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十四話

 疑問は後回しだ。今は油断しているというならギュスターヴをそのまま倒す方向で進めた方がいいだろう。致命の一撃を合図にするつもりだったがリュックに詰めていた爆弾を投げ魔力の探知外へ後ずさりながら様子を見るが矛先が一瞬ぶれたかそうでないか確認することもままならないまま爆弾は両断されていて不発に終わっている。


 その事態に周りの魔族は何事かと騒ぎ始めるが…。それよりもギュスターヴだ。一向に殺気を感じさせずにゆっくりと近づいてくる。

 とにかくギュスターヴの魔力外へと距離を保てば安全な――。


 不意に。ギュスターヴの魔力が一直線に伸びてきて僕の右足を捉えると同時に一閃と近づきペンダントの割れる音が聞こえた。


 何が起こったか考えるよりもペンダントの割れた音がしたという事実に衝撃が走る。

 今のが致命の一撃だとしたら足を狙ったのは僕の確保が目的だったのかもしれないが間違いなく死に至る攻撃だ。


 そんなことを思いながらペンダントの割れる音を聞いたのか周囲の数名はギュスターヴに対してどこか虚ろな目をしながら攻撃を繰り出す。


「こんな国滅んでしまえ!」

「人間の次は俺たちが殺されるんだろうが!」


 はっきり言って何を言ってるか分からないが、国の不満を述べながら内乱を起こさせようとしただけに意味不明なことや単調な言葉遣いになってるのかもしれない。

 とはいえ急なことにギュスターヴも何が起こったのか、国民に攻撃するべきか判断を見かねて攻撃ではなく取り押さえるように対処をし始める。


 とはいえ都のあちこちで反乱を起こすように仕向けた方が多いし、今ギュスターヴに向かったのもたった二人だ。10人以上はギュスターヴに差し向けるようにはしていたがまだ集まり切ってもいない。


 この間にできることはなんだ?反対方向に控えてるアキ達はこの騒動を聞きつけてもう少しで来るだろう。それならいっそ周りの連中を従わせてギュスターヴを追い込むか?さすがに目立ちすぎるか。


「『万魔の守護を一時的に封印せよ』」


 できることなら屈強そうな人物を1人か2人確保したいと周辺を見渡せばギュスターヴが取り押さえた人物を他の魔族が代わりに取り押さえて協力しだしている。


 人望の厚さか。だったらそれこそ今は余計なことを考えるよりも抹殺が優先だ。


「『総員。ギュスターヴへ戦闘行動を開始せよ』」

「あぁ…そうかフィン、君は…」


 何かを呟いているが僕の声が聞こえた範囲の魔族が虚ろに、しかし殺気を以てギュスターヴに飛び掛かり始める。


 時間的にもそろそろかというタイミングで遥か後方に魔眼を見やればアキ達は何が起こっているのか分からない状況に陥ってる。

 言い訳を考えておかないといけないが、それよりももう防護が期待できない状況を考えれば僕の役目は一旦ここまでと思うべきだろう。


 瞬時。雨が降ってきた。


 先ほどまで晴れていたはずなのにゲリラ豪雨でも降り始めたのかと、ただそれがチャンスと言うにはあまりにもぬめり気がある液体が赤く染まっていて、血の雨が降り注ぐ。


「さぁ…みんなの元へ帰ろうかフィン」


 大量の魔族の死体を矛で振り払い真っすぐと優しい目つきで僕を見るそれに恐怖を覚えることしかできない。


 その目を。手を見て腰が抜け後ろに倒れこみ呆然と見ていることしかできない…舐めていた。油断していた。本当に?もしかして僕はフィブラやリビリアに持ち上げられて自分の能力ならなんとかなるとただ調子に乗っていただけではないだろうか。


 ギュスターヴの魔力が今度は目に見えるほどゆっくりと僕の方に近づいていく時。僕の視界に入るのは剣を上段に振り渾身の一撃を放つアキの姿。

 ただそれはだめだ。ギュスターヴは前方が危険だとしても後方にも魔力を張り避けるだろう。


「ア、アキ!一旦下がって!」


 僕が声を発するのと同時に振りかぶられていた剣を後ろ向きで矛で防ぎ、僕の時とは違う明確な殺意を持った眼光で周囲を薙ぎ払う。

 一撃に賭けていたのかアキは無防備だったがダルガンがそれを盾で防いだのちにナナシがどこかからかナイフを投擲して牽制を行い死は免れたが…。


「人間がいるとは思ってたんだ…でもね、予想外だったかな。リビリアではなく人間の仕業だったのかな?ははは…所詮知恵を動かしても自分には才能がないんだって痛感しちゃうよ」

「な、何を言ってるんだ?」

「アキさん魔族の言葉に耳を貸しても仕方なかろう…フィンさんの作戦は失敗とみるべきだ!」


 ダルガンの言うことはその通りだ。とはいえここで逃げるべきか?アキならなんとかできるんじゃないのか?勇者だぞ?


「おい…どうするんだ…?」


 横にいつの間にかナナシが来て指示を仰いでくる。


 いっそこいつをギュスターヴと差し違えるように仕向けてアキに止めを刺してもらうか?

 いや…だめだ1人行ったところで戦力がなくなるだけだ。ここは撤退を…。


「邪魔だね君は」


 ギュスターヴの魔力がナナシに向かうのを見てとっさにナナシを突き飛ばしたがその魔力の先は僕の左腕に当たると同時に詰め寄ってきた矛が僕の左腕を吹き飛ばす。

 一瞬すぎて痛みが実感できなかったこともあって睨みつけるようにギュスターヴを見ればなんと表現していいのかわからない顔をしていた。


「『離…れろ』」

「なにをしているんだ…フィン」


 当然ギュスターヴに僕の言葉が通じるわけもなく左腕から容赦なく失血するなら意識が朦朧とし始めた中。怒りの形相でアキがギュスターヴに立ち向かっていく姿を見ていた。


 ぼんやりした頭では思考もままならず、できることならこのまま意識を落としてしまいたくなる。

 出血が激しすぎて眠気のような感覚もする。


「しっかりしてフィンちゃん!」


 この声はヘレスか。飛んで行ったはずのちぎれた僕の腕を持ってきて、教会の術式を発動させようとしている。


 僕は魔族だから寿命が多少減っても問題はないだろうけどもこの状態でも回復するものだろうか?

 でもいっか。最悪片手失っても僕は誰にでも命令できるんだからそもそも腕なんか必要ないんだ。


「意識をしっかり持って!フィンちゃん!ちゃんとして」


 珍しいな。ヘレスがこんなはっきり喋るなんて。いつも間延びした声なのに。


「撤退すべきだ…」

「どうにか時間を稼いできて!失った腕はすぐに治療しないと戻らないの!」

「そうか…」


 別に構わないと言おうと思っても唇が震えて言葉が上手く発せない。

 ナナシはヘレスの言葉を聞くとアキとギュスターヴの間に牽制を挟みながら。ぼんやりとしながらも驚くことに致命の一撃を放ってるはずのギュスターヴがアキの剣で見事に受け流されているように見える。


 ダルガンはどこかと思えば戦闘に介入するのを見計らっていてあまりなにもできない様子だ。


「フィンちゃん!腕はなんとか繋いだわ…出血がひどすぎるから今のうちに引くわよ」


 撤退か…それがいい。勝てないのだから…勝てない…だろうか?

 ヘレスが僕の体を支えて立ち上がろうとする中、アキの方を見続けていると若干…?いや、これはギュスターヴの方が押されている?


「ヘレス…待って…僕の爆弾を…」

「何言ってるの。フィンちゃんは今それどころじゃないのよ」

「今撤退しても…逃げ道は確保できても…回復できる拠点を…確保できてない」

「何を…え、それって」

「勝つしか…道が残ってない…」


 そもそも僕が内乱を起こさせたのは退路のためだが、国境へ帰るための退路じゃない。

 更に南へ進むための退路だ。


 前線都市アデルバから撤退は侵攻を意味する意味で準備したに過ぎない。

 これ以上血を失うわけにはいかないまともな思考も、作戦が通らなかったからと言って弱気になってもいけない。


「僕の爆弾を…ギュスターヴに向かって投げて…それをダルガンにどうにか伝えて…」

「…もう。わかったわ。あいつに伝える方法は…先に一個爆弾投げるわよ?」


 どうにか考えてくれたみたいだ。


 僕のリュックから爆弾を取り出してヘレスはダルガンの方へ一個爆弾を投げて視線をこちらに向けさえたのちにヘレスが爆弾を指さしている。


 意図は伝わってればいいんだけど。

 とにかくアキが優勢というのを僕が見間違いじゃなければ隙さえ突ければアキが仕留めてくれるはずだ。


 ナナシも視界には映らないがギュスターヴの矛先が右往左往して何かを弾いているからアキの援護はし続けているはず。


 ただアキもさっきまで優勢に見えていたのが今度は逆に見切られ始めたのか致命とはならないまでも攻撃を防ぎきれずに攻防が一転し始めそうになっている。

 ヘレスは僕が持っていた爆弾を全部を危ないだろうに両手で抱えてギュスターヴに向けて投げていく。


 アキもそれを視界に入れていたのか危険と感じていたが。ダルガンがヘレスと僕の意図を読んでくれて爆弾の間に盾を構え間に入り爆風で視界が確保できずにどうなったか…アキにも伝えれたら良かったのだけどその時間はなかったからもしかしたらただお互いに隙を作っただけの結果に終わるかもしれない。


 そんな不安もあったが。煙が風で流される頃にはギュスターヴが持っていた矛と左腕はどこかへ消えてアキがギュスターヴを斬りつける。


「見事だ…そうか。なら任せる…」


 相変わらず何かを呟いていたが、魔力が四散していくのを確認して魔眼でギュスターヴを見るが内臓から朽ち始めていく姿を確認できた。


「フィン!」


 勝敗が分かったのか、アキは僕のところへ駆けつけてくれるが。結構な時間をかけてしまっている。

 急いで内乱を起こした反対の道を通りながら南へ進まなければならない。


「アキ…ごめんけど支えてくれるかな…?」

「もちろんだ、それよりも…ヘレス!フィンは死なないのか!?」

「安静にさせないといけないけどフィンちゃんの言うことを先に聞くべきよ。まだ敵地のど真ん中なんだから」


 ふと周囲の魔族はどうしてるのかと思ったが争いに怯えてか、はたまた他の場所の争いを聞いたのか少ししか残っていなかったが。

 アキでもなく、ダルガンでもなく、ヘレスでもナナシでもなく。

 僕に対して恨みを込めた瞳を持った魔族たちの姿を見て少し思考が飛んでしまった。


 そう。僕は魔族を裏切ってるんだ。いや裏切ってるのか?リビリアに会いたいな。


「フィン殿…退路を…」

「そうだったね…ナナシさんありがとう」


 僕が意識を失いかけたのかとみんなに心配されたが。どちらかといえば魔族の…本来は仲間の敵視した目を見たことによる動揺だとはばれてないといいな。


 とにかく都を抜けるまでは指示しつつ道を進んでいくが。東の方で暴れていた魔族はすでに抑えられたようで南の警戒網が厚くなってきてる。


「悪い、抱え方変えるな」


 そういうとアキは僕を両腕で持ちあげて速度を増す。

 ヘレスから安静にと言われているからか、振動はそこまで感じないがアキの顔をよく見ればいつもよりも真剣に、それでいてどこか決意のようなものを決めてる顔に少し見惚れてしまう。


 先ほどまで魔族の敵視に罪悪感を覚えていたのが薄れていくようだ。

 蔑まされる目は慣れていたと思ったけど敵視されるってこういう感覚なんだなと思う。


 まるでこの世界のどこにも味方がいなくなったかのような虚無感。それも今はアキ達がいれば…。


「門近くまで来たと思うけど」

「フィンさんまだ意識は保っておられますか?」


 アキの言う通り門は角を抜ければ見えるだろう。ダルガンの心配も最もだし、僕がここでなんとか気合を入れないといけない…。


「アキ…降ろしてもらえる…?」

「何言ってるんだ?」

「そうよ、それにフィンちゃんはまだ動ける体じゃないのよ」


 自分でもそうは思うが、さすがに門は騒ぎが起きた時点で閉まっているだろうし。なにより門兵と戦闘なんて時間がかかることをやってる場合でもない。


「僕の知り合いがいるはずなので…門を開けてもらいに行かないと…」

「俺たちが一緒だと駄目なのかそれは?」

「一応魔族だと思われてる僕一人の方が早く済むから…」


 どこか悔しそうな顔をするアキの頭を撫でて。みんなを見渡すとナナシは相変わらず表情が読めないが。僕の心配をしてくれてるというのが伝わってもう少し頑張れそうだ。


「それじゃあ行ってきます…」


 後ろから何か応援のようなものが聞こえるが、体を動かしていくと頭から血が下がっていくのだろうけど思考力ができず倒れて眠りたくなる。


 とにかく門のところまで行き。魔族が声をかけてくるが多分どうせ今は通せないとかなんとか言ってるのだろう。


「『門を開け自害せよ』」


 できる限り門に近づいて通る魔族に声をかけていっていくと閉まっていた門が開き始めていってる。


 あとは、みんなの元に戻りこのことを知らせなければと思うが限界が来たのか膝から崩れ落ちる。

 もう少しなんだけどなぁ…でも生きてきた中で一番頑張れた気がする。兄弟殺しというのが一番頑張れたというのが少し心に突っかかりを感じるけど。リビリアが魔王になる手助けはできたはずだ。


 それだけを思っていたけど。門が開いたことに気づいてみんなが脱出出来たらいいと最後に思って意識が途絶える。

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