?我についてこい」
「は、はい!」
「貴様らのお守りも飽きたから今日はゴドーと交代だ。我は西の方へ行く」
できれば情報収集の方を優先したいが…僕程度が逆らったら殺されてしまうという直観が油断を許さない。
そして発言的に今日はゴドーが西にいるのか…ってその前にゴドーと交代ならすれ違いの時に僕の姿が見られるのではないだろうか?それはまずい。
「遅いぞ!?早く来い!」
「はい!」
鍛錬場の兵たちを見たら案外さっきまでの雰囲気とは違ってこちらに手を振りながら笑顔だ。
口は悪いけど良い魔族って言いたいのだろうか?だとしたら鈍すぎる。魔眼の練度が砦一つを見通すなら僕が作り上げた暖房爆弾の存在だってこの堕落の霊長にはばれてる可能性もあるのだから。
後ろを一歩離れた位置で歩くようにして、堕落の霊長を見るが薄着のシャツをだらりと着ているだけで靴も…靴というかサンダルだこれ。寒くないのか?
「んな珍しいもん見る目で見んなよ?聞きたい事ありゃ聞きゃいいじゃねえか?」
後ろに目でも付いてるのか。魔眼の範囲なのか魔力で感知してるのかさえ謎だ。
「いえ、寒くはないのかなと思いまして」
「クハッ!我の心配かぁ?可愛いな貴様…」
「その堕落の霊長様―」
「その名は不愉快だ…まぁ我を知らんのだから許すが。スピラと呼ぶようにしろ、それが我の名だ」
「はい!スピラ様は魔王軍四天王ですよね…?」
そう言うとまた不愉快そうにこちらを睨んでくる。感情の起伏のせいなのか魔力が全身を覆うようにでかくなったり小さくなったりとするからとても居心地が悪い。
「んぁー…フィ。お前は我について聞いたことないのか?」
「えっと、正直なところ堕…二つ名と四天王であること以外は分かりません」
「そうか。だとしたらそれは噂に過ぎん。我は一度も四天王などとふざけたものになったこともなければ二つ名なんて勝手に名付けられるようなことをしたこともない」
ただ鍛錬場の様子から見て間違いなく四天王の堕落の霊長なのだろうなとは思う。
なによりこんなふざけた存在が平気でうろついて様付けされてる時点で相当な身分だろう。
「スピラ様は普段何してる方なんですか?」
「別に何も?ただ行く末を見届けてるだけだが?」
リビリアみたいな言い方をするのか。もし本当に行く末を見届けているだけなら無害だと思いたいが、そうじゃないならゴドーの味方であったとき僕はゴドーと対峙する前に殺される。
「貴様こそなんだ?何故魔道具管理人なんぞつまらんことをしておるのだ?」
「その…」
「つまらん嘘は語らんで良いぞ?人間と大差ない姿で、しかと魔族の血を受け継いでる…貴様こそ二つ名なんぞ持っておるのではないか?」
嘘を見抜くなんて魔術無いよな…?それなら嘘をついても良いのだが…僕の魔力の揺らぎを細かく見てるのだとしたらそれだけで嘘を見抜くとかであれば無いことはない…。
「この要塞ですが!」
「は?」
「あまりにも魔法に関して無知だと思い。砦の様子を確認したくて魔道具管理人になりました。一般開放されてない為…兵士になるつもりもないので!」
「クハッ!嘘はついてないが言い回しが奇妙だな…まぁ良いか。貴様が何をしようと我の知ることではないしな」
やはり嘘がわかる何かがあるのか?予測でしかないがこのスピラの魔眼が明らかに尋常じゃないことからそれだとは思うのだが。
道通りを誰の目をはばかるわけでもなく真ん中を歩き、周りは不自然と思わないのかと疑問になるが平気な顔をして見過ごしている。
警備兵もたまに見かけるがスピラに何か対応するわけでもなくそのまま素通りだ。
「フィよ。魔法に無知だと言ったな?貴様の目からこの要塞はどう見える?」
「…もう少し具体的な質問をもらってもいいですか?」
「クハハハ!良いぞ、それくらい正直に物申す方が気分が良い!では改めて貴様の目から見てこの要塞は要塞として成立していると思うか?」
それは弱点が無いか?とかなのだろうけど。東しか見てないし実際のゴドーを見てないから何とも言えないが恐らくそういう話ではないのだろう。
そもそも要塞とは?ということだ。
「不完全…というか要塞としては成立してないですね」
「何故だ?」
「曖昧になることを承知で言いますが…要塞として防御の要になってるのは壁のみです。東しか整備してませんが魔道具での防御対策もされていませんでした…魔法のことはいいましたが要塞というよりは闘技場と言った方がいいかもしれません」
「なら貴様はこの要塞を落とせるか?」
「…やろうと思えば出来ます」




