二十三話
1週間はあっという間だった。
そしてその間なんとも言えない時間をナナシと一緒に過ごした。
子供たちから伝手がないか聞いて帰るとナナシが毎回提案をしてくるのだ。
「そもそも…南の砦にゴドーがいるならそこへ爆弾を敷き詰め圧死させるのはどうだろうか?」
「あはは。それで勝てるなら苦労はしないんじゃないかな?それに都合よく建物の中にいるか確認しないといけないし」
「そうか…」
今まで冷静だったように感じた分最初は随分雑な作戦だなと感じたが、ちょっと魅力的な提案だったとは思う。ただ二つ名の通り万魔の壁。致命の一撃を防げる時点で建物が崩れたくらいで死ぬとは思えない。
「魔族とは毒物が効くのか?」
「効くけど…そもそも食事をあまり魔族はしないからゴドーの次の食事がいつになるか分からないかな?」
「…そうか…」
僕も毒は考えたけど毒のある攻撃に関しても防がれるだろうし、食事に毒を入れても階級の高い魔族は専属の調理人がいるだろうし。一番無理だと感じるのは人間とは違い大抵の毒でもある程度は無力化するということだ。
僕が知ってる限り魔族を殺す毒は瘴気を大量に含んだ毒薬だが、さすがにゴドーは魔眼を普通に使えるから一瞬で分かるだろう。
「いっそのこと要塞全てを燃やすのはどうだろうか?」
「今から燃焼するものを集めるのは現実的に無理じゃないかな…?お金も爆弾に使い込んだし材料がまず集まらないよ」
「くっ…そうか…」
それに要塞を落としたとしても肝心のゴドーがそれじゃあ倒せない。
「オレが一騎打ちを…」
「ナナシさん大丈夫?なんか日に日に言ってることが無理なことになっていってるよ…?」
「どうすれば…」
なぜ僕が潜入すると話した段階でこうなってしまっているのか。
まだ別に見つかるといったわけでもないのに。僕が見落としてることでもあるのだろうか?
「フィン殿…」
「ナナシさん一旦落ち着こうよ?効くかは分からないけど精神が落ち着くお茶買ってきたからさ」
「ん…」
実際の効能は多分魔力回復に効くお茶だとは思うが、魔力も精神も似たようなものだろと思いナナシの最近の言動が危ういので買ってきたんだけど、飲んだら落ち着いたのか爆弾をこねこねしていた。
あれかな。実は食事の心配とかしてるのかな?保存食を買って宿代もちゃんと払ってから出ていくつもりだから安心してほしいんだけどな。
「フィン殿…妙案がある」
「うん。一応聞くよ」
「まず、作戦は決行する。そのあと人質を取るのはどうだろうか?」
「うん。一応聞いたけど要塞全員が人質じゃないと多分応じてくれないと思うよ」
「そうか…」
でも人質か。考えたことなかったけど効果あるのかな?ギュスターヴは最初は押さえつけていたけど途中から全員殺していたけど…。無理なんじゃないかな…。
「ゴドーを倒すのはやめないか…?」
「…ナナシさん、それは無理だよ」
「何故だ?」
「もし…もしだよ?僕の心配をしてくれてるなら嬉しいんだけど、ゴドーを放置してもテトが僕を殺しに来るよ。今テトは忙しいから動いてないだけで冬を過ぎれば僕は死ぬ」
「ならばテトを対策すれば…」
「前にも言ったけど状況が悪くなるって言ったよね?あまり深くは言えないけどその時はテトだけじゃなくてゴドー、テト、レアラの三人で殺しに来るはずだよ」
「それは…」
今よりも絶望的な状況を言ったことで、完全に納得はしてないだろうけどそれ以上は言わないでくれた。
ここまで考えてくれたのは本当にうれしいけども…いやこれはちゃんと言葉にした方がいいか。
「考えてくれてありがとうね。でも僕の命がどうせ無為に終わるならせめてやれることはやりたいんだ」
「フィン殿は恨みでも買ってるのか…?」
「あはは。僕に自覚はないんだけどそうかもね?あ、でもギュスターヴを倒した時点で恨みの理由はあるのかも?」
「実際に倒したのはアキ殿だ」
「それより前にテトに発見されて一番に殺そうとしたのは僕だよ。それと恨みに関しては本当に自覚もないし心当たりもないよ」
強いて言えばそれを知ってるのはレアラくらいだろうか。リビリア曰く殺そうとした主犯格はレアラだと予想していたし。
リビリアも僕の能力が危険視されて隔離していたと魔王の判断のことを言っていたから恐らくこの万魔の力を危険視されていたと思えばある意味では納得なんだけど。これもどうにも腑に落ちない。
万魔と呼ばれるほどの存在なら魔法障壁がある時点で僕の能力は無意味なのだ。
それならわざわざ殺す必要性がない。
魔王…父上が恐れた理由もそれと同じで分からない。
隔離塔で過ごす毎日が当然だった僕が今ではこうして心配されている。
リビリアからは戦力として。子供たちからは先生と慕われて。ナナシからは命の心配だ。
こんな状況じゃなければ充実していると言っていいだろう。
でもそんな状況じゃないと僕はきっと今でも隔離塔で書物を漁って読むだけの生活だった。
「ナナシさん、そろそろ子供たちのところに行かなくちゃ」
「そうか…フィン殿は…子供が好きなのだな…」
なんか前にも聞かれた気がする。あれはケミリから聞かれたのだっけかな?
「嫌いじゃないよ。それに子供は僕と普通に接してくれるから少し嬉しいのもあるかな。最近知ったことなんだけどね」
「そうか…気を付けて行ってくるといい」
子供たちとはあれからなんとか砦に伝手がないかと頼んではいるが今のところなんとも返事はないが…とっておきの魔法を教えるという約束は果たしている。
子供たちがいる広場に行けばいつも通りヴェルが僕を真っ先に見つける。
「フィ姉ちゃん!魔法が全然うまく発動できないんだけど術式ってやつ合ってるの?」
「あはは。第一声が魔法のことなんてやる気がすごいね」
レイモンドも一生懸命に魔法の練習をしている。
ケミリは基礎的な魔法を繰り返して練習してるのかな。
ジョルジュは魔道具を弄り始めて自分好みの魔道具にしようとしてる。
それぞれ個性が出てるなぁと関心する。万魔も話し合いで解決できればいいのに何故争いになってるのか。
「じゃあ、術式をもう一度見せるね」
「また見れるの!お姉ちゃん私にも見せて!」
ケミリが聞いていたのか、そしてそれを聞いてレイモンドもジョルジュも僕の元へ来たので全員に魔眼の術式を施して魔力が見えるようにする。
あとは魔法糸で術式を紡いで見せて覚えさせるようにする。
「これが術式ね。ちょっと複雑だけどとっておきだからね」
「先生の術式って毎回早いですよね…」
「僕は術式だけは得意な方だからね」
後は発動するだけで花びらが舞う。
「わぁ!綺麗!」
「すげぇ!」
雪が降る季節に花が舞い散るという幻想的な光景に子供たちは喜んでくれている。
ただこれは…物質変換という荒業だ。綺麗に見えるが実際のところ魔力を膨大に使うし術式から使わないと発動すら困難だろう。
そして魔力が伴ってない状態で術式を紡いでそこに魔力を無理に注げば魔力暴走が起きる。
今子供たちが練習してもできないのは魔法で無理やり発動しようとしてるから不発してるだけだし、術式から魔力を注ぐやり方自体は教えてはいない。
心配はしたが、心配の対象はジョルジュくらいだ。この子は魔道具に魔力を注ぐという方法をもうやり始めているから恐らく僕の知らないところで魔力暴走させるとしたらジョルジュくらいなので出来る限りジョルジュには術式に魔力を注いではいけないと教えている。
まぁ暴走したとしても軽いやけどくらいで済むだろうが…両親に危険視されるのが今は一番困る。
ゴドーにぶつけるにはあまりにもしょっぱい成果な魔法だ。だからこそ別にだれも魔力暴走なんて子供が怪我をするくらいのイメージしか持ってない。
「みんな僕があげた暖房の魔道具は持ってる?」
「うん。あの新しいやつだよな?」
「フィ先生…この魔道具故障じゃないの?改造しちゃだめって言われたけど全然魔力が込められないよ?」
「私は見た目が可愛いから好き!」
「先生がくれたんだから意味があるはずです!」
まぁ中身はもう入れ替えて暖房の効果なんて無いから発動するわけがない。
それはもうあらかじめ物質変換の術式が刻まれている容器だ。
もちろん花びらなんてかわいらしいものではなく、魔力そのものを爆発に変換させる代物。
みんなは物質変換の術式を覚えて、知らず知らずのうちに発動させたら体が吹き飛ぶくらいの魔道具を持ってるに過ぎない。
「それはね。僕が作ったものだからできれば大事に持ってるだけでいいんだよ」
正直まだ迷いはある。
(それでも作った)
あとは万魔の力を使って無理やり起動するようにすれば魔族一体が持つ魔力総量に応じた爆弾だ。
致命の一撃とはいかないまでも魔力そのものを媒介にしているから物理的に削るのではなくゴドーの魔力にも呼応して消耗させてくれることを信じるしかない。
(完全な保証のない未完成品)
こんな出来損ないの代物のためにこの子たちの命を使うのか?
そんな葛藤が胸を締め付けてくる。
今からでも取り上げて別の作戦に切り替えるべきではないか?成功しなかったら何のためにこの子たちは死ぬというんだ。
「先生?」
「…え?」
「怖い顔してますけど大丈夫ですか?」
「あはは。ごめんねちょっと考え事をしてて」
はぁ…これじゃあナナシのことを言えないな。あいつはもしかしたら今でも何か考えてるかもしれないのに僕もやってることは爆弾作り。それもやってることは何も知らない子供を使った爆弾だ。
出来れば使いたくないなんて思いながら作ってしまってる。
「フィ先生…もしかして住み込みの仕事の事…?」
「ん…?あぁそれもあるかなぁ?」
実際ナナシに言った期限もあるが、伝手がないなら直接頼み込むしかないし。
どう頼み込んだものか考えたらそれも成功するかもわからないのも不安要素だ。
「おいジョルジュ…」
「でも…フィ先生がこんなに悩んでるならもう言った方がいいよ」
ヴェルとジョルジュが言い合いをしていてその内容から少し察したが。もしかしたら伝手が見つかったのだろうか?
レイモンドはジョルジュを睨んでいて、ケミリは不安そうな顔をしている。
「フィ先生は仕事をしてもここに来てくれるんだよね?」
「うん、お休みの日をもらったら必ず来るよ」
「その、お父さんの知り合いが兵士さんでその人が話を通してくれるって…魔道具の補給ができるなら大丈夫って言ってた…」
なるほど、まさか資金集めがここにきて功を奏したのか。だとしたらそれも含めてナナシには感謝だな。
「ヴェルもレイモンドも怒ったらだめだよ?僕は別にどこかにいなくなるわけじゃないんだから」
「でもフィ姉ちゃんがいなくなったら魔法が…」
「言ったでしょ?魔法はちゃんと少しずつ教えるって次来たときはもっと上手になってくれると嬉しいな」
「先生がいた方が上手くいきます…」
「ケミリをちゃんと見習って魔眼を扱えるようになったら僕がいなくても上手くなれるよ」
「えへへ…でも私もお姉ちゃんがいた方が嬉しい」
「ありがとうね。僕もケミリがいると嬉しいよ。それでもやらなきゃいけないことがあるから…もし、それが終わったら…またいっぱい遊ぼう?」
「うん!」
ナナシには帰ったら報告しないとな。1週間早くなったけど潜入できそうなこと。
もしかしたらまた帰ったら何か別の作戦を言い始めるかもしれないけどこればかりはもう時間が迫ってると押し切るしかない。
「それじゃあジョルジュ、その人と連絡取れそうな日とか分かるかな?」
「うん、お父さんに言ったら来てくれると思うから明後日には家に来てくれるよ」
「それじゃあ明日みんなにまた新しい魔法を教えるね。明後日はジョルジュの家に行くからジョルジュは家で待っててくれる?」
新しい魔法と聞けばみんな嬉しそうな顔をしたが、次の言葉には寂しそうな顔に変わる。
さぁ…僕も覚悟を決めなければいけない時だ。
ナナシと離れてから僕の万魔でまずは片方の砦を作戦決行日に即座に占領する準備に取り掛からなければいけない。
みんなと分かれて。ナナシのためにも食事を買い宿に戻れば、いつも通り机に向かって爆弾をこねこねしているので食事を机に置く。
「…」
「今日は何も言わないんだね」
「何も…思い浮かばなかった…」
「そっか…それならちょうどよかったよ。潜入する準備が明後日に整いそうなんだ」
「…そうか」
「連絡できる時にはするけど、そんな暇がなかったら中央広場と北門の爆破…任せたよ」
「…わかった」
これでいい。これしかない。
2人しかいない状態で万全の準備にするために。ゴドーを倒せる準備は子供…いや…魔力爆弾しかまだないが。万魔で増やす戦力でどうにかできればそれに越したことはない。まだ諦めるな。




