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二十話

 偶然の産物ではあったが子供を利用してゴドーを攻撃するのは一つの手段に過ぎない。

 そもそも魔力暴走を子供4人程度が起こしたくらいで倒せるとも思ってない。


 万魔の壁の名は伊達ではないのだから。それを踏まえて、ギュスターヴを思い出す。彼はゴドーと同等の強さ…壁を打ち破る矛を持っていたのだから致命の一撃クラスの攻撃を与えなければならない。


 理想だけ言ってしまえばテトの攻撃があればゴドーを打ち破れるんだろうが。竜人と魔族のハーフなんて早々いないし。テトの存在が前代未聞なくらいだ。


 また何かヒントをもらえるかもと思いながら魔道具で買えた少数の暖房魔具を持って広場に行くと子供たちはもう集まっていて僕が椅子に座ると恐る恐る近づいてきてフードの下から顔を覗いてきた。


「あー!フィ姉ちゃんだ!なんでそんな怪しく来るのさ!」


 そんなに怪しかっただろうか?とりあえずフードを脱いで顔を出すとみんなが集まってくる。


「普通にしてたつもりなんだけどね。でも別人だったらどうしていたの?」

「俺は別にそういうの怖くないもん!」


 この子供たちの中ではヴェルはみんなに頼られる存在なのだろう。何をするにしてもヴェルが最初に行動するし。


「お姉ちゃんは今日もそれを触るの?」

「うーん…まぁやらなくちゃいけないことだからね」

「私もお姉ちゃんのお手伝いできる?」

「僕のお手伝いは危ないからできないけど、触ってみる分には大丈夫だよ」


 実際手伝ってくれたら嬉しいけど、完成した状態で魔力を通されたら小さな爆発が起こるからさすがにそれには触れさせるわけにはいかない。


「寒いだろうし、僕が作ってるの以外のを試しに魔力を少しずつ通す練習をしてみるといいよ」


 そう言って四人に魔道具を渡すと、多少魔力加減を間違えて熱そうにしてたりもしたが。季節が季節なだけに暖かいことを喜んでいた。


「その…フィ先生…!」

「先生?」


 レイモンドが顔を赤くしながら僕を先生呼びしてくるので疑問に思うが。昨日魔法を教えたから先生ということだろうか?


「僕は先生みたいに魔法をもっと知りたいです!」

「あはは。別にいいけどどんな魔法を使いたいのかな?」

「それは…まだ考えてないです…」


 向上意欲があって良いことだ。魔眼でレイモンドの魔力を覗くが他の子と比べると総量は少なく見えるので難しい魔法は使えないかもしれないけど成長すれば色んな魔法が使えるようになるだろう。


(3カ月以内に死ぬのに?)


 さて、どんな魔法を教えてあげようかな…。


「それじゃあ暖かい水を出す術式を教えるからそれを魔法にしてみようか?」

「はい!」


 僕がレイモンドに魔法を教えているとヴェルも興味がこっちにあったのか話を聞いて挑戦し始める。

 昨日教えたのが簡単な魔法だっただけにすぐ使えると思っていたのかあまり成功しないことに2人は残念がっていたが。熱と水の両方を同時に行う術式なだけに魔力頼りだと少し難しいだろう。


「まずは水の術式からやっていくといいよ。そしたらあとは熱でゆっくりでもいいから加えていくと完成するはずだから」

「はい!」

「フィ姉ちゃんはできんの?」

「僕?」


 まぁ、実際に見せてあげないとイメージしづらいのかなと思い、魔法糸で今の季節でも問題ない程度の熱量を編み込んだ術式を紡いで発動させて球体を維持するようにしておくと魔道具を触ってた二人も含めて全員から拍手された。


「ねぇねぇ!これ触ってもいいの?」

「一応熱すぎないか意識して触ってね?指が冷たかったら熱すぎに感じちゃうと思うから」


 注意だけしたらあとは子供たちが球体を不思議そうに触って温かそうに手を入れて顔を緩ませていた。

 多分魔道具の方が手だけに限らず温まれるだろうに心地よさそうだ。


「これ覚えたいな!」

「僕頑張ります!」


 残り二人も実際に温水を触ってから興味が湧いたのかやり方を聞いてきたから術式から再度教えていく。


 さすがに成功する子はいなかったけど水球自体は作れているのだから時間の問題だろう。


「みんなに聞きたいんだけど、他に友達とかはいるの?」

「んー?いるけど冬は寝てる奴とか、あとは仕事してるやつとか?」

「暇にしてる子もいると思いますけど先生のことを教えても多分信じないでしょうね」


 笑いながら話してるけど。そうか他にもいるのか…できればその子たちにも協力してほしいが下手に数を増やしすぎても魔法を教える怪しい者がいるとなったらそれはそれで問題だろうか。


「フィお姉ちゃんは子どもが好きなの?」

「え?好き…なのかな?」

「私の事は?」

「…好きだよケミリちゃん」

「えへへ、良かった!」


 別に子供は好きではない。というよりも子供というのと接する機会なんてなかったのだから好きも嫌いもない。

 ケミリについても好きかと聞かれると困る。ただ好きと答えたのは正解だったようで嬉しそうにしている。



 時間も時間だったので今日もそのまま解散となり、僕は魔道具を弄りながらケミリの質問について何度も頭に考えてしまう。

 好き。愛。好意。情。

 リビリアは僕のことを愛してると言ってくれた。あの時はどうかと思ったが、期待してくれてると解釈してから僕はリビリアの言うことを聞くと決めた。


 ヘレスは僕にアキのことを好き好きしていると言っていた。たしかに大事には扱っていたがそれは好きだったのだろうか。


「好きってなんだろう?」


 悩みすぎて思わず口にしてしまう。

 好きだとどうなるんだろう。それとも僕がリビリアに従うように期待みたいなものだろうか?そう思うと僕はアキに期待をしていた。それは好きということなのだろう。


 でもそれはヘレスもナナシもダルガンにも少なからず戦力として期待していたから好きになる。

 子供たちのことも好きになる。


(好きなやつを殺すのか)


 考え事をしているとまるでそれを咎めるような思考がよぎるようになってきている。僕は疲れているのかもしれない。


 好きだと…殺しちゃうのかな。


 リビリアがいつか僕になら殺されてもいいみたいなことを言っていた気がする。

 そして僕はリビリアが魔王になるために自害してもいいと思っている。アキの協力を得られない今それしか道がないような気がするから。


 でもリビリアはこうも言ってた気がする。


『任務を失敗した魔族がどうなるか』


 所詮僕も魔族ということだろう。期待された任務を失敗して自害してでもリビリアの役に立とうとしている。

 フィブラに服を脱げといったのが懐かしく感じるがあの時死を選ぼうとしたのは任務を遂行できなかったからだろう。


 …。任務を失敗した魔族の末路が僕でもそう感じるのはなんでだ?

 別に僕はそういう教育をされてきたわけではないはずだ。でも僕は別に死にたいわけではない。それでもリビリアのためになら死んでもいいと思い始めていた。いつから?


 頭の中で歯車がカチリと嚙み合っていくような感覚がしてくる。


 もしもゴドーも何かしらの任務や使命を持っているのだとしたらどうだろうか?それを壊されれば自害するという選択肢に追い込めるのではないか。


 フィブラがこんなときにいれば便利だったのだが。残念ながら決戦の時まで連絡を取ることは叶わない。

 まだなにか思い違いをしているのかもしれないという不安もあるが。それでも奴の…万魔の壁という二つ名をボロボロにしてしまうほどに壊してしまえばいい。そうすれば何か変わるかもしれない。


 宿に戻り、手作りの地図を見れば要所を押さえてる所を再度見て。要塞としての機能を一番崩す方法を考え直す。


 東西での分断は間違いなく必要だ。戦力に差があるのは間違いないのだから。でもそれ以上に要塞が意味を為しているのは北だ。人間国や他国との要として機能しているのは南の見るからに防衛力の高い場所かと思っていたけどそうではない。

 侵略されて困るのは北にある。


 もしもゴドーがここを守ることに固執しているのだとしたら北を破壊しなければならない。


 ただ爆弾が足りない。道を壊せる程度の爆発力はあるとしても要塞の巨大な壁を壊すには威力が明らかに足りてない。

 考えることが増えてしまった。


 地図と一緒に必要な物資を書くための紙に暖房の魔道具以外にすぐに消化されるかもしれないが料理用の火を出す魔道具などを書き足していく。この要塞を全て壊すために。


 明日はもしかしたら広場に行くのは少しおくれるかもしれないなと思っているとドアからノックの音が聞こえた。

 誰だろうか?別に食事を持ってくるようには宿主には頼んでないし、ここに来る奴もここに僕がいるということも子供すら知らないはずだ。


 しばらく黙って様子を見ていると声が聞こえた。


「フィン殿…いるか…?」

「…ナナシさん?」


 殿呼びなんてするやつナナシ以外に思い浮かばないし、相変わらず急に現れてもおかしくない奴だと思えば不思議ではないといえば不思議ではないんだけど。なんでここにこいつがいるんだ?


「入っても…?」


 僕を殺しに来た…なんて考えたがそれならノックする必要はないし油断を誘うにしてもこいつなら窓から入って寝込みを襲うとかの方が自然に感じる。


「今開けるね」


 ドアを開ければローブを被って顔が見えにくいようにしているのは僕も一緒なので何とも言えないが。この要塞では入るときに魔族かどうか確認されるはずなのによく入ってこれたものだ。


「寒い…」

「ちょっと待ってね。まだ使える魔道具があるから」

「助かる…」


 効力は薄いだろうが、とりあえず部屋の中が温まるまで時間がかかってでもと思い二個ほど魔道具を起動してナナシを椅子に座らせて僕はベッドに座る。


「どうしてここに?というかどうしてここがわかったの?っていうのもあるけど」

「見つけたのは偶然…ただ、フィン殿は南…魔王城へ向かうと思ったから…」

「偶然って…いつからこの要塞にいたの?」

「要塞…?魔王城ではないのか?」


 もしかして間違えてきたのだろうか。まぁナナシの目的は僕の嘘でレアラになってるからひたすらにでかいここを魔王城と勘違いして来ただけっていうなら分からなくもないけど。


「ここは要塞レディオン。魔王城はもっと南だよ」

「そうか…ではフィン殿がここにいるのは魔王の子がいるのか…?」

「…そうだね。ここに魔王の子ゴドーがいる」


 僕が万魔を殺そうとしてるのをさすがに分かっているのか。まぁ最後の別れ方も別れ方だったからそれくらいは分かるのだろう。


「ナナシさんはどうしてここに?」

「元凶を…も…そうだがフィン殿なら間違いなく協力できると思って…探した」

「僕を?」

「オレは…魔王の子の情報を何も知らない…それにフィン殿はあの中で味方だと思った…」


 口下手なのか少しわかりにくいが。あの中というのはアキとヘレスとダルガンのことだろうか?

 多分僕が一番の敵で他が味方の間違いじゃないだろうか。


「なんで僕を味方だと思ったの?ダルガンの方が正直な性格だと思うけど」

「ダルガン殿は…戦士である前に兵士だ…フィン殿は最初は怪しいと思っていたが…いつも真っ先に殺されかけているのに…必ずオレたちのことを守ろうと動いていた…」


 どのことを言ってるのかいまいち思い浮かばないがいつの間にか信頼を得ていたようだ。

 しかし、来てくれたのはうれしいのだけど…。


「僕はレアラよりも先にゴドーと戦う…だからナナシさんのお手伝いは今はできないよ?」

「それでいい…協力する…その言い方からレアラも倒すのだろう?」

「まぁいずれはね」


 戦力が増えることは嬉しいが、ナナシは斥候だ。戦闘力が高いわけではない。

 まして今の戦法は僕の万魔を頼りにした戦法すぎてナナシがいたらむしろナナシを殺さなくてはいけないかもしれない。


(役に立つなら命令すればいい)


 今の作戦は各所の内部の構造を知らない以上ナナシの力は便利だ…。


「それと…恐らくアキ達もいずれ来る…」

「え…?」

「いくら追いかけても…森から出てフィン殿の割れた瓶以外の情報が無かった…それで足並みが揃わず遅かったから…オレだけ先行して来た」

「…アキ達が来るって…帰るんじゃなかったの?」

「知らん…気変わりしたらしい…ヘレス殿がずっと何かを言っていたからもしかしたらまた気変わりするかもしれん…」


 胸がどきりとしたが…僕はフィブラと一緒に竜で移動した上に、今は雪が降っているからアキ達が来るのはまだ先の話だろう。正直そこまで待ってから作戦を変更するには時間が足りない。でも…。


「ナナシさん。今の僕が考えてる作戦の一部を教えるので意見をもらっても?」

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