十三話
アキの様子がおかしい。
ちゃんとでえとをしたはずなのに、今日は抱きしめ返してこなかったし。むしろ顔を背けられる。
顔を赤くするのはいつものことだとしても、それでもおかしい。何か失敗したか?
「フィンちゃーん聞いてよー…」
「ヘレス、どうしたの?」
「ナナシちゃんがねードアの前から動かないからいい加減うざいって言ったら今度は部屋の隅っこで座って動かないのよー…気難しいにもほどがあると思わないー?」
まぁ実際ナナシは面倒くさいやつだから慣れないと対応に困るだろうな。
しかし僕の言うことをちゃんと聞いてくれてたんだ…そしてヘレスの言葉にも解釈は違ってそうだけど従おうとはしてるんだ…。
「僕から言っておこうか?」
「そうしてくれるー?何言えば伝わるのかよくわかんないだよねー」
そういうこともあってヘレスの泊ってる部屋に行くと部屋の隅って聞いていたけどどこにも見当たらないので魔眼を使って見渡すと天井の隅にいた。
「ナナシさん…?」
「なんだ…」
「警護ですか…?」
「そうだ…」
もしかしてずっと天井に張り付いてこの人間は寝たりしてたのだろうか?というか別に天井の隅じゃなくていいだろうに。
「すごく僕も常識には疎いほうなので言いづらいんですけど…ヘレスがそんなところにいたら休まれないと思うんですけど…」
「…そうか?」
「まず普通にベッドで寝れないんですか?」
「別にどの姿勢でも寝ることは可能だ…とはいえ敵陣の中それは危険だろう…?」
「よし!みんなで会議をしましょう!」
これは僕にも責任があるな。ギュスターヴについてアキ以外に告げていなかったのが原因だこれは。
そういうことでダルガンも呼んでアキと僕の部屋にみんなで集まってもらい僕とアキが情報収集した結果という形でギュスターヴについて少しずつ話していく。
「今回の万魔の相手は都から出るか直接対面しない限りは一応無害…なんだけどナナシさんそこまでは大丈夫?」
「他の…魔族は…?」
「ここが前線都市というのもあって軍が駐屯してるから人目のつかないところに行かない限りは安心のはずだよ。だからといって不注意でローブが脱げて瞳の色を見られたら人間とばれるからそれさえ注意してくれたら大丈夫だよ」
「しかしフィンさん、吾輩が思うに都市を離れるときにも万魔というものが察知するなら吾輩たちは今囚われていると言ってもいいのではないか?」
まぁ実際隠れることはできても逃げることはできないというのは事実だ。
ただ僕の目的はあくまでギュスターヴを殺すことにある。逃げるイコール戦闘は免れない。
「フィンの話だと万魔を倒さないとどうしようもないってことだけど、これはどうするんだ?俺たちで倒せる相手なのか?」
アキの言葉にみんなが思い浮かべるのは皇竜テトだろう。あんな化け物が早々いたら魔族は何も考えずに暴れまわってるだろう。
「今回の相手は万魔の矛ギュスターヴ。魔王の子にして致命の一撃という必中必殺の一撃を放ってきます」
この時点で全員の顔は暗いが…まぁ僕も似たような顔をしているだろうな。とはいえ無策というわけではない。
「僕が調べた限りではギュスターヴは強大な魔力で探知したものの急所を必ず穿つというものです。なのであえて僕が魔力を暴発させます」
「それは!フィンが危険じゃないのか?」
「もちろんそれで目くらましできたらいいなと思う程度の作戦。だけどアキ大丈夫だよ。僕も死ぬための作戦を考えたわけじゃないから魔道具を上手く使って掻い潜ってみせるよ」
ただもらったペンダントは一個なので目くらましが上手くいかなかった場合一度致命傷を僕は受けて防護に頼るしかなくなる。
「しかしフィンさんの話だとそれで全員で集中攻撃をしたところでギュスターヴの魔力探知に引っかかったものは全て致命の一撃がくるのではないか?」
「僕も最初はそうおもっていたんだけどね。ダルガンは自分の一番最大の攻撃を放ったらそのあとどうする?」
「ふむ?まずは相手との距離を図るであろうな」
「だから集中攻撃といっても挟撃で行こうと思う。ギュスターヴは一本の矛で致命の一撃を放つのだから前後同時には対処できないと思うんだ」
これも憶測にすぎないけど、一つの疑問があったことから確率性は高いと思う。
万魔の壁ゴドーは一歩たりとも後ろに行かせないことと、万魔の矛ギュスターヴは死人であれば後ろに行くことができる。つまりは死角が存在しているという仮定。
「フィンちゃんの言うことはわかったけどさー、ギュスターヴってやつはともかく倒した後はどうするのー?」
「僕たちの素性がばれる可能性は少ないと思いたいけど、それも一応作戦があるかな…ただちょっと今ここでは言えないけど…」
「何故だ…?」
「一度限りの作戦だからかな?多分ギュスターヴ相手にしか通用しないし」
僕の万魔を以て前線都市アデルバを内乱かく乱させて犯人を特定させないようにすること。
ただそれと同時に他の万魔は確実に僕の仕業だと判断するだろうから今までのように多少の会話ができたりはしないかもしれない。
それでも万魔直属の配下には僕の特徴を知らされるだろうから僕も今後はフードをかぶって身バレしないように動かないといけないだろう。
作戦自体はシンプルだけど、どちらかといえばギュスターヴ相手にアキ、ダルガン、ナナシが仕留めきれるかという不安もある。
そのために必要なことといえばやはり僕の万魔で確実性を高めるしかない。
作戦は明日の昼に決行という段取りにしてもらい僕はこれから明日までに操れる魔族をふやしておかないといけない。
「フィンどこか行くのか?一緒に行こうか?」
「えっと催してきちゃったから1人で大丈夫だよ」
「そ、そっか…トイレかと思ったけど違うのか…なんだ催すって…?」
後ろで不思議がってるアキを置いて僕はとりあえずうす暗い路地に入って魔族を探す。
「あんだ?その姿忌み子か…魔族もどきがこんなところでどうした?」
まぁ、僕の姿を見たらそういう反応が普通だ。むしろ人間国でも魔領でもその単語を聞くのが久しぶりすぎて懐かしく感じる。
これがアキの言っていた故郷のってやつなのだろうか?
「『明日の昼をもって中央広場で戦闘行動を開始せよ、対象は万魔の矛ギュスターヴである』」
「ちっ…そんなことか、わかったからどっかいけよ」
性格まで矯正するわけじゃないから口の悪い奴は効果があるのか微妙に分かりにくいな。
いっそ性格まで命令してみるか?そしたらいくらなんでも不自然か…戦闘能力まで落ちたら本末転倒だし…。
とりあえず都に馴染んでない魔族を見かけ次第従わせていくか。
5.10.15.そんな風に数えながら魔族を従わせているがどうにも効率が悪い気がする。
もっと大々的にする方法はないだろうか。
遠目から中央広場を見れば相変わらず魔力が大きいのが揺らいで見える。
一日中ずっとあそこで暇じゃないのだろうか?
さて、ギュスターヴ対策はもう少ししたら終わらせるとして、内乱に関しても進めなくてはいけない。
適当に食事処に入って路地に人が薄くなるのを見計らって声をかける。
「お客さんそこに突っ立ってたらめいわ――」
「『総員明日の正午にて魔軍の不満を喚き戦闘行動を開始せよ』」
「そういうことならわかったよ、飯は食っていくのか?」
「いえ、たまたま寄っただけなのですいません」
店にいる全員が僕に最初は不自然な目を向けていたのに、言葉を発した時点で違和感なく過ごし始めていた。
いまいち万魔の美貌というのが分からない。別に僕を見ていたからって理由だけで言うことを聞いてくれるわけではなさそうに感じるけど。これなら万魔の命令とかそんな名前になりそうな気がする。
リビリアが嘘を?いやだとしてもそんな嘘をつく意味がない。実際に効果としては変わらないのだから。
さて、もう少し人数を増やすかな。
武装してる魔族にも声をかけてできる限り内乱の規模を大きくするようにして僕たちが逃げる時間くらいは稼げるように。
そんなことをしているとすっかり暗くなっていたので、宿に戻るとアキにすごく心配された。
「こんな遅くまでなにをしてたんだ?」
「えっと、商人付き合いの伝手で逃げ道の確保とかかな?あはは」
「先に言ってくれれば…って言っても俺たちがいたらむしろ邪魔か…」
「邪魔ってことはないよ、気持ちはありがとうね。ただ1人じゃないと相手してくれない魔族もいたからさ」
魔族の生態系には詳しくないだろうし適当なことを言ってもばれることはないだろう。それよりも本当に大丈夫か再確認しなければいけない。
ギュスターヴに差し向ける刺客は大体30弱。暴動を起こすものは100後半はいるはずだ。
それも恨み言を全員が呟きながらという事も踏まえれば軍は動くだろうし、場所もまばらなのでそう簡単に制圧はされないと思うが。
ギュスターヴの人望を考えれば本来ありえない出来事が起こるのだから混乱は免れない。
その隙をついて勇者たちで暗殺を行い即座に離脱して南に向かう。
魔王城に近づけば瘴気の問題はあるけど、テトとレアラがリビリアと交戦しているならゴドーはなんとしても抹殺しておきたい。
恐らくはこの作戦が成功すればまたフィブラから連絡が来るからそれに従ってゴドーの元まで行けば問題はないはずだ。
「アキはさ、やっぱり戦争とか嫌い?」
ふと、思ってもないことを聞いてみた。特に意味はない。ただこれから起こることを考えると国境での人間たちの惨劇と似たようなことが起こるのだろうなと自然と聞いてしまっていた。
「嫌い…とかはあんまり考えてないかな。俺のいた世界ではさ平和で。でもやっぱり戦争はあったんだよ。俺が平和な場所にいたからあんまり好き嫌いとか考えないところで生きていたから」
「じゃあ今は?僕たちは今戦争の真っ最中にいると思うんだけど」
「それでも実感湧かないかな…なんでだろうな。守りたい人を守るのに精いっぱいって感じなんだけど、平和になれたらとは思うけど種族が違うって言われたら、そうかなってなっちゃうし」
種族の問題は大きいだろう。人間を食べる魔族もいるし魔族を食べる人間もいる。
はっきり言って食物連鎖において一番を決めないと争い自体は絶えることはないだろうとも思う。
でもアキは平和なところにいたと言っていたし。もし共存する未来があるのだとしたら僕がやってることは争いの火種を増やしてることになるのかな。
「アキはもし戦争を起こしてる人がいたらどうする?」
「俺の言葉じゃどうにもなんないと思うけど…そうだなぁ。話し合ってみたいかな」
「そっか。平和になったらさ!もっといろんなところを旅してみない?」
「ん?」
「僕はあんまり外に詳しくないんだよね、本とか知識で知ってるだけで実際に目の前にしたことはないんだ。だから、あ!海とか見てみたいかな。人間の国の空みたいに青くて綺麗なんだよね?」
「あはは、そうだな。そしたらフィンの水着姿も見れるかもしれないな」
「みずぎ?」
「いや、今のは聞かなかったことにしてくれ」
あぁ、こうしてる時間が幸福に感じるのは何故だろうか。まだ見たこともない世界に僕は興味があるからだろうか。それともアキが真面目に僕と話し合ってくれるからだろうか?
「今日も一緒に寝る?」
「いや、今日は…」
「嫌…?」
「お、おう一緒に寝ようか」
きっと僕はアキに殺されるだろう。僕が万魔である限りそれは避けて通れない道なのだろうし。
リビリアの思惑が魔王になることであるなら僕の存在も邪魔なはずだ。せめてリビリアにアキは生きてあげれるようにその時は頼んでみよう。
「俺、必ず勝つから」
「うん…信じてる」
そう言って頭を撫でていると僕は誰かに頭を撫でられたことはあったのだっけ?と不思議な気持ちになる。
魔族は触られるのは嫌がるし、僕もそんな気持ちであったけど。アキになら撫でられてもいいかなと不思議な気持ち。
その思いを胸に秘めながら作戦の見直しを頭の中で行い明日を待つ。
足りないものは無いだろうか。あったとしてもそれを補うことができるか?
時間はいくらあっても足りずに、それでいて作戦までの時間に近づいていき皆が起きる。
部屋に集まり昼に行うことに対してナナシが疑問視してはいたが夜目が効かない人間なら夜に決行する方が危険と言い納得させそれぞれ所定の位置を指定する。
さすがにペンダントを貫通することはないと信じて正面から僕が。
ダルガンの盾で防げると判断した場合ヘレスはダルガンの補佐、ナナシはギュスターヴ以外の牽制。アキは背後からギュスターヴに襲撃。
開始の合図は僕がギュスターヴの一撃を止めてからと話したところで反対の意見がかなり出たが。一撃を防げる魔道具を購入したとなんとか言って納得してもらうしかなかった。
実際そんなものがあるなら全員で特攻すればいいじゃないかという話だし。アキがそれをもって戦闘したほうが良いという意見もあったが。少しだけギュスターヴに僕は聞きたいことがあった。
淀んだ太陽が真上に昇る前に全員と分かれて、僕は中央広場に出る。
いろんな魔族がその中心を見ている中、僕も自然と目が行き。万魔の矛ギュスターヴと目が合う。
相手が僕を知ってるならなにかしら反応してくるとは思うが…しばらく見つめあうが特に何かしてくるわけでもなく、魔族特有の紫紺の瞳を真っすぐとこちらへ向けてくる。
「そうか…フィン、帰ってきたんだね」
「え…?」
「みんな心配している。いや、みんなというわけではないか?まぁ心配していることは間違いない」
「なにを…ギュスターヴ、僕と初対面なはずだし、なによりみんなってどういうこと?」
まるでリビリアが向けた愛情の眼差しをしていたギュスターヴは静かにこちらに歩いてきて手を伸ばしてくる。
そもそも僕は魔力量があるからと言ってその顔を見てなんでギュスターヴ本人だと確信したのか?




